>   >  Houdiniアーティストの視点から、海外の大手スタジオが実践するモダンな制作手法とこれからの期待したいツールをチェック!〜SIGGRAPH 2016レポート<5>〜
Houdiniアーティストの視点から、海外の大手スタジオが実践するモダンな制作手法とこれからの期待したいツールをチェック!〜SIGGRAPH 2016レポート<5>〜

Houdiniアーティストの視点から、海外の大手スタジオが実践するモダンな制作手法とこれからの期待したいツールをチェック!〜SIGGRAPH 2016レポート<5>〜

2016年7月24日(日)から7月28日(木)までの5日間にわたり、アナハイムで「SIGGRAPH 2016」に参加してきた。その目的だが、ひとつにはモチベーションの向上があるが、それと同時にハリウッド映画のVFX制作現場におけるディファクト・スタンダートを肌で感じるためだ。世界最大のコンピューター・グラフィックスの間ファンレスであるSIGGRAPHは、最先端の情報を得るにはもってこいである。本レポートでは、エキシビションや各種セッションを通して感じた筆者が所属するトランジスタ・スタジオのメインツールのひとつであるHoudiniの浸透度合いと、これから期待すべきDCCツールを紹介していく。

TEXT&PHOTO_秋元純一、平井豊和(トランジスタ・スタジオ) / Jyunichi Akimoto、Toyokazu Hirai(Transistor Studio
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)



<1>SIGGRAPHでも目立った、Houdiniの存在感

筆者が所属するトランジスタ・スタジオでは、Houdiniをメインに据えたワークフローを構築している。Houdiniはハリウッド映画のVFX制作現場では定番DCCツールのひとつだが、日本では最近になってようやく導入が増えてきたように感じる。今回は、SIGGRAPHに参加することで、今後のプロダクション業務に活かせる有用なアイデア(ヒント)を見つけられればと思っていたのだが、取材を続けていくなかでHoudiniのプレゼンスが世界的に高まっていることを大いに実感した。

SideFX at SIGGRAPH 2016 from Go Procedural on Vimeo.

筆者が参加したセッションには必ず言ってもいいほど、Houdiniが登場しており、大手スタジオでの採用率の高さを垣間見ることができた。数年前にSIGGRAPHへ参加したときはMayaをメインツールに据えつつ、スタジオごとにインハウスツールでパイプラインに手を加えるというのが主流だったと思うのだが、それがHoudiniの柔軟性を活かす方向へと変化しつつあるように思えた。
例えば、7月25日(月)に行われたTalksセッション「Dancing Trees」である。ここでは、樹木の生成をテーマに各プロダクションごとの取り組みが紹介されたのだが、Moving Picture Company(以下MPC)による『Can't See the Jungle for the Trees』という、映画『ジャングル・ブック』の事例紹介では、HoudiniとFabric Engine(後述)を組み合わせた樹木のアセットに対するワークフローが披露された。MPCと言えば、先述したMayaをベースにインハウスツールで拡張するスタイルよいうイメージが筆者にはあったのだが、それゆえにHoudiniを取り入れたパイプラインの話を聞くことができ、驚いた次第だ。

また、7月26日(火)の夜に催された、SideFX主催の「Houdini Mixer at SIGGRAPH 2016」。ここでは大手プロダクションのユーザーやHoudiniの開発者たちが多く集まり、盛況であった(ユーザー向けイベントなので当然と言えばそうなのだが......)。オフレコの話が多く、ここでは紹介できないのが心苦しいが、今後のHoudiniの発展を期待せずにはいれない夜だったのはまちがいない。特に、今後のロードマップの話を聞けたのが有意義であった(その一部がSideFX公式サイトで確認できる)。

Houdini Roadmap Presentation | SIGGRAPH 2016 from Go Procedural on Vimeo.

Talksセッション「Angry Effects Salad」では、MPCやDisneyに加えて、日本からスクウェア・エニックスが今冬に発売予定の『FINAL FANTASY XV』の事例を紹介していた。ここで印象的だったのが、MPCとDisneyの事例である。

MPCによる「The Effects of "Jungle Book"」は、講演タイトルのとおり映画『ジャングル・ブック』におけるエフェクト表現の事例が披露された。

The Jungle Book Official Big Game Trailer

本作のエフェクト制作は、約900ショット分。それを55名のアーティストで対応することになったそうだ。物語の大半がジャングルという熱帯地方の原生林で繰り広げられるため、必然的に大量の樹木を3DCGベースで生成させることが求められた。先述のTalksセッション「Dancing Trees」で披露された情報によるとその物量は;

・1,200ショット
・250種類の樹木
・275種類の植物
・1,700のアセット
・30k2という広大な面積


......にも達したそうだ(ただただ圧倒的な物量である)。そんなジャングル内で描かれるエフェクトとして、ここではスコールのシーンがどのように制作されたのが披露された。

4〜5レイヤーで生成された雨の要素には、雨粒や跳ね返り、霧など様々なものがあったという。特に跳ね返りの要素などはHoudiniの特性を活かした手法がとられており、木に対してPoint Cloudを生成し、雨の方向から作成したVectorから導き出した跳ね返りを、葉、木陰、地面など様々なタイプに自動的に分類、そこへ雨粒から跳ね返りを自動生成するというアプローチがとられた。

また、ジャングルが火事になるというシーケンスでは、Fire Volume、Smoke Volume、Ember Particles、Preview GeometryをまとめたPackageを作成し、炎の大きさや勢いなど種類別にアセット化し、配置することでスムーズな作業ができるようにされていた。アセットは時間を長めにシミュレーションを演算しており、かなり自由に配置できるようになっていた模様。
このように、アセットで切り抜けられる要素を、上手くHoudiniを活用してコストを抑えようという創意工夫が窺えた。

逆にヒーローエフェクトでは、変わったコンビネーションが採用されていた。川とキャラクターのインタラクションを例に解説されていたのだが、メインとなる川のシミュレーションはScanline VFXが開発した流体シミュレーションツール「Flowline」を用いつつ、Whitewater(波頭)などのセカンダリ要素の作成にはHoudiniが用いるというユニークな手法が採られていたのである。残念ながら筆者はFlowlineの詳細を知らないため、このコンビネーションの理由に確証はもてないのだが、知人に聞いた話ではMPCでは2005年にFlowlineのライセンス供与を受けており、相応にノウハウを蓄積していたことに加え、Houdiniによる大規模でハイディティールな川のシミュレーションは難易度が高いと判断したようだ。ただ、SIGGRAPH 2016におけるMPCの各種講演内容からは今後はプライマリシミュレーションについてもHoudiniをより多用したパイプラインへと改めていくようにも感じた。

続くWalt Disney Animation Studios(以下Disney)による「Delicious Looking Ice Cream Effects with Non-Simukation Approaches」では、映画『ズートピア』におけるシミュレーションを使用しないエフェクトや、アセットを上手く活用したエフェクト表現が紹介された。

『ズートピア』MovieNEX 予告編

その中で印象的だったのが、カフェ店員のゾウが自分の鼻を使って(アイスクリームディッシャーさながらに)アイスクリームをすくうという表現のエフェクト制作である。そのワークフローは以下のとおり;

1.2D Drawover
2.Procedural Animation
3.Keyframe Animation
4.Texture、Sculpt


......まず最初にアニメーターが描いた2Dアニメーションを再現するというフローになっていたわけだ。
作画(アナログ)の時代から活躍を続ける同社では、2Dアニメーションの技法をしっかりと継承しており、Houdiniはそうしたワークフローに上手く順応しているように思えた。特に本講演のメインとなったアイスクリームの表現の場合、当初は様々なアプローチを考えていたようで、MetaballやVDBなどのVolumeベースのアプローチを試していたが、納得のいくクオリティを引き出せなかったそうだ(日本では問題なくOKが出そうな域にまで達していたと思うのだが、さすがはDisneyである)。
そこで、すくった際に丸まるようにスプーンに収まるアイスクリームに対して、『アナと雪の女王』制作時にエルサの袖が丸まりながら収まる表現のために開発したというRoll Deformerが使用された。
それに対してスカルプトの対象となる;

1.全体のノイズ
2.削れた際のクラック
3.縁
4.溶け出した箇所


......上記4種類のDisplacement Textureを用いることによって、シミュレーションを用いないアイスクリームエフェクトが完成した。

続いては、噴水のエフェクト。こちらもHoudiniを使い水のシミュレーションが作成されているが、『ズートピア』では、町中やクラブのシーケンスで多くの噴水が登場する。これらを低コストで作成するために、アセットを利用したフローが使われたという。

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© Disney
『ズートピア』では街中にある噴水が多くのシーンに登場する


まず、ノズルから発生する水のシミュレーション長めに演算(発生量や形状なども数種類準備されていたようだ)。これらをタイミングをずらして配置することにより、噴水のパターンを作成するというものだ。この手法を用いることで2週間程度で全ての噴水エフェクトを完成させることができたという。
こうしたアプローチは、当社のような中小規模のプロダクションが多用するものだとばかり思っていたのだが、Disneyのような大手でもコストパフォーマンスの最大化を目指すという意味ではかわりないのだと良い意味で実感することができた。
そのほかにも芝生とクルマのインタラクションをHoudiniのWire Solverを用いたエフェクトワークなども披露されたが、Disneyではシミュレーションに頼らずに、プロシージャルなアプローチを目的にHoudiniを活用していることを力説していた。

そしてHoudini関連で最も印象的だったのが、7月26日(火)に開催された「A Tall Drink of Water」のセッションにおける、PixarによるLapping Water Effects in "Piper"であった。 これはPixarによるショートムービー『Piper』の波打ち際の事例だ。

"Piper" Clip - Finding Dory - In Theatres this Friday!

シギのひな鳥が波打ち際で餌捕りを四苦八苦しながら会得するというストーリーで、メインとなるシーンの大半に水表現が絡んでくる。その波打ち際をHoudiniで作成していたのだが、驚いたのがその非常にシンプルなシーン構造だ。
PixarやDisneyの事例を見て感じたことだが、両社のプレゼンテーションからは望み通りの形状を徹底的に追求しようという精神を随所に伝わってきた。『Piper』の場合は、キャラクターのプロポーションや動きは、フレーム単位で手書きの指示が加えられている。エフェクトにおいても、シミュレーションの結果のみに頼る事なく、あくまで手で作られる形状にもこだわりを見せていた。その波打ち際の場合は、Curveを用いて波打ち際の形状をデザインし、それに追従するようなシミュレーションを加え、さらに泡もあらかじめデザインされた形状を再現できるアセットを配置することによって、意図的な形状に近づくように工夫されていた。
整理をすると、

Step 1.プロシージャルアニメーション
Step 2.シミュレーション
Step 3.プロシージャルコントロール


......上記のように、シミュレーションはあくまで中間に行うオペレーション的位置付けにとどめられているわけだが、これは当社でも理想としているワークフローである。

プロシージャルとシミュレーションにはどちらも一長一短で、良いところを組み合わせることを理想としているようだ。また、波打ち際のジオメトリはGeometric Implicit Networks(GIN)を用いてキャッシュを取っていたという。海外の大手スタジオでも、限られた中での作業で、節約した分を別の部分へ注力することによってクオリティを高めているわけだが、そうしたシビアな状況の中で、自ずとHoudiniの利用機会が増えているのだと言えよう。

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SideFXのブース(撮影:CGWORLD編集部)

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<2>Fabric Engineの大きな可能性

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