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2021年11月8日(月)から12日(金)までの5日間にわたってオンラインにて開催された「CGWORLD 2021 クリエイティブカンファレンス」。11月12日(金)のワコムコラボセッション「3Dと2Dの融合で生み出す『実在しそうなファンタジック背景』の描き方」には背景デザイナー・わいっしゅ氏が登壇。CGWORLDの連載「絶景、イラストレーション」で披露した制作工程を、リニューアルされたばかりの液晶ペンタブレット「Wacom Cintiq Pro 16」の使用感を交えて解説した。

TEXT_高橋克則 / Katsunori Takahashi
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)

生まれ変わったWacom Cintiq Pro 16の実力は?

まずはワコムのエンタープライズ/デザイン教育グループ グループ統括マネージャー、角井健一氏が2021年11月5日(金)に新発売されたWacom Cintiq Pro 16の変更ポイントを紹介。VESAマウントによってユーザーの好みの角度で使用でき、タッチ機能のON/OFFを制御する物理スイッチを搭載したため誤動作が減るなど利便性がアップしており、ワコムが今できることを最大限に詰め込んだ仕様となっている。

▲Wacom Cintiq Pro 16の変更ポイント。接続方法の簡易化や物理スイッチの搭載など、ユーザーからの様々まな要望を反映させた

それを受けてわいっしゅ氏は、これまでWacom Cintiq Pro 32を使用していたがWacom Cintiq Pro 16のサンプルを借りたところ気に入り、いち早く購入したと告白する。多彩な新機能の中でも筐体の左右に物理スイッチのエクスプレスキーが付いたことが大きな利点で、それにより左手デバイスが不要になり省スペース化を実現できた。

▲わいっしゅ氏のタブレット環境。写真からも省スペースになっているとわかる

タッチの誤動作もかなり減ったため、拡大・縮小などの作業もソフト上ではなくWacom Cintiq Pro 16で直接行うようになったとコメント。よりスムーズな作業環境が構築できたと感想を伝えた。

▲わいっしゅ氏のエクスプレスキーのショートカット。右手側はレイヤーのコピーや統合、左手側はブラシのサイズ変更とアンドゥを設定している

細やかな光がリアルな世界を生み出す

今回のセッションではオリジナル作品『御神体守の街』の制作工程に迫った。わいっしゅ氏は3DCG制作ソフトのMODOでモデリングを、3D自然景観作成グラフィックソフトのVueでレイアウト、ライティング、レンダリングを行い、データをPSDファイルとして出力した後にPhotoshopでレタッチをするというスタイルを採用している。

『御神体守の街』の制作時間は3〜4時間ほどで、わいっしゅ氏としては早い部類に入るが、それはプライベート作品のため3Dモデルのアセットを利用し、モデリングは特徴的な部分だけに留めたことが理由。MODOでの作業は約1時間、Vueはレンダリングを除いて1時間半から2時間、そしてPhotoshopは30分ほどで完成に至った。

▲『御神体守の街』完成画像

▲レタッチ前の画像。完成画像と比べると光の表現がないため全体的に暗い印象になっている

セッションではPhotoshopの最終工程にフィーチャー。ファンタジックでありながら実在感も備わった背景は、どのようなレタッチによって生まれたのか、作業風景を見せながら解き明かしていった。

わいっしゅ氏の作品は線画を強調するものが多いため、Vueでデータを書き出す際に線画も出力するように設定しているという。Photoshopでは線画を下地にして元データを置くが、そのときには描画モードをハードライトにして、線を残した状態のまま作業を進めている。

▲Vueで出力した線画データ

▲画像を拡大すると線が残っているのが視認できる

レタッチの基本方針については「陰影をゼロレベルではなく、少しもち上げること」が重要だと語る。真っ暗で何も見えないところをなくすため、陰影をなくしたレイヤーを不透明度30%程度でハードライトで重ねたり、トーンカーブで色調を整えたりして、影にも色合いが感じられる画面を作り上げていく。

▲陰影をなくしたレイヤー。これを重ねると森の影の部分にも色が付いたように見える

Vueのレンダリング時に得られるレイヤーをマスクとして応用しているのも特徴である。例えばハイライトの処理ではディフューズの情報をマスクに用いており、光が当たっている森に黄色を足して明るさを表現した。

▲マスクの一例。光の当たっている部分を処理するために使われる

情報量を増やすため暖色系のボカしたレイヤーも加えている。『御神体守の街』は全体的に寒色が強めの作品だったため、ハイライトの部分に暖色を刺してリッチな仕上がりを目指した。

さらに光の散乱で生じるチンダル現象も再現。ソフト円ブラシを使い、描画モードはスクリーンで、一筆ずつ仕上げていった。わいっしゅ氏はWacom Cintiq Pro 16のエクスプレスキーを使ってブラシの直径をスムーズに変更しており、早くもリニューアル版を使いこなしていることが窺えた。

▲チンダル現象の有無。後者は右上から左下に向けて光が注ぎ込んでいる

ファンタジックな背景を生み出す秘訣は旅行にあり?

セッションの後半では、Vueのワークフローを紹介する一幕も見られた。わいっしゅ氏は背景デザインを手がける上で、最初に大まかな地形を作り、そこに何を乗せれば面白くなるかを考えながら作業をする場合が多いという。そして良い構図が決まったら、その上に建物を乗せて、全体像を作り上げていく。

その際に役立っているのは、意外にも趣味の旅行だと明かす。現実の景色からインスピレーションを得て、様々な想像を巡らせることが魅力的な背景づくりに繋がっているのだ。

▲Vueの作業風景。通常の3Dソフトと同じように、トップ、フロント、サイドの三面図に加えて、カメラで映した状態が表示されている

質疑応答コーナーでは視聴者からの「最も時間をかけている工程は何でしょうか?」との質問に「ライティング」と回答。太陽の位置を変えるだけで作品の雰囲気はガラリと変わるため、どの光源が最も適切なのかを探る作業には自然と時間がかかってくる。

わいっしゅ氏が光の演出で意識しているのは、なるべく複雑な陰影が生まれるようにすることだ。画面の情報量は明と暗のコントラストによって増加するため、『御神体守の街』ではメインとなる御神体の影にこだわったと振り返る。もし仮に太陽を御神体の正面に持ってくると全体に光が当たるため影が生まれず、のっぺりとした質感になってしまう。そんな事態は避けなければならない。

▲光源のNG例。御神体に影が生じないため形がわかりづらい

試しに光源をランダムに変えていくと、まったく違った印象の画が次々とできあがり、ライティングの適切な選択がファンタジックな背景を生み出すためには欠かせないことが実感できた。わいっしゅ氏は「旅行に行ったときに『この風景はいい!』と思った瞬間を、3D空間上でも探しているイメージですね」とライティングの面白さについて語った。

▲こちらは完成版とは逆方向の左側から光が当たっている。光源は適当に配置したものだが光と影のバランスが良く、面白味のある画面になっている

最後にクリエイター志望者に向けて「私は3Dで作ったものを2Dにするという作業ですが、今回紹介した方法論は2Dだけで描く人にとっても使える部分があるのではないかと思っています」とコメント。そして「より自分に合った方法で制作を進めてほしいです」とメッセージを送った。

製品情報

  • Wacom Cintiq Pro 16
    ユーザーの声からWacom Cintiq Pro 16が、より使いやすく、制作を止めないクリエイティブツールへ生まれ変わった。
    自然な描き味、繊細なタッチ、多彩な表現力を追求し続けるワコムの液晶ペンタブレットWacom Cintiq Pro 16で制作に没頭できる。
    詳細はこちら

    お問い合わせ:株式会社ワコム