シリコンスタジオ開発スタッフが語るMizuchi
ここからはシリコンスタジオのMizuchi開発スタッフへのインタビューも交えつつ、Mizuchiが目指すゴールや、具体的な導入方法などを紹介していこう。
先発のレンダラを研究し最適解を実装したMizuchi
Mizuchiの開発が始まったのは2年前。シリコンスタジオのスタッフが感じた危機感がきっかけだったと、同社エンジニアの川瀬正樹氏は語る。「GDCなどで北米のゲーム会社による講演を聞き、"これはまずい。日本のゲームグラフィックスのレベルを引き上げなければ"と感じたのです。社内の有志に声をかけ、プロジェクトチームを結成しました」。当初、このチームは会社非公認だったというから驚きだ。チームメンバー全員が別の案件を抱えていたが、それと並行しつつ地道にプロジェクトを推進したという。「その時点で、当社はゲームエンジンのOROCHIや、ポストエフェクトミドルウェアのYEBISを販売していました。しかし、世界最先端のグラフィックスレベルに追いつくためには、レンダリング機能をさらに強化する必要があると感じたのです」とアーティストの武藤洋介氏はふり返る。
Mizuchi Editorを用いた高品質な画づくり
▲Mizuchi付属のオーサリングツールであるMizuchi Editor(左)を用いれば、導入直後から高品質な画づくりを実践できる。(右)は、アングル・色・背景・ライトなどをリアルタイムに操作できるカービューワーアプリ。質感の設定はMizuchi Editorで行なっている
前述の経緯から始動したMizuchiのプロジェクトは、徐々に規模を拡大し、現在にいたっている。最新のMizuchiに触れた尾小山氏は、"日本人らしい几帳面さを感じるレンダラに仕上がっている"と評する。「丁寧に、真面目に、物理ベースのレンダリングだけに特化させているので、すごく効率的に、すごく綺麗な画づくりができるのです。長年増改築をくり返してきた先発のレンダラやゲームエンジンを相当研究して、最適解を実装したのでしょう」。Mizuchiが目指してきたのは"綺麗な画をつくる"という非常にシンプルなゴールだと、エンジニアの井口雄介氏は語る。「綺麗な画づくりを目指した結果、行き着いたのが"物理ベースレンダリングを極める"という方針でした。現実の光のふるまいや、カメラのしくみを逐一理解して、ひとつひとつ律儀に再現していけば、高品質な画づくりが実現すると確信したのです」。
例えば、現実のカメラの絞り値(F値)は、F1、F2、F3、F4......のように等間隔に変化するのではなく、F1.4、F2、F2.8、F4......といった値で変化する。また、絞りを開けばボケの形は丸に近づき、絞れば多角形に近づく。Mizuchiと、Mizuchiに搭載されているYEBISを使えば、同じ効果を再現できるという。このような執念と言っても過言ではない几帳面な描画処理が、Mizuchiの真髄なのだ。「現実のカメラのレンズで起こる様々な光学現象をシミュレーションしてくれるので、圧倒的な空気感や臨場感のある画を生成できます。"よくぞここまでつくり込んだな"と感心します」(尾小山氏)。
YEBISによるレンズシミュレーション
▲YEBISによるリアルタイムポストエフェクトを適用した画像。YEBISを用いることで、実写のような描写が可能になる
▲YEBISを使えば、カメラの絞り羽根の枚数ちがいに由来する、ボケの形のちがいを再現できる。現実のカメラでは、絞りを開けばボケの形は丸に近づき、絞れば多角形に近づく。もちろん、YEBISならこの現象も再現できる
▲YEBISによるレンズシミュレーション。現実のレンズのような収差によるボケ味を再現できる
開発スタッフがきめ細かいサポートを提供
最後に、Mizuchiの具体的な導入方法を紹介しよう。例えば、リアルタイムCGの開発実績がないCGプロダクションが導入するとなった場合、どうすればよいだろうか?
「Mizuchiの販売開始に合わせて、SDKもご提供します。エンジニアを抱えているプロダクションであれば、自社のワークフローに合わせて自由自在にカスタマイズしていただけます」と川瀬氏は語る。もちろん、エンジニアがいないプロダクションであっても、導入を諦める必要はない。「都内に本社があり、日本語でのきめ細かいサポートを提供できることも、Mizuchiの強みです。まずはわれわれにご相談ください。プロダクションごとのニーズや事情に合わせて、ソリューションを提案させていただきます」。
例えば、"自社の既存のワークフローのレンダラをMizuchiに切り替え、リアルタイムCGも生成できる体制を構築したい"というリクエストがあれば、Mizuchiの使い方を熟知したシリコンスタジオのエンジニアとアーティストを派遣し、インストールはもちろん、アセットのつくり方やパラメータの設定方法まで、細やかにレクチャーしてくれるという。「われわれは、単純にソフトウェアを販売するだけではなく、コンサルタントとしてプロダクションをサポートする体制も整えています。お客様がどのようにMizuchiを使いたいのか、丁寧にヒアリングし、最適な提供方法を提案させていただきます」。
さらに、YEBISについてもサポートを充実させていくと井口氏は続ける。「YEBISは2007年の販売開始以来、ゲームやTV番組など、多数のインタラクティブコンテンツに導入されています。Mizuchiには最新のYEBIS 3 が組み込まれていますが、YEBIS 3単体での ご提供も可能です。年内にはYEBIS for Maya も販売を開始します。こちらはMayaのビューポートでリアルタイムにポストエフェクトを適用できるプラグインです」。速度重視のゲーム開発者はもちろん、品質重視の映像制作者も満足するような、高品質リアルタイムポストエフェクトを提供していくという。
リアルタイムCGの活用範囲は広がっており、その表現力は日々向上している。プリレンダーとの垣根は益々低くなっていくだろう。"リアルタイムCGの経験値は低いものの、自分たちのフィールドでの活用方法を模索してみたい"というCG映像制作者は多いのではないだろうか。ぜひ、この機会にMizuchiの導入を検討してほしい。
TEXT_尾形美幸(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充
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Profileプロフィール
YOSHIYA OKOYAMA/尾小山良哉(Wise)
弱冠24歳からTVCMの演出を開始し、早くから映像ディレクターとして頭角を現す。現在はゲームエンジンなどを 使ったリアルタイムCGとVFXを主体としたプリレンダーの双方を手がけており、映画・ゲーム・VRの垣根を越えた、幅広いエンターテインメントCG 映像を制作している。
Wise尾小山氏(左から2 番目)とシリコンスタジオの開発スタッフ。左から井口雄介氏、武藤洋介 氏、川瀬正樹氏。
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