良い絵かどうかだけが判断基準、使えるものは何だって使う
木村氏のデジタルマット制作
ー自己紹介をお願いします。
木村俊幸(以下、木村):木村と申します。大学時代からマットペインターとして映像作品に携わっており、映画作品やアーティストのPV制作などを数多く手掛けてきました。近年はマットペイントだけでなく、Cinema 4Dを用いた3DCG制作を取り入れた作品制作なども行なっています。
ーアナログフィルム時代から実写映像との合成に用いられてきたマットペイントですが、現在の制作環境ではどのように用いられているのでしょうか。
木村:私は画家としてマットペイントを全て手で描いていた時期もありますが、早い段階からPCには触れていました。はじめてデジタルマットを使用したのは大学生の頃で、その時はPhotoShop 2.0の出始めでレイヤーの概念さえなかったんです。たしか大学3年の頃に「あとで返すから」と父親にPCをねだって、それで購入しました。価格が価格でしたから、もうPCが相棒のような感覚になるわけです。自分の能力を拡張してくれるような存在として、一緒に仕事をする仲間のように感じていました。
翻って現在ですが、CG全盛の時代においてもマットペイントは使われています。例えばアーティストのPVなどは、複雑な世界観を表現したいというニーズがありつつも、予算やスケジュールがタイトなケースが多いです。昔ながらの「絵でいいじゃないか」ということで、マットペイント技法を活かす事例も数多くあります。
ーたしかに、背景も含めて全て3DCGで実現するのはある程度のコストが掛かります。その点、コンセプトを忠実に表現できるマットペイントは優位性があるということですね。
木村:マットペイントであれ3DCGであれ、ルックが良ければ全て問題ないです。良い画ができているかどうかだけが判断基準です。なにをどう使うかはプロジェクトの都合なども含めて判断すべきで、使えるものは何だって使うべきですね。昔の話になりますが、1990年代にハリウッド映画に携わったことがあります。その時はPhotoShop 4.0で、自分としては「デジタルでも良いが、何かあったら手でも描こう」という気持ちでいたんです。その時は地獄の風景を筆で描いたのですが、ふと「このままではILM(インダストリアル・ライト&マジック)の人には勝てない」と感じて。すぐに魚屋さんに行って筋子やイクラを買ってきて、それをスキャナでインポートしてPhotoShop 4.0で編集してデジタルマットに切り替えたんです。それが手で描くよりもずいぶん早くて、そして監督からも評価が高くて。その時のことが成功体験になっていて、とにかく使える素材は何でも使おうという意識が生まれました。
ー常に新しい表現を生み出されているのですね。ではツールとして、いま注目しているものはなんですか?
木村:Cinema 4Dも仕事で良く使いますが、最近ではUnreal Engineですね。Unreal Engineとマットペイントは全く関係がないように思えるかも知れませんが、自分で仕事の範囲は決めないようにしています。常に「絵ってなんだろう?」とは考えていて。画家だから筆しか持たないというわけではなく、新しいツールは一度は必ず取り入れて、自分の作風と相性が良いかどうかを自分自身が確かめないといけないと思っています。今は模索中で、時間を見つけて遊んでいるくらいの状態ですが、Unreal Engine 5もリリースされたことですし、また使ってみようかと思っています。
木村氏が試験的に作成したUnral Engine 4でのデータ
Cinema 4DとPhotoshopで制作した
『機界戦隊ゼンカイジャー』マットペイント
ー最近の作品では『機界戦隊ゼンカイジャー』のマットペイントがありますが、これはどのようなツールで制作されているのでしょうか。
木村:こちらはゼンカイジャーに登場する、敵組織トジテンドの本拠地となる『トジテンドパレス』(中央奥の象徴的な城)を中心とした「並行世界・キカイトピア」のマットペイントで、使用ツールはPhotoshopとCinema 4Dです。もともとのイメージ画はもっとメタリックな印象でしたが、それでは子どもが見た時に「敵がいる」ということが理解しにくいのではないかと思い、無理やり建物を掛け合わせたり、パイプなどを出したりといった変更を加えています。高さのある建物モデルは全てCinema 4Dで制作しておりまして、5パターンほどのビルをランダム的に合成して配置しています。その後PhotoShop側でレタッチし、最終的な絵に仕上げています。
『機界戦隊ゼンカイジャー』の1シーンで実際に使用されたマット画 「機界戦隊ゼンカイジャー」©︎2021 テレビ朝日・東映AG・東映
数パターンのビルのアセットを制作。向きを変えるなどしてバリエーションをもたせている。
ビルをランダムに配置し、photoshopで雲や影、建物の赤い光などを付け足していく。いくつかの建物もphotoshopで描かれている。グリーン部分には実写プレートがはまるようになっている。
AMD CPUなら、コスパよく「本気のPC」が手に入る
ーありがとうございます。使用したPCはAMD Ryzen 7 3700Xを搭載したモデルですが、こうした制作においてAMD製品を採用した理由を教えてください。
木村:自分の目標値はすごくシンプルで、最初に言ったように「相棒のように一緒に作業ができるPC」というだけです。これはつまり、やろうとしたことがそのまま実現できたり、変に考えすぎたり悩んだり(読み込みやレンダリングに時間が掛かる等)といったことがないもの、という意味合いです。具体的なスペックにも触れると、要件のひとつとしてUEが問題なく動作する点というのが軸となっています。また私の作業内容としては、GPUだけでなくCPUとメモリを特に重視しています。あと、選定基準として大事なのはコストパフォーマンスですよね。AMD CPUは性能も高いし、値段も手頃であることから、非常に助かっています。まさしく相棒と呼べるPCに出会いましたね。
ー作業効率や安定性など、CPU性能に応じたクリエイティブの変化はありますか。
木村:効率化という意味ではレンダリングの速度などは直接的に関わってきますが、それだけではなく、安定性やスピードアップなどの細かい積み重ねがもたらす時間的な余裕が、自分にとっては大きなストレス軽減になっています。時間的な余裕があるからこそ、新しいことに挑戦できる。最近だとミニチュアを作って3Dスキャンして、それをモデルとして活用したりしています。これまではレンダリング中「落ちないかな、大丈夫かな」と不安になることも少なくありませんでしたが、このPCに変えてからは、PCがなにか計算をしている時間を、ミニチュアづくりだったり絵描きだったりの時間に充てられています。後ろを心配しないで使えているので、精神的な余裕は増しましたね。
ー最後に、AMD製品はどういったクリエイターに向いているか教えてください。
木村:私のようなおじさん世代にも強力なサポーターとして推薦できると思いますが、初心者クリエイターにもオススメしたいと思います。私もそうでしたが、最初のうちはお金とキャリアがなくて、でも時間とやる気だけはたくさんある状態だと思うんですね。そういう状態で本気でものづくりをしたい人は、本気でついてきてくれるPCを選ぶべきです。AMD CPUであれば、コストパフォーマンスよく「本気のPC」が手に入るはずです。