SIGGRAPHでは多岐に渡る発表や講演・セミナーが連日開催されるが、その中に「Birds of a Feather」というものがある。これは、コンピューター・グラフィックスおよびインタラクティブのテクニックに関連した関心事や目標、技術などをディスカッションする場として設けられているものだ。この「Birds of a Feather」は全てのSIGGRAPH参加者に開放されており、そのトピックは基本的に非営利な内容に限られている。今年のBirds of a Featherでも様々なトピックスでディスカッションやイベントが行われたが、その中でオープンソース・プロジェクトMaterialXの最新情報のアップデートが行われた。その模様を要約して紹介する。

TEXT_鍋 潤太郎 / Jyuntaro Nabe
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada

オープンソース・ライブラリMaterialX、最新情報のアップデート


会場は開発者やライティング・パイプラインTDで埋め尽くされ、注目度の高さが伺えた

MaterialXは昨年のSIGGRPAH2016でも発表された、ルックデヴ+ライティング+レンダリング分野に特化したオープンソースのライブラリである。これは、異なった3Dパッケージやレンダラー間、異なるVFXベンター間でルックデヴやマテリアルをうまく共有するためのオープンソースで、ILMではすでに『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』などの映画作品の制作に活用されていると言う。

MaterialXの特長としては、シェーダパラメーターを羅列することなくノード・ベース、コネクション・ベースで使用できる強力なデータ・タイプ完全なカラーマネージメントが可能他のオープンソース(OpenColorIO、Alembic、OpenEXR、OSL)との互換性をもつ再インポート後の編集も引き続き可能各VFXスタジオや異なるパッケージ、ユーザーが独自に定義したカスタム・ノードなどに対応可能な拡張性プラットフォームに関係なく、アセットのアーカイブが可能などが挙げられるという。


MaterialXの公式サイトでは、オンラインで公開されたオープンソースの詳細を見ることができる


今年1年間のMaterialXの進捗を説明したスライド

主要開発者によるプレゼンテーション

「Birds of a Feather」では、MaterialXの主要開発者4名に加え、Pixar Animation Studiosのグイド・クアロニ氏によるプレゼンテーションが行われた。


MaterialXの主要開発者。左から、ダグ・スミス氏(ILM)、ニクラス・ハリソン氏(Autodesk)、ラリー・グリッツ氏(Sony Pictures Imageworks)、グイド・クアロニ氏(Pixar Animation Studios)。また、ジョナサン・ストーン氏(Lucasfilm)によるプレゼンテーションも行われた

ダグ・スミス氏(ILM)によるプレゼンテーション

MaterialXは昨年のSIGGRAPH 2016から大きな進捗があった。その中でも最たるものは、オープンソース・ライブラリーがオンラインで公開されたことが挙げられる。

MaterialXのオープンソース・ライブラリー(GihHub)
https://github.com/materialx/MaterialX

また、Autodeskとの共同作業によってMaterialXの機能向上や多くの技術的問題点が解決された。さらに、PixarのUSD(Universal Scene Description)チームの協力によって、USDShadのデータモデルへの対応も実現している。各シェーダはノード・ベースで定義され、BxDFシェーダなどもソース・ノードやNodegraphの中に組み込むことができる。シェーダの入力タイプも利便性や互換性が強化された。このほかにもMaterialのバインド、ビューアー上でのVisibility機能、Nodegraph内のノードの機能追加、Lightの定義方法の効率化などが盛り込まれている。このようにMaterialXは更新を続けており、現在はv1.35がリリースされている。

ジョナサン・ストーン氏 Lucasfilm Advanced Development Group, Senior Software Engineer)によるプレゼンテーション

まずAutodesk、Sony Pictures ImageworksのOSL(Open Shading Language)チーム、そしてPixarのUSDチームの皆さんの協力により、多くの進展が得られたことに感謝すると共に大変嬉しく思っている。新しく公開されたMaterialXのオープンソース・ライブラリには、C++11コードベースやPythonのバインド、開発者向けのドキュメンテーション・ガイド、C++/Pythonによるサンプルコード、前述のOSLチームによる実例紹介などが含まれている。また、ILMの制作現場で実際に使用されたフィードバックにより多くの点が改良されたほか、実際に使用しているユーザーのコミュニティから得られたアイデアなども反映させ、ハイレベルなAPIを公開している。

サンプル・コードもオンラインで参照することができる
http://www.materialx.org/docs/api/codeexamples.html

BxDFシェーダは、MaterialXインターフェイスや実際の動作などについても情報をシェアしている。

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ラリー・グリッツ氏(Sony Pictures Imageworks,Software Architect)によるプレゼンテーション

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ラリー・グリッツ氏(Sony Pictures Imageworks,Software Architect)によるプレゼンテーション

MaterialXのOSLには、リファレンス実装が提供される。これは、atomic shaderノードのライブラリとして、MaterialX最新バージョンのv1.35に完全対応した内容となっている。開発には、プロダクション・レンダリングの分野で長年のシェーダ開発経験をもつ複数のエンジニアが参加しており、鋭意開発が進められている。

OSL(Open Shading Language)
github.com/imageworks/OpenShadingLanguage
※この日のプレゼンテーションではサンプル・コードなども披露されたが、このレポートでは割愛させていただいたく

ニクラス・ハリソン氏(Autodesk, Principal Engineer)によるプレゼンテーション


MaterialX to Arnoldのワークフロー

MarterialXの強みはいくつか挙げられるが......

・アプリケーションやパッケージにとらわれない
・シェーダノードのスタンダード・ライブラリが利用できる
・拡張が可能
・マテリアルだけでなく、ルックを完成させる段階までをカバー
・計算負荷が軽いSDK
・ディペンデンシー(依存関係)がない
・業界をリードする主要パートナー達によるオープンソース

など、多くの利点がある。

AutodeskではMaterialXに対応したShaderX、LookdevX、MaterialX to Arnoldなどの開発を鋭意進めていく予定である。

グイド・クアロニ氏(Pixar Animation Studios)によるプレゼンテーション

USDはPixarが2016年に公開した新しいオープンソース・プロジェクト。MaterialXはUSDでもサポートされている。


昨年のSIGGRAPH2016におけるUSD関連記事はこちら

LucasfilmとPixarは、MaterialXとUSDの完全互換に向けて開発を進めており、MaterialXノードグラフはUSDShade内でエンコードすることが可能となっている。これにより、MaterialXのネットワークに対してUSDのシーン構成機能を利用することが可能となる。また、MaterialXとUSDShadeネットワーク間の変換を可能にするユーティリティとプラグインのセットが提供される。Pixarはこの秋、MaterialXに対応したAPIを完成させる予定で、UsdMatxエクステンションによって、USDShade全般のエンコードが可能になる予定である。

MaterialXのサードパーティサポートについて
www.materialx.org/ThirdPartySupport.html

MaterialXの今後の展望について

数あるアプリケーション・ベンダーの中で、これまでMaterialXの共同開発者として手が上がったのは、AutodeskとThe Foundryの2社。この2社の協力を得て鋭意開発が進められているが、他のアプリケーション・ベンダーの協力も募っているという。


オープンソースなので幅広い可能性が期待される(このイメージは今後の可能性を示唆したもので、現段階ではまだサポートしていないアプリケーションやOS、ハードなども含まれている)

各アプリケーションや各VFXスタジオは仕様やパイプラインが異なるため、MaterialXを実際に使用することで、MaterialXコミュニティから様々な興味深いアイデアが出てくることが期待され、開発陣もとても楽しみだという。また今後の具体的な展望については、オープンソースが公開されたばかりの段階なので、あまり詳しいことは明らかにされなかったが、OpenEXRやAlembicと同様、業界標準として広く定着していくことを目指していきたい、と語られた。

info.

  • SIGGRAPH 2017ダイジェスト
  • SIGGRAPH 2017
    会期:2017年7月31日(日)~8月3日(木)
    場所:Los Angeles Convention Center
    主催:ACM SIGGRAPH

    公式サイト