「CGWORLD Online Tutorials」での公開以来、初心者向けBlenderチュートリアルの決定版として高い評価を受けている「Blenderではじめるゲームアセット制作」。数あるDCCツールからBlenderが選ばれた理由や、アセット制作の実践的な手法について、本チュートリアルの作者である株式会社MUGENUPの小林良平氏に話を聞いた。

TEXT_神山大輝 / Daiki Kamiyama(NINE GATES STUDIO)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

Blenderではじめるゲームアセット制作
(CGWORLD Online Tutorials)
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<1>ゲーム開発からWeb業界を経てMUGENUPへ

CGWORLD(以下、CGW):本日はよろしくお願いします。まずはプロフィールをお聞かせください。

小林良平氏(以下、小林):MUGENUPの小林です。現在は3DCGのクリエイティブ周りのディレクションをメイン業務としており、弊社の3DCGチームや個人クリエイターの方と協業で制作を行なっています。MUGENUPは人材事業も手がけているため、案件によっては個人クリエイターの方と一緒に仕事をすることも多いですし、規模や案件の特殊性によっては私自身が実際に手を動かしてアセットを制作することもあります。


  • 小林良平/Ryohei Kobayashi
    株式会社MUGENUP デジタルクリエイティブ事業部 3DCGアートディレクター

    専門学校卒業後1995年、ゲーム開発会社に就職。その後、広告業界に転身し、Webディレクターをつとめた後、10年前からゲーム業界に復帰する。現在は同社のデジタルクリエイティブ事業に携わり、登録クリエイターのディレクションを行いつつ、個人でもBlenderを使用する毎日
    mugenup.com

CGW:現在のキャリアまでのご経歴を簡単に教えていただけますか。

小林:もともと専門学校でグラフィックデザインをやっていました。在学中、当時はまだ珍しかったMacを60万円で購入し、自宅でずっと3DCGを勉強していました。その頃はちょうどゲームバブルで、漠然とゲーム業界に行きたいとは思っていたんです。それまではゲーム自体はあまり遊んで来なかったのですが、一時期『バーチャファイター』(1993)にものすごくハマって......2Dから3Dへの転換期とも言える時期でしたが、純粋に感動して。

CGW:その後ゲーム会社に入社されたのですか?

小林:はい、最初はCGデザイナーとしてゲーム開発会社に就職しました。ちょうどPS2から次世代機へと移行していく転換期でしたね。ただ、インターネットインフラが発達してきた時代ということもあって次第にWebコンテンツに惹かれるようになり、Web系の企業に転職しました。

こうしてWebディレクターとして10年間業務を行なったのち、ディレクションやデザイナーの経験を活かして再びゲーム業界で楽しいことをしたいなと思い、2年半前にMUGENUPに入社しました。

CGW:現在の肩書きは3DCGアートディレクターとのことですが、業務内容を教えて下さい。

小林:弊社には3DCGチームが2つあり、合わせて11名在籍しています。うち9名がディレクター、あとは営業と進行管理が1名ずつというかたちです。片方のチームはディレクターが個人クリエイターを取りまとめて案件をこなしていくスタイルが中心で、私のチームでは特殊な案件を制作会社とパートナーシップを組んで回していくという棲み分けになっています。

ゲーム業界以外の案件もあるので、そういった場合は3DCG自体の説明を事前に行うなどコミュニケーションの方向性が異なりますが、基本的には進行管理も含めて制作全体を見ることが多いです。期間が極端に短かったり、説明が難しいものに関しては、自分自身が手を動かして制作します。

<2>作業効率と学習の速さがBlenderの魅力

CGW:業務で使用しているDCCツールは?

小林:国内のゲーム業界においてデファクトスタンダードになっているMayaが業務の中心になっています。ただし何の制約もなく、単純に「3DCGを作って下さい!」と依頼されたら、私は絶対にBlenderを選びますね。個人的に、Blenderが一番好きなんです。

CGW:数あるDCCツールの中から特にBlenderがお好きとのことで理由を詳しくお伺いしたいのですが、そもそもBlenderを最初に触り始めたのはいつ頃なのでしょうか?

小林:Blenderはバージョン2.5でGUIが一新されたのですが、私が触り始めたのもそのくらいだったかと思います。2011年頃でしょうか。Blenderは作業効率がかなり良く、学習も早いのが特徴です。

当時モデル制作からリトポロジー、ボーンのセットアップまでの流れをMaya、3ds Max、3D-Coatなど様々なツールで試してみたのですが、学習する時間を含めてもBlenderで一連の作業を行うのが最も速かったんです。少し速いというレベルではなく作業スピードが倍増した感じで、これは設計自体に何かあるぞ、と思って真剣に使い始めました。

CGW:作業スピードが他のツールに比べて格段に早いのは、具体的にどういった理由なのでしょうか。

小林:例えばMayaであればテキスト化された情報が階層化されていたり、パレットの概念があったりしますが、Blenderはそのあたりを全てすっ飛ばして独自の設計になっています。"実際に作業をしているクリエイターが開発しているんだろう"と強く感じますね。

基本的にワンキーショートカットでいろいろな機能が呼び出せるようになっていて、例えばスケールを2倍にしたいなら[S]と[2]を打つだけで済む。「自分がこの後にやりたいオペレーションが頭でわかっていれば、余計なマウス操作がいらない」という点が気に入っています。極端な話、マウスカーソルを移動させる必要すらないんですよね。

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<3> 操作説明から実践的TIPSまで体系立てて解説

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<3> 操作説明から実践的TIPSまで体系立てて解説

CGW:改めて、今回『Blenderではじめるゲームアセット制作』を制作された経緯を教えて下さい。

小林:私は業務としてゲームアセットを制作する際、DCCツールの指定がなければモデル制作からテクスチャまでの工程にはBlenderを使用します。モデルを作る環境とテクスチャを描く環境が同じツールで共存することでスピード感もありますし、テクスチャをモデルに直接描画できる機能もあって、とにかく作業効率がすごく良かったんですね。


そういう作業をやっていると、周りのディレクターたちが「それ何やってるんですか?ずるくないですか?」という話になるじゃないですか。だからパワーポイントで使い方に関する資料を作って、最初は社内の3DCGチームに共有していたんです。

CGW:なるほど、普段3DCG制作のプロとして業務を行うディレクター陣からも羨ましがられたと......。

小林:そのようでしたね。今は皆テクスチャペイントだけでもBlender上で作業できるようになったと思います。Blenderは、他のDCCツールに比べてアセットの完成までにかかる時間を大幅に短縮できると確信しているので、他の人にもぜひ使ってほしい!という想いが強いですね。

最後の変換作業ではMayaを使いますが、実作業では割り切った使い方をして生産性をアップさせよう、ということを社内的にもずっとやってきました。『Blenderではじめるゲームアセット制作』はそんな資料が基になっておりますので、すごく実践的な内容だと思っています。弊社では3DCGに興味があるという新人にも、まずはBlenderを教えています。


CGW:こうして制作された動画チュートリアルはどういった内容ですか?

小林:そもそも、英語で作られた動画や教材はあっても、Blenderの日本語教材で、ここまで体系立ったものはほとんどないと思います。そういった意味ではSNSでの反響もあったようで、ありがたいお言葉も多くいただいています。あとは初心者歓迎の内容で、他の動画チュートリアルに比べて敷居が低いと思いますので、そこが特徴と言えるかも知れません。

CGW:チュートリアルページには対象者として「3DCGをこれから始めるユーザー(初心者)」とありますが、具体的にはどういった方を対象にしていますか?

小林:基本的には、高校生や大学生で、3DCGをこれから始める方を対象にしています。あとは「少し触ったけど挫折気味」、「ある程度触ったけど、伸び悩みを感じる」という方も、諦めてしまう前にもう1度このチュートリアルを観て触ってみてほしいですね。

動画の中で解説したTipsは、お客様への納品物の制作でやっている作業とまったく同じなんですよ。このやり方を基礎として、さらに発展できるような内容になっていると思います。各工程を解説する前に1チャプターを費やしてBlenderの操作説明も行なっているので、操作がわからなくて挫折するということもないのでは、と思っています。


CGW:現状は業界的にもMayaや3ds Maxなどが主流かと思います。ビギナー層が最初にBlenderを学ぶメリットはどういった点にあると思いますか。

小林:最初は全員、画力もモデリングの造形力もない状態からスタートするわけですが、その中でも「モデリングには自信がないけど、多少画力がある人」は画として描き込んでしまえば良いですし、逆の場合はモデルでそこそこ作り込んでしまえば良いんです。形状を補う部分をテクスチャで描き込む、またその逆など、バランスを見ながら試行錯誤できるのが統合環境であるBlenderの良いところですね。


小林:そうこうするうちにレベルも上がっていくと思いますし、試作品をTwitterに投稿すれば3DCG界隈の優しい方々が褒めてくれたり、良いコミュニティに入れたりするのかなと思います。Blender自体が無料ですし、このチュートリアルが1つのきっかけになってほしいですね。

CGW:なるほど、確かに無料であるメリットは大きいですし、モデルとテクスチャのバランスを見ながら制作が行える点で優れていると。

小林:そしてMayaの話ですが、同じDCCツールですからMayaでできることはBlenderでもできるし、BlenderでできることはMayaでもできるのです。用語のちがいを読み替えればツールがちがってもやりたいことはできますし、そもそも私自身もBlenderで得た知識でMayaのリギングができるようになったので無駄になることは絶対にありません。

Blenderも既存のDCCツールの良いところを集めたようなツールで、3DのビューポートはMayaに近いし、モディファイヤは3ds Max、レイヤーはLightWaveに近いんですよ。いろんなツールのいろんな良い面を併せもっているので、そういう意味でも応用が効きやすいと思います。

小林:付け加えれば、今現在Mayaでアセット制作を行なっている方にとっても、今回のチュートリアルは刺さる内容なのではと思っています。モデリング工程はノーカットで収録しているので、モデルとUVに関しては動画を真似していただければそっくり同じものが出来上がります。普段お仕事をされている人にとっては「こんなに早いの!?」と驚いてもらえるのかな、と考えています。

CGW:最後に3Dモデラーを目指す若手の方や学生に向けて、メッセージをお願いします。

小林:Blenderは無料のツールなので、敷居は最も低いと思います。そして、このチュートリアルではモデルからテクスチャまで一貫して説明していますので、簡単なものから難しいものまで様々な題材をくり返し作っていただければ、あっという間に上達できます。先ほども言ったように、私が普段の実務で行なっている作業とまったく同じことをやっていますので、将来的に現場に入ってからも応用可能なテクニックがふんだんにあるかと思います。ぜひ活用して下さい!


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