日本でも年々、認知度が上がってきているサウス・バイ・サウスウエスト(以下、SXSW)は、1987年に始まり、毎年3月にアメリカ合衆国テキサス州オースティンで開催されている音楽・映画・インタラクティブの祭典である。会期中はオースティンの街全体が活気づく大規模なイベントで、毎年約20万人が参加している。30周年を迎える今年は米国大統領バラク・オバマ氏の演説により幕が切って落とされた。SXSWはミュージック・フィルム・インタラクティブと3つの部門に分かれているが、会場ではこの3つが交じり合い、さらなるクリエイティブを生み出している。本記事では来年以降、SXSWに参加する際に参考になる情報とともに、インタラクティブ部門の内容を中心に紹介していく。

TEXT & PHOTO_岡澤 彩(冬寂) / Aya Okazawa、北田能士(FLAME) / Takashi Kitada
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

SXSWに参加するには

出典:sxsw.jp/attend

SXSWに参加するには、まずバッジ(チケット)を購入する必要がある。バッジは「プラチナ」、「ゴールド」、「インタラクティブ」、「フィルム」、「ミュージック」と5種類が用意されている。プラチナはインタラクティブ・フィルム・ミュージックと全ての部門に使えるバッジで、ゴールドはインタラクティブ・フィルムの2部門のみ。上記の価格表を見るとわかるが、早期に購入すればするほどお得となっている。とは言え、ほかのイベントと比べるとかなり高めの設定だ。

バッジを購入した後は宿泊先と飛行機を手配しよう。こちらはできる限り早めに押さえることをおすすめする。会場近くのホテルは一泊500ドル以上にもなるため、宿泊先はAirBnBを使うのも手。旅費を浮かせることができるだろう。

また、バッジの値段相応にSXSWを楽しみたい人は、会期中、驚くほどたくさんのイベントが行われるため、ぜひ事前にプランを立てて欲しい。イベントは早いものでは朝の7時から、遅いものでは夜中の2時までとびっしり行われる。中には最初の2日だけ展示して即撤収する......というようなものもあったりするので、運が悪いと「明日行こうと思っていたのに!」が多発するのだ。

出典:itunes.apple.com/jp/app/sxsw-go-official-2016-mobile/id418450665?mt=8

事前に計画を練る場合は、SXSW公式のアプリ「SXSW GO」がおすすめだ。いつ・どこで・何が行われるかがチェックできる上に可変的なスケジュールもその日の予定としてカレンダーに入れることができる。目玉となるような企業ブースはかなり並ぶため、全て予定どおりとはいかないだろうが、こうしたアプリなどを活用して、大体のメドはつけておくのが良いだろう。

見てまわる場所のほかに押さえておきたいのが、休憩所の場所だ。バッジを持つ全員が入れる「LOUNGE」には、屋外のテントにソファとテーブル、バーカウンターが設置されており、ノーチャージでドリンクを楽しみつつ、歩きまわって疲れた足を休めることができる(とは言え、とても混雑していたが)。SXSWのプログラムでは会場周辺のバーやレストランを貸しきって行われるものも少なくなく、上記のようにノーチャージでドリンクや軽食がふるまわれる場所もある。会場周辺の飲食店は非常に混むので、こちらも事前にYelpなどで場所や営業時間を調べておくことをおすすめする。ちなみに、催事の中心となるコンベンションセンター内の売店では、水は$2.7、コーラなどのジュースやコーヒー類は$3.8~$7、ピザやハンバーガーなどの軽食は$8~$12程度とやや割高だ。

基調講演

出典:www.sxsw.com/news/2016/sxsw-announces-president-barack-obama-and-first-lady-michelle-obama

SXSWでは連日、基調講演が行われ、初日には米国大統領バラク・オバマ氏も登壇した。テーマは「21世紀型 市民の社会参画について」。また、16日には大統領夫人のミシェル・オバマ氏も「女子に教育を(Let Girls Learn)」をテーマに登壇した。オバマ大統領の基調講演は動画で全編公開されている。

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Trade showに出展された日本のプロダクト

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Trade showに出展された日本のプロダクト

出典:www.sxsw.com/exhibitions/trade-show

Trade showはコンベンションセンターのエキシビションホールで行われる大規模な展示会であり、商談の場でもある。世界中の新規に開発されたプロダクトやサービスがこのExhibition会場にてデモを行うのだ。

Trade showの行われる会場の一番端、AREA1700~1800が日本からの出展者のスペース。贔屓目でもなく、非常に個性豊かな展示が集まっていたと感じた。そのうちのいくつかを紹介していこう。

GODJ Plus

こちらは宮城県仙台市に本社を置くJDSoundから、今回、新たにリリース予定のオールインワン・ポータブルDJシステム「GODJ Plus」(写真左)。つい先日、クラウドファンディングサイトMakuakeで初日から500万円を集めた注目のプロダクトだ。写真右はすでにリリースされている「世界最小のDJシステム」をコンセプトにした「GODJ」。「GODJ Plus」は「GODJ」からさらに進化し、ユーザーからの意見を取り入れスピーカー内蔵型となっている。この「GODJ Plus」、2016年10月に発送が開始されるとのこと。
「GODJ Plus」の詳細・購入はこちら

e-skin

東京大学発のベンチャー「Xenoma」からは、電動布を使用したキャプチャスーツ「e-skin」が出展されていた。「Xenoma」は昨年11月に東京大学染谷研究室からスピンオフし、会社を設立したばかり。今回のデモではこのシャツを利用したリアルタイムモーションキャプチャが行われていた。主にUnityでゲーム開発を行なっているクリエイターにはまさに朗報とも言えるキャプチャスーツだ。

従来のモーションキャプチャシステムはどんなにミニマムなものでも高額で、多くの機材が必要となる。ところがこの「e-skin」はマーカーも大きなバッテリーもキャプチャのためのカメラも必要ない上、値段が安い。シャツの上には伸縮性の配線とセンサーが付いており、約5cm四方の小さい箱(バッテリーやマイクロコンピュータが内蔵されている)を体の中心部に装着。これだけで環境を問わずキャプチャが可能になる。値段はなんと、1着100ドル以下で検討中とのこと。

将来的にはSDKを公開し、ユーザーが自由に拡張を行えるよう、Unity上で誰でもアプリケーションをつくれるようにする予定だという。「e-skin」は現在も精鋭開発中で、リリース日は未定だが今年中のリリースが目標とされている。体験型のコンテンツにさらなる広がりを与えそうな「e-skin」の動向に、今後も注目したい。
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Lyric Speaker

SIXが開発した「LyricSpeaker」は、スマートフォンから再生した音楽がスピーカーから流れてくるのと同時に、歌詞も表示されるというもの。スマートフォンからWi-Fi経由で音楽情報と歌詞情報を「Lyric Speaker」に転送する仕組みになっている。面白いのは、再生されている曲の歌詞・曲調・音程を自動的に読み取り、その音楽に合ったタイポグラフィが作成されるという点だ(例えばロックには力強いサンセリフフォント、しっとりとした曲にはセリフフォント・明朝体が使われるといった具合)。プロダクト自体も流れるタイポグラフィもシンプルながらとても洒落ており、多種多様なインテリアに合わせられそうだ。「LyricSpeaker」は6月にプレオーダー開始、9月以降の発送となる予定で、価格は324,000円。
「Lyric Speaker」の詳細はこちら

Milbox Touchr

写真左:Milbox Touch本体、写真右:今回新たに開発されたタッチ用モジュール

WHITEからは新技術を使った簡易型VRゴーグル「Milbox Touch」が出展されていた。「Milbox Touch」はGoogleのカードボードハコスコなどのように、一見すると従来の簡易型VRゴーグルに思えるが、このプロダクトの最大の特長は、回路がプリントされたシールにある(写真右)。このシールはVRゴーグル筐体側面に配置され、ユーザーがゴーグル装着中に指で直感的に操作を行えるという役割を担っている。

回路がプリントされたシールは伝導性インクで印刷されており、静電容量式のタッチパネルがスマートフォンからさらに延長していると言う構造になる

従来の簡易型のVRゴーグルは安価で誰でも手に入れることができ手軽で便利だが、体験中に入力(操作)ができないことが課題だった。その課題を「Milbox Touch」は、回路がプリントされたシールを用いてスマートフォンのタッチパネルを拡張するという仕組みで解決した。つまり、スマートフォンのタッチ範囲がこのシールによってディスプレイから拡張され箱の側面にまで及んでいるのだ。実際にデモを体験させてもらったが、操作感はとてもなめらか。ディレイもなく、ストレスがないため、ゲームはもちろん、様々なインタラクティブなVRコンテンツに活用できるだろう。価格も2,000円程を予定しているとのことで、すぐ手に入れて試したいプロダクトだ。

ちなみに今回、体験した「Milbox Touch」はプロトタイプで、さらなる開発と合わせてiOS・Android・Unityに対してSDKを開発中。発売は4月中、SDKの配布は早ければ5月末を予定しているとのことだ。
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ルクルク

「ルクルク」はキッズプレートからリリースされたAR&VRハイブリッド・アプリ。VRやARといった技術は専門知識を持った開発者によりつくられるコンテンツなので、つくってみたいがハードルが高いと思っている人も多いだろう。この「VR app for Dummies」と題したルクルクは、そんな人たちに届けたいアプリである。

使い方はまず、アプリケーションを起動させ、表示されるスキャナーにARマーカーを認識。ARマーカーを認識すると任意のコンテンツが立ち上がるという仕組みだ。コンテンツがVR映像であれば、ゴーグルを通すことでVR映像として再生される。スキャンする対象は映像・パッケージ・雑誌などほぼ制限がない上に、VR映像自体も表現の幅が広がり続けているので、様々な使い方ができそうだ。

VR映像は一眼・二眼ともに対応しており、ARマーカーの配置は管理者の登録をすることによって可能になる。すでにアプリはiOS・Andoroidでリリースされており、今後はスキャン方法も空間認識・立体認識・顔認識など拡張を目指し、VRコンテンツに関してもインタラクティブな表現に挑戦していきたいとのこと。ちなみに同社では現在、アプリのさらなる拡張に向けて積極的にVR/AR・バックエンドエンジニアを採用中とのことだ。
ルクルクの詳細・ダウンロードはこちら

Motion Score

続いては電通から発表されたアプリケーション「MotionScore」。SXSW ReleaseIt部門でファイナリストにノミネートされた。「MotionScore」は人の動きを楽譜化する技術で、リアルタイムでモーションのスピード(BPM)やテンションをブレンドしていく。今回のデモでは実際に機器から送られたBPMに合わせてモーションがなめらかに変化していく様子が見てとれた。
「MotionScore」の詳細はこちら

さらに、会場では同社から最近リリースされたスマートフォンアプリ「オドレター(ODDLETTER)」のデモも行われていた。同アプリは撮影した写真が踊りだし、メッセージつきでその動画をシェアできると言うもの。複数あるプリセットの中から自由にブレンドを行い、最大6秒のオリジナルダンス動画をつくることができる。このダンスのブレンドがとても滑らかなのは「MotionScore」と同じ技術でつくられているからとのことだ。「オドレター(ODDLETTER)」はiOS・Androidでダウンロード可能だ。
「オドレター(ODDLETTER)」の詳細はこちら

Trade show全体を通して

Trade showにはハードウェアからアプリケーション、サービスまで各国の様々な展示があったが、中でも出展数が多く注目を集めていたのはハードウェアやVRといった見て触れることができる体験型の展示だったように感じる。そのほかにも3D立体ディスプレイやピザを作る3Dプリンター、超巨大ロボットなど個性豊かな展示が揃っていた。

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意欲的なプロダクトが集まる屋外展示

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意欲的なプロダクトが集まる屋外展示

コンベンションセンターの外では様々な企業が研究開発を行なったプロダクトが展示されていた。例えばOculusとの共同開発によりリリースされたGearVRを有するサムスンは、最新のVRコンテンツを体験できるスペースを用意。会場前には長蛇の列ができていた。

ではこの屋外展示の中から、とくに興味深かった展示を以下に紹介していく。

Sony

耳を塞がないヘッドホン

  • 本の上にプロジェクタで投影したイメージをタッチすることで、移動したりアクションがおきる

  • 振動で素材感を表現するプロダクト。写真に写っているのは金属の球。傾けることで金属の球同士がぶつかり合う感触を振動で伝える

日本からはSonyの研究開発部門が出展。耳を塞がないイヤホン・ヘッドホンや振動だけで素材感を表現するプロダクト、タッチができるプロジェクタなど、見る者を驚かせるコンテンツが並んだ。耳を塞がないイヤホン・ヘッドホンはその名の通り、耳を塞いでいないのにしっかりと明瞭な音を聞くことができる上に、装着している本人以外には音が聞こえないという不思議なプロダクト。もちろん耳を塞いでいないので流れる音以外の環境音や話し声などもしっかりと聞くことができる。

ちなみに、これらは研究開発のため、残念ながらどれも販売の予定はないとのこと。

McDonald LOFT

DELLIBMといったおなじみのメーカーが展示やイベントを行う中、異彩を放っていたのはマクドナルドの出展だ。ファーストフード店がVRコンテンツを展示していたのである。

今回デモが行われたのは「V-Artist」。ヘッドマウントディスプレイはHTC Viveに専用コントローラーを使用し、Happy Meal Box(日本で言うハッピーセット)を中心とした世界観の中で3Dペインティングを行えるというものだ。VR空間上で描いた絵は会場に設置された専用機器を使い、画像をプリントしたりSNSに共有することができた。子供向けのコンテンツなのかと予想したが、会場ではハイクオリティなVR体験に年代問わず多くの人が楽しんでいた。

なお、このコンテンツは米ダラスに拠点を置くGroove Jonesと米マクドナルドが共同で開発したもので、Unreal Engine 4により制作されたとのこと。このほかにも今年の3月にはスウェーデンで「組み立てるとVR用ゴーグルになるHappy Meal Box」を販売するなど、マクドナルドのVRへの関心の高さが窺える。

また、同会場ではドリンクやアイスのほかにもポテトやチーズバーガーなど、マクドナルドでおなじみのメニューが無料で振る舞われており、バンドのライブとともに多くの人が楽しんでいた。

『ゲーム・オブ・スローンズ』、『MR. ROBOT』の展示

写真左上:『ゲーム・オブ・スローンズ』に登場するキーアイテム「鉄の玉座」。写真右上:同作品の前シリーズに登場した「顔の間」に自分の顔を撮影して出現させることができる。写真左下:遠くからでも目立つ『MR.ROBOT』の観覧車、もちろん乗ることも可能。写真右下:『MR. ROBOT』の劇中を再現したセット

メーカーの展示もさることながら、SXSWにはエンターテインメントの展示も存在する。ハリウッド映画並のハイクオリティVFXにも注目が集まる海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』特設会場のほか、ハッカーが心理戦を繰り広げるサイコスリラードラマ『MR. ROBOT』の観覧車が街中に出現するなど、こちらも大勢の人で賑わっていた。

ダウンタウン

ダウンタウンのちょうど真ん中あたりのブロック。写真に写る人だかりは大道芸人によるパフォーマンスによるもの

ダウンタウン周辺のシアターでは、ムービー部門の上映などが行われていた。

通りのどこにいても陽気な演奏が聞こえてくるほど、あちこちの店でバンドライブが行われていた

JAPAN HOUSE

JAPAN HOUSE会場入り口。6th Streetにあるイベントスペースを貸しきって行われた

JAPAN HOUSEは去年から始まったSXSWの公式プログラム。ここで発信されるのは年度毎のテーマに沿った日本産まれのサービスやプロダクトだ。2回目となる今年のテーマは「Extension of Humanity」で、ロボティクス・AI・医療技術・モビリティ・エンターテイメントと5分野にわたり「人間の可能性を拡張してくれる最新技術」にフォーカスしている。

会場ではジェミノイドなどで知られるロボット学者・大阪大学石黒 浩教授の登壇や、日本のポップアーティストYun*chiによる脈派データを使用したインタラクティブなライブパフォーマンスなどが行われた。

写真左:3Dプリンターで出力された臓器模型。写真右:質感・重量など細部まで本物を再現した胃のモデル

上の写真は神戸大学の杉本真樹氏が取り組んでいる次世代の臓器造形技術。造形自体を再現した臓器モデルはここ数年、いたるところで見られたが、驚くべきは質感すらも再現した点だ。実際に手に取ってみたが、適度に湿っており、胃のモデルは"袋"なので柔らかく、肝臓のモデルはずっしりと重い。表面のテクスチャも独特の触り心地だった。

筆者は本物の臓器に触れたことがないので比べることはできないが、内蔵とはこういった感触なのかと素直に納得できてしまうほど、高い再現度を感じた。こんなものまで3Dプリンタで出力できるのかと驚いたのと同時に、これらが今後、手術シミュレーションなど医療の現場で大いに役立つであろうことが想像できた。

出典:www.facebook.com/sxswjapanhouse/

去年は女性テクノユニット「Perfume」がSXSWでライブパフォーマンスを披露し話題を集めたが、今年も日本のアーティストによるライブがいつくか行われた。ここJAPAN HOUSEでは「Yun*chi」がNTTサービスエボリューション研究所とコラボレーションし、インタラクティブなライブパフォーマンスを披露した。その内容は脈派センサーからリアルタイムにライブ中のYun*chiの脈派データを取得し、背景のスクリーンに脈派データを用いたインタラクティブな映像を流すというもの。アーティストと観客との一体感を高めるパフォーマンスとなっていた。

総括

SXSWは、全体を通してまさに「祭典」という呼び名にふさわしい、はなやかなイベントだと感じた。本記事ではインタラクティブ部門を中心に紹介したが、ミュージック部門ではさらなる盛り上がりを見せていたそうだ。

10日間にわたって行われるSXSWに日本から参加するのは、なかなか難しいことかもしれない。しかしこのイベントに参加すると、世界で今、何が注目されているのかを肌で感じることができる。時流をつかむには最適なイベントだと思うので、来年はぜひ、現地に足を運んでみてほしい。


  • 「SXSW 2016」

    会期:2016年5月11日~5月20日
    会場:テキサス州オースティン
    日本語公式サイト:sxsw.jp
    米国公式サイト:www.sxsw.com