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Vol.11:続・キー合成 ※サンプルデータあります!

Vol.11:続・キー合成 ※サンプルデータあります!

<3>Additive Keyerによるキー合成

実例は、サンプルデータ内の「No.5」を参照していただきたい。Additive Keyer自体については、Nukepedia「Additive Keyer」で解説されている。
要約すると、撮影プレートとクリーンプレート(つまり被写体を除いたと想定するグリーンだけのプレート )の差分を求め、その差分のrgbの平均値 (saturationを下げたもの)がプラスの場合は合成されるべく背景と掛け合わせたもの、マイナスの場合はそのままの値を合成されるべく背景に加算する。

連載「NUKEプラクティカル・ガイド」(第11回:続・キー合成)

<13> 「No.5」にある、Additive Keyerのノード構成。Nukepedia「Additive Keyer」を参照してもらいたい。今回はコンセプトはそのままにして少し改良している。linlogして、loglinで戻しているのは、明るさ等を足し引きする場合、コンプの通例として割とこの変換を用いる。理由は、影部分等の差がなだらかになり、また非常に強い値でも極端な値にならないというメリットがある

こうすることで、モーションブラー等で半透明部分が合成結果時に黒ずむことなく、背景の色を加味したモノで合成される、というコンセプトだ。

ちなみに、マイナス値の部分は、グリーンスクリーンで撮影された被写体が比較的暗いのに、グリーンスクリーンが明るい場合に、その半透明部分に明るいグリーンスクリーンが透けてしまうことで、合成結果としてハロと呼ばれる明るいボーダーラインを得てしまうのを抑えることができる。
要するに、合成されるべく背景を考慮したFGプレートを作成することを目的としている。また、「No.5」ではB(1-a)に頼っていないので、完全なクリーンプレートを作成するのが困難であっても、ある程度機能する構造になっている。addive keyerとしてあるbackdrop内の赤いsaturationに[0]を用いることで平均値を出しているが、この値を少し上げることで、半透明部分に、元の色を少し返すことができる。

連載「NUKEプラクティカル・ガイド」(第11回:続・キー合成)

<14> 本文説明にあるようにAdditive Keyer にあるsaturationの値を上げてみた例。半透明部分に赤を感じるようになった。わかりやすくなるように値に0.6を用いているが、今回例では0.2ぐらいがちょうど良いように思える

「No.6」「No.7」では、グリーンスクリーンが合成されるべく背景と比べて、明るい場合と暗い場合の例を挙げている。

連載「NUKEプラクティカル・ガイド」(第11回:続・キー合成)

<15> 上段が、撮影プレートで適切だと思われるグリーンスクリーンの明るさよりさらに明るく、かつ、合成されるべく背景が暗い場合の例(「No.6」)。一番右の結果をみるとハロが目立っている。下段がその逆でグリーンスクリーンが暗く、背景が明るい例(「No.7」)。右の結果にはエッジが暗くなっているのを感じる

いずれも、Additive Keyerとしてあるbackdrop内の緑のgradeノードをON/OFFしてみるとその調整方法が確認できる。細かい説明は割愛するが、前述の、プラス値とマイナス値を調整することで、背景になじみやすいエッジになるような効果を得ている。

連載「NUKEプラクティカル・ガイド」(第11回:続・キー合成)

<16> 「No.6」での調整例。Additive Keyerにある、2つある緑のgradeノードで調整している。調整は、主にoffsetで行なっている

連載「NUKEプラクティカル・ガイド」(第11回:続・キー合成)

<17> 「No.7」での調整例。「No.6」と同様に、2つのgradeノードで調整している。Additive Keyerの特長として、ハロやブラックエッジを比較的容易に調整することが可能になっている

ここで紹介した手法が、いかなる場合も有効でいかなる素材であっても良好な結果を導くとはなかなか言えないが、数人の同僚コンパー(コンポジター)に「キー合成の極意とは?」を聞いてみたところ、みんな口を揃えて「ケースバイケース」や「色々やってる」みたいな回答であった。

つまり、キー合成に置いてはみんなそれぞれがそれなりに、手法を持っており、条件によって使い分けているという印象であった。今回紹介したことが、読者にとってその幾つか有るうちのひとつの選択肢になりえるであろう。
また、前回もふれたが、キー合成においての問題はほとんどの場合ディスピルやFGの調整においてだ。完全なキーと完全なクリーンプレートを得ることができれば完全なキー合成が可能であるが、それはもはやキー合成ではない。そして、現実的には完全なキーが得ることは難しく、どうにかしようと削ったり延ばしたりするのは、本来であれば避けるべきであり、それよりも、ディスピルやFGの調整を背景に合わせた形で行うことで、キーの状態に左右されづらい合成を行うこと方がクオリティを上げやすいと筆者は考える。

Column.
北米でも「隣の芝生は青い」?

担当編集N氏からの提案で、今回からコラム的なものを書くことになりました。せっかくいただいた機会なので図々しくも何かしら書こうと頭をひねってはみたものの......やはり薄っぺらい人間なので、なかなか思い浮かばないですね(笑)。

山路を登ったりしながら、しぼり出さないといけないのかとも思っておりますが......そう言えば、筆者はPythonやTclを用いてツールを作りながらコンプすることが多く、現在活動拠点としているバンクーバーの同僚たちから「そういうプログラム的な知識はどうやって学んだのか?」と、よく質問されます。
それを言ったら、「君たちのコンプのセンスはどうやって学んだのか?」って、常々思っているのですが(笑)。とまぁ、周りのコンパーの腕の良さに毎日嫉妬しております......やはり向こう三軒両隣にちらちらするのは、ただの人ではないぞと。

TEXT_テラオカマサヒロ(Galaxy of Terror)

株式会社ギャラクシーオブテラーにて VFX ディレクターとして活躍中。
現在は北米に活動拠点を置き、実写合成からフルCGまで幅広いVFX制作に携わっている。
個人サイト「tiraokan.」



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