Onesal(ワンサル)はアルゼンチン出身のナウエル・サルセド(Nahuel Salcedo)氏が東京に設立したCGプロダクションで、デザインとモーショングラフィックスを得意としている。2014年設立の新興勢力ながら、同社が手がけた『Discovery Japan "Sculptures" Filler』はSIGGRAPH Asia 2017のComputer Animation Festivalにおいて、Electronic Theaterで上映された。また『Infinite Futures - The University of Melbourne』はADFEST 2018のDesign Lotus部門でSilver Awardを受賞している。今も精力的に新たな映像をつくり続けている同社を訪問し、東京で起業した意図や、モーショングラフィックス制作のワークフローなどを伺った。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
PHOTO_蟹 由香 / Yuka Kani

アルゼンチンをはじめ、各国在住のフリーランスとコラボレーション

CGWORLD(以下、C):まずはOnesalを起業するまでの経緯を教えていただけますか?

ナウエル・サルセド(Nahuel Salcedo)氏(以下、サルセド):ブエノスアイレスの2VEINTEなどでモーショングラフィックス制作に5年ほど従事した後、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)に留学し、2年間デザインを学びました。卒業後はロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスなど、ハイレベルなモーショングラフィックススタジオが集中している都市に引っ越すという選択肢もありましたが、東京に留まり、欧米スタイルのスタジオを立ち上げることにしました。われわれのようなスタジオは東京では珍しいですから、注目してもらえるのではと考えたのです。

アイリン・ブルンナー(Ailin Brunner)氏(以下、ブルンナー):私もアルゼンチン出身ですが、昔から日本の文化に興味をもっていて、東京の日本語学校で日本語を勉強しました。サルセドとは日本に来る前からの友人で、彼から「起業したい」という相談を受けたのをきっかけに営業を手伝うようになったのです。最初はサルセド個人のポートフォリオを使い、クライアントを開拓していました。

▲インタビューに応じるサルセド氏(ディレクター)【左】とブルンナー氏(プロデューサー)【右】


C:Onesalという社名にはどんな意味があるのでしょう? 実は、最初は社名の読み方がわからず悩みました(苦笑)。

サルセド:日本人も外国人もそう言います(笑)。「読めない人が多い」ということに、しばらく経ってから気付きました。「One」は英語の「1」、「sal」はスペイン語で「塩」を意味します。つまり「ひとつまみの塩」という意味があるのです。私たちは、ちょっとちがう味の映像、何かがちょっとプラスされた映像をつくっていきたいと考えています。普通の名前ではありませんが、アルゼンチンでは変わった名前の会社が多いので、自然とそうなってしまいました。

C:現在のOnesalには何人のメンバーがいらっしゃいますか?

サルセド:このスタジオで働いているメンバーは8人で、さらにインターンが1人います。日本人は4人で、それ以外はアルゼンチン出身者です。ブルンナーや私をはじめ日本語を話せる人が多いですが、Onesalの共通語は英語です。メンバーの英語レベルはバラバラで、アルゼンチン出身者の中にも、英語があまり上手くない人はいます。それでもがんばって話しているので、みんな少しずつ上達しています。

▲Onesalのメンバー。そのキャリアは様々で、イギリスのCGプロダクションでVFXのコンポジターをしていた人もいれば、日本のCGプロダクションから移籍してきた人や、新卒で入った人もいる。それぞれに得意分野はあるが、全員がゼネラリストとして制作にあたっている


ブルンナー:先日までインターンをしていたデンマーク人は英語が上手かったですね。一方で、日本語には苦戦していました。今はデンマークに一時帰国していますが、また合流する予定です。ほかにも、日本からのビザ発行を待ちながらスペインで働いているダミアン・センディン(Damian Sendin)というアートディレクターがいます。

サルセド:彼は『Discovery Japan "Sculptures" Filler』のアートディレクションを担当しており、Onesalの貴重なメンバーです。2014年に東京でOnesalを設立した後、2015年にはブエノスアイレスにも支社をつくったのですが、管理コストなどの問題があり1年で閉めました。今はブエノスアイレス在住のフリーランスが代理となり、ほかの現地在住のフリーランスを取りまとめてくれています。ほかにもイタリア、イギリス、韓国、ロシアなど、各国在住のフリーランスとコラボレーションをしてきました。今はお互いのデモリールをVimeoなどで簡単に視聴できるので、コラボレーションの相手を簡単に見つけられます。

ブルンナー:以前はこちらからコラボレーションの相手に声をかけていましたが、最近はOnesalの知名度が上がってきたおかげで、声をかけていただくことが多くなりました。クライアントに関しても同様で、以前はこちらから営業していましたが、最近は既存クライアントが新しいクライアントを紹介してくださるようになっています。例えば『Discovery Japan "Sculptures" Filler』のクライアントであるディスカバリー・ジャパンは、別のクライアントからの紹介でOnesalへの依頼を決めたそうです。

スタイルフレームの完成度を高め、クライアントの合意を得る

C:Onesalの主な使用ツールも教えていただけますか?

サルセド:メインツールはCINEMA 4Dで、Adobeの各種ソフト、Substance Painter、X-Particles、RealFlow、Marvelous Designerも使います。最近はHoudiniも使えるようになろうと、みんなで力を入れて勉強しています。

C:『Discovery Japan "Sculptures" Filler』の制作にかかった人数と期間はどのくらいでしょうか?

サルセド:映像はアートディレクターのセンディンほか、数名のアーティストで制作しました。期間は2ヶ月くらいで、Onesalとしては長い方です。コンセプトにこだわるクライアントだったので、コンセプトが固まるまでに1ヶ月以上を要しました。

C:制作期間の半分以上がコンセプトメイキングということですか?

ブルンナー:そうです。制作自体は数週間で終わりました。このプロジェクトでは5秒の『Idents』を3種類と、それらをつないだ40秒の『Filler』をつくっています。ディスカバリー・ジャパンのTV番組の合間、ちょっと時間が余ったときに放映していただく映像です。

C:コンセプトはどうやって相手に伝えるのでしょうか? 言葉ですか? ビジュアルですか?

サルセド:まずはアイデアを言葉で伝えます。さらに「こういうのはいかがですか」「こんな感じでどうですか」というようにリファレンス画像を送ります。クライアントからリファレンス画像が送られてくることもあります。そのやり取りを通して大まかなコンセプトが決まったら、スタイルフレーム(Style Frame)をつくります。ストーリーボードをつくることもありますが、スタイルフレームの方が最終形に近く説得力があるので、私はスタイルフレームを重視しています。『Discovery Japan "Sculptures" Filler』の場合は、センディンがスタイルフレームをつくりました。

C:そこはアートディレクターの領分というわけですね。

サルセド:はい。基本的にはアートディレクターがスタイルフレームをつくり、ほかのアーティストがそれを映像化します。ただし小さなチームですから、センディン自身も映像制作を手伝います。私自身、Onesalを経営する傍ら、常日頃からゼネラリストとして映像制作もやっています。

▲『Discovery Japan "Sculptures" Filler』の第一段階でつくられたスタイルフレーム。本記事で紹介するのは全体のほんの一部で、実際にはさらに数多くのスタイルフレームが制作されている


▲『Discovery Japan "Sculptures" Filler』の第二段階でつくられたスタイルフレーム。第一段階、最終段階のスタイルフレームと比較すると、段階を重ねるごとに完成形へと近付いていることがわかる


▲『Discovery Japan "Sculptures" Filler』の最終段階でつくられたスタイルフレーム


C:映像をつくる前に、コンセプトをビジュアライズしたキーショット、すなわちスタイルフレームをつくり、クライアントに確認してもらうわけですね。最終段階のスタイルフレームは、完成映像の1フレームに等しいと言えるクオリティに仕上がっていますね。

サルセド:そうです。だからラフなストーリーボードをもとに意見を交わすことを私は好みません。スタイルフレームの完成度を高め、クライアントの合意を得ておけば、映像制作段階での修正はほとんど発生しません。

C:音を入れるのはどのタイミングですか?

サルセド:基本的には、スタイルフレームが仕上がり、アニマティックをつくる段階からです。ただし音に対するこだわりの強いクライアントの場合は、早い段階から着手して方向性を聞くこともあります。音楽はアルゼンチンやイタリアのフリーランスに依頼することが多いですが、私自身もサウンドエフェクトはつくります。Onesalでは音楽はもちろんサウンドエフェクトにも力を入れており、最終映像を見ながらタイミングの微調整を行います。

▲『Discovery Japan "Sculptures" Filler』のアニマティック。短時間でレンダリング可能なグレー状態で制作し、映像全体を俯瞰する。クライアントにも共有して意見を聞いた上で、質感を付けたりパーティクルを追加したりといったフィニッシングに入る


▲『Discovery Japan "Sculptures" Filler』の完成映像。「Humanoid」「Nature」「Planets」をテーマに、印象的な3種類の世界を表現している
クライアント:ディスカバリー・ジャパン
制作:Onesal
ディレクター:ナウエル・サルセド(Nahuel Salcedo)
プロデューサー:アイリン・ブルンナー(Ailin Brunner)
アートディレクター:ダミアン・センディン(Damian Sendin)
ストーリーボード:平野創(So Hirano)
サウンドデザイン:ダニエル・ペレス(Dany Perez)

本作は以下のアワードを受賞している
PromaxBDA Asia 2017 - Best On Air Ident - Silver
SIGGRAPH Asia 2017 - Computer Animation Festival - Electronic Theater
Bassawards 2017 - Best ID - Bronze


C:どうしてSIGGRAPH Asiaなどのアワードに応募しようと思ったのですか?

サルセド:Onesalは日本でほとんど知られていないので、色々なアワードに応募することで知名度が上がればと期待したのです。出すのは無料ですし、受賞すれば多くの人の目に触れる機会を得られます。

C:実際、CGWORLD編集部がOnesalを知ったのはSIGGRAPH Asiaがきっかけでしたから、期待通りの効果があったと言えそうですね(笑)。SIGGRAPH Asiaの審査員から、何らかのフィードバックはありましたか?

ブルンナー:まず良い評価として「アニメーションが本物のようだ」「テクスチャがすごくリアルで、フィニッシングが良い」というコメントをいただきました。さらに悪い評価として「コンセプトがつまらない」というコメントもいただきました(苦笑)。

C:1カ月以上かけて練り上げたのに!!!(笑)

サルセド:こちらはコメントを読むだけなので、残念ながら何も言えないですね(苦笑)。

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東京と聞くだけで、多くの人が興味をもつ

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東京と聞くだけで、多くの人が興味をもつ

C:先ほど『Discovery Japan "Sculptures" Filler』の制作期間はOnesalとしては長い方だとおっしゃいましたが、他にはどんなケースがありますか?

サルセド:例えばニコライ・バーグマンから依頼された『Hanami 2050 - Digital Flower Installation』は、私を含む数名のアーティストが約3週間で制作しました。本作の場合は、一部のサウンドエフェクトも私がつくっています。

▲『Hanami 2050 - Digital Flower Installation』の第一段階でつくられたスタイルフレーム。「Future Flowers」というコンセプトのもと、多彩なビジュアルが提案された


▲『Hanami 2050 - Digital Flower Installation』のアニマティック


▲『Hanami 2050 - Digital Flower Installation』の最終段階でつくられたスタイルフレーム


▲『Hanami 2050 - Digital Flower Installation』の完成映像
クライアント:ニコライ・バーグマン
エグゼクティブ・プロダクション:Archie Works
制作:Onesal
ディレクター:ナウエル・サルセド(Nahuel Salcedo)
プロデューサー:アイリン・ブルンナー(Ailin Brunner)
デザイン・アニメーション:ディエゴ・ディアポロ(Diego Diapolo)、ナウエル・サルセド(Nahuel Salcedo)
アディショナル・アニメーション:デイビッド・キーン(David Kvien)、柳生大志(Taishi Yagyu)
サウンドデザイン:ダニエル・ペレス(Dany Perez)、ナウエル・サルセド(Nahuel Salcedo)


Hanami 2050での『Hanami 2050 - Digital Flower Installation』の展示の様子。このプロジェクトで制作した3種類のループアニメーションは2018年3月29日∼4月1日まで福岡県の太宰府天満宮で展示され、日本はもちろん、アメリカのニュースでも取り上げられた。「このプロジェクトを通して、インスタレーションや展示への興味が高まりました。今後はモーショングラフィックスに加え、ファッションや現代アートなど、ほかのジャンルとのコラボレーションにも挑戦したいです」(サルセド氏)


C:現在のクライアントは、日本とそれ以外のどちらが多いですか?

ブルンナー:日本以外のクライアントが多いです。これまではイギリスが多かったですが、メルボルン大学がクライアントの『Infinite Futures - The University of Melbourne』を手がけて以来、オーストラリアからの依頼も増えました。

C:そんな中で、東京に拠点を設けるメリットは何なのでしょうか?

サルセド:これは個人的な意見ですが、海外のデザイナーから見ると、東京は憧れの場所のひとつなのです。素晴らしいデザインや作品が生み出される都市だから、興味をもつ人は多いし、来たがる人も多いです。そんな東京に拠点を設け、アートディレクションをしている会社というだけでワンランク上のスタジオだと思ってもらえます。誰かに来てほしい場合も、東京であれば喜んで足を運んでくれます。

ブルンナー:東京と聞くだけで、多くの人が興味をもちますね。ブエノスアイレスにいた頃の私自身もそうでした。

サルセド:それから東京には数多くの優秀なアーティストがいますから、コラボレーションの相手に事欠きません。今後Onesalのビジネスが大きくなったとしても、アーティスト集めに関しては心配無用だと思っています。さらに中国、シンガポール、インドネシアなどが近いため、アジア各国から仕事の依頼がきます。最近は中国からの依頼が増えていますね。

▲『Infinite Futures - The University of Melbourne』の第一段階でつくられたスタイルフレーム


▲『Infinite Futures - The University of Melbourne』のストーリーボード


▲『Infinite Futures - The University of Melbourne』の最終段階でつくられたスタイルフレーム


▲『Infinite Futures - The University of Melbourne』のメイキング映像


▲『Infinite Futures - The University of Melbourne』の完成映像。本作はメルボルンモデル(同大学独自のカリキュラム)を紹介するブランドキャンペーンの一環として制作された。「メルボルン大学で進行中の研究に基づき、その可能性を示唆する16の抽象的、かつ幻想的な風景を表現しました。2017年10月に最初の紙面広告が発表されて以降、関連映像が様々なメディアで公開されています」(サルセド氏)
クライアント:メルボルン大学
代理店:McCann Melbourne
制作:Onesal
ディレクター:ナウエル・サルセド(Nahuel Salcedo)
プロデューサー:アイリン・ブルンナー(Ailin Brunner)
デザイン・アニメーション:ナウエル・サルセド(Nahuel Salcedo)、ダミアン・センディン(Damian Sendin)、マーティン・サルフィーティ(Martin Salfity)
アディショナルデザイン・アニメーション:ロバート・サンデリン(Robert Sundelin)
デザインアシスタント:菅野久子(Hisako Sugano)
サウンドデザイン:アンドレア・ダミアノ(Andrea Damiano)

本作は以下のアワードを受賞している
Adfest 2018 - Design Lotus - Silver Award Winner
Adfest 2018 - Film Craft Lotus - Bronze Award Winner

黙らないで、本当に思っていることを言った方がいい

C:Onesalではインターンの受け入れや新卒採用もなさっていますが、選考では何に注目しますか?

サルセド:私たちの好きなテイストを好きだと感じてくれる人を求めています。その上で、アートディレクションに興味をもっている人がいいですね。作品に対してこだわりをもち、安易に満足せず、「ここがいい」「ここはよくない」「ここはもっとこうした方がいい」という判断ができる人、あるいは判断できるようになろうと努力している人であれば、アートディレクターに向いていると思います。


C:では、最後の質問です。日本のCGプロダクションやアーティストが海外の人たちとコラボレーションをするとき、心がけておくといいことがあれば教えていただけますか?

サルセド:黙らないで、本当に思っていることを言った方がいいです。しかも、早く言った方がいいです。日本人は上下関係や立場をすごく大事にしますが、最大の目的は一番いいものを世に出すことです。その目的を達成するためには、上下関係を忘れてフラットに話し合う必要があると思います。実際、ロンドンやニューヨーク、ロサンゼルスのハイレベルなスタジオはそれを実践していますし、Onesalも同様です。

ブルンナー:言いたいことを我慢していると、いいアイデアが浮かばなくなります。Onesalでは、みんなが言いたいときに、言いたいことを言います。

C:お話いただき、ありがとうございました。今後の作品も期待しています。