>   >  日本にフルCGアニメは根付くのか?:第10回:松浦裕暁(アニメーション・プロデューサー)
第10回:松浦裕暁(アニメーション・プロデューサー)

第10回:松浦裕暁(アニメーション・プロデューサー)

日本におけるフル 3DCG アニメーション制作への理解と振興を目指す本連載。今回ご登場いただくのは、サンジゲンの代表取締役で、プロデューサーの松浦裕暁氏だ。松浦氏が中心となり2006年に設立された 株式会社サンジゲン は、日本の伝統的な作画アニメの手法と 3DCG アニメを巧みに融合させた制作スタイルによって、大きな存在感を示す組織へと急成長した。2012年10月27日(土)には、キャラクターをフル 3Dで表現した 立体視劇場長編 『009 RE:CYBORG』 を発表し、さらなる飛躍を目指すサンジゲンを牽引する松浦氏に、同社が目指す未来や日本のCGアニメの可能性について語ってもらった。

【聞き手:野口光一(東映アニメーション)】
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Hiroaki Matsuura
1972年生まれ。福井県出身。株式会社サンジゲン代表取締役、株式会社 ライデンフィルム 代表取締役、株式会社 ウルトラスーパーピクチャーズ 代表取締役。1997年に上京し、デジタルハリウッドで3DCGを学ぶ。翌年からフリーランスとしてアニメ業界でのキャリアをスタートし、2002年にゴンゾへ入社。2003年よりフリーランス集団「三次元」として活動を開始。2006年にサンジゲンを株式会社化。2011年にサンジゲン・トリガーOrdet をグループとするホールディングカンパニー、ウルトラスーパーピクチャーズを設立。2012年に手描きを中心とするアニメーション制作会社、ライデンフィルムを設立。プロダクション・アイジーとサンジゲンが共同制作した劇場長編映画『009 RE:CYBORG』(2012年10月公開)では、制作プロデューサーを務めた。

熟練アニメーターこそが組織成長の必須要素

東映アニメーション/野口光一(以下、野口):このインタビューが公開されるのは2013年の初頭なので、今日は2012年のフル CG アニメをふり返りながらお話を伺いたいと思っています。2012年は、キャラクターを 3DCG で表現した 劇場用アニメが数多く公開(※1) されました。その中でも、『009 RE:CYBORG』 はとりわけ注目された作品だったと感じています。そして作品の知名度が上昇していくのにつれて、サンジゲンのブランド力が高まった年でもありました。「やっぱりサンジゲンの仕事か」「セルルックの CG アニメと言えばサンジゲン」といったコメントをネット上で見かける機会が増えたように思います。

※1:劇場用アニメが数多く公開
2012年公開の下記7作品では、ほぼ全てのキャラクターが 3DCG で表現された。
『ドットハック セカイの向こうに』(1月公開)、『ドラゴンエイジ-ブラッドメイジの聖戦-』(2月公開)、『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』(7月公開)、『放課後ミッドナイターズ』(8月公開)、『アシュラ』(9月公開)、『バイオハザード ダムネーション』『009 RE:CYBORG』(共に10月公開) ※ 本連載第3回の年表 もあわせてご参照ください

松浦裕暁(以下、松浦):そう言っていただけると嬉しいです。数年前までは誰も知らなかった会社ですからね(笑)。

野口:サンジゲンを設立なさったのが 2006 年で、『009 RE:CYBORG』の公開が2012年。この短期間で、これほど加速度的な成長を遂げた CG プロダクションは前例がないように思います。最初に 3DCG で人間のキャラクターを表現したのが『咲-Saki-』(2009) ですよね? キャラクターが麻雀牌を囲むシーンで、牌に加えて、それを操る手元も3DCGで表現なさった。全身を表現したのは 『はなまる幼稚園』(2010) のセルパッケージ向け特典映像『ぱんだねこ体操』が先駆けでしょうか。

松浦:そうですね。当初は最終回のエンディングで放送される予定だったのですけど、残念ながら話の構成が変更になって放送されなかった(苦笑)。でも ネットで公開された映像※公式サイト「すぺしゃる」ページにて現在も視聴可能 が広まって、かなりの評価をいただけました。その後は 『迷い猫オーバーラン!』(2010) で、全話の次回予告を 2 体の 3DCG キャラクターのかけ合いでつくりました。それから1年間はダンスムービーばかりでしたね。最後に 『映画 プリキュアオールスターズDX3 未来に届け!世界をつなぐ☆虹色の花』(2011) を手がけて、ダンスはやりきったなと思っています。

野口:そして 『TIGER & BUNNY』(2011)『ブラック★ロックシューター』(2012) 、を経て、『009 RE:CYBORG』(2012)にいたると。徐々に尺が長くなり、キャラクターの頭身が高くなり、より難しい芝居に挑戦なさってきた。起ち上げから今日まで、非常にうまく階段を上ってこられた印象があります。

松浦:もうちょっと早い時期に 3DCG でキャラクターを表現できるようになると思っていたのですけど、結果的に 6 年半もかかっちゃいましたね。実は『咲-Saki-』の前、2008年の時点で完全オリジナルのフル CG アニメをつくっているのですよ。とある TV アニメ企画のプレゼンテーション用の試作映像で、キャラクターは全部セルルックの 3DCG で表現して、動きはリミテッドアニメにしました。こういう CG の使い方もありではないかと世の中に打ち出すつもりでいたら、リーマン・ショック の影響などで企画が通らなかったのです(苦笑)。当時のサンジゲンは2、30人程度の小さな集団で、大したキャパシティはなかったけれども、きっと表現できるという確信がありました。ただし世の中に出さないことには誰も信じてはくれない。だから、ほとんど持ち出しで貪欲に映像をつくっていましたね。

松浦裕暁ポートレイト1

 

野口:3DCG を使うなら、モーションキャプチャを活用して効率化を図る、あるいはフォトリアリスティックなどの 3DCG らしいルックにするといった発想の方が自然だったと思うのです。サンジゲンの前身であるフリーランス集団の「三次元」を起ち上げたのが 2003 年ですよね。ちょうど 『ペコラ』(2002〜2003)『APPLESEED』(2004年) が制作されていた時期ですが、ああいった 3DCG らしさを活かす方向に進もうとは思わなかったのでしょうか?

松浦:当時の僕は結果を出していなかったので根拠はなかったのですが、あの方向性はちがうなと感じていました。日本の作画アニメは60年近い歴史があり、完成された制作システムをもっています。多くのユーザーがいて、しっかりとした市場がある。そこで認められる作品をつくらなければ、CG アニメの市場を広げることはできないと思ったのです。

野口:だからセルルックで、しかもリミテッドアニメを表現する方向に舵をきったと。「松浦さんは勇気があった」と語る方が業界には多いのですよ(笑)。その勇気はどこから湧いてきたのか、なぜ勝算があると考えたのでしょうか?

松浦:まず、僕たちが小規模な集団だったからでしょうね。だから思いきった挑戦ができた。そして当時のアニメ業界での 3DCG は補助的な使われ方に留まっていたので、作品のメインであるキャラクターを表現することにこだわりました。モーションキャプチャやシミュレーションに関しては、それによって効率を上げることはすごく大切ですが、良い画をつくるための効率化なのか、単純に生産性を上げるための効率化なのかは、ちゃんと見極める必要があると思っています。

野口:たとえ生産性が上がったとしても、良い画をつくる効果がなければ導入する必要はないと?

松浦:コンピュータに自動計算させれば、とりあえず早くつくることは可能かもしれません。ですが、本当につくりたい画を実現できるのかどうか、僕は疑問があります。例えば10人のアニメーターがいれば、10通りのつくりたい画があるのです。十人十色の画を早くつくれる方法は、シミュレーションではないと思います。アニメーターの熟練度を上げていくことの方が、実は重要なんじゃないかと。

野口:『009 RE:CYBORG』を制作できたのは、優秀な CG アニメーターを育成してこれたからということでしょうか?

松浦:そうですね。10名強のベテランアニメーターの存在は非常に大きかったです。作画アニメの業界には優れた先輩方が沢山いらっしゃいますから、常に作画から学ぼうという姿勢でやってきました。最初の頃は接点を持てる機会が少なかったのですが、僕らが作画の側にいき、「我々はこんなことをやりたいのですが、先輩方はどんなことをなさっているのですか?」と尋ねて、一緒にやってくださる方を探してきました。つくりたい画を実現するには、その方がむしろ効率が良いだろうと思ったわけです。そんな姿勢でやってきたことが、成長の大きな要因ではないでしょうか。

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