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VFXチームがわかりやすく解説! 大河ドラマ『青天を衝け』で学ぶ、VFXのつくり方<21> 蚕卵紙燃やしと議会多重合成

NHKの大河ドラマ『青天を衝(つ)け』のVFX映像の制作過程や裏話、現場の様子などをご紹介するシリーズ企画。21回目となる今回は蚕卵紙を燃やすシーン、および多重合成で表現した議会シーンについて解説したいと思います。

記事の目次

    [青天を衝け] VFX編 | 激動の幕末をダイナミックに描く舞台裏 | 青天を衝けの世界 | NHK

    © NHK

    ミッション<21>「合成で迫力あるシーンを制作!」

    ①蚕卵紙を燃やすシーンの炎合成

    33回『青天を衝け』の放送では、日本の貴重な輸出品である蚕卵紙(※)が外国商人からの理不尽な扱いを受ける中、政府に依頼された渋沢栄一が打開策としてそれを焼き払うというシーンが登場します。

    ※さんらんし。蚕蛾の卵が産み付けられた厚紙

    打ち合わせ後のホワイトボード

    炎が高く立ち上がるまで豪快に燃やしたいという演出要望を実現するために、安全面を考慮してスタジオ撮影ではなく、炎は屋外で別に撮影した素材を合成する手法が採用され、綿密な打ち合わせを実施しました。

    蚕卵紙を燃やすシーンの撮影プレート

    最初に合成のベースとなるプレートの撮影をスタジオで行います。火を焚かない撮影ですが、VFXチームの要望でリファレンスとしての蚕卵紙が実際にセッティングされました。またその際、スタジオのセットへ照り返す炎の明滅も照明で擬似的に表現しました。

    スタジオ撮影風景

    スタジオでのカメラアングルが決まると、レンズの焦点距離、高さ、仰角、また蚕卵紙からの距離といった細かい情報をそれぞれ計測し、記録しておきます。

    • 撮影プランニング

    スタジオの撮影データを基に、記録したカメラ情報の整合性をMayaでシミュレーションして確認します。その際、さらなるカメラ位置の微調整を行い、より精度の高い情報へと更新し直します。こうして得た情報を撮影プランニングシートとして美術、技術チーム、演出と事前に共有し、素材撮影へと臨みます。

    屋外での炎素材撮影
    スタジオ撮影時と同じ蚕卵紙

    炎の素材撮影は緑山スタジオの敷地内のグランドで行われました。安全に炎の撮影を実現するため、屋外の広い場所を確保することが必要でした。スタジオで使われた蚕卵紙のセットと同じものをセッティングし、まだ明るいうちから、事前に用意したシミュレーションデータを基に、カメラのセッティングを行いました。その際、カメラからの映像信号を共有し、VFXチーム持参のノートパソコンでキャプチャしました。それをスタジオで撮影したプレートに仮合成しながら確認することで、現場でのカメラ位置とアングルの調整を円滑に行うことができました。

    緑山スタジオのグラウンド

    今回、屋外での夜の撮影ということで大がかりな撮影になってしまうことを避けるため、後ろにブルーバックを設置せず、周りの闇に対してのルミナンスで炎を抽出するという手法を採用しました。そのため、日が落ちて周りが暗くなった際、背景に街灯などが存在すると計画が台無しになってしまいます。打ち合わせの段階からカメラの方向、またその背景の環境には細心の注意を払いました。撮影は日が沈み、辺りが暗くなってから行いました。そうして出来上がったシーンが下記になます。

    蚕卵紙焼き払いシーン

    最終的に背景の森のシルエットを生かしたことで、より臨場感が感じられるシーンになりました。
    以下のムービーはスタジオでの撮影映像です。

    蚕卵紙焼き払い スタジオでの撮影映像

    次のムービーはVFXブレイクダウンです。

    蚕卵紙焼き払い VFXブレイクダウン

    ②多重合成による会議シーン

    続いて、第39~40回の放送では栄一が大聴衆の前で演説をするシーンが登場します。スタジオの広さを十分に確保できなかったことと、コロナの影響で大人数のエキストラを一箇所に集められないという理由から、多重合成という方法を採用しました。

    多重合成で表現した議会シーン

    下記の画像は撮影のプランニングシートです。エキストラの多重合成だけでなく、スタジオセットを奥に広げたかったため、カメラ位置を下げながらエクステンションする背景素材も同時に撮影する作戦です。

    撮影プランニングシート

    まず、スタジオ美術セット図面を基にMayaでシミュレーションを行いました。カメラの位置や移動幅、レンズの焦点距離等の情報を割り出し、撮影プランニングシートを作成して、演出、美術、技術と共有します。何度か打ち合わせを設け、最終的に1ブロック40人のエキストラにそれぞれ別の演技をしてもらい、計3ブロックの撮影で臨むというプラン設定となりました。


    撮影は以下の段取りで行いました。

    まず、セット奥にグリーンバックを設置し、登壇している栄一を含む40人の聴衆を撮影します。このカットが基のプレートとなり、奥に2ブロック目以降の聴衆の素材を足していくという算段です。

    撮影プレート①

    セット奥のグリーンバックは設置したままで、聴衆が座っている位置範囲の距離分カメラを後ろへ平行移動します。そうすることにより、パース感を保ったまま奥へと続く聴衆とセットの素材撮影が可能となります。カメラを下げるということは、「カメラを固定したままセットを下げる」という場合とパースの上では同じ意味になります。平行移動するためにレール上にカメラを乗せています。

    撮影プレート②
    カメラの移動幅
    レール上に置いたカメラ

    一番奥の素材はグリーンバックを外し、奥のセットをそのまま活かします。先程同様にカメラを後ろに移動したいのですが、スタジオセットの物理的な制約のためこれ以上下がることはできませんでした。そのため、一番奥にあたるこの素材は合成時にスケール調整を行い、1ブロック奥にあるようなレイアウトにしました。カメラが物理的に移動できない場合は素材のスケール調整で対応するため、パースは正確になはなりませんが、一番奥の素材になるので気になりません。なお、ブロックの撮影ごとに、エキストラ個々の配置はシャッフルしています。

    撮影プレート③

    以下は3つの素材をテスト合成した画像です。

    テスト合成

    その後、天井の抜けや、2つの別の素材を合成した継ぎ目の細部をマットペイントで整えます。

    素材を重ねた際のバレ

    そうして出来上がったシーンがこちらになります。

    多重合成による会議シーン

    次が各レイヤーでの撮影素材です。

    会議シーンの撮影素材

    次のムービーはVFXブレイクダウンです。少ない人数のエキストラや狭いセットという制限の中、工夫次第ではこのような手法で群衆カットを制作することができます。

    議会多重合成ブレイクダウン 

    今回は難しい状況での撮影において、事前の計画立てが特に必要とされた「蚕卵紙燃やしの炎合成」と「議会の多重合成」をご紹介しました。
    今まで放送をご覧いただきありがとうございました。引き続きVFX技術のご紹介をしていきますのでよろしくお願いします。(『青天を衝け』VFXチーム)

    info

    大河ドラマ『青天を衝け』

    総集編:2022年1月3日(月)NHK総合

    午前 8:15~10:00 第1部(55分)・第2部(50分)

    午前10:05~11:49 第3部(54分)・第4部(50分)

    公式HP www.nhk.or.jp/seiten
    © NHK

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    EDITOR

    TEXT_『青天を衝け』VFXチーム(NHK)

    EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

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