奥 浩哉氏による漫画『GANTZ』。スタイリッシュな世界観と先の読めない緊迫したストーリー展開で連載終了後も圧倒的な人気を誇っている。中でも特に人気の高い"大阪編"をフルCGアニメーション化した映画『GANTZ:O』では、本格的なパフォーマンスキャプチャが実施されている。ヘッドマウントカメラやシステムなどは自社で開発。効率とクオリティを両立させたアニメーションに関わる取り組みをみていこう。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 219(2016年11月号)からの転載となります

TEXT_石井勇夫(Z-FLAG
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

映画『GANTZ:O』本予告
gantzo.jp
©奥浩哉/集英社・「GANTZ:O」製作委員会

「本作での一番大きな挑戦は、映画としてキャラクターにきちんと芝居をさせるということです。これはデジタル・フロンティアとしての目標でもありました」と川村監督は語る。芝居をさせるという点で、キャラクターアニメーションは非常に重要な要素だった。今回はアニメーションを担当したモーションキャプチャースーパーバイザーの越田弘毅氏、アニメーションスーパーバイザーの亀川武志氏、フェイシャルリグ&フェイシャルアニメーションスーパーバイザーの石山健作氏の3氏に話を聞いた。


  • モーションキャプチャー
    スーパーバイザー
    越田弘毅氏

本作では、身体のモーションキャプチャと同時にフェイシャルキャプチャも収録する「パフォーマンスキャプチャ」を導入して、役者の演技の高品質なデータを収録している。また、パフォーマンスキャプチャ収録時に実写のカメラマン2人を入れて、キャプチャ以外に実写撮影も行なった。これはハリウッドでは主流の方法だが、国内では珍しいとのことだ。実写の経験が豊富なカメラマンが撮影に入ることによって、演出としても相当助けられたと川村監督はふり返る。この実写撮影した映像を監督が粗編集してカメラワークを再構成したエディットムービーを作成。ドラマパートはこれを参考にアニマティクスに臨むことができた。同様にアニメーションチームも実写寄りのカメラワークを意識したという。


  • アニメーションスーパーバイザー
    亀川武志氏

フェイシャルも特に力を入れた要素だ。パフォーマンスキャプチャや新しいリグで柔らかな感情表現を目指したという。パフォーマンスキャプチャは身体と顔のモーションを同時に収録するが、身体のアニメーションをタイムワープなどで修正したときに、フェイシャルも同時に修正しなければならない。この2つのデータの同期がひとつの課題であり、工数のかかった部分であるという。しかし、キャプチャからアニメーション、フェイシャルまでを全て社内で行なっているため、各チーム間でのデータのやり取りや意思の疎通が細かくできている。こうした点も同社の大きな強みだろう。


  • フェイシャルリグ&
    フェイシャルアニメーションスーパーバイザー
    石山健作氏

01 ANIMATION
カメラやシステムの開発とパフォーマンスキャプチャの収録

前述の通り本作のキャラクターアニメーションはモーションとフェイシャルを同時にキャプチャする「パフォーマンスキャプチャ」で収録されている。動きだけを収録するモーションキャプチャと比べて1日に撮影できる尺は約6分と、身体だけのモーションキャプチャの10~15分と比べて短いが、その 分、フェイシャルを別録りする手間と、動きと表情を同期する手間が省けるため時間的なデメリットは相殺されるとのこと。なにより身体と顔を別録りして合わせるよりも、クオリティがアップするのが利点だという。「従来のような顔と身体を別にキャプチャしてデータ上で合体する方法はちぐはぐになりやすかったのですが、パフォーマンスキャプチャではそれがないのがとても大きいです」と、キャプチャを担当した越田氏。演出も自然にできると川村監督も収録をふり返る。なお、本作の収録は3週間ほどで終わらせたという。

収録エリアが15×10×4.5mというアジア最大級のモーションキャプチャスタジオ「オパキス」を擁する同社では、パフォーマンスキャプチャを使えば、まるで舞台で演技しているような役者の動きをそのままデータ化することが可能だ。さらに5人まで同時にキャプチャができるため、演技のかけ合いをそのまま一度にデータ化できるという。これは本作のテーマのひとつである「キャラクターをきちん と芝居させる」ことにも大きく貢献しているようだ。

ヘッドマウントカメラの開発


  • ヘッドマウントカメラは市販のものではなく、自社で制作された。それに伴い制御するソフトも自社で開発したという。市販のヘッドマウントは、HDDやバッテリー、ビデオトランスミッターなど、身体に付ける部品が多く、故障の危険性が高い。そのためヘッドギア以外の部分は自作することにしたという。このヘッドマウントカメラは以前から活用していたものではあるが、今回の映画『GANTZ:O』のために台数を5台に増やし、5人が同時にキャプチャできる体制を整えた



  • 収録現場ではヘッドマウントカメラを外すことが多いため、カメラ本体ではなく、その下のフードにマーカーを付けている。そのためカメラを外すたびにイニシャライズする必要がない。「世界的にも著名な役者の方にヘッドマウントカメラを被っていただける機会があったのですが、ブレが少なくバランスが良いと褒められました」(越田氏)

モーションの収録


さらに今回は画像のような人物の顔を撮影する実写のカメラマンを2人配置。もともとはヘッドマウントカメラが広角で映像がゆがむため、顔の表情の参考用の配置だったが、実写撮影の経験豊富なカメラマンによる撮影は演出で大きな助けになったという。モーションとフェイシャルを同時に収録するので、表情も一緒に演技しているのがわかるだろう。この実写の素材を使い、ドラマパート用のカメラカット参考ムービーが制作されている

表情のトラッキング


フェイシャルキャプチャシステム「Dynamixyz_Performer」によるプロファイル作成画面。この当時は顔にマーカーを付けずに撮影していた。現在では精度を高めるため、顔にラインを引くなどのマーカーを入れているとのこと。パフォーマンスキャプチャのフェイシャルトラッキングについて「精度は60%くらいのものが上がってきます。ただ、何より身体と同期したデータがくるので、はじめから違和感がないアニメーションを作れます。特に眼球は感情表現では大事な要素ですが、以前は難しかったものが、今回は高い精度でくるので非常に助けられました」と、フェイシャルを担当した石山氏

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02 ANIMATION
フェイシャルとアニメーション付け

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02 ANIMATION
フェイシャルとアニメーション付け

本作の絵コンテ以降のCGアニメーション制作のながれは①プリビズ、②モーションキャプチャ、③アニマティクス、④アニメーション、⑤フェイシャルアニメーション、となる。プリビズを作るのはデジタル・フロンティアとしては稀なケースで、通常はアニマティクスとして作ってしまうが、今回は絵コンテでは表現しきれないカットの目安として必要だったという。アクションシーンを中心に、キャラクターはポーズと簡単な移動、モーションのみ。レイアウトやカメラワーク、尺とタイミングの指針として作られた。

アニマティクスは本社と大阪支社をはじめ、協力会社も加わり最大で50名が関わった。「妖怪や巨大 ロボットなど、難易度は高かったのですが、その分、非常にやりがいがありました」と、アニメーション全般を担当した亀川氏。アニマティクスはMotionBuilderを使用して、エフェクトやライティング、テクスチャなども入れ、なるべく最終画に近いもので検討しているという。

同社のアニメーションチームは全員がレイアウトまでできる技能があるのが特長だ。「レイアウトは コンテがあっても現場では大きく変わる場合があり、そのつど最良のものになるようにしています」と亀川氏。また、カメラワークも実写寄りにして、手持ち風のカメラなども交えるなど、こだわっている。

カメラワークとアニメーションがフィックスした後はフェイシャルの作業となり、基本的に工程の逆 行はない。本作の最大のテーマのひとつがこのフェイシャルだった。表情で心情を語ることで、ドラマ性を高めることをねらったのだ。フェイシャルに入る前にアニメーターとやり取りをして、表情で良い演技をしているシーンは削らないようにするなど、慎重に検討したという。リグはブレンドシェイプで作られた。石山氏も「柔らかい動きで、感情を上手く伝えられるかが大切でした」と、フェイシャルへの思い入れを熱く語ってくれた。

データのながれ


MotionBuilderのシーンファイルからMayaのシーンファイルに変換するまでのフロー図。プリビズからアニメーションまで、使いやすくて軽く、データの取り回しのいいMothionBuilderで作られている。MothionBuilderのメリットはアニメーションまわりの使いやすさ、キャプチャデータの取り扱いやすさ、簡易エフェクト、シーンの軽さなどだ。そして、アニメーション作業終了後に各データをパブリッシュし、Mayaシーンの仮構築をしてチェック。問題がなければ後工程にデータが渡り、アニメーションチームの作業は終わる。作業はSHOTGUNで管理されている。プロットされるデータは次の通り。①キャラクター(ボディモーションからスーツの各状態設定など)。②プロップ(武器系は状態設定から、モニタがあるものはモニタの状態まで)。③BG&車両系、エフェクト(Zガンのシリンダーや転送面、ビームなど。アタリ用としてアニメーションや位置情報など)。④その他(ヘリのサーチライトのアニメーションデータなど)

アニメーション付け


Vコン。SEなどの演出指示も盛り込まれている


プリビズ。簡易モデルを使用してMotionBuilderで作成。簡易エフェクトやライティングなども追加して雰囲気を出している


レイアウト作業前のアクターインプット作業。キャプチャデータをキャラクターに割り当てるのに自社開発ツールの「ActorInputManager」を使用し、従来の手作業を自動化している。SHOTGUNベースのキャプチャデータの情報管理やキャプチャムービーへのアクセス、必要なアセットの読み込み、ActorInputシーンの管理を行う


アニマティクス。アニマティクス用モデルにキャプチャデータを流し込み、レイアウト、カメラワークをさらに調整をした状態。タイミングを新たに調整する場合も多々ある


アニメーションチェックムービー。動きや接地関係を詰めた状態。銃をかまえている加藤を見ると、腰を落として見映え良くポーズが変わったのがわかる。キャラクターのアウトラインが白くなっているのは、チェック時にポーズの確認やモーションのノイズを見やくするためだ

MotionBuilderでの作業とツール


MotionBuilder作業画面。「ShotWorkTool」はSHOTGUNからカット情報を読み込み、ショットの構築や管理から作業データのsave&openまで、作業上メインで使用していくツール。プロジェクト全体表示から、チーム別、個人別まで切り替えも可能。アニメーション作業開始時には、アセット指定と読み込み、アクターインプットデータの読み込み、カメラの読み込みまで行う。一方、「CamSetting」ではカメラの各種詳細設定からカットの進捗入力を行う。また、画像のようにキャラクターに対してモーションキャプチャデータがある場合は同期したフェイシャルムービーを読み込み、キャラクターの顔の横にプレーンを貼り付けられる。さらに、同期した音声も読み込まれる


今回使用したベースになるカメラリグ。基本的にトップノードはキーを打ったり動かすことはせずにCti_rootノード以下をアニメーションさせる。Ctl_f/1ノードは画ブレや揺れ用に組んだリレーションへ繋がっている。作業中はWork_Camで確認し、レンダリングは1.1倍~に設定しFinal_Camで行う。LayoutCamは様々な用途で使用することが可能な予備カメラ

フェイシャルキャプチャ


リグのためのリファレンス用フェイシャルキャプチャ。マーカーは310個で、セッティングに3時間かかったという。フェイシャルを担当した石山氏自らがモデルになっている。おおよそ左右非対称分も合わせると1,200くらいのターゲットがあるという


フェイシャルリグのコントロール画面。リグはアニメーターが直感的に使いやすいシンプルなものを目指しているという。加藤なら誰がいじっても加藤の表情になるというように、キャラクターがブレないような配慮もされている。リグ自体は途中でボーンなども使うが、最終的には中割りが5つあるブレンドシェイプにまとめられている。ブレンドシェイプを採用したのは感情の動きを作りやすいためだという。大量のブレンドシェイプは標準ツールでは動かせないため、独自のツールを使ってリアルタイムに近いスピードで再生できるようにしている

実際のフェイシャル作業の画面。Maya上でキャプチャされたムービーを見ながら作業ができるようになっている



  • 映画『GANTZ:O』

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    gantzo.jp
    ©奥浩哉/集英社・「GANTZ:O」製作委員会

  • 月刊CGWORLD + digital video vol.219(2016年11月号)
    第1特集 映画『GANTZ:O』
    第2特集 エフェクト進化論

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2016年10月8日
    ASIN:B01LBFWPG4