>   >  日本アニメCGの新たな原動力 Autodesk 3ds Max 2011×PSOFT Pencil+ 3:日本アニメCGの新たな原動力 Autodesk 3ds Max 2011×PSOFT Pencil+ 3(第4回)
日本アニメCGの新たな原動力 Autodesk 3ds Max 2011×PSOFT Pencil+ 3(第4回)

日本アニメCGの新たな原動力 Autodesk 3ds Max 2011×PSOFT Pencil+ 3(第4回)

日本のアニメーション表現における 3DCG の活用領域を切り開いてきた、統合型 CG ソフト Autodesk 3ds Max とセルシェーディング・プラグイン PSOFT Pencil+ 。この短期連載では両ツールのレビューを通して、最新の日本アニメにおけるCG表現を紐解いてきた。最終回となる今回は、Pencil+ 3 で実装された新機能の中でも特に画期的である[パース変形モディファイヤ]について詳細に解説する。加えて、サンジゲンが昨年参加した『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer- 』と『ラブライブ!』という 2 つの制作事例についても紹介しよう。

パース変形モディファイヤ

PSOFT Pencil+の登場によって、セル CG の線と質感に関しては、それ以前と比べて飛躍的に自由度の高い表現が実現できるようになった。手描きのセルと並べても殆ど違和感を感じさせることなく作業をできるようになったと自負する。しかし、セル質感の 3DCG を画面の中で動かす上で、大きな課題となっていたのが「形の変形」だ。そして、この状況を打破したのが、Pencil+ 3 で新たに搭載された パース変形モディファイヤ である。

セル質感の 3DCG を実際に手で描かれたセルアニメと絡めた場合に一番気になるのが「表情や動きが"硬い"」ということだが、セルアニメであれば描き手の意図に応じてキャラの顔は崩れないように、手前の拳は思い切りパースを利かせて迫力を出すといった、「 1 画面内に様々なレンズ画角が同居する」という手描き独特の画面をペンが赴くまま自由に作り出せるし、それが魅力であったりもする。特にカメラ前スレスレをキャラクターの拳や蹴り等が大きくよぎる印象的なカットの代名詞でもある 金田パース を 3DCG で表現しようとする場合、画面に映るもののカメラレンズのミリ数は一定であるがゆえに不得意であった。単純にカメラのレンズを広角に振ってカメラをキャラに寄せてしまえば、手前と奥の距離感がでてパースも利いてくるので一見問題ないように思えるが、画面全体が一様に歪んでしまい、意図した画にならない。これまでは歪みの少ないレンズでカメラを据えた後、主にカメラ越しに変形させたい箇所のみを様々なモディファイヤに頼りつつ、さらにコマ単位でアニメーションを作っていたのだが、しかしこの方法は経験ある CG アニメーターの経験値に依る所も多く、敷居の高いのも事実。この自由な画づくりをモディファイヤベースで可能にしたのが、パース変形モディファイヤ というわけだ。

シェーディング調整前のCGキャラクター

image courtesy of SANZIGEN, Inc.
<A1>キャラクターがハンマーを持って振りかぶり、それを振り下ろしてカメラ前で止めている動画を一部抜粋したものだが、使用レンズは 35mm フィルム換算で 50mm 。標準的な画角設定ゆえ手前に来たハンマーとキャラの対比もあまり変わらず、いまひとつ迫力にかける画面になってしまっている
 

シェーディング調整前のCGキャラクター

image courtesy of SANZIGEN, Inc.
<A2>カメラのレンズを広角の23ミリにしてみた。<A1>と比較して、特に「キメ部分」でキャラクターとハンマーの距離が出た上に、手前のハンマーの大きさが強調されて一気に迫力が出た。しかし同時にカメラに近いところほどレンズによる歪みが出てしまっているで、出来ればこれを緩和したい。従来ならばこれをモディファイヤをオブジェクト単位で駆使して、モデルを変形し、歪みを直すしかなかった
 

シェーディング調整前のCGキャラクター

image courtesy of SANZIGEN, Inc.
<A3>パース変形モディファイヤを使用した例。同様のシーケンスを、カメラに近い部分は 200mm 相当、カメラから離れるほど 16mm 相当に変形するように仕込んでみた。広角レンズのみのカメラと違い、近くに寄った時の画面の歪みをさほど気にする必要がないため、カメラをキャラに目いっぱい寄せることが可能。少々判りづらいかもしれないが、手前に来たハンマーの歪みが大分緩和されているカットになった筈だ
 

シェーディング調整前のCGキャラクター

image courtesy of SANZIGEN, Inc.
<A4>同じくパース変形モディファイヤを使用した例。ただ今度は<A3>とは逆で、カメラに近い部分は 16mm 相当、遠いところは 200mm 相当と、モディファイヤの変形条件を変えてみた。こうすると手前に来たハンマーは迫力が、遠くに居るキャラの顔はあまり崩れない、理想的な構図になった。カット担当者がどのように構図を決めたいかによっては、単純に手前広角/奥望遠といったセッティングまま固定せずに、シーンの流れの中で自由に画角とモディファイヤの影響範囲にもアニメーションを付けてやるのが最も有効な使い方である
 

次は、パース変形モディファイヤの効果をもう少し判り易く説明する。

シェーディング調整前のCGキャラクター

image courtesy of SANZIGEN, Inc.
<B1>キャラがカメラに向かって手をかざし、奥でハンマーを持っている構図。この構図でもっと迫力を出そうとするならばもっと画角を広くして手前と奥の距離を強調するのが良い
 

シェーディング調整前のCGキャラクター

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<B2>そこで広角にした構図。手前奥の距離が出て、非常に迫力のある画となったが......。今度はレンズの歪みによってキャラの顔が少し崩れて、後髪も見えにくくなり、キャラの印象が変わってしまった。従来ならばこれはどうしようもないと諦めていたところだ
 

シェーディング調整前のCGキャラクター

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<B3>パース変形モディファイヤで手前と奥の広角パースは活かしつつ、キャラの顔付近は望遠パースになるように調整
 

シェーディング調整前のCGキャラクター

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<B4>パース変形モディファイヤの影響範囲を判り易く説明するための模式図。Z 深度で赤く塗られている部分がレンズ 16mm 相当の変形、黄色で塗られている部分が 50mm 相当の変形。従来ではこのような見せ方はほぼ不可能だった
 

シェーディング調整前のCGキャラクター

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<B5>パース変形をかける前の作業画面。向かって左上が作業用カメラ、左下は比較用に 50mm 相当の画面を表示してある。向かって右側はキャラとカメラの位置関係
 

シェーディング調整前のCGキャラクター

image courtesy of SANZIGEN, Inc.
<B6>パース変形をかけた後の作業画面。左上の画面が図5-cのレンダリング画面だ。ここで注目してほしいのが、左下の画面。前の図の画面と比べ、キャラの後髪が異様に大きく変形している。つまりパース変形モディファイヤというのは、あくまでもカメラから見たときの印象をどう見せたいかに重きを置いているアニメ CG にはもってこいのツールである。見回した時にどんな無茶な変形をしていても、カメラ越しの画さえ成立していれば問題ないのだ
 

パース変形モディファイヤには、スイッチポイントというものがあり、カメラから見た距離に応じて自由にパース変形の度合いを変えることができる。ここではポイントが 3 つ用意されており、カメラから顔面前、顔面前から後頭部まで、後頭部からハンマーまでの間で画角が16mm → 50mm →16mm と、切り替わっている。 スイッチポイントもアニメーションさせることができるので操作しだいでより自由な構図を作ることができるだろう。

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レンズディストーションの効果。適用前のシーン<C1>(上)に対して、レンズディストーションをかけたものが<C2>(中)である。こういった変形ならばAfter Effetsなどのソフトウェアを使っても<C3>(下)のようにできてしまうが、これでは多少画像の荒れが出てしまう。パース変形のレンズディトーションを使えば、ポリゴンの分割の許す限り画像荒れのないきれいなレンダリング画像が得られる
 

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ツイスト、オフセット効果を使用した例。<D1>(下)の画像に<C3>と同様の効果をかけたものが<D2>(中)。これでも問題ないのだが、ツイスト、オフセットを使ってもう少し構図とポーズを調整して<D3>(下)のようにしてみた。画面に対する収まりが改善され、腕には通常のボーンでは出来ないひねりが加わり、より面白味のある構図になった
 

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ツイスト、オフセット効果を判りやすいように作業画面で見てみる。この<D4>は、<D1>の3ds Max作業画面。この時点ではまだパース変形はかけていない
 

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image courtesy of SANZIGEN, Inc.
<D5>パース変形を ON にして、各スイッチポイントでツイスト/オフセットを調整した。注目してほしいのが、カメラの位置はまったく変わっていないこと。カメラ位置そのままで右腕より向こうの上半身が画面に向かって右にズレ、軽くひねりが入っていることが判る。上の<D4>と比較してみると判りやすい。このツールは最終的な構図/ポーズの修正に使うと有効だ
 

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image courtesy of SANZIGEN, Inc.
始点オフセットとオフセットを併用した例。キャラの左手の先を中心にカメラが回っているだけに見えるが、実は違う。キャラの各部分の動線を追ってもらえば判るかと思うが、カメラなら少なからず起きるであろうパースによる歪みがまったくない
 

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image courtesy of SANZIGEN, Inc.
ツイスト、オフセット効果を使用した例。<Frame 1>(上)の画像に<D3>と同様の効果をかけたものが<Frame 3>(中)。これでも問題ないのだが、ツイスト、オフセットを使ってもう少し構図とポーズを調整して<Frame 5>(下)のようにしてみた。画面に対する収まりが改善され、腕には通常のボーンでは出来ないひねりが加わり、より面白味のある構図になった
 

いかがだろう? Pencil+ 3 の新機能、パース変形モディファイヤ の登場によって、従来では困難と思われていた構図が容易に実現するようになった。このプラグインは日本のアニメーションの特徴をいかに 3DCG に落とし込むかという発想の元に生まれた世界でも非常に稀なツールだ。アニメ的構図を作ることに苦心していた人(自分もそのうちの一人なのだが.......)にとっては待望のツールと言えよう。「 3DCG は固くて、セルとの馴染みが悪い」という言葉が過去の物になる日もそう遠くないと確信している。(文:サンジゲン・名倉晋作)

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