フリーランスのモデラー、デジタルスカルプターとして大学在学中より映画からミュージックビデオまで様々なジャンルの3DCG映像表現に携わってきた森田悠揮氏がCGWORLD205号(8月10日発売号)より新連載「Observant Eye」をスタートした。

本連載では「観察」をコンセプトに、現存する生き物や自然物の形状とその由来について調べてその作例を制作したり、または実在の生き物から得たインスピレーションで架空の生物をデザインしていき、その工程をなるべく多角的に解説していく連載だ。

そんな多方面で活躍している森田氏とバンダイナムコスタジオでシニアビジュアルアーティストとして活躍する重山孝雄氏が3月に行われたCGWORLDの200号記念イベント「CGWORLD PARTY」で"風神雷神の擬獣化"をテーマとしたライブスカルプティング行った。

本記事では後日完成したブラッシュアップ版を当日の会場の雰囲気とともに初公開する。

「風神の擬獣化」by 森田悠輝氏

▲全体のシルエットだけがぼんやりと頭の中にある状態から作業をはじめたので、そのシルエット をまずZbrush内で再現することからはじめました。普段もそうですが、こういうコンセプトモデルの制作の場合は自分はまずシルエットがぼんやりと頭の中にできてきて、そこにどうやって造形的な説得力や気持ちのいい立体感を持たせるかという試行錯誤の時間がほとんどです。翼が4枚あって背後に大きなモチーフがあるというぼんやりしたイメージを、どうやって3時間で神々しい鳥の神様っぽいものにしていくか、そのためにはどんなリファレンスをみればいいか、そういう意識のプロセスで当日は制作していました。(森田氏)

「雷神の擬獣化」by 重山孝雄氏

▲俵屋宗達の雷神のデザインをまず見て、これを疑獣化ってどうしたらいいんだろう・・・ しかも3時間でどうかっこよくしよう等と色々考えましたが鼻がブタ鼻だったのとお腹が丸く出てるのを見て別にかっこよくなくてもいいんじゃない? と考えてイノシシをモチーフにしてオリジナルの雷神にある要素をできるだけ入れて雷神ぽさを出しました。ライブのやつはとにかく全体ができてないとと思って作っているので一つ一つの要素がラフで時間がないから諦めてる事も多いので、キャラクターとして見やすくなるように全体のバランス、ポーズ、パーツの形状の流れやリズムを見直しました。(重山氏)

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来場者を釘付けにした"ライブスカルプティング"

CGWORLD創刊200号を記念して行われた「CGWORLD PARTY-200th issue special-」
会場となったSuper Deluxeには多くの読者とゲストで溢れていた。

CGWORLDの生みの親であり初代編集長の永田豊志氏の乾杯でパーティがスタート。 その後すぐにメインイベントのひとつの"ライブスカルプティング"を行う森田悠揮氏、重山孝雄氏の両名がステージで紹介された。 今回のテーマ『風神雷神の擬獣化』については森田氏の「作ってみたい」というアイデアで決まったということだが、3時間という制限時間の中で、この難しいテーマをどこまで描くことが可能なのか?第一線で活躍する二人のスカルプターが、その持てる技術を結集し腕を競いあった。

メインステージとは異なる、異様な熱気に包まれたライブスカルプティングの専用ブース。ここで重山氏、森田氏が凄まじい勢いでZbrushを操る手を動かしている。
その光景は正に「彫刻」
スタートからものの数分で大まかな形が出現。二人の手が止まることはない。

風神雷神さながら、鬼神の如き集中力で次々と形を生み出していく。
二人を取り囲むように作業を見つめる来場者、その目は、あまりに凄まじい進行に只々圧倒され、言葉なく二人に飲み込まれている様子だった。

そしてタイムアップ。二人の凄まじい造形力から生み出された二体の擬獣、その完成度の高さに圧倒された。3時間という中で作られたものとは思えないクオリティーだった。

重山氏は終了直前にPCが落ちるというハプニングに見まわれながらの仕上げとなり、森田氏も詰め切れない部分に悔しさが滲む。しかしそれぞれに得るものがあった様子。

  • 重山氏「猿だと普通過ぎてつまらないので豚にしてみた。迷っていると手が止まるので一切迷いは捨てた」


  • 森田氏「鳥にすることだけ決めて、あとはアドリブ。何も決めず手が動くことで出来ていく感覚が良い。楽しかったから、またやりたい」

二人の顔には。やり切った後の心地良さ気な疲れと安堵の表情が浮かんでいた。


冒頭でも説明したがCGWORLD205号(8月10日発売号)から森田氏の連載が「Observant Eye」がスタートした。
大勢の来場者の前でもスカルプトを楽しむ森田氏はこの連載で今後どのようなスカルプトを魅せてくれるのか?是非、読者に驚きと楽しみを与えてほしい。

TEXT_横小路 祥仁
PHOTO_弘田 充