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四六時中、描いて描いて描きまくる。プリズムプラスの若手コンセプトアーティストの流儀に迫る

四六時中、描いて描いて描きまくる。プリズムプラスの若手コンセプトアーティストの流儀に迫る

経験豊富なプロデュース力と、高品質なリアルタイム3DCGの開発力を有し、ゲーム、3DCG映像、VR・ARコンテンツなどを手がけるプリズムプラス。同社へ2018年1月に入社したジョッシュ(Josh)氏は、フィリピン出身の若手コンセプトアーティストだ。大学卒業後のキャリアは5年程度だが、2018年夏に発売予定のNintendo Switch版『Rooms: The Unsolvable Puzzle』のキーアート、コンセプトアート、キャラクターデザインなどを数多く手がけている。そんなジョッシュ氏のこれまでのキャリアパスや、創作の流儀について伺った。

TEXT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD)
通訳_ニコール / Nicole(プリズムプラス)

コンセプトアーティストは競争の激しいポジション

CGWORLD(以下、C):今日の取材はニコール(Nicole)さんが通訳をしてくださいますが、普段の仕事は英語でなさっているのでしょうか?

ジョッシュ氏(以下、ジョッシュ):はい。プリズムプラスは全社員の2割程度が海外出身者のため、英語が第2の公用語になっています。英語が苦手なスタッフと話す場合には、ニコールのようなトランスレーターに通訳をお願いしています。日本語の勉強も始めてはいるので、簡単な会話なら日本語でもできます。

  • 2018年夏配信予定のNintendo Switch版『Rooms: The Unsolvable Puzzle』の開発に合わせ、ジョッシュ氏が描いたキーアート。これに先行して2018年3月にリリースされたPlayStation 4、PlayStation VR版の本作は、同社初となる自社パブリッシュタイトルだ。本作はアンティーク調の部屋に閉じ込められた少女「アン」が、数々の部屋に隠されたパズルを解いていくという内容で、幻想的な世界観が同社の優れたCGによって表現されている。Nintendo Switch版ではキーアートが新しくなるほか、2人でコミュニケーションを取りながらプレイできる協力モードが追加されるため、それに合わせて新キャラクターも登場する。なお、新しいキーアートの空にはパズルのピースを連想させる裂け目が描かれている。この表現は、ジョッシュ氏が韓国の原作者へ「パズルゲームであることを強調するため、前作のキーアートの全体構成やライティングを調整したい」と提案した結果、実現したものだ。原作者からは「前作よりもゲーム性が伝わる」という高評価をもらい、採用にいたったという
    ©2018 HandMade Game. Published by PrismPlus Co., Ltd.


▲同じく、新たにジョッシュ氏が描いた「アン」のコンセプトアート。こちらの公開は本記事が最初とのこと


C:ジョッシュさんは、どうしてプリズムプラスで働くようになったのでしょうか?

ジョッシュ:去年の10月に、観光目的で2週間ほど日本に滞在しました。そのとき、プリズムプラスで働いている大学時代の友人から「一緒に働かないか?」と誘われたのです。それがきっかけで今年の1月からプリズムプラスに移籍しました。

C:大学時代のご友人との縁が、来日のきっかけになったわけですね。その大学は母国にあったのでしょうか?

ジョッシュ:いいえ。僕はフォリピン出身ですが、シンガポールのデジペン工科大学(DigiPen Institute of Technology Singapore)(※)でデジタルアートとアニメーションを学びました。卒業後は家族のいるドバイに移り住み、Moving Reflection Productionで約2年半、Eating Stars Studiosで約2年、アーティストとして勤務していました。

※ アメリカ ワシントン州 レドモンド市(シアトル市の近郊)に位置するゲーム教育に特化した大学で、シンガポールとスペインにもキャンパスがある。この大学では、ゲームデザイン、コンピューターサイエンス、デジタルアートなどの学位が取得できる。

C:フィリピンで生まれ、シンガポールで学び、ドバイで働いた後、今年から日本のプリズムプラスで勤務するようになったわけですね。行動範囲がワールドワイドですね。アートの基礎はデジペン工科大学で学んだのでしょうか?

ジョッシュ:はい。ただし絵を描くことは子供の頃から好きだったので、映画、本、ゲームなどを見ながら、ひたすら絵を描いていました。高校生になった頃から絵の仕事でキャリアを積みたいと思うようになり、デジペン工科大学への進学を決めました。Bachelor of Fine Arts in Digital Art and Animationという学科に3年間在籍し、3年目には3ヶ月だけアメリカの本校にも留学しています。この学科は本来なら4年制なのですが、夏休みも勉強して3年間で卒業資格を得ました。

C:それはすごい。在学中は3DCGやアニメーションも勉強したのでしょうか?

ジョッシュ:2Dのデジタルアートは入学前から描いていたので、在学中は3DCGの勉強に集中しました。アニメーションは、2Dアニメーションと3Dアニメーションの両方を学びました。

C:在学中、特に勉強になったことは何ですか?

ジョッシュ:ひとつは、色々な表現に触れ、自分の向き不向きを再確認できたことです。もうひとつは、コンセプトアーティストをしている先生から、仕事にまつわる色々な話を聞けたことです。その先生からは、絵の描き方に加え、フリーランスとして仕事をする場合の適性な請求価格や、信頼できるクライアントの見分け方まで教わりました。コンセプトアーティストは競争の激しいポジションですが、それでも目指したいと思うようになったのは、その先生の助けがあったからです。

欧米と日本、両方のスタイルのいい面を吸収したい

C:日本国内と同様、海外でもコンセプトアーティストは競争率の高い職種なのですね。そんな中、コンセプトアーティストとして最初の仕事をしたのはいつですか?

ジョッシュ:在学中からフリーランスとして仕事を始めていたので、初仕事は大学2年のときでした。それ以前からインターネット上のアートコミュニティで自分の作品を公開したり、Facebookで募集している仕事に応募したりしていましたが、もらうコメントはたいていよくないものでした。50通の応募メールを送っても、返信があるのはその中の5通程度で、実際に仕事をもらえるのはその中の1通、しかも金額は5ドル、10ドルといった具合でしたね。そういう経験をする中で、自分の絵と評価の高いアーティストの絵を比較した方がいいと気付き、上手い人の絵をよく見るようになりました。そして、描いて、描いて、描きまくっているうちに、請求できる金額が上がっていき、自信も付いてきました。

C:在学中から、ものすごいハングリー精神で絵を描いてきたわけですね。

ジョッシュ:大学の授業では主に3DCGを学んでいたので、フリーランスの仕事で2Dの絵を描くことがいい息抜きになっていました。

C:フリーランスとして受けた仕事は、どのような内容だったのでしょうか?

ジョッシュ:ゲーム関連のデザインの仕事が多かったです。大学を卒業した後、最初に務めたMoving Reflection Productionでは自社IPのコンセプトアートの仕事をしました。次に務めたEating Stars Studiosでは、主に2Dアニメーションの背景制作と仕上げ(彩色)を担当しましたが、たまにコンセプトアートの仕事もやりました。それらと併行して、フリーランスの仕事も続けていました。プリズムプラスに移籍してからは、様々なプロジェクトのコンセプトアートとキャラクターデザインを手がけています。例えばゲームであれば、社内の企画が考えた設定やシナリオに沿ったコンセプトアートやデザイン画を描きます。その企画が承認され、本格始動したら、さらに数多くのビジュアルを描くことになります。

  • Nintendo Switch版『Rooms: The Unsolvable Puzzle』の開発に合わせ、新たにジョッシュ氏が描いた主人公「アン」のキャラクターデザイン


▲同じく、新たにジョッシュ氏が描いた新キャラクターのデザイン案。「今は公開できる絵が少ないのですが、リリースに向け複数のプロジェクトが進行中です。今後の発表に期待してもらえると嬉しいです」(ジョッシュ氏)

C:プリズムプラスには、何人くらいのコンセプトアーティストがいるのでしょうか?

ジョッシュ:専業のコンセプトアーティストは僕ひとりです。ほかの職種と兼任している人も入れると、4∼5人になります。ロボットを描くのが上手い人、細かい背景を描くのが得意な人など、それぞれ個性があります。僕の場合は、欧米スタイルの面で捉える複雑な絵を描く一方で、日本人が得意とするシンプルな絵にも対応できる点が個性として評価されているように思います。僕は長らく欧米スタイルの絵を描いてきましたが、Eating Stars Studiosで2Dアニメーション制作に関わっていたときに日本アニメの影響を受けました。今は両方のスタイルに興味がありますし、両方のスタイルのいい面を吸収したいと思っています。

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最初に、絵を見る人の視線のながれを想像する

Profileプロフィール

ジョッシュ/Josh

ジョッシュ/Josh

キャラクターデザイナー、コンセプトアーティスト、イラストレーター。フィリピン出身。Moving Reflection Production、Eating Stars Studios(共にドバイ)での勤務を経て来日。2018年1月にプリズムプラスへ入社。
prismplus.jp

ニコール/Nicole

ニコール/Nicole

トランスレーター。本取材の通訳を担当。

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