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第10回:伊藤頼子先生(Academy of Art University)

第10回:伊藤頼子先生(Academy of Art University)

日本における3DCG・映像教育の現状と課題を探るため、教育現場と制作現場、双方での経験をもつ方々に話を聞く本連載。今回は、サンフランシスコのAcademy of Art University(以降、Academy)でVisual Development(以降、Vis Dev)を教える伊藤頼子氏にご登場いただく。かつては自身もAcademyの学生としてイラストレーション(以降、イラスト)を学び、卒業後はDreamWorks Animationなどで様々な分野のBackground paintやVis Devに携わってきた伊藤氏。現在もフリーランスのVis Dev Artistとして精力的に活動中だ。「イラストもVis Devも、1番大切なのはストーリーテリングです。そのショットのストーリーに最適なレイアウト、ライティング、カラーを選び、ビジュアルでストーリーを伝えるという点は両者に共通しています。だからイラストからVis Devへの転向に違和感はなかったですね」と語る伊藤氏に、これまでの軌跡や教育に対する思いを伺った。

Academyでは、生身のモデルを短時間で描写するドローイングが主流

愛知県の美術館で開かれたPaul Brooks Davisの展示会で受けた衝撃が、自分をアメリカ留学に駆り立てたと伊藤氏はふり返る。「アメリカのイラストレーターは、美術館で作品が展示されるほど地位が高い。どうせやるなら、アメリカの大学で勉強したいと思ったのです」。リサーチと準備を重ね、当時は比較的学費が安かったAcademyに留学した伊藤氏は、様々なクラスを受講した。「透明水彩絵具、グワッシュ(不透明水彩絵具)、ペン、色鉛筆、オイル(油絵具)、アクリル絵具など、一通りのペイントを経験しました。人物の木炭ドローイングも何度となくやりましたね。現在のVis Devの仕事はデジタル中心ですが、Academyでは今もアナログのペイントやドローイングが必修になっています」。

  • 伊藤頼子/Yoriko Ito
  • 伊藤頼子/Yoriko Ito
    三重県出身。短大の英文科を卒業後、自費でサンフランシスコのAcademy of Art Universityに留学。イラストレーションを専攻し、1992年にBachelor of Fine Arts(BFA)を取得。卒業後は子供向け絵本のイラストレーション制作に携わる。ゲーム会社でのBackground Designer/Painterを経て、1997年からDreamWorks Animationにて映画『The Prince of Egypt』(1998)、『Spirit: Stallion of the Cimarron』(2002)などのEnvironmental Design(環境デザイン)やBackground Paint(背景画)を担当。2002年以降はVisual Development Artistに転向し、『Madagascar』(2005)でAnnie Award(アニー賞)にノミネートされる。その後も『Shrek 2』(2004)、『Madagascar 2』(2008)、『Shrek 4』(2010)、『Madagascar 3』(2012)などの制作に参加。2013年以降はフリーランスとなり、映画やゲームをはじめ、様々な分野の映像制作に携わる。Oculus Story Studioが発表したVRアニメーション『Henry』(2015)にもVisual Development Artistとして参加。Academy of Art UniversityのVisual Development Departmentにて後進の育成にも従事。
    伊藤頼子氏のWebサイト/The Art of Yoriko Ito

日本の美術教育では、静物や石膏像などを数時間かけて描写するデッサンがトレーニングの主流となっている。一方、Academyをはじめとするアメリカの美術教育では、生身のモデルを短時間で描写するドローイングが主流になっているという。「Academyの場合は、講師が指導するクラスとは別に、毎日どこかの教室でモデルだけのドローイングセッションが開かれており、描きたい人は何枚でも描けるようになっています。モデルは裸体の場合もあれば、着衣の場合もあります。クイックドローイングなら2分、長くても20〜30分くらいで1枚を仕上げます。重視されるのはラインの流れです。フォームとボリューム(形)、ストラクチャー(構造)、動きなどを把握し、ラインの流れで表現します。そういう表現に慣れた私から見ると、日本の学生の人物デッサンは"固いな"と感じます」。

Academyにも静物画のクラスはあるが、長くても3時間程度で終了するという。「重視されるのは光と陰影の表現。それから画面内にモチーフをどうレイアウト(構成)するかです。このレイアウトの力はVis Devでもすごく大切です」。

Academyを卒業した伊藤氏は、絵本のイラスト制作、ゲーム会社でのBackground Design/Paintを経て、DreamWorks Animationに入社した。入社直後に担当した『The Prince of Egypt』の背景画はグワッシュなどを使ったアナログだったが、それ以後は段階的にデジタルへ移行したという。

「アナログからデジタル、2Dから3Dの転換期に立ち会い、両方を経験できたことは素晴らしい財産になっています。現在の商業作品にはデジタルが欠かせませんが、アナログにはアナログの良さがあります。今でも週末には郊外まで足を伸ばし、アナログの風景画を描いています。Undo(やり直し)のきかない一発勝負のペイントなので、速く描くためのトレーニングになりますね」。アナログの絵を描けば描くほど、Academyの自身のクラスで学生たちのペインティングを修正する速度もアップしているという。

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