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FCA Game Jamが引き出した <br />

FCA Game Jamが引き出した
"気づき"と"クリエイティビティ"

各チームが得た"気づき"

2日間にわたるゲーム開発を通して、各チームのメンバーはどんな体験をしたのか? チームごとのエピソードを、そのチームを率いたBNS開発者たちに語ってもらった。

Aチーム/チーム名"ベリーハッピー"
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<上左>テーブルを囲み開発方針を確認し合っている/<上右>プログラマの石黒氏の両脇には、常にプログラム担当の学生たちが付き従っていた/<下左>終了時刻が迫るなか、ようやく完成形が見えた瞬間には拍手がわき起こった/<下右>完成発表会の席でメンバーと歓談するシニアゲームデザイナーの阿須名氏(写真中央)

とことんハッピーに、どんな時にも楽しくやりたい、という思いを胸に開発をスタートした"ベリーハッピー"。シニアゲームデザイナーである阿須名孝次氏とプログラマである石黒赳彦氏、途中からはアーティスト出身の髙子佳之氏(現在の役職はシニアエンジニア)も加わり、活発な議論が繰り広げられた。「私や髙子さんは、ゲームデザイナー(プランナー)として、アーティストとして、背伸びをしてでも"積もう"とします。一方で、石黒さんはプログラマの立場から、実現できる範囲まで"削ろう"とする。学生メンバーから見ると、3人が喧嘩をしているように見えたかもしれません(笑)。でもこれは開発現場で日常的に見られる風景なのです」と阿須名氏は解説してくれた。これに対し、石黒氏は普段できない体験を味わえたとふり返った。「先輩たちのサポートが会社での私の仕事なので、自分がメインを担当しつつ、学生さんたちにテクニックを伝えたり、指示を出したりできたことは新鮮な体験でした。普段使わない引き出しを思う存分解放しながらの作業は楽しかったですね」。

Bチーム/チーム名"チーム水炊き"
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<上左>実演を交えながら企画を発表している/<上右>メンバーに指示を出すシニア アートディレクターの細谷氏(写真左端)とプログラマの大西氏(写真右端)/<下左>この中間発表の時点で、最初に考えた仕様のままでは時間内の完成が難しいだろうと両氏は感じていたそうだ/<下右>学生にプログラムのアドバイスをする大西氏

全員が自分の味を持ちより煮炊きすることで、格別のゲームを完成させたい。"チーム水炊き"はそんな思いを込めて名付けられた。「前日にアーティスト志望者のポートフォリオを見たのですが、自分の好きな世界観が固まっていそうだなと感じました。でも実際の仕事では好きな世界だけを描けるわけじゃない。Game Jamを通して、それを伝えたいという思いがありましたね」とシニア アートディレクターの細谷祐恭氏は語った。学生たちはその期待を正面から受け止め、それまで描いてきた"西洋ファンタジー"という殻を破り、"グラフィティアート"という新たな世界観を提案した。さらに細谷氏は、プランナー志望者にも伝えたいことがあったと続けた。「最初は自分の"やりたいこと"が膨らんでいくものです。でも完成までの過程では、"できること"を理解し仕様を削っていく選択が往々にして必要になります」。完成が大前提だった一方で、学生たちの成長も重視していたとプログラマの大西康満氏は補足した。「自分は極力手を出さず、学生さんたち自身が考え、選択し、作りあげるよう促し続けました。私自身にとっても新鮮な経験でしたね」。

Cチーム/チーム名"鳥リンゴ♥"
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<上左>80個近いアイデアから絞り込んだ企画を学生自身が発表した/<上右>リードプログラマの湊氏(写真左端)とビジュアルアーティストの李氏(写真湊氏の右隣)からのフィードバックを全員で確認している/<下左>Game Jam中は、常に一緒に食事を取った/<下右>見事優勝チームに選ばれ、松尾氏から賞品が手渡された

自己紹介の過程で語られた自分たちの好きなものを組み合わせ、チーム名に反映させたという"鳥リンゴ♥"。ゲーム開発の推進力となったのは、学生たちが次々と口にしたアイデアだったとリードプログラマの湊和久氏は語った。「学生さんたちが考えたアイデアを起点に2つまで企画を絞り込み、それに対して、私と李さんが実現のために必要な技術を解説しました」。その結果"Unityの2D物理エンジンを使ってキャラクターを滑らせる"という基本方針が早い段階で決定された。「私自身は普段のGame Jamと同じ姿勢で臨みました。ただし今回の開発に必要なUnityやプログラムの知識を学生さんたちが効率的に吸収できるよう、特に資料作りに時間をかけましたね。私がプログラムを書くことに没頭しすぎると状況確認や指示出しが疎かになるので、その点は注意しました」と湊氏は解説してくれた。それと並行し、ビジュアルアーティストの李学偉氏はアートディレクションを行ったという。「作った絵を後でポートフォリオに掲載することも視野に入れ、私はサポートに徹し、学生さんたち自身のオリジナリティが映える画づくりを意識しました」。

コーチングの姿勢が引き出した学生の生き生きとした表情

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福岡デザインコミュニケ―ション専門学校
矢野貴久先生
教務部 クリエーティブデザイン科
学科長

実施会場となったFCAにとって、今回のGame Jamは異例ずくめの事態だった。「ぜひ実施したいという思いがあった一方で、不安は尽きなかったですね」とFCA側の運営責任者を務めた矢野貴久先生は語る。卒業・進級制作展の翌日からの実施というスケジュールは、教員にも学生にも負担が大きかった。しかし、お陰で教室や設備の大半が使用されておらず、校内のリソースを惜しみなく投入できたことはGame Jam成功の追い風となった。

参加したのはゲームグラフィック&キャラクター専攻、ゲームプランナー専攻、ゲームエンジニア専攻の1~2年生18名だが、事前段階では約40名の希望者がいた。「全員が参加できる規模での開催は不可能だったので、Game Jamに対する各々の意気込みを書面に記し、事前にBNS開発者に選考していただきました」。Game Jamを成功させるうえで最も重要なのはモチベーションだと松尾氏は考えている。そのため、作品などの提出はあえて求めなかったという。「選考からチーム編成までBNSに一任したわけですが、日常的に彼らと接している我々教員が見ても納得のいく内容に感嘆しました」と矢野先生はふり返る。

そんな驚きの事態は、Game Jamが始まった後も頻発したという。「BNS開発者は、一方的に技を伝授するティーチングではなく、学生と同じ目線に立って緩急入り交じった言葉で自発的な行動を促すコーチングの姿勢で接してくれました」。お陰で学生たちは教員も見たことがないほどの生き生きとした表情で笑い、積極的な動きを見せたという。「この変化を一過性のもので終わらせず、学生全員を巻き込み継続させることが私の仕事だと感じています」。

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FCA Game Jamによって起こった変化は、実際にゲーム開発に携わったFCAの学生とBNSの開発者はもちろん、その周辺にも波及しているという。「今回参加できなかった学生も巻き込んで、自分たちだけでGame Jamを開催したい」。FCA教員のもとには、そんな要望が複数の学生たちから寄せられているという。今回のような活発な産学共同教育が今後も継続され、実を結んでいくことを応援したい。

TEXT_尾形美幸(Educat)
PHOTO_大沼 洋平

BNS



株式会社バンダイナムコスタジオ

バンダイナムコグループのゲームコンテンツの企画・開発を手がけており、1,000名以上のクリエイターが活躍している。大規模開発を推進する一方で、新たな発想のものづくりを促すGameJamなどの試みも積極的に展開し始めている。
http://www.bandainamcostudios.co.jp/

FCA



福岡デザインコミュニケ―ション専門学校

ゲーム以外にもCG・アニメ・イラストなどの多彩な専攻がある。3年間のカリキュラムの中には、今回のGame Jamのような企業のプロフェッショナルから直接学ぶ「産学協同教育」が数多く組み込まれている。
http://www.fca.ac.jp/



ユニティ

ライセンス協力

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン
http://japan.unity3d.com/



BD

企画協力

株式会社ボーンデジタル
http://www.borndigital.co.jp/

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