2016年11月6日(日)、文京学院大学 本郷キャンパスにて催された「CGWORLD 2016 クリエイティブカンファレンス」のセッションレポート。前回につづき第4回目となる本稿では「今、私達がハリウッドと手を組む理由」を紹介する。同セッションではワンダースタンディングジャパン取締役の長渕陽介氏が、プロデューサーとして現在まさにハリウッドを相手にビジネスを展開するようすや市場分析、そして日本のコンテンツを海外に売り出すための課題点などについて示唆に富んだ考えを講演で述べた。

TEXT_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
PHOTO_日詰明嘉 & 弘田 充 / Akiyoshi Hizume & Mitsuru Hirota
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

<1>ハリウッドビジネスの歴史とその難しさ

  • 講演を行う、長渕陽介氏
    (取締役 プロデューサー/ワンダースタンディングジャパン)

講演では、まず長渕氏がこれまでの自身のキャリアを説明した。これが多彩でユニークなものだったので少々長くなるが紹介をしたい。長渕氏は英語を学びながら獣医を目指せる環境を求め、16歳で渡英する。現地の学校でCGとファインアートの授業に触れたところ、こちらの授業に熱中するようになり、卒業後はポール・スミスらを輩出したLondon Institute Central Saint Martins College of Art & Designに入学し、CGを学ぶ。卒業制作を持って飛び込みで入社した現地のデザインエージェンシーで2年間働いたあと、PlayStation 3のワールドワイドキャンペーンにアシスタントプロデューサーとして参画した。そこでミュージックビデオやプロジェクションマッピング、映画などを担当し、プロデュースした『Love Like Aliens』がAsian Film FestivalにてSpecial Jury Prizeを受賞したことがきっかけとなりハリウッドへ進出。2015年にはプロデュースを務めた『MUGA SHOZOKU』(ラシャード・ホットン監督)がヒューストン国際映画祭で、"Shorts Award Science Fiction部門"最高賞の"Special Jury Award"を受賞したという、海外で活躍する注目の若手日本人映画プロデューサーが長渕氏だ。

ショートフィルム『Love Like Aliens』

ハリウッドの最前線で活躍する長渕氏が語るハリウッド世界の裏側はなかなか語られることがない内容で、非常に刺激的だ。ハリウッドは綺羅びやかなスターが闊歩する一方で、ビジネスに非常にシビアな側面がある。それを「究極の商業主義の街」と長渕氏は表現する。

ハリウッドに流入する資本の変遷を見ると、1980年代から1990年代前半までが、ソニーによるコロンビア映画の買収、松下電器によるユニバーサル映画の親会社の買収といったバブル期のジャパンマネー。当時は4本に1本がジャパンマネーで製作されていたという。ドリームワークスSKGのデヴィッド・ゲフィンは「どこの国の出資でもウェルカム」と述べていたが、その裏にはヒットするかどうかリスクのある作品はハリウッドのアウトサイダーの資本で作り、確実に見込める作品は自己資本でつくるというしたたかさを持っている。そのリスクある作品の多くは商業的な成功を収めることができず、「結果的にはスタジオごと買収したソニーが最も先を見据えた動きだったのでは」と長渕氏は語る。

そしてバブル崩壊後、ジャパンマネーが撤退してからの1998年~2002年頃はドイツマネーが流入する。これはドイツ政府によるコンテンツ産業への促進(税金控除)があったためだ。この中で『ミッション:インポッシブル2』の成功は投資家に夢を与えたが、それ以外はビジネス的にはほとんど失敗だったという。

その後はアメリカ国内の投資家の金が集まってくる。マイクロソフトの共同創業者であるポール・アレンやイーベイの共同創業者のジェフリー・スコールらが投資を進めた。ビジネスの成功者でハリウッドをよく知る人物である彼らにしても、ハリウッド的な成功を収めるのは容易ではない。「ハリウッドはこうしたドリーマーと、インサイダーと呼ばれる業界人がせめぎ合っている街」だという。

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<2>今、私達がハリウッドと手を組む理由

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<2>今、私達がハリウッドと手を組む理由


現在、世界の映画産業はアメリカと日本と中国が微妙な関係でつながっているといえる。映画市場規模ではアメリカが1兆3000億円。中国が9000億円に届こうとしているところ。対して日本は2000億円前後。昨今メディアで喧伝されている通り、ハリウッドは中国映画産業への依存が高まっている。そして日本の製作委員会方式への批判も高まっている。この2点が長渕氏の考える「ハリウッドと手を組まなくてはいけない理由」だ。

中国の映画産業規模は目覚ましい発展を見せている。2014年は5000億円代半ばだった市場は、2015年に8000億円を超えている。これは異常とも言える成長スピードだ。さらに中国のコンテンツビジネスの好況を示すものとして2016年1月の大連万達グループ(中国の不動産コングロマリット)によるレジェンダリー・ピクチャーズの買収(約3500億円)を挙げた。レジェンダリーは「良くも悪くもハリウッドを象徴したビジネス第一義の会社」(長渕氏)。この買収が示すのは、中国の勢いが一過性のものではなく、映画産業の軸が中国に移りつつあるのかもしれないとの考えを示した。

エンターテイメント産業は人口に依拠するため、日本は有利な状況に置かれていない。だからこそ、早急に対処しないといけないというのが長渕氏のプロデューサーとしての考えだ。現在の日本の映画ビジネスの主流となっている製作委員会には問題もはらんでいる。なかでも大きなものは、委員会は任意組合として構成されているため、海外がリメイク権を買おうと思っても権利の所有者が分からない(法律上はいない)ため、各出資会社をすべて回って権利処理を行なう必要があることだ。これには莫大な手間と労力、資金がかかり、スピード感のあるエンターテイメントビジネスができない。つまり「日本の映画は輸出する環境が整っていない」(長渕氏)のである。それを変える方法はひとつ。最初から海外展開を予測した権利の整理を行なうことだ長渕氏は言う。

それよりも映像化されていないコンテンツを見つけ、海外に売り込む方がビジネスとしては早いというのが長渕氏の判断だ。その例として『オール・ユー・ニード・イズ・キル』を挙げる。桜坂洋によるライトノベルを原作(発表は2004年)とし、2014年にトム・クルーズ主演で公開されたSF映画だ。「ビジネス的な成功もさることながら、あれだけ良い作品に仕上げた裏方のスタッフの努力を知り、あれに続けという思い」だと絶賛した。


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<3>ハリウッド商業主義の中で見つけた答えとは

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<3>ハリウッド商業主義の中で見つけた答えとは


日本のコンテンツが海外進出できないだけではなく、中国のコンテンツが日本を席巻するかもしれない――。国産コンテンツがこれほど豊かな現状では、にわかに信じがたいところだが、それはまもなくやってくると予測される。その根拠は先ほどの人口問題に帰する。今後10年間で日本は5%人口が減少すると見込まれている。コンテンツ産業も衰えていくなかで、物語を映像化する余裕があるかどうかはわからない。だからこそまだ力がある今のうちにひとつでも日本原作の作品を海外に配給して、日本のコンテンツに触れたことがない会社に売り込む必要があると長渕氏は言う。

マンガ大賞を獲った作品の映像化権をすばやく取得し、企画書をつくった長渕氏。だが、ハリウッドは企画書や脚本が飛び交う世界。コネクションがある長渕氏が送っても作品の山に埋もれて反応がないことはしばしばだったという。そこで改めて企画づくりを見直していった結果、ひとつの答えとして見つけたのがローカライズだった。『ポケモン』はモンスターの名前を1体ずつきちんとローカライズしたネーミングをしている。そのように丁寧なクリエイティブがキャラクターを生き生きとさせたという。長渕氏は取り扱っている宮部みゆきのホラー作品のローカライズにおいてもそれに倣い、丁寧につくり進めていった。さらにハリウッドに送る際にももう埋もれさせないようにと考えた。そこでハリウッド世界で、本当につくりたいものをつくれずに葛藤している監督へと狙いを絞った。それに反応してくれたのは長渕氏の知人であったアンドレス・ムシェッティ監督だった。幸運なことに彼の『MAMA』(2013)を宮部みゆきが気に入っており、クリエイター同士が繋がった格好になった。監督が動いたことでエージェンシーも動き出したという。

長渕氏がこれまでのハリウッドビジネスで見つけた答えは、行き詰ったときこそ「クリエイティビティの追求・見直し」と「ターゲットの変更」であったとひとまず結論づけた。


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<4>日本の映像業界に与える影響とは

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<4>日本の映像業界に与える影響とは


日本のコンテンツを海外に配給する上で重要なのが、会社や作品バジェットの規模感を見極めた上でパートナーシップをセットアップしていく人間なのではないだろうか。そうすることで海外にもっと打って出ていく人間が増えるだろうと長渕氏は見込んでいる。映画産業において、タレントであるアメリカ、資本である中国というなかで日本はコンテンツであるという位置を守り通すことがエンターテイメントビジネスで今後生き残る術であると断言した。

最後にゲストとして、宮部みゆき、京極夏彦、大沢在昌のエージェントを担当するラクーンエージェンシー代表の中田一正氏が登壇した。中田氏は作家マネジメントとしての立場からプロデューサーに求めるものはまず謙虚さ・真面目さだという。また、多くの企画の持ち込みがある中で成否を見極めるのはプロデューサーの熱意とビジョンにあり、それを口頭で上手く伝えられるコミュニケーション能力のある人物が求められているとも述べた。「今回の企画は個の力で突破しようとしいてるところに非常に熱いものを感じました。どこまで行けるかわからないですが、形になることを楽しみにしています」(中田氏)。

最後に長渕氏は以下のように述べ、講演を締めくくった。「日本人にしか持っていない感性を必要とした作品はたくさんあって、それは日本でつくるべきだと思っています。一番大切なことはその作品の本質を見抜いて、日本/海外のどちらで制作したほうが良い作品になるのかを判断してその棲み分けをしっかりと行うことが一番大事なことなのではと思います。本来映画の最も大切な部分はストーリーを語ることです。それをいつも忘れないように映画づくりをしていくのがコンテンツのブランド維持に繋がるのではないかと思っています。プロデューサーというのは負のものをプラスに変えていくことこそがゴールだと思います。それが10年かかろうと、私たちの行なっている取り組みで少しでも日本の映画産業の未来を変えていけたら嬉しく思います」。

日本には一流のクリエイターはいてもそれに見合うだけのプロデューサーが不足しているとはもう数十年規模で言われてきたこと。そうした中でもこの10年は徐々にその萌芽の兆しが出始めている。今回の長渕氏もその一人だといえる。彼の実感のこもった熱い言葉は会場に来ていた学生を含めたさらなる未来のプロデューサーにも響いたのではないだろうか。



  • 「CGWORLD 2016 クリエイティブカンファレンス」

    参加費:無料 ※事前登録制
    開催日:2016年11月6日(日)
    場所:文京学院大学 本郷キャンパス(東京都文京区向丘1-19-1)
    主催:ボーンデジタル、文京学院大学 コンテンツ多言語知財化センター
    協力:文京学院大学、ASIAGRAPH CGアートギャラリー
    cgworld.jp/special/cgwcc2016