>   >  SIGGRAPH 2015 プロダクション・セッション レポート<1>:映画『アントマン』VFXメイキング
SIGGRAPH 2015 プロダクション・セッション レポート<1>:映画『アントマン』VFXメイキング

SIGGRAPH 2015 プロダクション・セッション レポート<1>:映画『アントマン』VFXメイキング

<2>写真的にも正しい画に仕上げるために〜Double Negative〜

続いては、実制作を担当するリードVFXスタジオを務めたDouble Negative(以下、Dneg)。同社チームを率いたAlex Wuttke/アレックス・ヴトケ VFXスーパーバイザーは次のように語った。

Double Negative(以下、Dneg)は、アントマン、バスタブとその水流、地下のパイプの中、サンフランシスコのバトル、ヘリコプター内のバトル、おもちゃの機関車トーマスなど、数多くのシーンを担当しました。そのほとんどが、マクロ・エンバイロンメントとデジタルダブルのオンパレードです。

前述されたように「スケールの大きさに嘘をつかない」という原則を厳守し、1:1スケールのセットやプロップ(小道具)を用意。写真的に正しい絵になるよう撮影し、後々ポスプロ処理もしやすくすることを考慮しました。

Marvel's Ant-Man - Clip 6
© Marvel 2015

また、被写界深度を小さく設定し、全てにピントが合ってミニチュアっぽくなることを避けました。撮影はCanon EOS 5D Mark IIIにマイクロスコープ レンズで撮影し、HDRは照明をセットアップする都度、新たに撮影しました。

撮影の際、ハイライトや反射を抑えるためにポラロイドフィルタを使用し、複数の異なるアングルから撮影しました。それによってプロジェクション時のストレッチを抑えるのと同時に、後からデジタルのカメラが動いた際に反射やハイライト位置が固定されて不自然に見えるのを防ぐことができます。さらに反射やハイライトはデジタルで後から追加すれば、カメラに合わせて移動させることが可能となります。
そのケーススタディとして、主人公スコットの娘、キャシーのベッドルームがあります。このシーンは、現実のプロップを全て再構築したフルデジタルのショットでした。デジタルダブルも同様で、異なる方向から撮影した画像をベースに、テクスチャを用意しました。

<3>約700ショットのVFXを効率的に制作〜Luma Pictures〜

続いては、Luma Pictures。VFXスーパーバイザーのビンス・シレリ/Vince Cirelli氏は次のように語った。


Luma Picturesでは、サーバルームや水道管、ミニチュアビルの破壊シークエンス等、約700ショットを担当しました。デジタルダブルの作業では、モーションキャプチャした様々な動きをライブラリ化し、それを必要に応じて組み合わせることで、作業の効率化を図りました。サーバールームは、Arnoldでレンダリングされています。また、NUKEのポイントクラウドの機能を用いて、様々なレイヤーの調整なども行なっています。

Marvel's Ant-Man - Clip 7
© Marvel 2015

水道管の中のシーンは、カメラが動き回っても十分なディテールが出るよう、ハイレゾリューションのテクスチャを準備しました。水の流体シュミレーションは巨大感が出るようにシュミレーション・スケールを設定し、ディテールにも気を配りました。

<4>リアルでありながら嫌悪感を感じさせない"蟻"の表現〜Method Studios〜

そして最後は、Method Studios。Greg Steele/グレッグ・スティール VFXスーパーバイザーは次のようにふり返る。

Method Studiosでは、全180人のクルーが参加して、蟻のアニメーションを数多く担当しました。そこで、まず蟻のリサーチを始めました。リサーチは、基本、YouTube(笑)。YouTubeには貴重なクリップの数々がアップされていて、大変助かりました。また、奇特な方が蟻の動きをハイスピード撮影したものをYouTubeに上げていて、それはアニメーターたちにとって多大な参考となりました。たくさんの蟻がブリッジを組んだりするクリップは、本編の中でも参考にさせていただいております(笑)。今回は大小様々なサイズの5種類の蟻が登場しますので、コンセプトアートを用意。もちろん、それぞれに個性を持たせることも心がけました。

  • Production Sessions<1>:映画『アントマン』
  • Production Sessions<1>:映画『アントマン』

© Marvel 2015

先ほども話に上りましたが、画面上にたくさんの蟻が登場しても観客が嫌悪感を感じないよう、「漫画的な蟻」と「超リアルな蟻」の中間を狙いました。動きも、蟻というよりは馬の動きに近いような、優雅な動きを目指しました。
蟻がたくさん登場しますので、アニメーションを付ける際は作業効率を上げるため、MayaのGPUキャッシュを活用しました。これにより、個々の蟻の動きの調整を、より敏速に再生することが可能になりました。

Production Sessions<1>:映画『アントマン』

© Marvel 2015

TEXT_鍋 潤太郎

  • Production Sessions<1>:映画『アントマン』
  • 映画『アントマン』
    9月19日(土)2D/3Dロードショー

    仕事も家庭も失ったスコットに残された最後のチャンスは、特殊なスーツを着用し、身長わずか1.5cmのヒーロー"アントマン"になること。最愛の娘のために猛特訓を開始した彼は、本当のヒーローになれるのか?

    配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン
    marvel-japan.jp/antman

    © Marvel 2015

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