今なお連載が続く本格ダークファンタジー『ベルセルク』が満を持してスクリーンに登場する。まずは、2012 年2月4日(土)に全国ロードショーとなる第1部『覇王の卵』を皮切りに、黄金時代篇が3部作として順次公開される予定だ。アニメーション制作は、数多の傑作を生み出してきた STUDIO4℃。卓越した作画で海外でも名高い STUDIO4℃ だが、本作では満を持して 3DCG をフル活用した新境地に挑んでいる。

3DCG を武器に日本アニメの次元を超える

原作ファンならお分かりだと思うが、『ベルセルク』のアニメ化は「当初から『ロード・オブ・ザ・リング』を作るようなものだと確信していた」と、窪岡俊之監督は振り返る。「大量の兵士や馬、モンスターを描くためには 3DCG が不可欠。剣術のような特殊な動きも作画には不向きのため、モーションキャプチャを利用することで説得力のある画づくりが行えるのではと考えました」

鎧のような規則性のあるデザインを大量に描く上でも 3DCG の方が有利であったと言えよう。

そこで本プロジェクトでは、キャラクターの顔を作画で描き、3DCG キャラクターと合成する"ハイブリッド"と呼ばれる技法が生み出された。プリプロでは、作画のキャラに対して CG の鎧を部分的に貼り付けるなど、作画と CG のあらゆる組み合わせを模索したという。

「顔だけでなく髪の毛やマントの靡きも作画のように動かすのは難しいため、作画との連携が欠かせません。遠景カットなどでは髪の毛やマントも CG で完成させることもありますが、そうした場合はシミュレーションではなく、基本的な動きをジョイントで作成しデフォーマで揺らぎを表現しています」と草木孝幸 CGI ディレクターは語る。

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』 『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

© 三浦建太郎( スタジオ我画)・白泉社/BERSERK FILM PARTNERS

来年中に3部作で公開予定の『黄金時代篇』は総尺5時間近くに及ぶ超大作、1作目の『覇王の卵』は約 80 分だが、総カット数は 1,114 カットに達し、約5割に何らかの形で 3DCG が介在しているという。この物量を限られた条件の下でハイクオリティに仕上げる上では、STUDIO4℃ の CGI 班が培ってきた画づくりのノウハウがフル活用された。

「首や腕を斬られる兵士は、数種のプリセットモデルを使い回しています。必要以上にモデルを作成せずにカメラのアングルや動き、血飛沫の飛び方などに変化を加えることで、バリエーションを増やしました」(草木氏)。

作画の血飛沫も試したそうだが、3DCG に対して極端に誇張されてしまうため別の表現を模索。3D のパーティクルを用いたカットもあるが高負荷のため、主には実写素材を使い制作コストを下げている。同様にキャラクター・アニメーションについても、コストパフォーマンスの高さで知られる OptiTrack を導入し、事前にキャプチャの検証をすることで効率化に繋げたそうだ。

それでも STUDIO4℃ にとって、ここまでヘビーな作品は初めてであり、制作工程については今なお試行錯誤を続けているという。

「作画の場合はレイアウトの段階で演技プランを原画マンに伝え、上がってきた原画に作監が修正を入れ、動画に渡すといった作業フローが確立されています。しかし CG では、最初から動画でチェックを行うので、どこが原画なのか分かりづらく、修正指示も出しづらいんですよね。そこで"3D 原画"を作ろうということになりました」(窪岡監督)。

これは"ブロッキングアニメーション"というピクサー等で用いられている動画を作成する前にキーポーズだけで動きやタイミングを確認する手法。アニメーションの流れが把握しやすいため、修正も効率的と言われているが、
「『覇王の卵』では本格採用には至りませんでした。作画も関わるためチェック工程が増えてしまう等、まだまだ改善の余地があるのです。"ハイブリッド"に適した作業フローをさらに模索していきたいですね」(草木氏)。

独自の技法の下、観客を魅了し続けてきた STUDIO4℃、本作も要注目だ。

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』 『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

© 三浦建太郎( スタジオ我画)・白泉社/BERSERK FILM PARTNERS


窪岡俊之監督、草木孝幸 CGI ディレクター(STUDIO4℃)

Staff

左から、窪岡俊之監督、草木孝幸 CGI ディレクター(STUDIO4℃)

Information

映画『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』
2012 年2月4日(土)新宿バルト9他全国ロードショー
監督:窪岡俊之
CGI 監督:草木孝幸、廣田裕介
CGI 監修:斉藤亜規子
アニメーション制作:STUDIO4℃
配給:ワーナー・ブラザース映画
www.berserkfilm.com
© 三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/BERSERK FILM PARTNERS

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CG と作画の"ハイブリッド"の追求

近年メカを CG で描くアニメ作品を目にする機会が増えているが、本作のようにメインキャラクターを CG で描く作品はまだそれほど多くはない。そのため、「どこまで CG で描けるかが課題だった」と窪岡監督が言うように、2008 年に作画と CG のハイブリッド技法を検証するためのパイロットフィルムが制作された。

「3DCG でキャラクターを作る上でネックになったのがキャラクターの表情でした。そこで顔を作画で作成し CG の体と合成する手法を採用しました。作画マンにとってやりづらい作業ですが、目標とすべき画を作るためには不可欠な手法でしたね」(窪岡監督)

このハイブリッドの技法を成立させるためには作画と CG を違和感なく馴染ませる必要があり、試行錯誤が繰り返された。

「まず、CG でキャラクターのアニメーション付けを行いプリントアウトし、その動きをガイドに顔だけを作画するという流れを作りました。カットによっては腕やマントも作画して貰いました」(草木氏)

また、CG キャラクターの動きはフルコマで動かすと滑らかな動きになり過ぎるので、作画と同様に2コマ打ちや3コマ打ちにしているという。

「通常、作画でお願いするようなカットも CG にお願いしたのですが、どこまで CG でできるのか不安な時もありました。手付けによるアニメーションのカットも沢山あるのですがキャラクターの芝居もしっかりできていましたし、結果的に予想を超えた仕上がりになったので良い意味で驚かされました」(窪岡監督)

このパイロットの制作でCGの可能性に大きな手応えを感じることができたという。

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

プリプロ段階のフル CG

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

顔と右腕を作画にして合成したカット
プリプロ段階で制作されたテスト映像。実に自然な仕上がりで、まさに"ハイブリッド"だ。後述の通り、カメラワークなど目指す表現に応じてフル CG カットも随所に登場するため、ガッツのモデルはさらにブラッシュアップされている


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フル CG カットも多数登場〜バズーソ戦

映画『プライベート・ライアン』(1998)を目指したという『覇王の卵』。冒頭の攻城戦からバズーソとの対決シーンまでは、大半のカットがフル CG で制作された(メインツールは Maya)。迫力のある戦闘シーンに仕上がっており、本プロジェクトの意気込みが伝わってくる。

「このシークエンスは、キャラクターがヘルメットや甲冑を身に纏っている設定のため、制作当初からフル CG でキャラクターを描くつもりでいました。モブに関してはモーションキャプチャをベースにしていますが、ガッツやバズーソのアニメーションは全て手付けで上書きしてあります」(草木氏)

ガッツの登場時は、それほど剣術が上達していないという設定だったので、割と自由にアニメーションを付けることができたそうだ。

「ガッツには人間を輪切りにする豪快なイメージがありますが、バズーソ戦ではまだ胴体を真っ二つにはできないという演出をしました。鷹の団に入ることで剣術も成長していくわけですね」(窪岡監督)

キャラクターの微妙な演技で成長を表現するためアニメーションの技量も相応に要求されるが、担当したデジタル・アーティストたちにとってはさぞやり甲斐のある作業であったに違いない。

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

Maya のシーンファイル。プレビューウインドウ周辺のパラメータは新開発されたポーズ、モーション、リグの登録/選択ツール群

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

完成カット
ガッツとバズーソの戦闘シーン。約 20 体の CG キャラ(1体約2万ポリゴン)が存在するため、CG 作業はかなりマシンパワーを要した。アニメーターが直感的にアニメーション付けを行えるよう、独自のキャラクターリグやセレクターツールが開発され、効率化のためにキャラクターのポーズやモーションを登録し共有できるツールも開発された

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クオリティと物量の両立

冒頭の攻城戦のシーンでは無数の兵士が登場するが、群集シミュレーションを使わずに、After Effects によるコンポジットワークによって、数万人の兵士を思わせる物量を描き出しているという。

「見せたいところはしっかりと作り込み、それ以外は臨機応変に作成するという作り方を行なっているので、実は手前の 30 体だけは丁寧にアニメーション付けを行い、残りは AE 上でレイヤーを増殖するなどして群集を表現しています。遠景などは 3D モデルではなく、走る兵士のテクスチャを板に貼って数を増やしたりもしています。さらに血飛沫のようなエフェクトは実写素材を使用することでパーティクルなどシミュレーションに掛かる時間を極力削減しています」と草木氏。

STUDIO4℃ では実写を素材の一部に使うこともあるが、本作でも雨で跳ねる水滴を撮影したり、タバコの煙を撮影して合成するなどしているという。大量の CG カットをクオリティを維持したまま少人数で仕上げるためには、あらゆる素材を活用することが重要なのだ。

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

3D レイアウトとしてのカットプラン(美術発注のベースとなる)

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

CG アニメーション作成中のデータ

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

完成カット
3D でレイアウトを作成し、美術班へ素材の描き分け指示やアニメーションの指示を記入している。このシーンではモブを 20 階層くらいにレイヤー(シーン)を分けて作業をしている。最終的な合成素材は影やテクスチャ等も含め 50 種類以上に達したという


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CGI 監督による"画面設計"

通常アニメ制作の現場では、コンポジットワークを統括する撮影監督を立てているが、STUDIO4℃ では CGI ディレクターが兼任している。

「このスタジオでは"画面設計"と呼ばれているのですが、各カットごとに Photoshop 上でキャラや背景、煙やフレアなどのエフェクト素材を合成し、カラーフィルタなどで作品の全体的な色味を決める作業を CGI 監督が行なっています」(草木氏)。

画面設計を行うことでセルと背景が馴染み画面に統一感が生まれ、全てのカットを CGI ディレクターが設計することでカットごとのバラツキも抑えている。この設計データを AE で読み込み、セルや CG 素材を連番素材に差し替えるだけで、ほぼ撮影作業は完了するという。

「アニメ現場は全ての工程が分業制となっているので、最終的な画を把握している人が少ないですし、各部署に修正指示を出すのも大変なのですが、CGI 監督がそれらを吸収してくれるので助かりますね」(窪岡監督)。

効率的に良質な画づくりを実践できるのは STUDIO4℃ 独自の"画面設計"の賜物だ。

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

元素材(フル CG)

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

画面設計(草木 CGI ディレクター作成)

『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』

完成カット
このカットでは光の方向(床と壁からの2点)や遠近感などに注意して設計し、CG キャラと背景を馴染ませるためにフィルタ処理などを施している。明るい屋外(前のカット)から暗い室内にいきなり切り替わるため、目(レンズ)が対応できずに露出アンダー気味になっているといったイメージで画面設計が行われた

TEXT_村上 浩(夢幻 PICTURES


CGWORLD 161 号


短期連載スタート!

2012 年2月4日(土)全国ロードショーとなる映画『ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵』。
3DCG をフル活用して制作に挑む STUDIO4℃ に密着した、短期連載が月刊誌 CGWORLD 161 号〜掲載!
連載第一回を掲載の 161 号は 12 月 10 日(土)発売、左の表紙が目印です。
続く 162 号は新年1月 10 日(火)発売!
『ベルセルク』から目が離せません。
ご期待ください!!

続きは、月刊誌で!

CGWORLD 161 号に関する詳細は下記リンクへ
CGWORLD 2012 年1月号 vol.161