これを機に、様々なリアルタイムCG技術によりいっそう取り組んでいく
UE4の特性を活かすというねらいから、キャラクターはごつごつした岩肌のような質感であるドラゴンを、シチュエーションは森の中、というかたちで『HAPPY FOREST』の世界観が確立された。ちなみにSSSについてだが、人の肌自体の表現は今回見送っているものの、ドラゴンの腹部に用いられているとのこと。
「本プロジェクトを進めている最中にUEがアップデートされ、"Subsurface Profile"というシェーディングモデルが搭載されました。これによって肌感についての改善がみられ、リアルタイムCGとしての品質は向上したと思ったのですが、われわれが目指す"プリレンダーに匹敵する質感であるか"という点では、さらなる改良を期待しています」と、『HAPPY FOREST』のシェーディング開発を手がけた高橋 聡氏は語る。
© MARZA ANIMATION PLANET INC.
さらに、高橋氏から約3ヶ月ほど後(2015年初頭)に合流し、技術仕様の調査などエンジニアリング面で活躍した松村知哉氏は次のように語る。
「UEはゲームエンジンであり、映像制作のためのツールではありませんので、"リアルタイムに走らせるための文化・作法"を踏まえた上で取り組む必要がありました。ArnoldやV-Rayなどのレイトレーサーは、物理ベースで設定したものをシーンに置けば屈折なども計算されて描画される"シミュレータ"と言えますが、それに対してリアルタイムエンジンは近似法なので、"そう見えるように仕込む"という、頭の切り替えが求められました。そこでArnoldを導入する以前の、RenderManをメインレンダラに採用していた頃に戻ったような感覚でレンダリング設定を行いました」。なおルックデヴについては、先述の橋本氏のコメントの通り、リアルタイムエンジンであるUE4が得意とする質感を積極的に採用することによって、ドラゴンの瞳を表現するシェーダをマテリアルエディタで組んだ以外は標準のもので賄えているとのこと。
『HAPPY FOREST』は、リアルタイムCGの技術検証プロジェクトではあるが、本作のレンダリング(キャプチャ)には1時間少々を要したという。「総尺が1分半ほどの映像ですが、おおよそ5〜10fpsあたりで、ストレージに書き込む分ディスプレイに表示するよりも速度が出づらい環境でした。ただ、これは1台のワークステーション、しかも3年ほど前のQuadroという作業環境における結果です。プリレンダー案件と同様のレンダリングを行なった場合、おそらく1台のワークステーションでは1週間から10日はかかるのではないでしょうか」(加治佐氏)。今回は、リアルタイムエンジンを映像制作で利用するにあたっての手法の確認やフローの確立が主軸であり、作業環境の最適化という面では後回しにせざるを得なかった点が多々あるとのこと。その意味では、「GeForce GTX TITAN X」などリアルタイム描画用途で開発されたハイエンドGPUを用いれば、まちがいなく30fpsのパフォーマンスを実現できるはずだと期待をこめていた。
Unreal Engine 4のUI。倒木(ドラゴンが隠れている木)の質感設定を示したもの
本作をご覧になれば、リアルタイムCGがもつ大きな可能性を実感していただけるだろう。MARZAでは今回の実験だけで終わらせるのではなく、これを機に会社として積極的にリアルタイムCGに取り組んでいくそうだ。
「高速なレンダラとしてだけでもCGアニメーション制作のワークフローに変革をもたらしてくれるはず。さらに"ゲームエンジン"という側面で捉えれば、今後プリレンダー案件だけでなくVR、ARといったインタラクティブコンテンツへの応用など、MARZAの事業領域そのものに変革をもたらしてくれることを期待しています」(今村氏)。
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「今回はUEを選択しましたが、ツールの選択は常に柔軟に行なっていくべきでしょう。例えばUnityは、先日リリースされたバージョン5でかなりアップデートが入ってきているので大きく期待ができます。リアルタイムCGはこの先ますます表現力を高めていくことは確実なので、『HAPPY FOREST』のような映像制作、ゲーム開発、それ以外の用途のプロジェクトなど、様々な場面でUnreal EngineやUnity、さらにはMizuchiなど、その他のツールを活用した"何らかの協力"を行なっていくのが自分の役割だと考えています。携わらせていただくプロジェクトに応じたツールを使って、適切なサポートが行えればと思っています。ツールそのものの自社開発については......どうなんでしょうねえ(笑)?」(橋本氏)。
月刊「CGWORLD + digital video」vol.204では、『HAPPY FOREST』のメイキングを詳細に取り上げているので、そちらもぜひご覧いただきたい。
TEXT_岸本ひろゆき / TEXT_Hiroyuki Kishimoto
EDIT_沼倉有人(CGWORLD) / EDIT_Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / PHOTO_Mitsuru Hirota
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MARZA ANIMATION PLANET
マーザ・アニメーションプラネット株式会社は、2006年4月に(株)セガ社内に発足したCG映像制作部門、VE研究開発部を前身とし、劇場長編『キャプテンハーロック』(2013)のアニメーション制作をリードするなど、ハイエンドなCGアニメーション制作を得意としている。2015年4月にセガサミーホールディングス(株)から、(株)セガホールディングス傘下へ異動。
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