こんにちは。アメリカにてコンセプトアーティストをやっている宮川英久と申します。普段はゲーム、映画、テーマパーク産業向けに、キャラクターやエンバイロメント(背景)などのコンセプトアートを制作しています。本記事では、これまでの経験を踏まえ、キャラクターコンセプトアートの仕事の内幕を、私のオリジナル作品を使って解説していきます。

TEXT_宮川英久 / Hidehisa Miyagawa(www.artstation.com/supratio
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

キャラクターコンセプトアートの仕事の内幕

本記事はキャラクターの解説に留めますが、近いうちにほかのコンセプトアートについても紹介したいと思います。といいますのも、普段の仕事ではキャラクターに留まらず、エンバイロメントやプロップ(小道具)などのコンセプトアートも手がけているからです。

例えば、ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー・パーク内に2017年にオープンしたアトラクション『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー - ミッション: ブレイクアウト!(Guardians of the Galaxy - Mission: Breakout!)』では、リードシネマティクスコンセプトアーティストを務めました。アメリカ・韓国・タイなどで展開された期間限定の体験型テーマパーク『マーベル エクスペリエンス(The Marvel Experience)』では、メインコンセプトアーティストとして、シネマティクスとテーマパークのコンセプトアートを担当しました。また、ディズニー映画の『A Wrinkle in Time』(2018/日本では公開未定)には、VFXコンセプトアーティストとして参加しています。

▲『A Wrinkle in Time』オフィシャルUSトレイラー


さて、ひとくちに「キャラクターコンセプトアート」と言っても、その内幕はクライアントの企業やプロジェクト内容によってちがってくると思います。

例えばゲーム産業の場合は、メインキャラクターなどは特に詳細に、その性格や来歴があらかじめ設定されている場合が多いです。ときには髪や目の色、そのキャラクターが属する種族の特徴といった細かいところまで設定されています。それらの設定に沿ったキャラクターを提案することはもちろん、メインのストーリーを意識して作業することも求められます。

一方でサブキャラクターは、特に細かい設定がないことも多いです。種族・性別・年齢・職業などのザックリとした設定が与えられているだけの場合は、それ以外の部分は自由に描くことができます(ときには、簡単なストーリーが与えられることもありますが)。そういうケースでは、むしろコンセプトアーティストの側から、面白いアイデアやストーリーを提案することが期待されている場合もあります。コンセプトアーティストの仕事の内幕は「キャラクターの設定やストーリーを考える人たち(クライアント)の手が、どこまで入ってくるか」によって変わってくると思います。

当然のことながら、いずれのケースでも、世界観に即したデザインを求められますし、往々にしてキャラクターコンセプトアートは企業自体のテイストやプロジェクトのカラーを象徴するものになりがちですから、エンバイロメントのコンセプトアートよりも制約が大きいように感じます。

以降で紹介するオリジナル作品をつくる場合も、前述のようなプロの現場での仕事を想定してやっており、自分自身が最初に決めたルールを曲げないようにしています。それがないと、好き放題な無法地帯になってしまうからです。

キャラクターコンセプト『Dragon Rider』ができるまで

このキャラクターは、3人称視点のアクションゲームの主人公という想定でデザインしました。

▲『Dragon Rider』のデザイン画


性格: 目標達成のために真っ直ぐ突き進む芯の強さをもちつつも、人間的な情に厚い一面もある。自身の複雑な境遇に多少は戸惑いを覚えつつも、むしろ誇りに思っている。

境遇: 幼児期に実の生みの親に捨てられ、ドラゴンに育てられる。異種族ではあるものの、愛情深い母ドラゴンに、その子ドラゴンと共に兄弟のように育てられる。育ての親の母ドラゴンは彼女が10歳のときに何者かによって襲われ、行方不明に。母ドラゴンを探し、子ドラゴンと共にあてどなく彷徨い、空腹と疲労で力尽きそうになったところを鍛冶屋の親方に助けられる。以降は子ドラゴンを納屋にかくまってもらいつつ、彼女自身は鍛冶見習いとして恩人の鍛冶屋を助けつつ、母ドラゴンの行方の手がかりを探している。彼女が乗るドラゴンは、共に育ってきた子ドラゴン。

デザインの根拠: 彼女の鎧のコンセプトは「ドラゴンの素材と人間の技術(鍛冶)の融合」です。母ドラゴンが襲われた際に落とした体の一部(鱗など)を人間の鍛冶屋の技術でつなぎ止め、鎧としての体裁をつくっている、という設定です。例えば肩や腰のパーツから棘のようなものが出ていますが、これはドラゴンの鱗から飛び出ている棘です。有機的なドラゴンの素材と、鍛冶の無機質な素材が融合している鎧を、彼女の来歴を象徴する要素として用意しています。

また、前述の要素がシルエットにも表れるようにデザインすることも心がけました。そうすることで、彼女のアイデンティティを表しつつ、デザイン的な面白さを生み出すことを目指しました。彼女は3人称視点のアクションゲームの主人公という想定なので、プレイヤーが彼女の後姿を見て面白いと思えるように、加えて、布や編んだ髪などの動くものによって視認性が高まるようにデザインにしようとも考えました。その上で、彼女の顔に目がいきやすいデザインと配色を心がけました。

さらに、単純に見栄えのする描画のみではなく、3Dデザイナーの方々にデザインをわかりやすく伝えるための線画も用意しました。

▲【上】『Dragon Rider』のデザインやシルエットを検討したときのスケッチ/【下】3Dデザイナーの方々にデザインをわかりやすく伝えるための線画

次ページ:
武器とドラゴンのデザインや、コンセプトアート

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『Dragon Rider』の武器とドラゴンのデザイン

武器のデザイン: 鎧と同じく「ドラゴンの素材と鍛冶技術の融合」がコンセプトです。デザインの初期段階から、「ドラゴン素材」の部分と、「鍛冶技術でつくられた」部分の2つからなる武器を考えていました。さらにもうひとつ、ドラゴンというアイデンティティを基に「炎を飛ばせる」という能力も考えました。下のデザイン画の右側がドラゴンの牙から削り出した素材、左側が鍛冶で生み出された素材です。「ドラゴン素材」の方は刺激を与えると炎が放射されるという設定です。下方のガードの部分は自然な曲線にしたかったので、黄金比を意識したカーブを用いてみました。

▲『Dragon Rider』の武器のスケッチ【左】とデザイン画【右】


ドラゴンのデザイン: 2本足に2本の翼をもっているので、厳密にはワイバーンと言った方が正しいのかもしれません。実際のトカゲの写真などを見つつスケッチをし、ユニークなデザインを考えるべく模索しました。骨格や3面図も考えてあります。2Dのスケッチやデザイン画を描かず、ZBrushなどを自分で操作していきなり3Dでクリーチャーのデザインをすることもままあるのですが、その分野のスペシャリストに3Dの作業をお願いする際には、こういったスケッチがあると作業がスムースになると思います。

▲『Dragon Rider』のドラゴンのスケッチ

『Dragon Rider』のコンセプトアート

「実際に彼女がドラゴンに乗ったら、どうなるの?」ということを、雰囲気と共に伝えるために、ちがうアングルの2枚のコンセプトアートを描きました。ひとつのアングルだけではわかりづらい場合もあるので、デザインを見せるため、2つのアングルから描いてあります。その上で、キャラクターの感情的な側面を描くことにも留意しました。

▲2つのちがうアングルで描かれた『Dragon Rider』のコンセプトアート


本記事は以上です。キャラクターコンセプトアートの仕事の内幕が、いくらかでも伝わったなら幸いです。



プロフィール


  • 宮川英久
    コンセプトアーティスト

    熊本県出身。リードシネマティクスコンセプトアーティストとして携わった『Disneyland Resort: Guardians of the Galaxy - Mission Breakout!』(2017)をはじめ、『The Marvel Experience』(2014)、 映画『A Wrinkle in Time』(2018)、インドネシア最大級のテーマパーク『MNC Park』などの制作に参加しています。
    www.artstation.com/supratio
    twitter.com/HidehisaM