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秋の恒例イベントとして定着しているCGWORLD 2020 クリエイティブカンファレンスが、今年は完全オンラインで、2020年11月7日(土)〜8日(日)に開催された。本記事では「YAMATOWORKS流アニメの作り方」と題したセッションの模様をレポート。少数精鋭のアニメーション制作会社で、最近は『ドラゴンズドグマ』(Netflix オリジナルアニメシリーズ/2020年9月より配信 )の3D制作に参加したYAMATOWORKSのワークフローや、制作環境の要であるPCと椅子の選び方を紹介する。

TEXT_高橋克則 / Takahashi Katsunori
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)

キャラクターの魅力を優先し、三面図はあえて依頼しない

本セッションに登壇したのはYAMATOWORKSの森田修平氏(代表取締役・アニメーション監督)と、澤田覚史氏(CGディレクター・キャラクターモデラー)で、両氏の経歴と同社のこれまでの歩みを紹介した後、オリジナルパイロットフィルム作品『L.S』(2017)の事例を通して、同社のワークフローと、随所に込められたこだわりが紹介された。ワークフロー紹介では、サイコムLepton WS3800TRX40Aを用いたAfter Effects(以下、AE)によるルックデヴの実演もあり、複雑にパーツ分けしたキャラクターの髪のカゲを細やかに調整する作業に対し、視聴者からは多くの質問が寄せられた。

▲YAMATOWORKSは2003年に制作ユニットとして誕生。日清食品のカップヌードルのプロモーションでも話題となったOVA『FREEDOM』(2006〜2008)をはじめ、複数のタイトルを手がけ、2012年に法人化した。その後も、オムニバス劇場アニメ『SHORT PEACE』(2013)内の1作品である『九十九』、TVアニメ『東京喰種トーキョーグール』(2014)、『東京喰種トーキョーグール√A』(2005)、劇場アニメ『ニンジャバットマン』(2018)など、メディアを問わず幅広いタイトルに参加している



▲オリジナルパイロットフィルム作品『L.S』(2017)。『CGWORLD vol.250』(2019年6月号)の表紙を飾ったタイトルで、CGWORLD 2019 クリエイティブカンファレンスでも、本作を事例とするCGアニメーションの基礎講座が行われた。この講座の詳細は以下の記事を参照
坂本隆輔(YAMATOWORKS)が指南! CGアニメーション基礎講座|CGWCCレポート(2)


▲サイコムのLepton WS3800TRX40A。32コア内蔵のパワフルなデスクトップ・プロセッサー AMD Ryzen Threadripper 3970Xを搭載。冷却を司るCPUクーラーには大型水冷ラジエータを標準装備。今までにない圧倒的なマルチタスキング機能を活用すれば、想像力を犠牲にすることなく、キャラクターデザイン、アニメーション制作、映像編集などに取り組める。詳細はこちらを参照


森田氏はYAMATOWORKSについて「3Dスタジオというよりも、アニメ制作会社という意識の方が強いです」と語った。所属するスタッフには、3D制作だけでなく、アニメ制作全体を俯瞰した上で、最適なやり方を考えてほしいと願っているそうだ。「プリプロダクション、作画、美術、色彩設計、撮影など、ほかのセクションの仕事にも配慮することで、全体の作業効率が改善されていきます」(森田氏)。その思想はワークフローにも表れており、「全セクションが気持ちよく動けるようにする」「リテイクに対応しやすいデータ構造にする」といった方針が徹底されている。

▲YAMATOWORKSの制作パイプライン。「3Dセル」はAEによるコンポジット工程で、各種素材を組み合わせ、セル画調の画がつくられる。この画のことをYAMATOWORKSでは3Dセルと呼んでいる


『L.S』のキャラクターデザインは田中達之氏(アニメーター・アニメーション監督・演出家)が担当しており、同氏のデザイン画から3Dモデルが制作された。「デザイン画の発注時には、三面図をあえて依頼しませんでした。三面図では立体としての正確さの方が優先され、キャラクターの魅力が犠牲になってしまうことが多いです。田中さんには魅力的なキャラクターを描くことを優先していただき、モデリングではその再現を目指しました」(澤田氏)。

▲田中氏による『L.S』のイメージボード


田中氏にキャラクターモデルのチェックを依頼するときには、モデリングやセットアップ時に多用されるTポーズではなく、手を下ろした自然なポーズにしたモデルをレンダリングしたという。「社内外問わず、チェックする際には自然なポーズであることを意識しています。不自然なポーズの画を見せられても、良し悪しの判断ができないからです。例えば、しっかり重心を乗せたポーズにすることを心がけています」(澤田氏)。

▲キャラクターモデルに対する田中氏の修正指示。しっかりと重心の乗ったモデルを見せることで、より的確な判断が可能となる

作画の画づくりを再現する一方で、3Dならではの画づくりも実践

作画セクションとデータをやり取りする場合は、紙に印刷するときの解像度に対する理解が不可欠だと森田氏は語った。「デジタル作画も徐々に導入されていますが、われわれが制作した作画ガイドを紙に印刷して使う作画さんも数多くいます。紙に印刷する場合のサイズと解像度を念頭に入れてレンダリングしないと、必要以上にデータのサイズが大きくなるなど、無駄が生じます」(森田氏)。美術の場合はほぼデジタル化されているが、それでも紙に印刷した場合のサイズを意識しておくことで、理に適ったデータをつくれるという。また、作画セクションへの依頼の文字色は暖色、美術セクションへの依頼の文字色は寒色を使うというように、アニメ制作の慣例に則ることでスムーズな進行が実現できるという。

▲作画セクションへの依頼。文字色は暖色になっている


▲美術セクションへの依頼。文字色は寒色になっている。また、画面に映らない範囲を明示し、描く必要のない部分を描かせない配慮も重要とのこと


アニメーション工程では動きに注力し、ルックデヴ工程ではラインの太さ、カゲの入れ方などの画づくりの調整に注力する。特に『L.S』では、キャラクターの髪の動きとカゲにこだわっており、複雑にパーツ分けした髪に対し、細やかな調整が施されている。セッションでは、サイコムのLepton WS3800TRX40Aを用いてAEを操作し、髪のルックデヴを実演して見せる一幕もあった。また、AE上でテクスチャを貼れるプラグインのft-UVPassも紹介された。このプラグインは『L.S』制作時には使っていなかったが、最近は多用しており、再レンダリングを防ぐ手段として重宝しているそうだ。

▲髪のルックデヴを実演中のAEの作業画面。複雑にパーツ分けした髪の状態を色分けによって明示している


3Dセル工程では、LightWaveから描き出したカラー、影情報、ラインなどの素材をAE上で合成し、ルックデブ工程の調整結果も反映させ、3Dセル(セル画調の画)を作成する。なお、カラーやライン素材にはアンチエイリアスを適用しておらず、領域の選択や色分けが容易にできるデータとなっている。3Dを使ってはいるが、作画アニメの動画に近い状態のデータを用意することで、作画アニメの画づくりを再現できるようにしている点がYAMATOWORKSのこだわりと言えるだろう。一方で、3Dだから作成できる素材を活用することで、表現力の向上や、制作の効率化も図っているとのことだ。

▲3Dセル工程の紹介。LightWaveから描き出したカラー、影情報、ラインなどの素材をAE上で合成する


▲撮影工程の紹介。3Dセルと背景を合成し、撮影処理を施して完成となる

全てのPCをハイスペックにする必要はない。各用途で必要十分なスペックのPCを導入

2014年以降、YAMATOWORKSの制作では一貫してサイコムのPCを利用している。それ以前は夏場にPCが熱暴走したり、納品直前のタイミングでレンダリング中のPCが落ちたりといったアクシデントに見舞われていた。しかしサイコムのPC導入後は、安心できる制作環境が実現したという。「サイコムのPC導入から1年くらい経った頃、掃除のためにPCを開けてみたのですが、全くホコリがありませんでした。ほとんど故障しないし、音も静かで、非常に堅牢なPCだと思います」(森田氏)。導入から今日までの間、故障がゼロだったというわけではないものの、故障してもすぐにサポートが対応してくれるため、安心して制作に集中できるという。

YAMATOWORKSのPCはアニメーター用、ディレクター用、コンポジット用、レンダリング用からなる4種類のスペックに分かれており、コンポジット用が最もハイスペックとなっている。全てのPCをハイスペックにする必要はないため、各用途で必要十分なスペックのPCをサイコムに提案してもらっているそうだ。

▲YAMATOWORKSが使用しているPCのスペック一覧。コンポジット用が最もハイスペックで、ディレクター用はそこそこ、アニメーター用は並、レンダリング用は最小限となっている


セッションの最後には澤田氏の作業デスクの写真が公開され、視聴者からは椅子を羨む多くのコメントが寄せられた。「現在は『3年目のプレゼント』と銘打って、入社から3年目の方にハーマンミラーなどの椅子を支給しています。PCと同様、椅子も制作環境の要であり、アーティストの健康を支える大事な要素なので、ちゃんと投資するようにしています。質の高い椅子を使う方が、作業効率も上がります」(森田氏)。

▲澤田氏の作業デスクの写真。アーロンチェアで知られるハーマンミラーの椅子はもちろん、傾斜をつけたキーボードとタブレット用の作業台など、随所にこだわりが見られる


制作環境への投資を軽視せず、PCにもスタッフの健康にも気を配り、より良い作品を生み出していく。そんな同社の矜持が垣間見られた本セッションは、最後まで視聴者からのコメントや質問が絶えず、熱気に溢れた状態で終了した。

本セッションで使用された製品に関するお問い合わせ

株式会社サイコム
TEL:048-994-6070/Mail:pc-order@sycom.co.jp
受付時間:平日10時~12時、13時~17時(土日祝祭日はお休み)
www.sycom.co.jp



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