ゲーム・映像業界で八面六臂の活躍を見せるリブゼント・イノベーションズ株式会社に、2017年7月からBACKBONEスタジオが新設された。映像・CG・ゲーム業界のリグ制作とワークフロー開発に特化した専門集団で、旗振り役を務めるのは過去16年間、リガーとして活躍してきた福本健太郎氏だ。なぜリギング専門集団なのか。なぜリブゼントの事業部として発足したのか。同社代表取締役社長の橋本善久氏も交えて、独立の理由と今後の意気込みについて聞いた。

INTERVIEW_小野憲史 / Kenji Ono、沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

<1>映画『インディペンデンス・デイ』がきっかけでCG業界に

CGWORLD(以下、CGW):遅ればせながら、BACKBONEスタジオ新設おめでとうございます。1年弱が経過しましたが、今の手応えはいかがですか?

福本健太郎氏(以下、福本):ありがとうございます。おかげさまで、様々な企業様から幅広くお問い合わせをいただいています。事業に賛同してくれる人や、一緒に働きたいという方からのお問い合わせもいただいていて、5月からはBACKBONEスタジオは5人体制となりました。2018年度中に7~8名くらいまで増やしていきたいですね。

  • 福本健太郎/Kentaro Fukumoto
    1978年兵庫県生まれ。大学卒業後、専門学校を経て2002年に株式会社デジタル・フロンティアに入社。アニメーター、セットアップグループリーダーとして活動し、2007年に株式会社ポリゴン・ピクチュアズに移籍。アニメーションの経験を活かした「アニメーター目線のリグ」、「軽いリグ」、「量産・効率化リグシステム」の開発を得意とし、ゲーム、映画、TVシリーズなどの長編案件でリギングスーパーバイザーとして活躍。2012年にアセット部部長に就任しリギング、モデリング、エンバイロメントの3グループを統括。2017年、リグに特化したBACKBONEスタジオを設立

橋本善久氏(以下、橋本):反響が大きかった理由の1つに、福本さんの人柄もあると思うんですよ。自分はゲーム業界中心でキャリアを積んできたのに対して、福本さんは映像業界中心。リブゼントとしてもBACKBONEスタジオができたことで、リギングという非常にディープなところから、業界にしっかりと貢献していけます。色々な意味でシナジーが上がると期待しています。

  • 橋本善久/Yoshihisa Hashimoto
    1973年愛知県生まれ。東京大学工学部卒業後、セガで技術ディレクターやゲームディレクター、スクウェア・エニックスでCTOなどを務め、17年間小規模から大規模まで様々な家庭用ゲームソフト開発、ゲームエンジン開発の経験を持ち、クリエイティブ/テクノロジー/マネジメントのスキルをもち合わせているのが特徴。2014年より独立し、リブゼント・イノベーションズを設立。「仕事に活気を、生活に潤いを。」をテーマにテクノロジーを活用した人々の日常のささやかな幸せづくりに貢献する会社づくりを目指している。ライフイズテック株式会社 取締役CTO、株式会社INEI 執行役員、他を兼務

CGW:そもそも論になるんですが、福本さんはなぜリガーになられたのですか?

福本:子どものころから映画が好きで、将来は映画制作に携わりたいという思いがありました。きっかけになった作品が映画『インディペンデンス・デイ』(1996)です。同じころテレビでデジタルハリウッドの特集をしていて、CGを学べる専門学校があることも知りました。ただ家庭の事情もあり、まずは大学に行くことになりました。長男だし、理系に進んだ方が就職にも困らないよ、と説得されまして......。

CGW:数学はお得意だったのでは?

福本:幸か不幸か数学も好きでした。ただ、理系の大学に進学したとしても、何もやりたいことがなかったんですよね。目的もない中で受験勉強をするのが嫌で仕方がなくて。センター試験対策に化学を勉強していて、どうしても興味をもてなくて挫折しかけました。どうせ大学に行くならCGを学べる大学に行こうと思い、そこから映画づくりを学べる大学を探して、新設されたばかりの大阪工業大学情報科学部に進学を決めました。CGについて勉強できる研究室があったのが決め手でしたね。まだ学部で2期生でした。

CGW:学生生活はどうでしたか?

福本:自分はMayaSoftimageを学びたかったんです。ただ、大学ではそうした授業がなく、3年間プログラムの勉強が中心でした。4年目に研究室に入りましたが、CGのアルゴリズム研究が中心で、自分がやりたいことと温度差があって......。研究室にあった3ds Maxをインストールして、独学で勉強していましたね。

CGW:うーん、それは厳しいですね。

福本:業界に入れるツテがなかったので、大学卒業後にデジタルハリウッド大阪校に進学して、Softimageの使い方を学びました。卒業後は映画をつくりたくて、すぐにでもアメリカに行きたかったのですが、当時ハリウッドではMayaが多く使われていて、渡米しようにも、Mayaのスキルがない。国内でMayaの経験を積むには東京のCGスタジオに行くしかない。そんな風に悶々としていたころ、たまたまデジタル・フロンティアさん(以下、DF)からお誘いを受けて、上京を決意しました。

CGW:当時からリガー志望だったんですか?

福本:いえ、最初はアニメーター志望で、リガーという専門職種があることすら知りませんでした。当時DFではゲームの長編のプリレンダー映像制作や映画をつくっていて、最初にアサインされたのはゲーム『ディノクライシス3』(2003)のチームでした。最初は背景のプロップモデリングにアサインされましたが、背景に興味がなかったので逃げ回っていました。ヘアラインが入った金属製のコップをモデリングするのに、3日もかけたりして......(笑)。まあ、本音を言えばテクスチャ制作が苦手で、背景に行きたくなかったんです。

CGW:なるほど。

福本:それとなく「アニメーションの作業をやりたい」とアピールしていたところ、「じゃあアニメーション作業までの期間はリグやってて」ということになり、リグを触るようになりました。背景よりもリギングの方がアニメーターに近いですよね。

CGW:リギング専門になったのはいつからでしょう?

福本:会社が成長していく中で、個々のリガーが自由にリギングをするのではなく、チームとしてまとまって、同じスタイルでリギングをしていかなければ、回らなくなっていきました。そこで社内にリグチームができまして、そこからですね。入社して3~4年目、だいたい2005~6年のころだと思います。

CGW:そこから10年以上の歳月が経ちましたが、日本のリガーを巡る現状はどのように変わりましたか?

福本:各社でそれぞれの文化やルールがあり、それぞれで成熟してきていますが、リガー人口が増えないので、会社間のレベル格差が拡大していますね。そもそも16年くらい業界にいて、リガー志望で入ってきた新人に、数人しか会ったことがないんですよ。学校でもリギングについては、あまり専門で教えないですしね。

橋本:例えばシンガポールの3desence Media SchoolというCG学校があって、3ヶ月の短期間でギュッとCGスキルを詰め込むのですが、先生たちはとにかく情熱的に教え、生徒たちは夢中になって寝袋持参で昼夜問わず猛特訓する面白い学校です。そこですらも、モデラーコース、アニメーターコース、VFXコースはあっても、リギングコースはありませんしね。実際、リギングについて学ぶには、モデリングもアニメーションも数学の素養も必要なので、限られた時間の中では学生に教えにくいところがあるのかもしれませんね。

福本:ただ最近では、作品規模も大きくなっていますし、リアルタイムCGとプリレンダーCGの境界が曖昧になってきていますよね。だからプリレンダーCGをつくる上でも、後の展開を見越してリギングをしていかないと、続編制作やゲームなどへの展開でトラブルが発生しがちです。そこでBACKBONEスタジオのようなリギング専門集団の存在価値が出てくると思っています。

橋本:映像業界と比べてゲーム業界ではハードスペックの制約が大きかったこともあり、昔はリグ専門チームがそこまで必要ではありませんでした。モデラー、アニメーター、TAが兼務するケースが多かったのではないでしょうか。ただ、現世代機ではリアルタイムCGでもプリレンダーCG並みの映像が出せるようになったので、各社ともにリギングに対して急ピッチで力を入れられるようになった印象があります。

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<2>橋本氏のプロマネに関する技術講演に感銘を受ける

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<2>橋本氏のプロマネに関する技術講演に感銘を受ける

CGW:そんな中、BACKBONEスタジオが発足するきっかけは何だったのでしょうか? もともと、お2人はお知り合いだったんですか?

橋本:2012年に開催された「スクウェア・エニックス オープンカンファレンス 2012」がきっかけでした。当時、私が起ち上げて部門長をしていたテクノロジー推進部主導で開催した技術カンファレンスです。そこに福本さんが受講者として参加してくれて。あのときが初対面でしたよね。

福本:2007年にポリゴン・ピクチュアズさん(以下、PPI)に移籍して、本格的にリギングに取り組むようになりました。本当はPPIで研鑽を積みながら、良いタイミングでハリウッドのスタジオに挑戦したかったのですが、2012年にアセット部部長に就任したんです。そこで情報収集のためにそのカンファレンスに参加したのですが、そこで橋本さんが行われた講演に感動しまして。もう目から鱗が束になって落ちたというか。


CGW:そのときの講演は確かプロジェクトマネジメントに関する内容でしたよね(「ゲーム開発プロジェクトマネジメント講座2012」)。アセットやリギングには関係ないのでは?

福本:実は当時、部長に就任したばかりで、どうすれば部下がスケジュール管理に意欲的に取り組むようになるか、悩んでいました。それにリギングって、プロジェクト全体のスケジュールにものすごく影響を及ぼすんですよ。だからこそ、事前に段取りを組んで、計画的に進めていく必要がある。そういったところが、ものすごく刺さりまして。

橋本:当時ゲーム業界でアジャイル開発(※)も盛り上がり始めていたのですが、「設計や計画をしなくてもいい楽なやり方でしょ」的なアジャイルへの誤解も広まりつつあり、危機感もありました。実際にはウォーターフォールでもアジャイルでも設計や計画はしっかりできているに越したことがないという本質は変わらなくて、「ちゃんと準備を丁寧にやらないとプロジェクトはあっさり炎上するのでコツコツやりましょうね」というメッセージを込めました。

※アジャイル開発:ソフトウェア開発におけるプロジェクトの進め方を定義したもののひとつ。アジャイルは「素早い」、「機敏な」という意味

福本:懇親会もそっちのけで名刺交換の列に並んで、ご挨拶させていただいて。2時間くらい並びましたよ。そのときに「アジャイルな見積りと計画づくり」(マイク・コーン、マイナビ出版)という書籍をご紹介いただきました。数ページ読むだけで眠たくなる、かなり歯応えのある内容なのですが、4~5回読みましたね。その上で、見よう見まねで自分のプロジェクトに使ってみたら、かなり効果が出て。

CGW:それは良い話ですね。

福本:ただ、実務で使っていると、いきなり新規タスクが割り込んできたり、本で解説されていないことも起きるじゃないですか。そんなとき、厚かましくも橋本さんにメールで質問していたんです。それらにきちんとご解答いただいて。そこから交流が始まって、PPIでスクエニさんに見学に行ったり、スクエニさんからも遊びに来ていただいたりして。

橋本:その後、自分がスクエニを離れてリブゼントを起業してからも、普通に友人として付き合っていて、たまに飲みに行ったりもしていましたね。

<3>これまで培ってきた知見を業界全体に還元したい

CGW:そこから、なぜリブゼントに合流されることになったんでしょうか?

橋本:当時の状況を説明すると、まず福本さんが独立・転職を考えていると、友人として相談を受けまして。当時福本さんは他社に転職するか、リグの専門家として個人事業主になるか、会社をつくるか、どういう選択が良いのか悩んでいると聞きました。

福本:さっきもお話しましたがPPIでは2012年以降、部長としてマネジメントもしつつ、現場でリガーとして働く、プレイングマネージャー的な立場を続けていました。そんな中で、次第に管理職の比重が高まっていきました。ただ、自分は本当にリギングが大好きなんですよね。業界に入るまで何もやりたいことがなくて、入ってからリグに出会って。このまま管理職になっていいのかと逡巡がありました。

CGW:わかります。

福本:管理職の比重が増えるのはやぶさかではないけど、その前に自分の知見を業界に還元したいという思いもありました。先ほどもお話した通り、学生でリガー志望者もいないし、そういった教育体制もない。自分がリガーとしてやってきたことを、何か業界全体に役立てられないかと。数年前から少しずつ、そうした思いが募ってきて、飲みの席で相談したんです。

橋本:そこで「そもそも何がしたいのか」と、カウンセリングじゃないけど、時間を取ってヒアリングしたんですよ。そうしたら「リグをしっかりやっていきたい」、「業界に貢献したい」という2つの想いがあることがわかって。その一方で、完全に独立するのは、どうも不安があったようなんです。だったら、リブゼントでその想いを応援するから、業界の各社さんに対して中立的な立場で仕事をしてみるのも面白いんじゃないかと。自分も独立して、多種多様な会社さんとお付き合いをするようになって、視野が広がったり、勉強をさせていただいた経緯がありました。

CGW:それで事業部新設というかたちで迎え入れることになったと。

橋本:極端な話、初年度は1円も稼がなくても良いと言いました。それよりも、リブゼントにBACKBONEスタジオができることで、業界にどんな化学変化が起きるか、見てみたくなったんです。Webサイトも福本さんと二人三脚でつくりましたよね。

福本:やりたいという思いはありましたが、それを明文化して、コンセプトにまとめるのは大変でした。橋本さんにも導き出してもらって、3ヶ月くらいかかりましたね。

橋本:業界に対して、どんな貢献をしたいのか、またできるのか。そして、ホームページを見た人に、いかに共感してもらえるか。それらを、どうしたら誤解なく伝えられるのか。2人でじっくりと考えました。幸い、コンセプトアートのINEIでの仕事を通して、やりたいことを聞いてコンセプトにまとめることには慣れていました。

福本:そんな風にしてまとまったのが「制作を支える柱でありたい」、「人・会社・経験を繋げたい」、「クリエイターの働き方を変えたい」という3つのビジョンでした。おかげさまで共感してくださるお客様も多くて、お話をさせていただく中で、皆さん同じような問題意識を抱えていらっしゃることがわかりました。



BACKBONEスタジオWebサイトのトップ画面(上)と3つのビジョン(下)

CGW:クリエイターの働き方にまで踏み込まれている点が印象的でした。

福本:前にも触れましたが、リグの設計が脆いと前後の工程で問題が出るんです。アニメーションが重かったり、レンダリングで問題が出て、後から1フレームずつレタッチする必要が出たり......。それって、アニメーターのモチベーション低下に直結するおそれがあるんですね。また、大手でこうした問題が起きると、得てして協力会社さんにも影響が及びますし。

CGW:ああ、なるほど。問い合わせても火消しに追われていて、対応できないとか。

福本:しっかりとしたリグを納品すれば、エラーを抑えることにより後工程に余裕が生まれますし、クリエイターのモチベーションも上がって、生産性も向上します。そうして生まれた時間を新しい技術開発や休息などに充てることもできます。そんな風にリグ目線で働き方を変えたいと思っていて。

橋本:1社で作業工程が完結できる大手CGスタジオで、全部署全従業員が100%過不足なく稼動するのは理論上不可能じゃないですか。そうしたリソースのニーズの揺らぎの隙間を埋めるのも、我々のような専門家集団の存在意義の1つかなとも思っているんです。我々も含めて、業界全体で構造最適化が進めば、CGスタジオの稼動率や資金効率が上がり、無理な納期による詰め込み作業やキャパオーバー、また逆にシーズンやパートによって発生しうる人材の余剰を減らす作用が見込め、同じ労力でも品質や生産性が上昇します。そういう意味ではINEIも同じなんですが、特にリガーは人手不足が深刻なので、より業界に貢献できるのではないかと思います。

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<4>ゲームと映像、両方を知っていることが強み

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<4>ゲームと映像、両方を知っていることが強み

CGW:仕事の見通しはいかがですか?

福本:おかげさまで、グロスで受注してくれないかというお問い合わせもいただいています。しっかりとしたアウトプットが安定して出せるよう、まずは足下を固めることに注力して体制を整えたいですね。

橋本:リブゼント自体も事務所を増床して、BACKBONEスタジオのスタッフがゆったりと仕事ができるようにしています。

CGW:リギング専門のスタジオは、日本では初となりますが、海外でも例がないのでは?

橋本:だと思います。だからこそ面白いと思っていて。私もそういった変わった試みが好きなんです。

CGW:先ほどのお話にもありましたが、リギングについて提案すると、ワークフロー全体についても提案せざるを得ないですよね。

福本:そこが面白くもあり、難しさでもあると思っていて。我々は各社様のニーズや作法に合わせて、一緒に考えていくスタイルを採っています。ツールや仕様ががっちり決まっていれば、それに合わせて作業をします。逆にこちらから、様々な提案をすることもあります。


CGW:クライアントに傾向はありますか? 映像業界が多いとか、ゲーム業界が多いとか......。

福本:単純に業界傾向というだけでなく、新しい領域に挑戦したいというご相談も多いですね。「これまでプリレンダーCGでやってきたけど、リアルタイムCGにも参入してみたい。ついては、過去のアセット資産を上手く使えないか」などは典型例です。

CGW:なるほど。リアルタイムCGもゲームだけでなく、バーチャルYouTuberなど、さらに事例が拡大していますし、そうした相談も増えそうですね。

橋本:はい、そこは我々も当初から見越していた部分でしたし、実際に増えて来ていますね。VTuber関係でキャラクターのリグやゲームエンジンのセットアップにお悩みの会社さんも気軽にお声がけもらえればと思います。

CGW:リアルタイムCGとプリレンダーCG、もっと言えばゲーム業界とCG・映像業界で、リギングの傾向はありますか?

福本:ゲームはデータの制限が多いので、リギングもそれに則したものにする必要がありますね。ボーンの数だったり、ウエイト情報だったり......あまり凝りすぎると、FBXファイルにエクスポートできなかったりしますし。ときにはボーンの回転軸が問題になったりすることもあります。そうした問題をできるだけ事前につぶしていく作業が求められます。

CGW:逆にゲーム業界で働いていたリガーが映像業界に行くと、どのようなちがいを感じるのでしょうか?

福本:映像業界は制限がないので、逆につかみどころがないかもしれませんね。ゲームだと骨の数やデフォーマの種類に制限がありますが、映像ではいくらでも設定できますし、どの機能を使用しても構いません。一方で機能を詰め込みすぎるとデータが重たくなり後工程の作業に支障が出るので、そこはバランスを考えてリグを設定することが必要です。私も映像とゲーム、両方のリグ制作の経験がありますが、両者のちがいには驚かされました。

CGW:リガー人口が増えない背景に、リギングの面白さが知られていないという点もあるかと思います。福本さんはリギングのどんな点が面白いですか?

福本:ロジカルに組み上げていくことが、パズルを解いている感覚で面白いんですよ。難しい課題であればあるほど、頭を使いますし、達成感があります。筋肉を表現するのも好きですね。ウェイト作業が嫌いな方もいますが、自分は好きですね。それに、リガーは周囲に頼られることが多いんですよ。プレッシャーや責任感もありますが、周囲に頼られて感謝されるのが、自分の性格に合っていると思います。

橋本:ある会社さんからロボットの複雑なリギングを発注されたとき、福本さんがニヤニヤしながら成果物を見せてくれたことがあるんですよ。「自信作です。絶対に先方もビックリして、喜んでもらえると思うんですよね」って。本当にリギングが好きなんだなあと思いますし、彼が心からお客様に喜んでもらいたいと思って日々仕事をしているのが伝わり嬉しく思いました。そうした姿勢が重要だなと思いますね。


福本:私はアニメーション制作時にリグの問題で苦労した経験がたくさんあるので、アニメーターさんの気持ちがよくわかるんですよね。「ここをこうした方が絶対に喜んでもらえる」と思えば、つい手を動かしてしまいたくなります。そんな風に後工程を考えて設計するのはすごく大事ですし、そうした積み重ねの結果として実際に感謝されると嬉しい。

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<5>インプットとアウトプットのバランスを大切にしたい

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<5>インプットとアウトプットのバランスを大切にしたい

CGW:2月に開催された弊社のリグセミナーRigging Help Me ! 「リガー集まれ~!」にもご登壇いただきました。

福本ブログで情報を公開したところ、反響がすごくて驚きました。リグはニッチなだけに、情報の発信が少なくて、渇望されているんだとわかりました。

橋本:セミナーなどを通した情報発信は、BACKBONEスタジオの2番目のミッションである「人・会社・経験を繋げたい」で掲げていることでもあります。ただ、その中でも3番目のミッションである「クリエイターの働き方を考えたい」を自らが破ってはいけないと思っていて、今は時間のマネジメントが最大の課題ですね。やりたいことはたくさんあって、業界的にも課題があることがわかっていて、発信することの頻度は下げたくなくて、でも結局時間が足りなくて働き過ぎてしまうのは避けないとならない。

福本インプットとアウトプットのバランスを大事にしていきたいですね。そのためにもスタッフを増やしたいという話に繋がっていきます。現在一緒にBACKBONEスタジオで働いてくれている4名は、ベテランから熱意ある若手まで幅広い人材が集まりました。新卒も積極的に採用していまして、既に2名内定が決まっています。今後は定期的にインターン制度を設けて、学生さんにリグの基礎をしっかりと教育し、次世代のリグ業界を牽引できる人材を多く育てたいですね。

他には現在、他社さんのリグ担当の若手/中堅の社員の方に人材育成目的で弊社オフィスに出向していただいて、共にBACKBONEスタジオのリグ制作の業務を行う実践型の教育プログラムもスタートしています。こちらは実験的に始めていますが、出向元の会社さんにもご満足いただけていると思います。自社、他社を問わず、共に成長しながら業界全体が発展することに繋がる活動になればと考えています。


CGW:それは心強いですね。

橋本:そういった点も含めて、福本さんの人望は大きいですね。実際に福本さんのことを信頼して、仕事を依頼してくださっているお客様も多いんです。期待もしてくださっているだけに、それに絶対に応えないとなりませんし、「納品して、お客様に心からありがとうと言っていただける仕事をしましょう」と、良く話をしています。


福本:色々な反響をいただいて、嬉しい悲鳴を上げているというのが正直なところです。様々な会社さんとお付き合いをさせていただいていて、自分たち自身も成長させてもらっています。中長期的にみれば、瞬間風速が起きやすい業界特性の中で、どうやって人材の最適化を進めていくかも課題の1つだと思っています。リガー不足といわれる中でも、タイミングによってはリガーが余っている会社さんもある。自分たちが間に入ることで、そのギャップを上手く埋められないか......。

CGW:無限の荒野が広がっていそうですね。

福本:そうですね。そのためにも、まずは一歩ずつ足場を固めながら、広げていきたいと思います。ご期待ください。