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技術デモ『BackStage』- Luminous Engineが挑戦するリアルタイムパストレーシング

技術デモ『BackStage』- Luminous Engineが挑戦するリアルタイムパストレーシング

設計思想はアーティストのクリエイティビティ回復

この先進的なUIを使い、プリレンダーでしか行えなかった表現をリアルタイムに描画できるLuminous Engineの設計思想が意味するところは、アーティストのクリエイティビティ回復である。例えば、従来のゲームエンジンでフォトリアルなルックを表現するためには様々な裏技を使わなければならず、モデリング、マテリアル、レイアウト、ライティングなどの各工程で、特殊な仕込みが必要だった。Luminous Engineでは本来必要なもの(キャラクター、背景、マテリアル、ライト)を用意すれば、後はエンジン側がリアルタイムに描画してくれるため、アーティストに余計な負担がかからず、制作活動に集中できる。

▲【上】リアルタイムパストレーシングによる鏡の反射をONにした状態/【下】OFFにした状態


▲【上】同じく眼の屈折表現をONにした状態/【下】OFFにした状態


▲【上】同じく耳のサブサーフェス・スキャタリング(SSS)をONにした状態/【下】OFFにした状態


加えて、現在デファクトレンダラとなっているArnoldとの互換性をもたせている点は、Luminous Engineを初めて使うアーティストにとって、この上なくフレンドリーな設計と言えるだろう。Luminous Engineは独立したレンダリングプログラムだが、データインポート時のコンバート作業の負荷を軽減するため、Mayaで作成されたArnoldのシェーダを読み込み、自動的にLuminous Engineのシェーダへコンバートする機能を実装している。

▲【上】シェーダのコンバート前/【下】シェーダのコンバート後。ArnoldのシェーダをLuminous Engineで再現している

繊細な間接光、透明素材の反射・屈折、ソフトシャドウの描画

多数の光源からの光による複雑な影をリアルタイムに処理する場合、従来のゲームエンジンでは事前計算したシャドウマップを使用する。前述したように『BackStage』が描くのはほの暗い室内だが、多数の光源が設置されており、繊細な間接光と、柔らかな影(ソフトシャドウ)の表現が必要となる。これらをリアルタイムに描画する場合には、カメラからレイを飛ばして拡散反射計算を行わなければならない。

▲『BackStage』のシーン内に設置された多数の光源と、そこから発する光。本作の光源は17灯にのぼる


▲【上】リアルタイムパストレーシングによる間接光の計算をONにした状態/【下】OFFにした状態


本作のドレッサー周辺の処理は特に複雑で、透明素材のブラシ立てや化粧道具による光の反射・屈折の計算が必要になるのに加え、鏡の周囲には複数の電球が設置されている。


  • このような点光源からの光を単純なレイトレーシングで処理すると、明瞭な影を落としてしまう。しかし現実の電球は完全な点光源ではなく、発光源となるフィラメントには長さがあるため、ソフトシャドウが生じる。本作では、パストレーシングを使って複数のシャドウレイを飛ばすことにより、ソフトシャドウを表現することに成功した。

  • アートデパートメントディレクター・黒坂一隆氏


▲【上】リアルタイムパストレーシングによる反射・屈折の計算をONにした状態/【下】OFFにした状態。透明素材のブラシ立てや化粧道具が鏡の前に置かれているため、とりわけ描画負荷が高い領域となっている


▲【上】同じくソフトシャドウの計算をONにした状態/【下】OFFにした状態


© Luminous Productions Co., Ltd.

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