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SIGGRAPH 2015 レポート:E-Tech、VR Village そして Posters

SIGGRAPH 2015 レポート:E-Tech、VR Village そして Posters

<3>Posters

今年度のSIGGRAPHで大きく変わった内容のひとつは、Postersの展示方法だ。従来のように紙のポスターを並べて貼り付けるのではなく、Kiosk(キオスク)と呼ばれた10台端末を用いて閲覧したいポスターを検索して表示させる形式がとられた。発表者からはポスターを印刷し、持ち運ぶ手間が省ける反面、ポスター展示に使用されるスペースが大幅に縮小されたために目立ちにくくなるという弊害も生じたため、名刺などの配布が自由にできなくなったという声も聞かれた。
展示発表自体は、73件中34件が日本人によるもので、非常に採択率の高い年となった。また、今年のSIGGRAPHの特徴としてAR、VRに関わる発表、展示が目立つ傾向にあったが、ポスターセクションにおいても16件の展示があり、約1/5を占める結果となっていた。

SIGGRAPH 2015 Poster

image courtesy of ACM SIGGRAPH

3−1.Hands-Free Gesture Operation for Maintenance Work Using a Finger-Mounted Acceleration Sensor

このシステムは、分電盤の点検作業員の負担軽減のために開発された。メガネ型ディスプレイと指輪型の加速度センサーを装着することで、通常は分厚いマニュアルを手持ちで確認しながら作業を行わなければいけないところを、ハンズフリーで対応することができるようになる。ディスプレイは一般的なものである。
ディスプレイにはマニュアルの内容が表示される。手を挙げて横に振ったり、指を打つといったジェスチャーとそれを検知する加速度センサーとの併用によって、作業をしながらストレスなくマニュアルを次のページへと移行することが可能になる。

SIGGRAPH 2015 Poster

類似のハンズフリーのアイディアは過去にも考えられたことがあったが、指にスイッチを付けてジェスチャーを行う必要などがあり、切り替えに手間がかかるものであった。本システムでは、手を挙げて操作するという自然なジェスチャでアプリケーションの誤作動、誤検知を限りなく抑えた状態で、マニュアルと比較しながらスムーズに点検ができるようになる。
本プロトタイプの作成にあたっては、必要条件を満たす省エネかつ長時間作動できる軽量なセンサーの選定と、通常作業時には使われない操作時のジェスチャ選定に気を使ったとのことだった。いずれ製品化も考えたいとのことで、将来的にはこの発展形として、様々な教育や娯楽のためのデバイスとして身近なものになる日も近いのかもしれない。

Hands-Free Gesture Operation for Maintenance Work Using a Finger-Mounted Acceleration Sensor
発表者:中洲俊信氏、池 司氏、井本和範氏、山内康晋氏。以上、東芝


3−2.MR Coral Sea Evolved : Mixed-Reality Aquarium With Physical MR Displays

このデバイスは「サンゴディスプレイ」として、そのプロトタイプがバーチャルリアリティの国際会議「LavalVirtual 2014」にも出展されていた、アート性の高いインタラクティブデバイスだ。通常はセンサーモジュールの見た目がサンゴのようであることを生かし、海を模してデバイス上部に設置したLEDプロジェクターから魚が自律的に泳ぎまわる映像が投影されている。また、センサーとしてリープモーションが使用されており、手をデバイスにかざすと手の上に貝殻が出現する。さらに手をフリップさせると貝の上に魚のエサが出現し、それを目指して魚が近寄ってくるという仕組みだ。

センサーモジュールの中には、触覚検知センサー、LED、バイブレーションが組み込まれている。
本デバイスの今後の発展としては、モジュールを細く密な束に変更し、草原を模したデバイスやぬいぐるみに植え付けてコミュニケーションロボットとするなどの構想があるそうだ。また、本デバイスの日本での展示はモジュールの耐久度を上げる改良を行なった後にメディア芸術祭に応募を考えているということで、結果を楽しみにしたいところである。

SIGGRAPH 2015 Poster

MR Coral Sea Evolved: Mixed-Reality Aquarium With Physical MR Displays
発表者:賀集美和氏、北野貴士氏、櫻井清花氏、大島登志一氏(立命館大学 映像学部


3−3.Shadow Shooter : 360-Degree All-Around Virtual 3D Interactive Content

本デバイスはVR Villageでも展示を行なっていた神奈川工科大学助教の安本先生によるもので、こちらも「Laval Virtual 2015」への出展を果たしている。実際の洋弓のパーツを使用したゲーム用のARデバイスである。このデバイスを用いたゲームはコントローラーを使用して遊ぶゲームとは異なり、実際の身体能力をゲームに生かすことができ、かつ弓のトレーニングにもなっているのが大きな特徴だ。

アルミで削りだされた特殊な形状の弓のグリップ部分には、プロジェクターとセンサー、バッテリー、小さなWindowsコンピューター、マイコンとその制御基板が収納されている。センサーからの情報を元にゲーム中の3D空間内の位置を計算、ゲーム内での正面に相当する景色がプロジェクターから正面に投影される仕組みだ。
小型のプロジェクターはパワーがないこと、また、室内に投影される景色に対する違和感を少なくし、没入感を出すために、ゲームは暗い部屋の中で遊ぶように作られている。プロジェクターから投影される景色も、まるで暗闇に懐中電灯を向けているかのようだ。画面は白と黒で構成され、放った矢は光の線、的となる敵は黒い影で表現される。プレイヤーは3D空間の中を探索しながら敵を倒していく。中に入っているセンサーは位置だけではなく時間軸に沿ったひずみゲージの情報も取得できるため、これを利用して弓の引き方の癖なども知ることができる。

SIGGRAPH 2015 Poster

開発に苦労した点は弓を引く強度に耐えられるだけのグリップの素材の選定で、最終的にアルミを削りだしたものを使用することになった。また、型のWindowsコンピューターを用いていることもあり、開発環境よりもかなり性能の低いグラフィックボードのため、思い通りに動かなかったりと、予期せぬエラーをデバッグする手間がかかっている。
今後の課題としては、使用しているPCが使用3時間程度で熱暴走を起こして落ちてしまうのを改善したいということと、プレイヤーの室内での移動の検知やマルチプレイへの対応をしたいとのことだ。また、デバイスを取り外しの容易な汎用性の高い形にし、プレイヤー本人が持つ弓でもゲームを遊ぶことができるように改良していきたいとのこと。

Shadow Shooter : 360-Degree All-Around Virtual 3D Interactive Content
発表者:安本匡佑氏(神奈川工科大学 情報学部 情報メディア学科 助教)


TEXT_遊佐怜子(FLAME

  • SIGGRAPH 2015 E-Tech
  • SIGGRAPH 2015
    会期:2015年8月9日(日)~13日(木)
    場所:ロサンゼルス コンベンションセンター
    主催:ACM SIGGRAPH
    s2015.siggraph.org

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