降ってわいたような新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。WHOによってパンデミック(世界的大流行)に認定され、日本でもテレワークを導入する企業が増加している。しかし、付け焼き刃の導入でトラブルが発生したり、テレワーク導入に二の足を踏んでいたりする企業も多い。イラスト・CG制作でクラウドソーシング事業を推進し、総務省「テレワーク先駆者百選」にも選出されたMUGENUPにテレワーク導入のコツについて聞いた。

INTERVIEW&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

長期化の様相を見せ始めた新型コロナウイルス感染症の影響

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大が止まらない。全世界の感染確認者数は63万人以上を数え、クルーズ船事例を除外しても、国内で1,800人以上の感染が確認ずみだ(2020年3月29日現在)。WHOがパンデミック(世界的大流行)に認定したことを受けて、店頭からマスクやトイレットペーパーが消えるなど、社会生活にも影響が及んでいる。

こうした中、企業が導入を急いでいるのがテレワークだ。「テレワーク」、「リモートワーク」、「在宅勤務」と様々な呼ばれ方をしているが、共通しているのは「オフィスではない場所で業務をする」という点。もともと「働き方改革」の中で注目が集まり、今夏の東京オリンピックに向けて企業が試験導入を始める中、今回の感染拡大で一気に市民権を得た格好だ。

もっとも、付け焼き刃でテレワークを導入した結果、生産性が低下してしまったり、テレワーク導入に二の足を踏んでいたりする企業も少なくない。ITに親和性が高いゲーム業界やCG業界でも同様で、「徹底した衛生管理で事態を乗り切るのみ。1人感染者が出たら業務が全て止まるので、うがい・手洗いなどを徹底するだけ」など、諦めに似た声も聞こえてくる。

東京オリンピックの延期が決定し、事態が中長期化の様相を見せ始める中、企業はどのように対応していけば良いのか。2012年より積極的にテレワークを導入し、厚生労働省「輝くテレワーク賞」の受賞や、総務省「テレワーク先駆者百選」にも選出。約240人の従業員のうち、平時から約4割がフルタイムの在宅勤務を実践しているMUGENUPに話を聞いた。

業務の切り分けを基に社内でテレワークを推進

イラスト・CG制作でクラウドソーシング事業を推進するMUGENUP。約4万人の登録クリエイターを抱え、日本だけでなく台湾や韓国、さらにはカナダ・フランス・ポーランド在住者ともテレワークでつながりながら、業務を進めている。

今回の感染拡大についてもいち早く対応し、2月18日(火)から本社オフィス勤務者を対象に、在宅勤務の推奨を開始した。その割合は7~8割にもおよぶほどだ。

2D制作部の制作部長として、約170名の社員を管理する森田真実氏も「今年は東京オリンピックも予定されていたので、昨年から全社的にテレワークの準備をしていたため、大きな弊害はありませんでした」と語る。

  • 森田真実/Mami Morita
    MUGENUP デジタルクリエイティブ事業部 2D制作部 制作部長
    mugenup.com

3D制作部でマネージャーを務めつつ、アートディレクターとして在宅クリエイターの業務監修にあたる星田 究氏も「弊社はもともと在宅で仕事をしている方と一緒にモノをつくっていくビジネスモデルですので、心理的なハードルはなかったですね。普段からやっていることを、自分たちもやってみようという話でしたので」と説明した。

  • 星田 究/Kiwamu Hoshida
    MUGENUP デジタルクリエイティブ事業部3D制作部マネージャー・アートディレクター
    mugenup.com

もっとも同社でも、全社員が在宅で勤務しているわけではない。そこには業務的な切り分けがある。

同社はクラウドソーシング事業だけでなく、社内で受託制作も行なっている。テレワークで働いている社員は、このように普段から手を動かして、制作を行なっているメンバーだ。これに対して現在も出勤しているメンバーは、ディレクション業務が中心になる。目の前のアセット制作に特化する業務は在宅で、密接なコミュニケーションが求められる業務は社内で、といった具合だ。

テレワーク推進でがらんとした社内(2020年3月13日(金))

実際に管理業務が中心の森田氏は、今回の騒動で初めてテレワークを体験して、改めて向き不向きがあると感じたという。

「自宅だとエアコンの温度を自由に設定できるのは良かったですね。会社にいるときよりコンタクトレンズが乾きにくいことも、思わぬ発見でした」。

ただ、作業的なものを黙々とこなすような仕事であれば在宅の方がはかどるものの、口頭で指示を出したり、自分で考えて動くことが求められたりするような業務では、なかなか難しいかもしれないと語った。また同僚から、「ちょっとした雑談などがなくなってしまうので、寂しい」という声も聞かれたという。

これに対して星田氏も「自分は作業系の仕事が多いので、在宅で全然問題なかったです。ただし、人と一緒に話をして物事を決めたり、検討したりする仕事は、やはり直接会って行なった方が早いですね。オンラインでも可能ですが、ふだんより若干生産性が落ちます」と語った。

ゲームやCG制作に限らず、総じてテレワークに向く仕事と、向かない仕事がある......これは経験則的にも知られていることだ。

同社の主力事業であるクラウドソーシング事業は、すでにリファレンスのあるアセットを大量生産するのに向く。ソーシャルゲームの運営で必要となる、追加アセット制作は好例だ。新規案件でも、β版に向けてアセットの量産体制に入ったタイトルなどが該当する。

その際、単にクライアント企業から受注したものを、右から左に在宅クリエイターに発注するのではなく、アートディレクターが間に入って、きちんと監修やディレクションを行うのが同社のスタイルだ。

もっとも、近年では企画の起ち上げから相談したいというクライアントも増えてきた。こうした案件では制作中に内容が変化したり、手戻りが発生したりといった事態が避けられない。総じて、より密接なコミュニケーションが求められるため、クライアントと相談の上で、常駐や出向などの方法を採ることもあるという。

このようにテレワーク優等生とされる同社でも、実際は業務内容に即して、様々な働き方が選択されている。裏を返すと、社員ひとりひとりが状況やキャリアパスに応じて、働き方が選べるということだ。

いきなり全ての業務をテレワークにするのではなく、できるところから切り分けていくのが現実的。そのためにも事前に業務フローを棚卸ししてシミュレーションをしておくのが必要で、必要に応じてコンサルティングを導入するなどのアイデアもあり得る。今回の事態はその良いきっかけになったのではないか......。森田氏はそのように語った。

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テレワークの推進を阻む様々な要因

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テレワークの推進を阻む様々な要因

もっとも、ゲームやCGでテレワークの導入に二の足を踏む企業の関係者にヒアリングすると、下記のような理由が返ってくることが多い。

1:社員の自宅にWi-FiやハイスペックなPCがない/開発機など専用の機材が必要で、外部にもち出せない
2:セキュリティ面の問題で自宅から社内のサーバやシステムに接続できない
3:プロジェクトマネジメントが円滑に遂行できない
4:社員同士のコミュニケーション不足が発生する
5:適切な粒度で作業を分割し、対価が設定できない
6:労務管理や人事評価が正しく行えない

ただし、このように問題の切り分けが行われていれば良い方だ。実際には、個々の問題が有機的に絡まったまま、必要以上に肥大化してしまうことも少なくない。これに「従来のワークフローを変えたくない」という現場の消極的抵抗が加わって、テレワーク担当者が社内で孤立してしまい、導入が見送られる例もある。

すでに見てきたように、同社でテレワーク推進が円滑に進んだのも、それに適したビジネスモデルや業務フローを構築してきたからだ。

同社は2011年に設立され、2012年より社内向けテレワークを進めている。その背景にあるのが「創ることで生きる人を増やす」というビジョンだ。つまりテレワーク推進はトップダウンで進めなければ難しい、ということになる。

近年、同社は政府諸官庁や関係団体が連携開催する働き方改革のキャンペーン「テレワーク・デイズ」に2年連続で特別協賛。プレイベントでは名だたる企業や小池百合子・東京都知事と並んで代表の伊藤勝悟氏が登壇し、2018年には東京・大阪・名古屋で行われたテレワークセミナーで講演するなど、業界を越えた旗振り役も務めている。

そうした中で見えてきたものがある。「なぜテレワークを導入するのか、目的をハッキリさせることが大事」ということだ。

導入の目的は「大量生産を効率化するため」や、「オフィスコストを削減するため」など、企業の立ち位置によって変わってくる。ただし、できるだけ具体的であることが望ましい。目的によって改善すべき業務フローや、導入すべきツールなどが異なるからだ。

その上で同社では、一般的に成功しやすい目的として「人材確保」を挙げた。テレワークの導入で、大都市圏から離れた遠隔地に居住している高スキル人材へのアプローチが可能になる上、育児や介護など個人の事情に合わせた働き方も実現できる。その結果、採用した人材のリテンションも高まるからだ。

このように目的が明文化されると、テレワーク導入における諸問題も切り分けが容易になる。複雑な問題の塊も、個別に切り分けることができれば各個撃破することも可能だ。逆にこれが曖昧だとグズグズになったり、勢いで導入したものの、上手くいかずに、社内でアレルギーが残ってしまったりするという。

先の項目に照らし合わせると、同社では在宅勤務に移行する社員に対して、必要に応じてPCや機材を貸与している。CPUにIntel Core i5、GPUにGeForce、メモリ32GBを搭載した、クリエイター向けとして標準的なものだ。「Houdiniなどの高度なシミュレーションを行う機会は少ないので、これで問題ありません」(星田氏)。

MUGENUPの全社的なテレワーク推進は2月18日(火)から始まり、週ごとに延長を判断、現在(3月30日(月))も続いている

同社らしいなと感じたのが、ほとんどの在宅クリエイターが3DCGツールにBlenderを使用していることだ。Maya3ds Maxを経験せず、いきなりBlenderというクリエイターも増えているという。もっとも、長くMayaを使ってきた星田氏にとって、乗り換えはやはり戸惑いがあった。

「機能面では問題ありませんし、働き方の多様化に伴い、今後もBlenderの比率は高まっていくと感じます。学生のうちにMayaとBlenderの両方を経験しておくと、後々になって役立つかもしれません」。

セキュリティ面では、扱うデータの重要性に合わせて、複数のサービスが使い分けられている。基幹業務を扱う社内のイントラネットと、それ以外といった具合だ。

成果物の受け渡しや進捗管理などには社内ツールの「WORK STATION」や、それをSaaS化したプロジェクト管理ツールの「Save Point」を利用。コミュニケーション用途に使用するチャットワーク、そして制作に必要な資料を共有するためのGoogle Driveがメインとなる。

また、同社ではメールアドレスにGmailが使用されるなど、G Suiteがフル活用されている。重要な内容はメールで送信し、エビデンスを残すなど、両者が使い分けるスタイルだ。「もっとも、コミュニケーションはほとんどチャットワークで行うため、メール文化が廃れてきていますね」。

ただし、クライアントによってはクラウドサーバの使用が禁止されている場合もある。その場合はクライアントごとに社内サーバにアクセス可能な特別アカウントを発行してもらい、その中で運用するなど、柔軟な対応を行なっていると述べた。

ポイントは「G Suiteが使用できなければ業務に支障をきたす」と言うほど、クラウドサービスが積極的に使用されていることだ。一方で機密性の低いデータに限定しているため、VPNなどの導入は行なっていない。また、プロジェクトの進捗に合わせて定期的にメンテナンスし、不用なファイルを削除するなど注意しているという。

このうちSave Pointについては、少々補足が必要だろう。同社が進捗管理用に開発した内製ツール「WORK STATION」がベースで、在宅クリエイターの進捗管理やコミュニケーションなどに使用されている。成果物の納品やフィードバックでやりとりされたスレッドを、丸ごと保存して全文検索したり、3DCGモデルをプレビューできたり、大量のアセットの進捗状況をガントチャートで表示して確認できたりと、様々な独自機能が備わっている。

Save Pointは外販されており、ゲームやCG制作にとどまらず、様々な企業で使用されている。ブラウザ上で動作するSaaSとして提供され、データセンターはAWSだ。全ての通信はSSLで暗号化され、ISMS認証を取得するなど、セキュリティにも留意されている。

なお、今回の取材後に感染症対策として、2020年3月18日(水)から5月31日(日)まで無償提供が行われることが決定した。興味があれば試用してみると良いだろう。

Save Pointの主要機能

スレッドビュー

クライアントや外注企業との間でコミュニケーションが可能で、やりとりをスレッド形式表示したり、保存したりできる。全文検索も可能なので、ナレッジデータベースとして活用されるケースもある

ガントチャート

数千件にも及ぶアセットの進捗状況を一覧表示し、わかりやすく確認できる

3Dプレビュー

2Dデータだけでなく、Spineや3Dデータをプレビューできる。m4a、wav、mov、mp4(H.264)など動画ファイルにも対応する

手描きでフィードバック

納品物にコメントをつけたり、手描きで指示を加えたりして、効率の良いチェックバックが返せる

このほか森田氏は意外と知られていない便利機能として、「ステータスの登録機能」を挙げた。デフォルトで入っているものに加えて、新規ステータスを任意で追加できる。これによって社内用や外注用など、状況に応じて細かくステータスを設定できる。ガントチャートとも連動し、大量のアセットの進捗状況が一元管理できる。

星田氏は「見たよ」ボタンの有効性を挙げた。スレッドに投稿されたレスの内容ごとに既読マークがつけられるもので、いちいち返答を返す必要がなく、確認もれをチェックする上でも便利だという。「もともと大量生産を支援するためのツールとして創られたので、ステータスの一覧性が高い点が特徴です」(星田氏)。

コミュニケーションについてはどうだろうか。同社ではZoomSkypeなどのツールも活用されているが、対面での打ち合わせに比べて、まだまだ敷居が高い点は否めない。一方で距離や時間の制約から解放されるメリットもある。状況に応じて使い分けることが重要だ。

その上で、相手の問いかけには「即レス」を求めない一方で、こちらからはできるだけ「即レス」を心がける......などが挙げられた。目の前に相手がいない状況は、それだけでコミュニケーションの阻害要因になる。そんなときでも即レスが得られれば、心理的な距離がぐっと縮められる。

他にテキストチャットではどうしても、文面が硬くなりやすい。そのため、あえて絵文字を多用しているという。「使いすぎじゃない? っていうくらい、社内で使用しています。時には絵文字だけで会話していることもありますね」(森田氏)。

一方でビデオチャットでは、相手の顔を見て話ができるので、より理解が深まる。在宅勤務中の社員との打ち合わせ中、子どもの声が聞こえたり、パートナーの姿が映ったりして、ほっこりすることもある。

「管理する側からすると、相手の顔が見えるのは良いですね。やっぱり安心しますし、相づちなども打ちやすいですし。お互いの人となりがわかった状態で仕事をする方が、絶対スムーズですしね」(森田氏)。

ただし、自分の顔や室内が映ることに抵抗感を感じる人も少なくないという。また、相手の環境によっては、帯域不足で通信が不安定になることもある。そのためアバターを使用したり、挨拶だけビデオチャットで行い、すぐにボイスチャットに切り替えたりする例もあるという。

いずれにせよ、これからテレワークを導入するのであれば、ビデオチャットに関するルールづくりを最初に定めると良いのではないか......森田氏はそう話した。

東京都の「新型コロナウイルス感染症対策サイト」は非営利団体のCode for Japanが開発にかかわり、ソースコードがGitHubに公開されている

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見えない不安を克服するために必要なこと

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見えない不安を克服するために必要なこと

「適切な粒度で作業を分割し、適切な対価が設定できない」ことと、「労務管理や人事評価が正しく行えない」ことは、コインの裏表の関係だ。

実は筆者のようなライター業は、この問題がクリアされている。裏を返すと、これがクリアされているから、リモートワークで働くことができるといってもいい。

実際、筆者はフリーランスとなって20年が経つが、対面による打ち合わせの機会が年々減少している。今や発注から納品まで、担当者と1回も顔を合わせないまま進むことも、しばしばだ。

これを可能にしているのが、業務の発注と報酬が記事単位で行われることだ。締切までに一定のクオリティの記事を納品できなければ、新規の案件がなくなるだけ。仕事をサボると自分の収入に直結する、シンプルでわかりやすい世界だ(※)。

※ただし新規媒体の起ち上げのように、密接なコミュニケーションが必要な場合は、この限りではない。定期的に対面での打ち合わせがくり返され、徐々に媒体がつくり上げられていく。ゲーム開発における新規案件のイメージだ

MUGENUPでも成果物ベースで評価することが定められている。姿が見えない不安を克服する上で、具体的な成果物で結果を示すことが、最も効果的だからだ。特にクラウドの在宅クリエイターの場合は、案件や作業内容ベースでの発注と報酬が基本になっている。

「業務指示や発注の前に、一週間でその人ができそうなことを、だいたい予想するようにしています。それと比較して今週はどうだったとか、上手くパフォーマンスが出せていますかとか、逆に集中できない時間帯ってありますかとか。いろいろ話をしながら、最適なやり方を決めています」(星田氏)。

「特に2Dアセットは3Dアセットに比べて成果物を出すまでのスパンが短いので、お互いに詰めていきやすい点はありますね。社内の在宅勤務者は、フリーランスの働き方に近いところがあります」(森田氏)。

もっとも、タスクの粒度が細かすぎてもマイクロマネジメントになる上、チェックに要する時間が無駄になる。テレワークでは発注側の意識や姿勢もまた、重要になるのだ。だからこそ、業務のフローを棚卸しして、できるところから始めるのがオススメだ。そのためには業務が属人的になりすぎないよう、普段から注意する必要がある。

ワークライフバランスとテレワーク

これ以外に、いわゆる「サボり問題」をおそれて、テレワーク導入をためらう企業も少なくない。

実際、日本では正規雇用であれば、多少仕事をサボっても、それだけを理由に解雇することは難しい。そのためテレワーク導入は解雇規制の緩和とセットでなければ難しい、とする声もある。テレワークで社員がきちんと働いているか監視するためのAI開発がブーム......という笑えない話もあるほどだ。

話題がこの質問に及ぶと、「だからこそ、何のためにテレワークを導入するのか、目的をハッキリさせることが大事」だと指摘された。例に挙がった「人材確保」はそのひとつだ。

ワークライフバランスが重要になる中、ライフスタイルに合わせた働き方の選択肢を、企業の側が提案することが求められる。テレワークはワークライフバランスに選択肢を生む手段のひとつであり、「人材確保」のために導入する価値がある......取材後のメールインタビューで、同社はこのように補足した。

同社でテレワークが馴染みやすいのは、社員の7割弱が女性という特殊性もある。本社勤務の社員は男女比がだいたい半々だが、在宅勤務の社員はほとんどが女性だという。クラウドの在宅クリエイターも女性の割合が圧倒的。学校が休校になったことで、子育てと在宅での仕事の両立を課題に挙げる声が多く寄せられているという。

これまでも、少子高齢化が進む中、子育てや介護離職でベテランのクリエイターが退職してしまうのは、企業の競争力が低下する要因になると指摘されてきた。その上で今回の感染拡大が突きつけたのは、「集団で集まって業務を進めること自体がリスク要因になる」という、過去にない事態だ。

一方で企業であれば、業績を落とすことは許されない。そのためには普段から働き方に多様性をもたせ、柔軟な業務体系が取れるように備えを進めることが重要だ。

ゲーム開発が社内で全てまかなう時代から、複数社での協業スタイルに移行したように、今後はひとりひとりの働き方を見直していくことが、競争力の強化にもつながっていく。

「企業によってはテレワークの導入が難しい点があるかもしれませんが、最終的にやってやれないことはないと思っています。あとは、そこにかかるコストを鑑みて、判断するのが良いのかなと。開発の上流工程をテレワークで進めることも、やり方次第ではないでしょうか。今回の感染拡大をきっかけに、広く議論が深まれば良いと思います」(森田氏)。