>   >  プロダクション探訪:第5回:デジタル・フロンティア / DIGITAL FRONTIER
第5回:デジタル・フロンティア / DIGITAL FRONTIER

第5回:デジタル・フロンティア / DIGITAL FRONTIER

ワークフローと主要ツール

続いて、DF の作業体制について紹介したい。訪問するまでは、フル CG 作品をコンスタントに制作し続けている同社だけあり、さぞや堅牢なパイプラインを構築しているのかと思っていたのだが、ハリウッドの大手スタジオのように、「ピクサーと言えば RenderMan、ILM と言えば Zeno 」といった確固たるパイプラインを構築しているわけではないとのこと。
「業界の規模が違うので、ハリウッドのスタイルをそのまま模倣してもマッチしませんよ(笑)。先ほど、良い意味でその時々のトレンドに合わせて節操なく制作してきたと言いましたが、ワークフローも同じ事です。CG・VFX 制作をできるだけ効率的に進めるためにはどうすれば良いのか、その都度、少しずつ改善した結果が、現在の "ゆるやかな分業制" ですし、自前でパフォーマンス・キャプチャスタジオを構築した理由も長編プロジェクトに対応するためでしたから」(豊嶋氏)。

そうした意味でも、市販ツールの進化による恩恵は大きいという。
「ハリウッドの場合は、自分たちのニーズに合わせてインハウスでツールを開発するわけですが、日本でそれをやったら破綻してしまう。市販ツールの機能向上にあやかり、その上で必要に応じてカスタマイズしながら、クオリティアップを図っていく。それが、継続する秘訣ではないでしょうか」(豊嶋氏)。

DF が現在主に使用しているツールは下表の通り。フル CG から実写 VFX まで幅広い映像制作を行なっているだけあり、使用ツールもバラエティに富んでいる。

主要ツール表

DF の主要ツール・リスト(2012 年 1 月現在)

3DCG 制作のメインツールとして、Maya、Softimage、3ds Max、MotionBuilder を、コンポジット作業用に After Effects を主に用いているとのこと。
「通常は汎用ツールとして、Maya と Softimage を使い、キャラクターアニメーションに MotionBuilder、エフェクト制作に 3ds Max RealFlow を主に使っています。Maya と Softimage の比率はおおよそ 7:3 ですが、傾向として Softimage はゲーム向けに特化して、Maya の割合を高めていくと思います。なお GEMBA では、3ds Max を中心に据えた独自のワークフローを導入していますよ」(野澤氏)。
レンダラについては mental ray をはじめ、RenderMan for Maya や V-Ray for Maya などをプロジェクトに応じて使い分けているとのこと(群衆シミュレーション用の Masive については 3Delight を使用)。その他にも編集ルームを別途 4 室設けており、3 室が Final Cut Studio ベースのオフライン編集用、残りの 1 室が Smoke For Mac OS X による S3D 対応のオンライン編集室となっている。さらに、これから日本でも定着していくであろうリニアワークフローを構築すべく NUKE の導入も視野に入れているという。

クオリティの向上は市販ツールの進化に頼るとは言うものの、R&D 室を擁する DF だけあり、シーンデータを自動的に構築できる Valkyrja(ヴァルキュリア)と呼ばれる、カスタマイズの域を超えた大がかりなインハウスツールの開発なども行なっている。このツールは、キャラクターモデルや BG、アニメーション、ライティングなど各工程で制作されたアセットを、Valkyrja の UI 上で選択するだけで目的に応じたシーンを自動的に構築(シーンファイルを生成)するというもので、現在は Maya と After Effects に対応しているとのこと(※詳しくは月刊 CGWORLD 157号 の特集『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』を参照)。
「Valkyrja は、シーン構築に擁する手間と時間をできるだけ抑えて、画づくりに集中することを目的に開発したものです。ですが、自動化を優先させ過ぎた面があり、デザイナーがシーンの状態を把握するのが却って困難になってしまうという弊害が出てきてしまいました。限られたリソースを有効活用する上では、画づくり一辺倒になるのではなく、クオリティとコストをバランス良く意識できるワークフローを整えるためにも、Shotgun のようなプロジェクト管理ツールなども開発していければと考えています」(野澤氏)。

DF のツール開発方針は「工数削減のために、現場が必要としているものを」だという。テクニカルスタッフは現在(※2012年1月末)、R&D が 6 名、野澤氏をはじめとするテクニカル・ディレクター( TD )として 7 名が活動しており、「R&D がツール開発をリードする一方で、TD が各プロジェクトの現場に張り付いて、プロジェクトを遂行する上でのボトルネックの割り出し、作業効率を上げるための具体的な提案やトラブルシューティングを行なっていく感じですね。要はデザイナーと R&D の橋渡しを行うのが TD というわけです」(野澤氏)。
プロジェクトを円滑に進める上では TD は要の存在と言えるが、カバーする領域が非常に多岐にわたるため、野澤氏としてはデザイナー 10 名に対して TD が 1 名という割合がベストだと考えているとのこと。「まずは、TD を倍の人数まで増やしたいですね」。

制作環境

ツールを動かす土台となるハードウェア及びネットワーク面についてはどのような取り組みが行われているのだろうか。「現在は、エンジニア 3 名体制でシステム管理を行なっています。ただし、お台場のパフォーマンスキャプチャ設備は特殊な機材なので、モーションキャプチャ室にて独自に管理しています」とは、管理部システム室 室長を務める倉地忠彦氏。
DF の作業用マシン並びにレンダーファームの基本スペックは下表の通り。

ハードウェアの標準構成

DF のハードウェア標準構成(※2011 年 11 月時点)。今年、早々に OS は Windows 7 移行予定とのこと。データ保管は、Linux ベースの HP 製サーバ( 4TB )× 4 台を中心に、補助的に 3TB のサーバ × 3 台を利用しているそうだ

「常時、映画や遊技機など何らかの大型案件が進行しているため、機材のリプレイスのタイミングにはいつも悩まされています(苦笑)。そのため Windows XP をまだ使っていたりしますが(※近日、Windows 7 へアップグレード予定とのこと)、昨年11月の本社移転を機に、点在していたサーバを一カ所にまとめることができました。ネットワークについても、1 筐体で全マシンを賄える大型のスイッチングハブを使い、サーバと作業用マシンを Gigabit Ethernet(サーバ内部は Fibre Channel )で接続するといった具合に、よりシンプルな構成にすることができました」(倉地氏)。
レンダーファームは 32 台のデュアル・クワッドコア PC(全 256 コア)で構成されている。中小規模のプロジェクトについては十分賄えるそうだが、フル CG アニメーション長編など、レンダリング負荷が高い案件の場合は、その都度、増強しているとのこと。「昨年の『鉄拳 ブラッド・ベンジェンス』制作時は、台湾の CGCG スタジオさんのレンダーファームをお借りしました。社内の体制としては、独 BinaryAlchemy が開発する Royal Render というレンダリングジョブ管理ツールを使い、夜間などに稼働していないマシンをノードに割り当てるようにもしています。サーバルーム自体は、十分な拡張性を確保しているので、必要に応じて増強していきたいと思います」(倉地氏)。

データ保全の面では、サーバルームに UPS を配備しつつ、ローカル PC は RAID-1 で構成(=ミラーリング)してバックアップが行われている(終了したプロジェクトのデータは LTO5 テープにバックアップ)。デザイナーの作業環境としては、ディスプレイは 24 インチサイズで統一し、ディレクターはデュアルモニタ環境が割り当てられており、i1 DISPLAY PRO でキャリブレーションしているとのこと。
「ハードウェアも日進月歩ですし、移転した直後に早くもメインフロアとは別のフロアに 30 名分の CG 制作部の席を新設しました。いたちごっこですよね(苦笑)。今後は海外のグループ会社とのデータ受け渡しも増えてくるはずなので、現在うちで用いている aspera のパフォーマンスを最大限引き出せるネットワークを構築することが、これからの課題だと考えています」(倉地氏)。

その他の連載