Arnold Denoiser、MayaのBifrostのキャッシュ、データコピーで検証!
SSD(Solid State Drive)と呼ばれるフラッシュメモリータイプのストレージが普及して10年以上経つので、CG制作用パソコンでもごく普通に使用していると思われるが、一口にSSDと言っても様々な接続用の規格が存在しているので複雑だ。HDD、SSDの違いだけでなく、SATA接続やPCIe接続やM.2などとてもややこしい。SSDが登場した頃はまだSATAと呼ばれる接続方式を採用していたが、転送速度の限界に達したためNVMeが新たに開発された。その中で最も高速にアクセスできる規格が今回検証するPCIe4.0 NVMe Gen4だ。AMDではX570,B550チップセットのマザーボードとRyzen3000,5000シリーズCPUの組み合わせで使用可能であり、現在市場をリードしている。
一般的にパソコン内蔵タイプでよく使われているストレージの規格によって、転送速度にどれほど差が出るのかを簡易的にまとめてみた。これによるとハードディスクドライブの時代から転送速度は今や40倍以上になっていることが分かる。一般的なSATA接続のSSDと比べても10倍以上の速さだ。
転送速度は製品によって違います。
これほど転送速度が向上していても、普段のCG制作業務におけるデータのやり取りはネットワークで繋がっているNASを使用することが多い。NASは導入が簡単なうえに様々な場所からアクセスできるので、多人数で共同作業を行う上では欠かせない。しかし実際のCG制作では大量のデータをやり取りして作業をしなければいけないこともある。その場合、ストレージからの読み込み・保存が作業時間に影響を及ぼしてしまうのではないだろうか。
NVMe Gen4の優位性を比較するため、NVMe Gen4 SSDとNASを使って様々な状況下で検証してみた。
CPUやGPUとは別に、ストレージの転送速度がCG制作においてどれほど影響をあたえるのかを確認してみたい。
ASRock X570 Taichiのマザーボードはサウスブリッジと一体化した基板下半分を覆う巨大なヒートシンクの下にM.2スロットが隠されている。
今回の検証用パソコンのマザーボードにはCFD PG3VNF シリーズ M.2 SSD (1TB)をNVMe Gen4スロットに搭載している。
シーケンシャルリード/ライトは毎秒5000MB/毎秒4400MBを誇る。
テスト1 Arnold Denoiser(ポストプロセス)
FullHDサイズ 150フレーム 6.61GBという容量のデータをNVMe Gen4 SSDとNASそれぞれからデノイズ処理をかけて検証してみた。デノイズはアニメーションフレーム間のノイズを考慮して処理ができるArnold Denoiser“NOICE”を使用した。Temporal Stability Framesは前後2フレームずつに設定した。
NVMe Gen4 SSD 1時間38分
NAS 1時間56分
転送速度は製品によって違います。
レンダリングオリジナル画像
Arnold デノイズ処理後
結果はNVMe Gen4 SSDの方が1.18倍ほど速く処理が完了した。数GB程度の容量では大した差は表れなかったが、フレーム数やEXRのデータ容量が多くなるとさらに差が広がると思われる。
テスト2 データコピー (6.61GB)
デノイズテストで使用した連番ファイルデータをストレージ間でコピーしてみた。
NVMe Gen4 SSD>NAS 2分11秒
NAS>NVMe Gen4 SSD 1分09秒
NVMe Gen4 SSD>NVMe Gen4 SSD 2秒75
NAS>NAS 18秒34
転送速度は製品によって違います。
この場合は明らかな差がついた。NASは読み出しよりも書き込みに時間がかかっていることが分かった。しかもネットワーク越しだと顕著だ。ちなみにASRock X570 TaichiのLANは1ギガビット接続だ。最新の2.5ギガビットであればもう少し速くなったかもしれない。今回の検証で特筆すべきはNVMe Gen4 SSD内でデータをコピーした場合だ。数GB程度とはいえ圧倒的な速さでコピーを完了している。
テスト3 BifrostCash(249GB)
Biforstのエアロシミュレーションで作成したキャッシュデータをNVMe Gen4 SSDとNASから読み込んでプレイブラストを作成する時間を測定してみた。
NVMe Gen4 SSD 17分
NAS 59分
転送速度は製品によって違います。
Bifrostシミュレーションで作成された.bobキャッシュデータをフレームごとに読み込みながら処理をしているため、この場合もかなりの速度差がついた。キャッシュデータを多用するエフェクトの場合はストレージの速度が重要と言えるだろう。
テスト4 Nuke ローカライゼーション
Nukeで4Kサイズ300フレームのコンポジットを行った。OpenEXRの読み込み・書き出しがコンポジット出力時にどの程度影響を及ぼすのかを検証してみた。NASから読み込みNASに書き出す場合とNVMe Gen4 SSDにローカライズさせて書き出す場合とで比較した。
NVMe Gen4 SSD 1時間12分
NAS 1時間57分
転送速度は製品によって違います。
OpenEXRはAOVを含めると1フレームでもかなりの容量になってしまうため、ストレージ性能が結果に表れたと言える。読み込み速度はコンポジット時のレスポンスにも関わってくるため、ローカライゼーションを行った方がストレスも少なくなるだろう。
検証結果
パソコンの性能の話題になると真っ先にCPUやGPUが取りざたされるが、AMDがX570,B550チップセットで行った改良の中でもひときわ輝いていたのがこのPCIe4.0 NVMe Gen4だ。これまでのストレージはHDD>SATA SSD>M.2 SSDと速度を向上させてきたが、規格が複雑になりすぎて正しく理解されずに使用されていることがあるかもしれない。しかし、AMDのX570,B550チップセットではその中でも最も速度を出せるPCIe4.0 NVMe Gen4接続が標準装備されているため、それを活かさない手はないだろう。CPUやGPUに連続的な負荷がかかる処理では体感できるほどの差がつかない場合もあるが、エフェクトシミュレーションやコンポジットなど、大量のデータをやり取りしながら行わなければいけない処理ではかなりの恩恵を受けるだろう。単価もCPUやGPUと比べてもそれほど高いわけではないので、NVMe Gen4を採用したマザーボードがあれば使わない手はないと思われる。