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森江康太(トランジスタ・スタジオ)が教える<br/> 物理法則の観点から捉えるアニメーション上達の秘訣

森江康太(トランジスタ・スタジオ)が教える
物理法則の観点から捉えるアニメーション上達の秘訣

重さの表現~重いものは簡単に動かない!

「重さ」とは、その物体に働く重力の大きさ、および、慣性力の大きさを言います(Wikipediaより)。アニメーターが重さを表現する場合には、動きからこれらのことを感じ取れるかどうかというのが肝です。例えば、普通のピンポン球と中身が鉛のピンポン球にデコピンをした場合、球の動き方はまったくの別物になります。このときの球の反応が、それ自体の重さを表しているのです。軽いものほど簡単に動き、重いものは簡単には動かずそこに留まろうとします

▲キャラクターが球体を持っています。この時点では、この球体の重さがどのくらいのものなのかはわかりません

▲腰を大きく持ち上げ、頭の位置も先ほどより上方へと移動していますが、球体の位置はさほど変化していません。上に持ち上げようとしているキャラクターに対して球体がほとんど動かないことから、この球体の重さが判明してきます

▲キャラクターはさらに身体を持ち上げていますが、またもや球体の位置はそこまで変化していません。「動かそうと思っても簡単に動かない」という情報がそれ自体の重さを表しています(※2)

※2:キャラクターの鼻の軌道が弧を描いていますが、このようにキャラクターの動きも直線移動ではなく曲線で動かすと、良いアニメーションになります

▲キャラクターが大きく持ち上げようとしますが、球体は最初とほとんど変わらない場所にあります。ここでのポーズが最も球体の重さを表現してくれています。キャラクターの表情も、重いものを持ち上げている感じがよく出ていますね

▲キャラクターが腰を落とす一方で、球体はそれに反して少し持ち上がっています。重いものを持つときに身体の反動などを使って持ち上げることがありますが、ここで行なっているのはまさにそれです。キャラクターの身体の動きに対して、球体の移動はほとんど行われていません。これが、重いものはその場にできるだけ留まろうとするという性質を表現し、ものの重さも表してくれています

▲完成されたアニメーション

Summary ジャンプ~これまでの集大成

最後の題材、「ジャンプ」になります。今回の解説で行なってきた落下運動、慣性の法則、重さの表現の全てが詰まった動きとなっていますので、これまで得た知識を総動員してご覧ください

▲キャラクターがジャンプするためにしゃがみ込んでいます。カートゥーンキャラクターなので、通常の人よりかなり大きなジャンプをさせることにしました。そのため、しゃがみ込む予備動作もカートゥーンらしい誇張したポーズにしています(※3)

※3:ここでは顔をわざとカメラ方向に向けることで、キャラクターの表情を見えやすくしています

▲飛び上がりのポーズです。足を少しストレッチさせることで、一気に上方へと飛び上がっていることがわかります。なお、ここではまだ足は地面から離れません

▲さらに上方へとジャンプしていきます。ジャンプの重心は股間あたりでとるようにしましょう。重心の移動を見てみると、1枚目~2枚目より、2枚目~3枚目にかけての方が上方への移動幅が少なくなってきているのがわかります

▲ほぼ最上部に到達しました。先ほどまで前のめりだった上半身が、少しずつ後ろに倒れていきます。ここから少しずつ、頭の重さとそれに影響する慣性を表現していきます

▲重心は画面右方向へと移動しますが、高さはほとんど変わっていません。ここから落下運動が開始されるためです。重心の横方向の移動と縦方向の移動で、移動幅が異なっていることに注目してください

▲重心が少し落下します。しかし、重たい部位である頭はさほど位置が変わっていません。このように空中で留まるような表現を入れることで、頭の重さを表すことができます

▲重心が大きく下がり、変化量もより大きくなっています。落下運動では重心の位置を明確に捉えることが重要です(※4)。逆に、重心以外の部位、特に手足や頭を自由に動かすとキャラクター性が引き立ちます。このポーズでは手を大きく上げ、右足から先に接地させることでカートゥーンらしいキャラクター性を出しています。重心の移動と、それ以外のパーツの動きを分けて考えていくことが大切です

※4:今回の重心の位置はキャラクターの股間あたりにもってきていますが、この重心の運動曲線が滑らかでなかった場合、非常にCGくさい動きになってしまいます。重心の運動曲線をしっかりグラフなどで確認しながらできるだけ滑らかに、かつ物理法則に則った動きにしていくとよりリアリティが増します

▲ラストの着地のポーズです。落下運動における高さの移動幅は、7枚目~8枚目にかけてが最も大きい移動幅となりました。ラストのポーズはこのキャラクターらしく、かわいいポーズにしてあげましょう

▲完成されたアニメーション



TEXT_森江康太(トランジスタ・スタジオ)

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