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ゲーム・映像・ITなどの産業集積を進める福岡市が、クリエイティブ人材のU/Iターンを本気で応援する「福岡クリエイティブキャンプ2015」。無料の転職サポートや、県外から移住の場合には、応援金40万円が支給されるといった、地方自治体としては過去最大級ともいえる取り組みだ。

こうした中、今春から福岡に新しくスタジオを構えたModelingCafeの北田栄二氏が「制作環境」をテーマに講演する「業界歴5年目からのプロダクションワークフロー講座」が、東京・お茶の水のデジタルハリウッドで9月4日に実施された。講演の第二部では福岡市役所で企業誘致を担当する山下龍二郎氏も登壇し、福岡で働く魅力をアピールした。

ゼネラリスト職が注目を集める海外の大手スタジオ

スクウェア・エニックス ヴィジュアルワークスを皮切りに、オーストラリアのAnimal Logic、Dr. D Studios、シンガポールのDouble Negative Visual EffectsでCGアーティストとして活躍。帰国後ModelingCafeに合流し、2014年春から同社の福岡オフィス代表に就任した北田氏。その国内外における豊富な経験をもとに、「ハリウッドのVFXスタジオにおけるプロダクションワークフローは優秀なマネジメントに支えられており、日本が見習うべきところ」だと指摘する。

背景にあるのが制作スタジオの分散やツールの進化による制作期間の短縮だ。これまで海外の大手スタジオではアセットワークとショットワークに作業が二分され、その中でモデリング・テクスチャー・アニメーション・ライティングといった具合に分業化が進んでいた。しかし分業が進みすぎた結果、かえって非効率さが目立つようになり、近年では各業務の補完的な役割りを担うゼネラリストの存在がクローズアップされてきているというのだ。

これを支えるのがCGアーティストのテクノロジーに対する理解力の差と、優秀なマネジメントの存在。北田氏は「大手では5人から10人のCGアーティストに対して1人の割合で制作進行がつき、スケジュールやタスク管理に加えて、データの中身に関するマネジメントも行います」と指摘する。またプロダクションワークフローの整備にはエンジニアなどの開発職が不可欠だが、技術力の高いCGアーティストが多く、世界中から求人がかけられる点も大きいという。

その一方で北田氏は「欧米流のプロダクションワークフローは効率的で、高品質な映像を短期間で大量に作成できるが、個人の裁量権が少なく、流れ作業になりやすい」とも指摘した。また受注業務が多く、内容もVFX、フルCG、リアルタイムCG、セルルック、遊技機向けなど多岐にわたる日本では、統一したプロダクションワークフローが整備しづらいという難点も。そしてなにより、実務にあたる開発職の絶対数が少ない点も課題になるという。

マネジメント力の強化が日本のCG産業の課題

こうした現状をふまえて、北田氏はCafeグループ(アセットワーク中心のModelingCafeと、グループ企業でショットワーク中心のAnimationCafe)における取り組みを紹介した。

まずModelingCafeでは東京本社と福岡オフィス、そして新たに開設されたバンクーバーの3拠点が存在し、現在はVPNで互いのファイルサーバがネットワーク化されている。しかし、トラフィック量の問題などで完全同期ができていないのが現状。これに対して同社では日本CGサービス(JCGS)の協力のもと、共通アセットシステムの導入を推進中。北田氏は「全社的なプロジェクトの進捗をみながら、年内をめどに運用を開始したい」と語った。

またロゴスコープ亀村文彦氏の協力のもと、シーンリニアによるシーン構築と高精度IBLによるルックデブ環境の検証・構築・統一なども進行中だという。レンダリングのノウハウ共有を外部と協力して進めることも検討中。こうした環境整備をもとにパイプラインの構築やインハウスツールなどの開発をすすめ、「欧米流に比べてある程度の『遊び』を残しながら、データを流せるプロダクションワークフローを作りたい」と抱負が語られた。

もっとも前述の通り、「プロダクションワークフローの整備」と「マネジメント力の強化」はCGスタジオの両輪だ。ただし、そこには日本のCG業界における構造的な問題があることも事実だろう。北田氏も「プロデューサー・コーディネーターをふくめたマネジメントの強化・教育」「アーティストフレンドリーなマインドの改善」「過度な職人気質からの脱却」「開発力不足の改善」などの課題を感じているという。

中でも北田氏は「日本の3Dアーティストは優秀だが、CGを画材の一つだと捉えており、テクノロジーによる表現という視点が不足している。ルックだけでなくデータ的な整合性を重視することが大事」だと指摘した。もっとも北田氏自身「昔はレンダリングを実行すれば、勝手に綺麗な絵が出てくるものだと思っていた。技術力のあるCGアーティストと仕事をするうちに、技術的な視点が身についていった」とのこと。スキルの高い人から学ぶことも多かったという。

もっとも「ゴールは見えているので、あとは課題に優先順位をつけてとりくむだけ」と楽観的な見方を示した北田氏。今は同社の5カ年計画にもとづき、世界に通用するCGスタジオをめざして、福岡オフィスの地固めをしている最中。そのためにも一社でできることには限りがあるとして、協力会社間での問題解決などを示唆した。

▶︎次ページ:福岡という立地環境の魅力とは?


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  • 福岡クリエイティブキャンプ 2015

    主に首都圏で活躍しているIT・デジタルコンテンツ等の開発経験者(クリエイティブ人材)の福岡市内企業へのU/Iターン転職を応援するために,福岡市が実施するプロジェクトです。

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福岡で実際にオフィスを構えてどうだった? 福岡市をまじえた座談会

第二部ではModelingCafeの北田栄二氏、福岡市役所の山下龍二郎氏による座談会「ModelingCafe×福岡市」が行われ、「創業・企業立地」「人材」「環境」という3つのテーマでトークが行われた。

約150万人の人口を抱えながら、製造業ではなく観光・サービス産業に立脚する福岡市。山下氏はこうした地域特性から、「ITやコンテンツといった分野に注力しなければ生き残れない」という危機感があり、全市をあげて産業支援を進めていると説明。国の「グローバル創業・雇用創出特区」に認定されて今年で2年目で、天神地区にある「スタートアップカフェ」を拠点にさまざまな情報発信やサービスを行なっていると語る。

一方で「太陽・山・海が近くにないとストレスがたまる」と語る北田氏は、これまで暮らしたシドニーやシンガポールに似た福岡市に「ほぼ一目惚れ状態だった」とコメント。オフィス開設の際には山下氏をはじめ、福岡市役所にさまざまなアドバイスをもらったという。空港の利便性が高い点も重要な要素で、アジアの玄関口として戦略的に位置づけられている点も、将来の海外展開を考える上で共感したポイントだと語った。

続いて福岡クリエイティブキャンプ2015について、山下氏は「企業進出が増えるにつれて、人材不足が深刻になってきた。前々から各企業より、中途採用に対する支援のニーズをいただいていた」と取り組みの背景を説明した。北田氏は若い人材が抱負で学生も優秀だとコメント。実際に3人で起業するつもりが、結果的に新人4人(うち3名が福岡の専門学校を卒業)を含む、全7人のチームになったと紹介。みな飲み込みが早く、想定以上の成果が出ているという。

一方で優秀な人材は常に募集中だという北田氏。ぜひこの制度を活用して、多くの人に応募して欲しいと呼びかける。選考基準ではポートフォリオが重視され、数点で良いので自分にとってのベストワークを送って欲しいとのこと。またフォトリアルな分野だけでなく、アニメやゲームなどさまざまな業務を行なっているので、自分の得意分野での作品でかまわないと補足した。「将来的に12名程度の密度の濃いスタジオにしていきたいですね」(北田氏)

最後に環境面では、山下氏から「市内就労者の半分以上で通勤時間が30分以下」というデータが紹介された。20代は東京で会社勤めを経験し、30代で地元・福岡に戻ったという山下氏は、あらためて暮らしやすさを実感したそう。これには「仕事や生活環境はクリエイティブに大きな影響を与える」という持論をもつ北田氏も同調。ほとんどのスタッフがオフィスから徒歩10分程度の場所に住んでおり、高いワークライフバランスを維持できていると語った。

この日の講演テーマの「環境」にも、プロダクションワークフローのように自分たちで構築できる環境と、立地というその地がもたらす環境の2種類がある。クリエイティブワークには、そのどちらもが、高いレベルで満たされることが重要であることを実感する講演だった。

TEXT_小野憲史
PHOTO_弘田 充


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