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『ウサビッチZERO』にみる カナバングラフィックス流 映像表現術 質感篇

『ウサビッチZERO』にみる カナバングラフィックス流 映像表現術 質感篇

[Topic2]2D素材×CG素材の融合

---カナバングラフィックス流が光るチーム一丸の制作体制

質感と同様に、モデリングする際にも指示書が役立つという。例えば、デザイン画からCGにすると、薄く・細く・小さくなる傾向があるため、絵画的な存在感を保つように、デザイン画の線画の内周ではなく、全体の印象から厚さ・太さ・大きさを決める、といった約束ごとが共有された。また、キレネンコの包帯やケダムスキーの毛など、『ウサビッチ』ならではの少し厚みのある質感を表現するために、テクスチャで質感を描き込むだけでなく、キャラクターのCGモデルの上に包帯や毛束のオブジェクトを重ね合わせて厚みを出す手法も採られている。これができるのは「うっすらとディフューズをかけるだけのシンプルなシェーダにしているからですね」と古部氏。テクスチャがシェーダの影響をあまり受けないため、2DとCGの素材が混同しても違和感が出にくいそうだ。ちなみに、宮崎氏が描く特徴的なデザインをCGで表現するために最も大切なことは「CGモデルにテクスチャが貼られた段階でデザイン画と"徹底的に"比較するのが全て(」古部氏)なのだとか。

魅力あるアニメーションという観点から見た場合も、作中で一度しか登場しないものはモデルを起こすのではなく、2Dの素材を作成してCGと組み合わせる手法が採られている。キレネンコがロープや鎖を引きちぎるシーンでは、動きのある部分はCGでモデルを作成し、動きのない部分は2D素材で描き込むことで作業負荷が抑えられた。逆に、ひっくり返ったペンキがとろりと流れるシーンでは、2Dの素材とペンキの専用モデルが用意され、独特の立体感とペンキの動きを演出し、こだわる部分はコストを割いて表現されている。

このように、本作では2DとCGの両者が上手く融合しているが「デザイナーとモデラーが完全に分離していないので、デザインするときにCGを意識したり、ときにはデザイナーが自らモデリングしたりして、2DとCGの移行はスムーズです」と古部氏。モデリングチームがアートチームでもあるという、カナバングラフィックスならではの強みが活きているのではないだろうか。

キャラクターモデル

▲キレネンコのモデル。Mayaで作成されている

▲(左)包帯など一部をオブジェクトとして作成していることがわかる/(右)完成モデル。テクスチャの質感とモデルの立体感が上手くマッチしている

▲(左)ケダムスキーのモデル/(右)完成モデル。同じく毛束の一部をモデルで作成することで、良い感じに仕上がっている

2D素材とCG素材の使い分け
▲(左)背景とキレネンコのCG素材/(右)動きのない鎖部分は2Dでレタッチしている

▲(左)動きのある鎖はCGでモデルを作成/(右)鎖のテクスチャが反映されて質感が出ている完成画。シェーダがシンプルなため、2DとCGの素材が違和感なくマッチしている

ペンキの表現

古部氏こだわりのペンキのカット。ペンキがかかった瞬間と垂れるときにはモデルを切り替え、アニメーションを付けている。

▲(左)ペンキがかかった瞬間のモデル/(右)垂れているときのモデル

▲それぞれの完成画

▲ペンキのテクスチャ。なお、手に着いたペンキはテクスチャで描かれている

コンポジット素材

個別にカラー調整をすることが多いため素材は小分けにされているが、基本的に必要な素材はカラーとシャドウと背景というシンプルな構成になっている。なお、影素材は赤がシャドウ、緑がオクルージョン。

▲背景

▲水の背景素材

▲キレネンコのカラー素材

▲キレネンコの影素材

▲キレネンコの背景影素材

▲プーチンのカラー素材

▲プーチンの背景影素材

▲完成画。ほかにレニングラードやベルトなどの素材も小分けされている

[Topic3]世界観をつくり出す背景

---CGでしっかり作成しレタッチで『ウサビッチ』らしさを出す

隅々まで描き込まれた密度の高い背景も、本作を支えるひとつの柱である。背景にも、設計という意味でのデザイン性が求められた。「柱・壁・空調など建物としてまずしっかりしているか、建物の役割がよく現れているか、キャラクターの生活臭があるか、という要素が揃っていることを基本としています」と富岡氏。

獄舎などの背景は、まずアニメーションやレンダリングがしやすいように、CGでしっかりパースを整えてつくるという。しかし、そのままレンダリングすると正確すぎるため、デザイン画にあるような2D特有のちょっとした線の歪みや、パース・立体感の崩れが消えて、『ウサビッチ』らしさが失われてしまう。そこで、モデル自体を調整し、テクスチャで見え方を大胆に変え、細やかにレタッチして、手描きらしい歪みや崩しを加えることで、絵本のような『ウサビッチ』らしい背景に仕上げているのだそうだ。

「特に柱やベッドなどは、デフォルメしてもサイズ感がリアルに寄りがちです。モデル単体ならそれで良くても、最終的な画として見ると、作品のデフォルメ具合から外れて浮いてしまうことがある。そこでデザイン画をじっくり読み込んで、宮崎アートディレクターだったらこれくらいのデフォルメ具合かなと、想定してやっています」と背景モデリングリーダーの関厚人氏は話す。本作のメイン舞台は独房のため、独房が頻繁に出てくるわけだが、モデルは同一のものを使っても、独房ごとにテクスチャを変えるなどして、リピート感が出ないように工夫しているのだとか。

背景はCGで描かれたものだけでなく、登場回数が少ないものはマットペイントとして宮崎氏が描いているものもある。この場合、まずコンテから宮崎氏がラフイメージを描き、それを基にアニメーションやコンポジットでCGキャラクターと絡む部分をラフモデルで作成し、最後に宮崎氏がラフモデルをベースにマットペイントを仕上げる、という特殊なながれを経ている。これも、2DとCGとの融合が上手くいっている部分だろう。6シーズン目の本作ではこれまでと印象を変えるなど、新しいチャレンジを続ける『ウサビッチ』シリーズ。画面の端から端まで、キャラクターの一挙手一投足まで、趣向の凝らされた作品である。そのこだわりは、ぜひコマ送りにしてじっくりとご覧いただきたい。

背景モデル

▲背景のデザイン画

▲ラフモデル

▲完成した背景。CGモデルから徐々にデザイン画へ近づいていることがわかる。なお独房は全て同じモデルが使われているが、家具やキノコを置いたり、壁の隙間のレイアウトを変更したり、壁や柱の汚れた感じをレタッチで調整することで、リピート感を抑えている。

レタッチ調整

▲簡単なひび割れや亀裂はラフモデルをつくらず、レンダリング画像に直接レタッチを描き加えて作成している。左が元画像で右がレタッチされた完成画

マットペイント

▲背景はマットペイントの手法も用いられている。まず宮崎氏がラフイメージを描き

▲それを基にアニメーションやコンポジットでキャラクターと絡む部分のラフモデルを作成する

▲最後に宮崎氏がラフモデルをベースにマットペイントを描き、完成だ



TEXT_佐藤 平夥

  • 『ウサビッチZERO』

    監督:富岡聡/原作・キャラクターデザイン・アートディレクション:宮崎あぐり/絵コンテ:富岡聡・三浦隆子/音楽・音響効果・プーチンの声:上野大典/脚本・制作:カナバングラフィックス

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