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モバイルゲーム開発における3DCGの活用が一般化し、AutodeskのMaya、3ds Maxといったハイエンドの3DCGツールに対する理解と習熟がゲーム開発者にますます求められている。今回ご紹介する『リトルノア』は、CygamesBlazeGamesによる本格モバイルRTS(リアルタイムストラテジー)で、リアルタイムCGとプリレンダーを上手にミックスした、独特のアートスタイルが目を引く作品だ。活き活きと描かれた美しい世界や、100種類にものぼるキャラクターが登場する本作のゲームシステムでは、数百体ものキャラクターの同時描画、大量の3DCGモデルとアニメーションの制作、品質の均一化が求められた。それらを実現するためのワークフローと、各種ノウハウについて見てみよう。

リアルタイムCGとプリレンダーが混在するアートスタイル

『リトルノア』は、"方舟"と呼ばれるホームグラウンドを開拓・成長させつつ、1体のメインキャラクターである"アニマ"と多数の召喚キャラクターからなる部隊を使い、ほかの方舟やボスキャラクターの撃破を目指して戦うRTSゲームだ。RTSゲームの代表作には、古くはブラウザゲームの『Travian』、近くは海外製モバイルゲームの『クラッシュ・オブ・クラン』などがある。本作はモバイルユーザーに人気の歴史あるジャンルに属しつつ、アートディレクター吉田明彦氏による柔らかで華やかなビジュアルデザインを活かし、強い独自性を打ち出すことに成功している。

建設要素とバトル要素がクォータービューで展開。緻密な絵作りがなされている

およそ1年半にわたった本作の開発を率いたBlazeGames代表取締役の岡田佑次氏は、本作に3DCG表現を採用した経緯について「アートのクオリティを均質化し、ゲーム制作中の試行錯誤を容易にするため、3DCG表現を用いました」と語っている。

  • 岡田佑次氏(BlazeGames 代表取締役)

本作ではアニマとボスキャラクターにリアルタイムCG、召喚キャラクターや背景モデルにはプリレンダーをスプライト化したもの、という2系統の3DCGアセットが使われている。その理由は、"1画面に数百体のキャラクターを出す"というゲームデザイン上の要請があったためだ。数百体ものリアルタイムCGのキャラクターを同時に描画することは、現在主流のスマートフォンやタブレット端末にはまだ少々荷が重い。 この手法はゲームプログラムのパフォーマンスを高めただけでなく、クォータービューで展開する本作全体の映像品質を向上させることにも寄与している。また、大量のアセットを生み出すため、その制作ワークフローを最適化するうえでも大きなメリットをもたらした。続いて、その実際的な部分を見ていこう。

リアルタイムCGで描かれるアニマ&ボスキャラクターと、2Dスプライトとして描かれる多数の召喚キャラクターたち

アートディレクター吉田明彦氏によるイラストレーションのタッチを再現したリアルタイムCGキャラクター(左)と、プリレンダーキャラクター(右)

量産と品質の安定化を見越した制作ワークフロー

本作の開発チームは、最盛期でおよそ40名にのぼる。モバイルゲームとしては結構な大所帯だが、サーバサイド担当のエンジニアチームの規模が大きい一方で、アートチームは8名程度と、作品の物量に比べて意外なほど少ない。これは、実制作の7~8割をアウトソースしたためである。
アウトソースを交えた柔軟な制作体制をとるうえで課題となったのが、ローンチ時点で100種類にものぼる召喚キャラクターを効率的に量産しつつ、その品質を一定に保つ、制作ワークフローの実現だった。
最終的に2Dスプライトデータに落とし込まれる召喚キャラクターの素材は、原理的には最初から2Dで制作することも可能だが、2Dイラストの技術は多分に属人的な部分が多い。そのため、制作にかかる時間が読みづらくなるのに加え、品質にばらつきが出やすくなる。この問題意識を念頭に、「誰が作っても一定のクオリティが保てる作り方を模索しました」とCygames3DCGデザイナーチームのマネージャーを務める谷本裕馬氏は語る。

  • 谷本裕馬氏(Cygames 3DCGチーム マネージャー)

そこで本作開発チームは、全ての召喚キャラクターをMayaで制作し、そのアニメーションパターンから必要フレームをレンダリングし、出力された画像を外部ツールでアトラスマップにまとめる手法を採用した。
前述の通り、CygamesとBlazeGamesではMayaを3DCGの標準ツールとして使用している。3DCG制作を担当するスタッフの大半は、コンシューマゲーム機での開発経験があり、なおかつMayaユーザーが多くを占めているためだ。また、ゲーム業界で高いシェアを誇るMayaで共通化を図れば、アウトソース先を決める際の選択肢が増えるというメリットもある。

制作に先立つキャラクターデザインイラスト

本作では、キャラクター1体あたり3モーション、3方向のパターンを、1,024×1,024サイズのアトラスマップに詰め込んでいる。そのために必要なアニメーションのフレームを絞り込むのに苦労したそうだが、リアルタイムCGとは異なり、ジオメトリやボーン数に全く制限がないなかでの制作が可能という点は大きなメリットだ。制限を気にせず3DCGモデルを作り込めるうえ、色変えやパーツ変更によるバリエーション化も簡単だ。さらに、ライティングパラメータの共通化を図ることで、見栄えを統一することも容易になる。

モブの召喚キャラクターにも関わらず、非常に高精細にモデリングされている。また、プリレンダー前提の作り込みがなされている

ゲームで使用されるアニメーションパターンをまとめたアトラステクスチャ。キャラクター1体あたり1,024×1,024のテクスチャを1枚使用する

アニメーション制作においても、リアルタイムCGエンジンの制限に縛られることがない。例えば、本作の召喚キャラクターの一部には頂点アニメーションが使われている。開発に用いたゲームエンジン(Unity 4.6)では頂点アニメーションをネイティブサポートしていないため、リアルタイムCGを使う場合はボーンアニメーションで可能な表現に縛られてしまう。「プリレンダーの活用によってMaya上で可能な表現を縦横無尽に活かせました」とCygames 3DCGデザイナーの大成乗治氏は語る。

  • 大成乗治氏(Cygames 3DCGデザイナー)

剣閃部分はMaya上の頂点アニメーションで簡単に実現されている。同じ表現をリアルタイムCGのエンジン側で描画するなら、エンジンを独自拡張するか、ボーンアニメーションにエフェクトを組み合わせるなどの対応が必要となる

谷本氏は「結果的にスケジュールが膨大に遅れることも、クオリティにばらつきが出ることもなく、完成を迎えられました」と、この判断の正しさを振り返った。

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使用ツールをMayaに統一したことで得られたメリット

本作では、リアルタイムCG素材とプリレンダー素材の両方をMayaで制作している。使用ツールを統一したことで、プロジェクトの生産性が高まったと、Cygames 3DCGデザイナーの田中正英氏は語る。

  • 田中正英氏(Cygames 3DCGデザイナー)

例えば、アニマ&ボスキャラクターはリアルタイムにレンダリングされるため、高精細なジオメトリやハイスペックなシェーダー機能の適用が難しい。そこで、細かい陰影をZBrushでモデリングし、そのモデルをMayaにインポートし、プリレンダーと同じライティングパラメータを適用し、焼き付け(ベイク)用のテクスチャを生成している。この方法のお陰で、ランタイム負荷をかけることなく、周囲のビジュアルに馴染むアセットを簡単に作り出せるようになった。


ボスキャラクターはリアルタイム描画のパフォーマンスが優先されるため、ジオメトリは低密度だ。これを補うため、ZBrushによるスカルプトモデルから生成したライティング要素とオクルージョン要素をテクスチャに焼き付けている

本作はクォータービューで視点が固定されているため、背景にもプリレンダー素材が用いられている。その多くはMayaで制作されているが、細かい凹凸面のある岩石などのモデリングにはZBrushが用いられている。これらも共通のライティングパラメータを使って出力しており、キャラクターとうまく馴染ませることに成功している。


背景もフル3DCGで制作されている。最終的には一枚絵として出力されるが、ライティングパラメータを共有することで、異なるパーツやキャラクターと簡単に馴染ませることができる

リアルタイムCGで描画されるエフェクトは、基本的に内製ツールで制作されている。ただし、さらに複雑な表現をしたい場合には、Mayaを使用したという。Mayaであれば、ボーンアニメーション、メッシュ変形、パーティクルシミュレーションなど、様々な技法を使った柔軟な表現ができる。制作されたエフェクトは内製ツールにインポートされ、最終的にはUnity上で再生される。

内製ツールで制作したエフェクトをUnity上で再生している(左)。必要に応じて、Mayaで制作したエフェクト(右)を内製ツールへエクスポートしている

以上のように、本作では制作全般に渡ってMayaが活用されている。
独特なタッチで描かれたキャラクターの原画を3DCGで再現すべく奮闘してきたCygames 3DCGデザイナーの井上久美子氏は、「Mayaのコンポーネントエディタは、すべての要素を柔軟に調整できます。今はもちろん、コンシューマゲームを開発していた時代も、法線や頂点カラーを細かく調整してきました。とくにローポリゴンのモデリングでは、そういうアプローチを多用します。Mayaの場合、少ない手数でメニューの深いところに到達できるので操作性も良いですね」と語っている。

  • 井上久美子氏(Cygames 3DCGデザイナー)

本作は既に初期の開発を終えており、現在は運営フェイズに入っている。CygamesおよびBlazeGamesでは、今後も3DCGを活用したゲームタイトルを発表していく予定で、3DCGアーティストやエンジニアの拡充を積極的に進めていく考えだという。また、全社で使用しているMayaの最新版へのアップグレードも検討したいとのことだった。さらなる加速が予想されるモバイルゲーム開発でのMayaの活用に、今後も注目していきたい。

TEXT_佐藤カフジ
EDIT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田充

Maya2016

Autodesk Maya 2016

●動作環境
OS:Windows 7 Professional(SP1)、Windows 8.1 Professional、Apple Mac OS X 10.9.5 および 10.10.x
CPU:Intel または AMD製の64 ビット マルチコア プロセッサ
HDD:4GB のハードディスク空き容量
メモリ:4GB(8GB 以上を推奨)

●価格(税別)
Maya 2016 スタンドアロンライセンス:565,000 円
Maya 2016 Desktop Subscription with Basic Support(1年間ライセンス):226,000円<

Maya2016

Autodesk Maya LT 2016

●動作環境
OS:Windows 7 Professional(SP1)、Windows 8.1 Professional、Apple Mac OS X 10.9.5 および 10.10.x
CPU:Intel または AMD製の64 ビット マルチコア プロセッサ
HDD:4GB のハードディスク空き容量
メモリ:4GB(8GB 以上を推奨)

●価格(税別)
Maya LT 2016 スタンドアロンライセンス:111,000 円
Maya LT 2016 Desktop Subscription with Basic Support(1年間ライセンス):33,000円

Maya2016

Autodesk 3ds Max 2016

●動作環境
OS:Windows 7 Professional(SP1)、Windows 8.1 Professional
CPU:Intel または AMD製の64 ビット マルチコア プロセッサ
HDD:6GB のハードディスク空き容量
メモリ:4GB(8GB 以上を推奨)

●価格(税別)
3ds Max スタンドアロンライセンス:565,000 円
3ds Max 2016 Desktop Subscription with Basic Support(1年間ライセンス):226,000円

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