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タイ・シンガポール・マレーシア・そして日本。4カ国の代表が語り合った「映像コンテンツ海外進出セミナー」レポート

タイ・シンガポール・マレーシア・そして日本。4カ国の代表が語り合った「映像コンテンツ海外進出セミナー」レポート

第二部 パネルディスカッション
~ASEAN市場へのコンテンツ展開の可能性~

【アニメ産業の発展に政府の支援はなぜ必要なのか】

第二部ではアニメ情報サイト『アニメ!アニメ!』編集長の数土直志氏をモデレーターとなり、Panida氏、David氏、Edmund氏、そしてモンブラン・ピクチャーズの松下由香氏も加わって、パネルディスカッションが行われた。タイ・シンガポール・マレーシアの地域事情に加えて、福岡のアニメスタジオのコンテンツを預かり、海外営業を進める松下氏の視点も加わり、立体的な議論が展開された。

はじめに数土氏は「なぜ短期間でASEANのアニメ産業が急成長したのか」と切り出した。これに対してEdumnd氏は政府の産業政策に関する強力な支援があったとコメント。David氏もこれに同意しつつ、欧米諸国での政情や経済不安という要因もあったのではないかとした。Panida氏は「過去10年間で海外大手からの制作発注が急増し、制作クオリティが高まった。一方で政府の支援は限定的なレベルにとどまっている」と話した。

一方で日本では「政府がクリエイティブ産業に関与すべきではない」という声も根強い。これに対してDavid氏は「新しい産業が成長していく過程では、人材育成と資金調達の面で政府の補助や支援が必要だと感じる」と答えた。Edumnd氏も「政府の関与は資金調達やルール作りに徹するべきで、クリエイティブについて干渉するべきではないし、マレーシアでもそのようになっている」とした。

これについて松下氏は「日本とマレーシアやシンガポールでは行政のイメージが大きく違う。役人が各国のバイヤーを個人的に知っていたり、新規スタジオの情報などを詳しく知っていて、海外展開を進めるうえで適切な情報やアドバイスなどをもらえる。こうした状況があるので、行政と民間のコラボが成立するのだと思う」と補足した。

「今後5-10年間でアジアのアニメ産業はどの程度の市場になるか」という質問に対して、Panida氏は「まさに私たちがタイ政府から問われている課題で、これが可視化できないから行政も支援に乗り出さない」と答えた。David氏は中国が圧倒的な成長力を誇っており、移民問題や経済不況も少ないため、アジア市場は斬新的に成長していくという見方をしめした。

一方でEdumnd氏は「IP保護の法律が各国で未整備なのがネックだ」と回答した。実際に放送局による放映料の未払いといった事態も起きているという。もっとも、こうした点が整備されれば非常に巨大な中産階級の市場ができるとして、今後の成長に期待を寄せた。Panida氏も「今すぐにアジア向けのIPをつくっても成功する可能性は低い。ただし5-10年後には状況が変わってくる」と補足した。

【国ごとの境界はすでになく、あるのは作品の価値だけ】

基調講演では各社ともオリジナルIPの展開に力を入れていることが示されたが、David氏は「海外展開やメディア展開をすすめる上で、コメディや勧善懲悪など、普遍的でわかりやすいトピックを選択している」と答えた。Edumnd氏も「マレーシアは複数の民族や宗教が混在する多民族国家で、国民の多くはイスラム教を信仰している。作品をつくる上で宗教の扱いやセンサーシップには配慮している」という。

またDavid氏は「オリジナルIPは重要だが、なんでもすぐに売り込め」ということではなく、時間をかけて企画を温めておき、適切なタイミングで展開することが重要だと回答した。これについて松下氏は「企画段階からYouTubeやFacebookなどを使って、一人でも多くのファンを増やすことが先決。ファンが増えれば資金調達もやりやすくなる」と補足した。

最後に「日本とASEANとの協業の可能性について」という質問もなされた。これに対してEdumnd氏は「パートナーが多いほうが最終的に幸せになれる。パートナーとは戦略的に価値をもたらしてくれる人という意味。様々な国のパートナーからインプットがあれば、それだけ作品がいいものになっていく。その意味で日本ともぜひ協業をしていきたい」と回答した。

David氏のもとにも、日本企業からのオファーがいくつかあるという。もっとも、その時に回答しているのは「日本だけでなく、世界全体に向けて展開できる作品をつくっていきたい」ということ。「日本はストーリーとクリエイティブで卓越している。日本とシンガポールは欧米文化に対してオープンで、関係性も深い。あとは、その価値観が共有できれば大歓迎です」。

Panida氏も「三カ国での共同制作は過去にも例があるし、知恵を寄せあって作品をつくり、欧米市場に対して展開していけると思う」と回答した。ただし日本は制作能力が非常に高く、確立されたアニメ文化があるため、自分たちのファンを逃したくないという考えもあるのではないかと指摘。「その殻を破ってでも新しいコンテンツをつくりたいという企業があれば、ぜひ協業したいですね」。

最後に松下氏は「日本のアニメは海外から高い評価を受けているが、『ドラえもん』『ドラゴンボール』『ポケモン』など、すべて過去の作品ばかり。2年前までは過去の貯金もあり注目されていたが、現在はそれもなくなりかけている。国ごとの境界はもはやなく、作品さえよければどこの国でもいいというのが実情。境界をつくっているのは、逆に日本人の方ではないか」と会場に呼びかけた。

TEXT_小野憲史

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