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劇場アニメーション長編『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

劇場アニメーション長編『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

STUDIO4℃ 流<1>
CG と作画の"ハイブリッド"の追求

近年メカを CG で描くアニメ作品を目にする機会が増えているが、本作のようにメインキャラクターを CG で描く作品はまだそれほど多くはない。そのため、「どこまで CG で描けるかが課題だった」と窪岡監督が言うように、2008 年に作画と CG のハイブリッド技法を検証するためのパイロットフィルムが制作された。

「3DCG でキャラクターを作る上でネックになったのがキャラクターの表情でした。そこで顔を作画で作成し CG の体と合成する手法を採用しました。作画マンにとってやりづらい作業ですが、目標とすべき画を作るためには不可欠な手法でしたね」(窪岡監督)

このハイブリッドの技法を成立させるためには作画と CG を違和感なく馴染ませる必要があり、試行錯誤が繰り返された。

「まず、CG でキャラクターのアニメーション付けを行いプリントアウトし、その動きをガイドに顔だけを作画するという流れを作りました。カットによっては腕やマントも作画して貰いました」(草木氏)

また、CG キャラクターの動きはフルコマで動かすと滑らかな動きになり過ぎるので、作画と同様に2コマ打ちや3コマ打ちにしているという。

「通常、作画でお願いするようなカットも CG にお願いしたのですが、どこまで CG でできるのか不安な時もありました。手付けによるアニメーションのカットも沢山あるのですがキャラクターの芝居もしっかりできていましたし、結果的に予想を超えた仕上がりになったので良い意味で驚かされました」(窪岡監督)

このパイロットの制作でCGの可能性に大きな手応えを感じることができたという。

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

プリプロ段階のフル CG

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

顔と右腕を作画にして合成したカット
プリプロ段階で制作されたテスト映像。実に自然な仕上がりで、まさに"ハイブリッド"だ。後述の通り、カメラワークなど目指す表現に応じてフル CG カットも随所に登場するため、ガッツのモデルはさらにブラッシュアップされている


STUDIO4℃ 流<2>
フル CG カットも多数登場〜バズーソ戦

映画『プライベート・ライアン』(1998)を目指したという『覇王の卵』。冒頭の攻城戦からバズーソとの対決シーンまでは、大半のカットがフル CG で制作された(メインツールは Maya)。迫力のある戦闘シーンに仕上がっており、本プロジェクトの意気込みが伝わってくる。

「このシークエンスは、キャラクターがヘルメットや甲冑を身に纏っている設定のため、制作当初からフル CG でキャラクターを描くつもりでいました。モブに関してはモーションキャプチャをベースにしていますが、ガッツやバズーソのアニメーションは全て手付けで上書きしてあります」(草木氏)

ガッツの登場時は、それほど剣術が上達していないという設定だったので、割と自由にアニメーションを付けることができたそうだ。

「ガッツには人間を輪切りにする豪快なイメージがありますが、バズーソ戦ではまだ胴体を真っ二つにはできないという演出をしました。鷹の団に入ることで剣術も成長していくわけですね」(窪岡監督)

キャラクターの微妙な演技で成長を表現するためアニメーションの技量も相応に要求されるが、担当したデジタル・アーティストたちにとってはさぞやり甲斐のある作業であったに違いない。

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

Maya のシーンファイル。プレビューウインドウ周辺のパラメータは新開発されたポーズ、モーション、リグの登録/選択ツール群

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

完成カット
ガッツとバズーソの戦闘シーン。約 20 体の CG キャラ(1体約2万ポリゴン)が存在するため、CG 作業はかなりマシンパワーを要した。アニメーターが直感的にアニメーション付けを行えるよう、独自のキャラクターリグやセレクターツールが開発され、効率化のためにキャラクターのポーズやモーションを登録し共有できるツールも開発された

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