映像コンテンツの海外展開によるビジネス化を支援することを目的として昨年設立されたNPO法人映像コンテンツ産業研究会。
今回は、その取り組みについて映像コンテンツ産業研究会の松下由香氏(モンブラン・ピクチャーズ)と福岡市経済観光文化局コンテンツ振興課の楠本賢司氏に話を伺った。

CGWORLD(以下、CGW):映像コンテンツ産業研究会の設立経緯を教えてください。

松下由香氏(以下、松下):「福岡を拠点に映画、アニメーションなどの映像コンテンツの海外展開によるビジネス化」というのがそもそものコンセプトです。通常、作品を制作した場合、いったん東京に持っていき東京で成功したら海外へ展開するのが一般的なのですが、髙島市長も「福岡はアジアが近い」と言う通り「であれば、直接持っていったらどうだろうか?」ということで、取り組みをはじめました。

2014年に初めて、モンブラン・ピクチャーズとして香港フィルマートに行った際に、日本から来ているのは販売代理店や大手企業の国際部の方がほとんどで、制作スタジオから直接参加している方がいなかったんですよね。そんな中「放課後ミッドナイターズどうですか?」と話を聞くと「こういうのはできないけど、もう少しこうならその企画は欲しい」という具体的な話しを聞けるんです。

それを社内に持ち帰るとすぐに別の企画に反映できるのが制作スタジオのメリットだと感じました。そして、海外に行けば行くほどクリエイティブ寄りポジションの方々がほとんどいないということが分かりました。これはチャンスだなと思い、NPO法人として映像コンテンツ産業研究会を設立しました。また、福岡市もクリエイターの海外進出を支援したいという意向があり、昨年から福岡市の事業委託も受けて進めています。

CGW:福岡市との映像コンテンツを海外展開する取り組みでは、どのような活動をしていますか?

松下:まず、福岡の制作スタジオ、学校、クリエイターなどを全て訪問し「これから海外に作品を売り込みに行くので皆さんの作品を預からせてください」といった作品の整備から始めました。昨年は既に完成している作品の放映権を売れる作品だけを集めました。

▲昨年イベントで配布したセールス資料

それらの作品を昨年12月にシンガポールで行われた「アニメフェスティバルアジア(AFA)」と3月に香港で行われた映画祭「香港フィルマート」に持っていきました。

アニメフェスティバルアジア(AFA)でブースを出展し、さらにその翌週のアジアテレビジョンフォーラムというマーケットでは、ディズニーチャンネル、カートゥーンネットワーク、ニコロデオンなどのバイヤーの方々と商談してきました。

  • ▲アニメフェスティバルアジア(AFA)で出展したブース

  • ▲香港フィルマートでの商談の様子

今年度は完成作品だけでなく、企画段階のものもセールスする予定にしています。海外のバイヤーやプロデューサーと話してわかったのですが「完成してる作品ではなくて、むしろ制作費は出すから一緒に作るアイデアや企画が欲しい」と言われることが多いんです。企画であれば、様々な制作スタジオでストックがたくさんあるので、今年は昨年以上に話が広がるのではと期待しています。

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CGW:海外のバイヤーから見た日本の印象は?

松下:手塚治虫作品にはじまり『ドラえもん』『聖闘士星矢』『ドラゴンボール』など海外でも人気の作品が多いので、日本のストーリーのアイデアや企画がユニークであるとよく言われます。でも制作費が高いイメージがあるので、日本とはプリプロの部分だけで、制作は東南アジアのスタジオと組むことを勧められます。

CGW:行政としてはどのような思いで取り組まれてますか?

楠本賢司氏(以下、楠本):まず、福岡の企業が"本気でやりたい"と思っている想いを大事にしたいと考えています。福岡市も一緒に何か出来ないかと考えて施策を考えて、事業を実施するように心がけています。その中で、行政も一緒にやりませんかと民間の方々から声をかけていただいたのは本当に嬉しく思っています。

基本的には、自治体として、1社の作品だけを売り込むことが難しいので、行政として支援できることは展示会や交流会等の「場の提供」だと思います。官民が一緒にやることで福岡で制作されたオリジナル作品を「FUKUOKA ANIMATION」として見せることができますし、「福岡はアニメーションの街」としてのブランディングが出来あがって来ると、産業振興だけでなく観光の面からもプロモーションが出来ると考えています。

  • また、自治体が地元の企業等の声を聞かずに策定した事業は失敗しがちだと感じているのですが、日ごろから民間の方からの意見を聞き、時には一緒に汗をかいて考案した事業なので方向性が共有できており、参加企業も我々も動きやすく成果に繋がりやすいと考えています。

CGW:昨年活動をした成果はいかがですか?

松下:実績は数作品でした。現実は難しいですね。要因は分かっていて、作品の数も多くないし、求められている作品のターゲットが子供向けでチャンネルごとに様々でレンジも狭かったりで......。日本ですでにヒットしてるものであれば売れるけど、まだ日本でも放送されてないものには興味を持たれないので、それなら企画の方がいいという先ほどの話につながります。

一方で去年アヌシーアニメーションフェスティバルのマーケットに参加した時に、フランスのバイヤーに、どうしたらテレビ局が買ってくれるか聞いたら「フランスのプロデューサーがいないとウチは買わないよ」と言われたりとか。海外では、法律でテレビの一部の枠は自国のスタジオから作品を買うように定められてることが多く、完成作品が海外から入り込む隙は限られているようです。

CGW:活動してみて大変だったことは?

松下:バイヤーとアポイントを取るのに苦労しています。映画祭やマーケット会場に行くだけで会えるわけでもないので。入場パスを買うと来場バイヤーの情報も提供されるのですが、こちらの認知度が低いこともあり、事前にコンタクトをとってもなかなか返事が来ない。まだまだ自分自身を含め、売り込めていないということが課題ですね......。

  • さらに会うことはできても向こうは一気に大勢と会うので、覚えてもらうのに苦労します。なので、帰ってきてからのコミュニケーションが重要で、相手方にいかに好感を得らるかがに気を使っています。今は毎年顔を出して、またアイツが、日本から(福岡から)来てると印象づけている段階ですね。

楠本:そこに対して我々としては、いかに福岡の企業が現地で活動しやすくなるかという、側面的な支援をしています。現地入りする前に「福岡からこの企業が渡航します」という情報を向こうの政府や関係機関に流し、交流の契機や糸口になるようなきっかけを作りをしています。日本にいるうちから、詳細な情報を流し、事前に綿密なコミュニケーションを取ることで渡航する企業が円滑にコンタクトが取れるだけでなく、効率よいネットワークの構築ができればと考えています。

CGW:最後に今年の活動内容とこれから目指すべき姿を教えてください。

松下:今は、作品や企画の掘り起こしとセールス資料作成に専念してて、10月から3月の間に出来るだけ多くのマーケットに参加する予定にしてます。TIFFCOM(東京国際映画祭の併設マーケット)からカナダ、その後はシンガポール、マイアミ、韓国など。
今年は作品だけでなく企画アイデアも多く集まっているので、昨年以上に実績をあげたいですね。 最終的には、実績を重ねていって、福岡に行けば、海外への商流があるよ。というのを国内のクリエイターの皆さんに認知してもらえるところまでいけたらと思います。

楠本:考え方としては松下さんとほぼ同じです。若者が多く、活気のある街であるところやきちんと福岡でビジネスが出来るというところを、世界に向けて特にアジア向けてはしっかりと発信し続けたいです。


福岡では「福岡をゲームのハリウッドに」をスローガンとして2004年に組織された地元ゲーム会社の団体・GFFが知られてきた。それから10年を経て登場した映像コンテンツ産業研究会。今後はこちらの取り組みにも注目しておきたい。また、現在福岡市では県外からのU/Iターン促進プログラムとして『福岡クリエイティブキャンプ』を実施している。県外からの移住者で条件を満たせば40万円の応援金が支給されるプログラムだ。これから海外にチャレンジしたいクリエイターは福岡で働くことも視野にいれてみるのもいいかもしれない。

TEXT_真狩祐志
PHOTO_蟹由香

■関連リンク
福岡クリエイティブキャンプ 2015:http://fcc.city.fukuoka.lg.jp/