ゲーム開発からビジネスソリューションの開発、アニメ制作とエンタメ領域に留まらないコンテンツ開発を手がけるORENDAが、UE4をフル活用してTVアニメ『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』のエンディングアニメーションを制作した。ゲーム画面を意識したグラフィカルな映像と、ED制作を機にゲーム化の提案と企業ブランディングまで図った、骨太で包括的なビジネス戦略が斬新だ。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 265(2020年9月号)からの転載となります。

TEXT_石井勇夫(ねぎぞうデザイン)
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
©大久保篤・講談社/特殊消防隊動画広報課

TVアニメ『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』
2020年7月よりMBS・TBS・BS-TBSほか全20局にて毎週金曜25時55分~好評放送中!
fireforce-anime.jp
©大久保篤・講談社/特殊消防隊動画広報課

クリエイティブ×テクノロジーで世界をおもしろくする

まるで横スクロールゲームのプレイ画面のような演出が印象的な、TVアニメ『炎炎ノ消防隊弐ノ章』のエンディングアニメーション(以下、ED)。実際、本EDと連動して、ゲーム開発までシームレスに一緒につくるという斬新なアイデアを実現した。そんな同作を制作したのは、「クリエイティブ×テクノロジーで世界をおもしろく」をミッションに掲げるORENDAだ。2015年に3D制作を主軸にスタートした同社は、3Dと画像認識技術を組み合わせた自動運転シミュレータやVRコンテンツの開発など、活動範囲を多角的に広げて順調に業務を拡大してきた。2019年からは一気通貫でコンテンツ制作が可能な環境を構築するべく、関連会社を次々と設立。アニメを含む映像分野、プログラミング技術の強化、声優、アーティスト育成など大幅な体制強化を行い、音声合成、AIソリューション開発にも取り組んでいる。

▲左から、ディレクター・糸曽賢志氏(ワールドエッグス)、取締役 ・塩谷尚史氏、コンポジター・千田 岳氏、Unreal Engine 4 アーティスト・小倉理生氏
※以下、写真なし。PM・石田健二郎氏、ディレクター/2Dアニメーター・小森秀人氏、ラインPr.・平井憲一氏、ゲームデザイナー・石川裕章氏、コンセプトアーティスト・コルプス・ジョシュア氏、3Dモデラー/2Dエフェクトアーティスト・ヨエル パルメナス氏。以上、ORENDA

取締役の塩谷尚史氏は「既存の枠に囚われずに制作に挑めるよう徹底しています。チームメンバーの自由な発想を生み出し、人々が考えつかなかったものをつくり驚かせたい」と、同社の方向性を語る。また本ED制作についてディレクターを務めた糸曽賢志氏は、「葛藤を抱えつつも目標を目指して成長する主人公をはじめ、特殊能力をもったキャラクターひとりひとりの魅力が引き立つ映像にしました。EDでもゲームの中でも、キャラクターの魅力をつかんで再現し、ファンに喜んでもらえる映像を目指しました」と話す。糸曽氏は、劇場アニメ『サンタ・カンパニー~クリスマスの秘密~』などORENDAと制作を共にしていく中で、同社がもつ技術の多彩さに多くの可能性を感じたという。今回のEDとゲーム開発を結びつけるというアイデアも、その中から出てきたものだ。また、発注元であるデイヴィッドプロダクションから斬新なアイデアを求められていたこともあり、「アニメっぽくないUnreal Engine 4(以下、UE4)を使った映像制作を」との構想を練っていたと話す。アニメーション映像に加えて「ORENDAだからこそできることとは何か?」と考え、ゲーム開発を一緒に提案して実現するという斬新なアイデアに至ったそうだ。

<1>ED制作からゲーム開発までしかける骨太な戦略

エンディング制作からゲーム化まで一括して提案する

本作の企画に関して糸曽氏は、「クライアントからご依頼いただいたのはEDの制作のみでした」と、ふり返る。しかし前述したとおり、既存の枠を超えた斬新なアイデアをと考えていた糸曽氏とORENDA制作チームは、同プロジェクトで制作したコンテンツをゲームとして開発したいと考えたという。ゲーム開発についてクライアントに提案したところ好評が得られたそうで、ひき続き開発を続行中とのことだ。「『炎炎ノ消防隊』というコンテンツにとっても、意義のある提案ができたのではないかと思います」と糸曽氏。単にED映像を受注制作するだけではなく、UE4によるゲーム開発の技術をもつORENDAの可能性を十二分に引き出し、「ゲームとアニメを一緒に制作できるORENDA」というブランドを構築。既成概念に囚われない糸曽氏のブランディングは見事に功を奏した。さらに、視聴者からゲームプレイ動画を募集してオープニングやエンディング映像に使用したりSNSで発信したりと、同氏のアイデアは尽きない様子だ。

本作の制作は、ほぼORENDAのスタッフで構成されている。ラインプロデューサーの平井憲一氏は、「過去の実績を考慮して、コンセプトアートからアニメーション制作、そしてゲーム開発にいたるまで社内でスタッフを構成しました。セル調アニメという表現にこだわらず、UE4などのツールを駆使してスタッフの能力を活かしつつ、効率良く進めることを心がけました」とふり返る。また、今回は絵コンテという概念がなかったとのこと。「通常のアニメだと、コンテから逆算して考えて素材をつくっていくのが一般的なのですが、今回は制作の最初にタイムラインが引かれて、それに素材を乗せてブラッシュアップしていくという、ゲーム開発的なつくり方をしています」と、プロジェクトマネージャーの石田健二郎氏。子供の頃、友達がプレイするスーパーマリオの映像をみんなで喜んで見ていた思い出もあり、また、以前からゲーム実況での神プレイなどもひとつの映像作品として捉えていたという石田氏。同様に糸曽氏も「アニメをゲーム風につくってみたら、そのゲームをプレイしたくなるはず。そして、そのゲームをプレイすることで、アニメの世界を体験できるのではないでしょうか」と語っている。また、制作フローにおける挑戦として、ディレクターに雑務をさせずに演出に集中できるよう心がけ、ORENDAならではの一方通行ではないアプローチに挑んだという。原作を読み込んだスタッフや外部のテレビバラエティの構成作家を入れてアイデア出しをするなど、技術的な知識が豊富なORENDAスタッフからは、合議制のように多くの提案が出てきた。その結果、糸曽氏は1本も線を引くことなく、イメージを伝えることでディレクションができたそうだ。

ジョシュア氏によるイメージボード

▲コルプス・ジョシア氏によるイメージボード
©大久保篤・講談社/特殊消防隊動画広報課

▲ED本編の画像。TVアニメで多く使われている暖色系の色味を使いつつ、各キャラクターを黒いシルエットで表現することでコントラストの強い特徴的なビジュアルをつくり出すことができた

制作フロー

▲UE4を使用した本プロジェクトにおける指示系統、素材の受け渡しを表した図。今回は、素材管理にGoogleスプレッドシートを使用。2Dアニメーション、3D背景モデル、UIアセット等、100点程度のアセットを制作した

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<2>企業のブランディングまで考慮したビジュアル制作

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<2>企業のブランディングまで考慮したビジュアル制作

ゲーム画面&カートゥーン調を意識したアートディレクション

ビジュアル構築に関しては糸曽氏がおおまかなイメージを伝え、コンセプトアーティストのコルプス・ジョシュア氏がざっくりとしたコンセプトアートを制作した。UE4を駆使してゲームとアニメを連動させて同時に制作するという初の試みの中、ジョシュア氏のグラフィカルでカートゥーン調のテイストを損なわないよう、バランスをとりつつ慎重に進めていった。糸曽氏は当初より、ハンス・P・バッハーを彷彿とするシルエットを活かして色数を抑えたジョシュア氏のイラストにひと目惚れしていたという。「彼の影絵のようなコンセプトアートを見たときに、これだと思いました。影絵のようなカットが流れた途端にORENDAの作品であることがひと目でわかるというのも、同社のブランディングの一環として提案しました」と糸曽氏。単なるED制作に留まらず、ゲーム化の提案に加えてビジュアルによる企業のブランディングまで同時に行うなど、わずか1分30秒のED制作に綿密なビジネス戦略が練り込まれているというわけだ。

ジョシュア氏は、以前制作したTVアニメのEDコンセプトアートを基に、そのテイストをどのように本作に組み込んでいくかを考え、ベースとなるイメージボードを制作。「全体を通して、赤と黒、光と影の強いコントラストで表現し、影絵のようなテイストをエンディングのアートスタイルと決めて描き進めていきました」とジョシュア氏。そして、同氏の制作したコンセプトアートをリファレンスにしてディレクター/2Dアニメーターの小森秀人氏がムービーコンテを作成。ジョシュア氏の世界観を壊さないように注意しつつ、足りない部分やエフェクトを加えて1本のムービーコンテにまとめた。「どこまでゲームで再現できるかはわかりませんでしたが、ゲームでプレイした際に面白そうなEDになるよう意識しました」と小森氏はふり返る。また、本EDのコンセプトでもある「ゲームらしさ」の演出では、ゲームデザイナーの石川裕章氏が参加。ゲームのUIを画面に載せようとも考えたが、EDではスタッフクレジットと重なり文字情報が多くなりすぎてしまうため、よりゲームの本質を突いた演出を加えることにした。「インタラクションがあるのがゲームの特徴であると考え、キャラクターが何らかのアクションを起こすと何かアイテムが出てくる、というルールをつくりゲーム性のある演出を施してもらいました。例えば、最初は獲得するアイテムがハート型のものしかないのですが、聖陽十字のアイテムを拾うと仲間が出てくる......、といったゲームらしい演出です」(石川氏)。ゲーム畑を歩んできた同氏にとって、TVアニメのクレジットに名前が載ったのは衝撃的だったそうだ。アニメとゲームの垣根を超えた挑戦を盛り込んだ本作。同社では今後、こういったボーダーレスな案件が増えていくのだろう。

ゲームのプレイ画面のようなビジュアル構築

▲横スクロールのゲーム画面風の映像を意識した。シンラ、アーサーをゲームのプレイヤーキャラクターように感じられる構図で作成した

UE4でシェーダの調整

▲より忠実にコンセプトアートの世界観を再現するため、UE4にてシェーダの調整を行なった。【左】調整前/【右】調整後

ゲームらしい演出手法

▲よりゲームらしさを演出するため、強敵を倒した場合などに「アイテムが出現する」という演出を加えた。アイテムを獲得すると、「回復アイテム」と「仲間が助けに来てくれるアイテム」の2種類を作成

ムービーコンテ

▲ムービーコンテの段階でほぼ全ての演出が網羅されており、完成形が容易にイメージできるものとなっている

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<3>UE4とAfter Effectsの連携によるアニメーション制作

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<3>UE4とAfter Effectsの連携によるアニメーション制作

独特な手法を駆使したUE4でのアニメーション制作

モデリングからコンポジットまでの本制作をみていこう。まず、キャラクターやエフェクトは2Dアニメーションで作成し、背景の建物や雲は3Dでモデリングした。それらの素材をUE4にインポートしてカメラやライティングを設定し、連番で書き出している。次に、レンダリングした連番ファイルをAfter Effects(以下、AE)で読み込み、コンポジットして動画として書き出した。3DモデリングにはBlenderを使用。EDとゲームの連携を考慮して、ポリゴン数の削減が必要なゲーム用モデルはED用のモデリング後にローポリ化した。3Dモデラーで2Dエフェクトアーティストのヨエル・パルメナス氏は、「建物は基本的には硬い形でも良いのですが、ハート型のアイテムは滑らかに表現したいのでローポリでも綺麗な形を保つのが難しかったです」と語る。

本作において最も特徴的なUE4でのアニメーション制作では、素材をインポートしてまとめているが、映像制作向けソフトのようにキャラクターアニメーションの連番画像をインポートして使うのは非常にレアなケースだろう。「連番のキャラクターアニメーションの表示/非表示をタイミングよく切り替える手法にかなり苦労しました。こういった使い方は私の経験では少なかったので、最適な表示方法を見つけるためにかなり調べて制作しました」とUE4アーティストの小倉理生氏は苦労を語る。また、仮に全てを3Dで作成した場合、工数的にもリソース的にも完成は難しかったが、ジョシュア氏が連番アニメーションを描いてくれたおかげで世界観を崩さずに納品できたと小倉氏は話す。最終的にはUE4から書き出した連番をAEに読み込み、コンポジットした後にムービーデータとして書き出している。コンポジットでは、コンセプトアートの世界観を極力壊さないよう、AE上では色味を変えず、隊員服の青く光るラインを加えるなど味付け程度の調整に留めた。そのほか、カメラワークはUE4で付けているのだが画ブレのような細かい画面の動きを足したり、走るキャラクターの疾走感を出すために画面全体に気流のようなエフェクトをAE上で加えている。AEとUE4の連携に関しては、「AEでは道路とキャラクターが前景で、背景が後景といった感じでレイヤー分けしました。そのときはマスクも一緒に出してもらったのですが、どんどん素材の数が増えてしまって......。その度にUE4でレンダリングを出してもらい大変な思いをさせてしまいました」とコンポジットを担当した千田 岳氏はふり返る。これまでアニメの撮影を担当して1カット単位の制作を手がけてきた同氏にとって、1分半ワンカットの制作は素材が多く意外と大変だったとのことだ。

Blenderでの3Dモデリング



  • ▲競技施設や雲などの背景素材はBlenderを用いて3Dモデルを作成。訓練場のグレーモデル



  • ▲完成画

▲雲のグレーモデル

UE4によるアニメーション制作

▲UE4ではAEのようなレイヤー構造で管理。キャラクターやエフェクト、背景などの200個程度の素材をキーフレームアニメーションさせている

▲キャラクターアニメ-ションは、連番画像素材をUE4に読み込んで表示

▲EDでは右移動のみとなるため、画的に単調にならないよう背景の3Dモデルはキャラクターの移動とは逆の左方向に回転させている

UE4とAEの連携によるコンポジット

▲最終画像のほか、AEでのコンポジット作業用のマスク素材として2種類の深度画像をレンダリングした。疾走感を表現する白いモヤなどのエフェクトや焔人の消滅エフェクト、鉄梟の軌跡エフェクトなどをコンポジットの工程で追加した



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.265(2020年9月号)
    第1特集:どこまで使える? Blender
    第2特集:ワンランク上の建築ビジュアライゼーション
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2020年8月7日