>   >  さらに進化したNHKの恐竜VFX『NHKスペシャル』&『ダーウィンが来た! 生きもの新伝説』
さらに進化したNHKの恐竜VFX<br />『NHKスペシャル』&『ダーウィンが来た! 生きもの新伝説』

さらに進化したNHKの恐竜VFX
『NHKスペシャル』&『ダーウィンが来た! 生きもの新伝説』

Topic 2 MT(2)ショットワーク

プリビズからVFX班がリードツボを押さえた巧みな画づくり

ティラノサウルスが争うシーンを中心に、本作のショットワークを紹介したい。制作されたCGが利用 されているショットは約120であり、全て4K解像度で制作されている。『生命』のアセットを利用してリモデルされた恐竜のアセットはメインで登場するものが8体、その他6体が制作された。ショット制作に携わったスタッフはメインスタッフ7名を含む約15名が参加。絵コンテを基にビデオコンテが作成され、最終的にはプリビズを作成して演出サイドとCG制作スタッフとでイメージの共有が図られている。「プリビズの制作はスピードが命なので社内で作成しています。このプリビズを制作したのは、監督がどのような映像をつくりたいのか確認するという目的に加え、アニメーションを神央薬品さんにお願いしているのでスタッフ間での情報共有ということで制作をしています。プリビズは最初に制作したら終わりではなく、どのように恐竜同士を組ませたらいいのかなど、社内で試行錯誤をくり返しながら徐々にバージョンアップさせていきました。プリビズというよりはアニメーションのタイミングをみるためのブロッキングにちかいですね」と森氏は話す。ショット制作にはアニメーションにMayaを、舞い上がる土埃などのエフェクトにはHoudniが使用されている。最終的なコンポジットにはNUKEXが使用され、チェック端末としてNUKE Studioが使われた。NUKE Studioはショット(テイク)のバージョン管理がしやすいため、デイリーのチェックなどに非常に向いているのだという。今回使用した実写プレートは、Sony α7Sで撮影されSLog2でカラーが管理されているのだが、NUKEのSLog2のLUTのカラーカーブにバグがあることがわかり、正しいSLog2用のLUTを新たに社内で作成して使用している。ショット制作の中で今回特徴的だったのが、Houdiniを使用したエフェクト制作だ。Houdiniによるエフェクト制作は同社の吉森氏が担当している。「今回難しかったのは、恐竜が争うショットで羽毛が干渉するようなアニメーションがあるのですが、MayaからHoudiniにアニメーションデータをもってくるとYetiで設定した羽毛の部分が読み込まれないので、恐竜自体のエッジが痩せてしまい、コンポジット時に問題になってしまいます。そこでデプスの情報を基にマスクを制御するためのしくみを作って使用しています。これによりコンポジット時羽毛が痩せてしまう問題が解決でき、Mayaで作成したアニメーションでも、Houdiniで問題なくエフェクトを作成してコンポジットできるようになりました」とエフェクトアーティストの吉森元洋氏は話す。

「今回のワークフロー全体をふり返ると、スケジュールやリソースが限られた状況での4K解像度での制作ということで、レンダリングコストの管理・改善やワークフローの見直し、社内Wikiの活用によるミス軽減など、効率面を意識した制作を心がけましたが、複雑なアセットを扱う中で発生する様々なエラーをつぶしていく作業など、結果的に泥臭い制作スタイルにならざるをえませんでした。今回の経験を活かし、さらにシステマティックなワークフローを構築していきたい」と森氏は総括してくれた。

独自LUTの作成

独自に開発したLUTについて



  • 左上が元画像で右下がNUKEのSLog2を使用して出力し再度読み込んだ画像。明らかに黒が沈み、場所によってはネガティブバリューが出てしまっているいう



  • NUKE内のSLog2と修正したSLog2Fixの1D LUTの比較。LUT作成には、KojiVFX/山口幸治氏とNHK/井藤良幸氏の協力を得たそうだ

本番用アセット



  • NHKから提供された本番アセットの例。NHKでは現在、Arnoldをメインレンダラに用いており(後述)、この画像もArnoldでレンダリングしたものだが、MTが採用したV-Rayでもほぼ同じルックになるよう調整された



  • V-Rayによるレンダリング例。ArnoldとV-Rayでシェーダなどの各種設定は異なるが、基本パラメータとその物理現象を理解していればレンダラに左右されないワークフローが可能だという

Houdiniによる足下の土煙FX

吉森元洋エフェクトアーティストが担当した、恐竜たちの足下の土煙エフェクトの例



  • 毛込みでレンダリングしたdepthを基に、カメラプロジェクションでマットオブジェクトを作成



  • マットオブジェクトを適用した状態


赤いラインがdepthでマットを作成した部分。これによりHoudini上のエフェクトが食い込むのを避けることができる

Neat Videoによるデノイズ

Neat Videoによるデノイズ作業の例


作業UI。まずノイズのサンプルを取得(サンプルは簡略化のため個体の比較的平坦な部分から取得している)



  • ノイズがひどいパス(図はRawLightパス)



  • デノイズ後のパス。この手法を用いれば、レンダリング側でクオリティを上げた場合との比較で1/4程度の時間で済むという

NUKE Studio ベースのショット管理

NUKE Studioをベースにしたショットの管理例



  • 導入前よりもバージョン管理が効率的に行えるようになった。背景素材やプリビズもなども同一タイムラインに置くこと(赤枠)で各ショットの検証も手早く行えるとのこと



  • LUTレイヤーでdpxをSLog2→sRGB変換を行なっている。また、NUKE Studio内でシーン全体の色調整や画ブレ足しを施したデータを個々のコンプに戻すワークフローを採ることで(赤枠)シークエンス全体での調整が容易になったそうだ

NUKEによるリライティング

NUKEによるリライティング例



  • V-RayのLightselect機能によって出された、各ライトごとのLightingとSpecularのパス



  • ライト個別のLightingとSpecularをそれぞれ調整後に合成。これにより再レンダリングを行わなくても、ある程度のリライトがコンポ上で可能に。なお、LightSelectからそのままRawLightを出すと、毛込みのレンダリングの際にアーティファクトが生じたため、今回はLightingパスから抽出する方法が採られた

ブレイクダウン

ブレイクダウン例



  • オリジナルのプレート(マット処理済み)



  • 背景に3次元的なカメラワークを付けるため、NUKE上でプロジェクションをしてシーンを再構成する



  • 再構成後の背景



  • シーンのライティングを調整



  • マルチパスから再構成された状態



  • 一連の調整が施された完成形

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Topic 3 NHK(1)アセット制作&ロケ撮影時の対応

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