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Vol.18:バンカーの仕事~実写ドラマ編~

Vol.18:バンカーの仕事~実写ドラマ編~

2-3 プルダウン

次の段階は、2-3 プルダウンです。『エアーズロック』は毎秒 24 フレーム(正確に言えば、23.976 フレームですが)で撮影されています。毎秒 24 フレームは映画などで使用されているフレームレートなので、これをテレビ放送用に、毎秒 30 フレーム(29.97 フレーム)に変換しなくてはいけません。と、ここまで聞いて......

「1秒間に 24 フレームしかないものを 30 フレームまで増やす? ......元々 24 コしかないものを 30 コに増やすってこと(゚Д゚)??」

ドラえもんの秘密道具でも使うの? と思いきや、使うのは After Effect のみ。After Effect のコンポジション設定でフレームレートを「29.97」にし、レンダリング設定で「フィールドレンダリング」をオンにすれば OK!

どんな原理か不思議でしょうがなかったんですが、会社の中でこれに関して頭を捻っているのは私だけのよう......アルバイトとはいえ、映像制作会社にいるのに今さらこんなこと聞けない!(>_<) そんなわけで、吉トロメンバーにバレないうちに、こっそりお勉強開始です。気分はすっかり大学生!(現役の時に、もっとちゃんと勉強しておくんだった......)そこで調べてみて分かったのは「フレームを増えているように見せかける、手品のような映像技術!」ってことでした。



プルダウンの原理
24 フレームの動画を ABCD の4枚のフレームの繰り返しと考えて説明します。

まず、1フレーム目(A)を A1・A2 の2枚に分けます。次に、2フレーム目(B)を B1・B2・B3 の3枚に分けます。同じように、3フレーム目(C)は C1・C2 の2枚に、4フレーム目(D)は D1・D2・D3 の3枚に分けます。

この分けられたフィールドを頭から順に、2枚1組で組み合わせていけば......

フレームの数が4から5に増えました! ツギハギして数が増えているように見せかけているんですね!(そういえば昔、『金田一少年の事件簿』でこんなトリック見たことあるような気がする......)以降、このA〜Dの並びを繰り返します。フィールドのツギ目のないAから始まり、同じくフィールドのツギ目のないDで1つのリズムが完結しているので、繰り返しのバランスもとれています。(フィールドを2枚、3枚ずつ分ける操作が由来で、この作業を「2-3 プルダウン」と呼びます)

ちなみに、この B3・C1 や C2・D1 の組み合わせになっているフレームは、プログレッシブ方式のパソコン画面で見ているとちぐはぐなのが見えちゃったりします。が、テレビ放送の場合はインターレース方式で伝送されるので、視覚の残像効果によりチラツキが見えなくなります! 詳しい説明はまたいつか(笑)

参考テキスト:『デジタルアニメマニュアル/東京工科大学編 デジタルアニメ制作技術研究会監修』
解説:『エアーズロック』編集のため上京してくださった大阪芸大の佐藤先生(ありがとうございました!)

そんなこんなでファイル完成

こうして 2-3 プルダウンまで終えた動画ファイルたちを保存したら、今回のバンカーとしての仕事は終わりです! 私はもちろんですが、吉祥寺トロンのメンバーにも編集未経験・Final Cut Pro を触ったことがないという人が少なくありませんでした。私がデジタルの基礎を学んでいる間、皆はソフトの使い方や編集の仕方をお勉強です。

最初の順番では、データの受け取りから納品までの流れは
ProRes 422 に変換→2-3 プルダウン→レンダリング→編集→レンダリング→完成
という順番だったのですが、色々試してみた結果、途中からは
ProRes 422 に変換→編集→2-3 プルダウン→レンダリング→完成
という順番になりました。

先にプルダウンをしてから編集をすると、元々ツギハギのデータをさらにツギハギしちゃうわけですから、データのリズムバランスが崩れてしまうことがあるそうです。順番を変えて、編集して繋ぎ終わった動画をプルダウンすることで、リズムバランスの崩れる心配がなくなるんですね!

さらに、24 フレーム(プルダウン前)のまま編集すると、20%もデータが少ない状態で作業を進めることができます。アニメだと使用する尺の分しか素材を作らないのですが、実写はどうしても、実際に使用するもの以上に素材を用意しなくてはいけません。そのため、少しでもデータの少ない状態で編集できるというのは、サーバにも優しい、効率のよい方法なんです!

デジタルって複雑!

今までは、何気なく劇場用映画をテレビの放送で見たりしていました。「映画とテレビではフレームが違う」くらいの認識はありましたが、それについて詳しく考えることもなく......。これからはちょっと見方が変わりそうです。......あと、今までなんとなくパソコンでテレビ番組を見るのに「なんかテレビと見え方が違うなあ」と思っていたんですが、その謎も解けました。走査線がチラチラしちゃうのが原因だったんだ!

そんなわけで、吉祥寺トロン初めての編集作品『エアーズロッ ク』、7月上旬に無事最終話を迎えました。応援して下さった皆様、ありがとうございます。そしてなんと、8月から拡大放送が決定しました!! ニコニコ生放送で放送しますので、以前は見れなかった地域の方でもご覧いただけます\(^▽^)/
まだまだ終わらない『エアーズロック』を今後もよろしくです!

TEXT_菅 みのり(バンカー)
吉祥寺トロン公式サイト

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