>   >  なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第2回:発展期 1980年代末~2000年代初頭)
なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第2回:発展期 1980年代末~2000年代初頭)

なぜ、CGは嫌われる? ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題を追う(第2回:発展期 1980年代末~2000年代初頭)

<5>ヒューマン・フェイス・プロジェクト

SIGGRAPH2001において、ウォルト・ディズニー・フィーチャー・アニメーション研究開発チーム/Walt Disney Feature Animation R&D Teamが発表したのが、『ヒューマン・フェイス・プロジェクト』(Human Face Project)のテストリール【図10】だった。
このプロジェクトは、顔の表情の動きを別のモデルに当てはめるというもので、ポイントマーカーを使用せずにオプチカルフローでトラッキングされている。VFXスーパーバイザーであるプライス・ペッセル(Price Pethel)の顔をArius 3DやCyberwareでスキャンし、若く造形された3DCGモデルを動かしている。

ディレクターは、NYIT/CGLで中止に終わった『The Works』プロジェクトを指揮していたランス・ウィリアムアス(Lance Williams ※3)と、ディズニーに買収されたドリーム・クエスト・イメージズ(Dream Quest Images)の共同設立者だったホイト・イェトマン(Hoyt Yeatman ※4)の2人が務めていた。

(※3)ウィリアムアスはこのプロジェクトに2004年まで参加し、その後Applied Minds、Google、Nokia Research Center Hollywoodなどを経て現在はNVIDIAに在籍。
(※4)ドリーム・クエスト・イメージズは、1999年にディズニーのザ・シークレット・ラボ(The Secret Lab)に統合され、2001年に閉鎖された。イェトマンはその後、フリーのVFXスーパーバイザーとして活躍。

ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(その2:発展期 1980年代末~2000年代初頭)

【図10】ヒューマン・フェイス・プロジェクトのデモ映像。左側がCGで顔を置き替えられた人物(この段階では、ポイントマーカーを使っている)
© Disney


<6>セックスとアクション

映画『ファイト・クラブ』(『Fight Club』1999年)では、フランスのBUFがブラッド・ピットとヘレナ・ボナム=カーターのセックスシーンをヴァーチャル・ヒューマンで表現した。これは、ヘレナがヌードを拒否したことと、監督のデヴィッド・フィンチャーが単純なセックス描写を嫌っていたこともあり、まったく新しい表現が求められた。そこでBUFは、5台のキャノンEOSを用い、ベッドで絡み合う2人の映像を2日間にわたってスチール撮影した。1日目は代役を立ててヌード撮影を行い、2日目は役者本人にマッチムーブ用のマーキングをされた白い全身タイツを着せて撮っている。こうして撮影された写真を元にして、3DCGの人体モデルがつくられた。そして、背景とベッドが異なる速度で回転していたり、別に撮影された顔をモーフィングで繋いで、間をモーションブラーでボカすといった処理も施されている。

また本作の最後で、主人公(エドワード・ノートン)がピストルを口の中に発砲して自殺未遂するシーン【図11】も、BUFがヴァーチャル・ヒューマンで描いた。これはノートンの頭部を5台のパナビジョン・カメラで撮影し、これを元にイメージベースト・レンダリングで3DCG化したものだった。

また、映画『マトリックス リローデッド』(原題『The Matrix Reloaded』、2003年)と『マトリックス レボリューションズ』(原題『The Matrix Revolutions』、2003年)では、主人公ネオを演ずるキアヌ・リーヴスと、エージェント・スミス役のヒューゴ・ウィーヴィングのヴァーチャル・スタントダブルが、エスケープ・エンターテインメント/ESC Entertainmentによって作成された。同社はまず、XYZ RGBのフォトグラメトリック・スキャナーを用いて、キアヌとヒューゴの頭部の立体形状を計測した。加えて、本人たちを5台のSonyのカムコーダーHDW-F900で取り囲み、様々な表情を非圧縮10bit動画で撮影。そのオプチカルフローから、形状の変化を捕らえた。同社はこの手法に、ユニバーサルキャプチャという名称を与えている。この技術は、『マトリックス リローデッド』の100人エージェント・スミスや、『マトリックス レボリューションズ』のラストのバトルシーン【図12】などで活躍した。

このように2000年代の初めには、ヴァーチャル・ヒューマンがある程度実用化に達していた。だが、あくまでも一部のシーンだけに留まっており、画面に登場する時間も短かったことから、この時点で不気味の谷問題が論じられることは、ほとんどなかった。

ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(その2:発展期 1980年代末~2000年代初頭)

【図11】『ファイト・クラブ』
© 1999 - 20th Century Fox - All Rights Reserved.


ヴァーチャル・ヒューマンに対する「不気味の谷現象」問題(その2:発展期 1980年代末~2000年代初頭)

【図12】『マトリックス レボリューションズ』
© 2003 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.


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