Ryzen 9 5950Xの実力をハードウェア特性・Arnoldパフォーマンス検証から探る
CG制作に欠かせないハードウェアとしてはまずパソコンが上げられるが、個人で導入するにしても、会社で導入するにしても、コストパフォーマンスは最も重要視される。現在入手できる構成の中で、昨年から引き続き最もコストパフォーマンスの高いのは、2020年11月に発表されたAMDのRyzen 5000シリーズだろう。
Ryzen 5000シリーズはRyzenとしては第4世代となり、Ryzen 3000シリーズから引き続き7nmプロセスで製造されるのだが、CCX(CPUコアの最小単位)におけるL3キャッシュの構成を「4コア/L3キャッシュ16MB」から「8コア/L3キャッシュ32MB」に拡張し、CPUダイ「CCD」(Core Complex Dies)の構成も2基の「CCX」から、1基の「CCX」に変更されるなどの改善などを施すことによってレイテンシが大幅に改善され、IPC(クロック当たりの処理命令数)を先代の「Zen 2」アーキテクチャから最大で19%改善している。
中でも、Ryzen 9 5950Xプロセッサーは人気が高く、今年の春ころまではなかなか手に入らなかったパーツの1つだ。16コア32スレッドを誇り、コンシューマー向けCPUとしては最速となる。今回はその5950Xを中心としたハードウェア構成のパソコンを使って、CG制作にどのようなメリットがあるか検証してみた。
比較対象としてはRyzen 7 3800XTを用意した。こちらはZen2世代のRyzen 3000シリーズで、3800XTはその中でも8コア16スレッドの高クロック選定版だ。
Arnold レンダーテスト(Maya2022 MtoA4.2.2)
おなじみ自然史博物館のシーンをカラーマネジメントACESでレンダリングし、ポストプロセスとしてイメージャー(Denoise,Exposure,LensEffects)を使用した。
Ryzen 9 5950X |
12分56秒 |
全コア使用時の動作周波数は3.9GHz |
Ryzen 7 3800XT |
22分03秒 |
全コア使用時の動作周波数は4.25GHz |
次は同じシーンを1コア2スレッドのみでレンダリングしてみた。
Ryzen 9 5950X |
3時間16分58秒 |
1コア2スレッド使用時の動作周波数は4.8GHz |
Ryzen 7 3800XT |
3時間28分42秒 |
1コア2スレッド使用時の動作周波数は4.6GHz |
Ryzen 9 5950Xは全16コア使用時の動作周波数は4GHz以下まで下がってしまうが、1コアのみ使用する場合はRyzen 7 3800XTに対して0.2GHz高い値となった。どちらもTDP105Wであるが設計の新しいRyzen 9 5950Xの方がIPC性能およびブーストが高くなっているため、全コア使用時はもちろん1コアでの性能も高いという結果になった。
X570マザーボード
今回の検証で使用したパソコンのマザーボードはASRock X570 Taichiだ。X570 TaichiはATX規格のマザーボードで、ブラックを基調としたPCB基板に金属製のヒートシンクとおなじみ歯車のデザインが施されている。チップセットクーラーにある歯車は加飾なので実際には動くことは無いが、内側には隠された冷却ファンが設けられている。もちろんLEDも装備されていて、I/Oカバー、チップセットクーラー、マザーボード背面右端にアドレッサブルLEDイルミネーションが搭載されており、マザーボード上には他のLEDパーツを接続するための端子と、それらを統合コントロールするためのソフトウェア「ASRock Polychlome RGB Sync」が用意されている。
デザイン以外にも、
- 16コアにも余裕で対応可能な14フェーズVRM電源
- ヒートパイプで連結拡張された大型アルミニウム製ヒートシンク
- 重量級グラボの搭載を可能とするメタルアーマー採用PCIEスロット
- PCIE4.0対応NVMe接続のM.2スロットを3基設置
- 全てのM.2スロットをまとめて冷却する大型金属製ヒートシンク
- WiFi6、最大通信速度2400Mbps、Bluetooth5.0に対応した無線LAN搭載
等が備わったハイエンドクラスのマザーボードだ。
このクラスのマザーボードだと電源回路周りが堅牢に設計されているので16コアCPUでも安心して常用できる。実際に室温26.5度の中で1週間(168時間)連続でレンダリングテストを行ったが全く問題はなく、動作周波数も熱ダレすることなく最後まで安定していた。
Noctua CPUクーラー
CPUの冷却にはNoctua「NH-U12A」を使用している。ヒートパイプを7本も使用した高密度ヒートシンクの両サイドに120mmファンを装備するデュアルファン仕様の空冷CPUクーラーだ。価格は簡易水冷並みという高価な空冷クーラーだが、Noctuaのファンの特徴として、外側のフレームと回転するファンブレードの隙間が限界ギリギリまで詰められているため、120mmであっても140mm並みの風量を稼ぐことができ、同クラスの空冷ファンの中でも特に信頼性が高い。下手な簡易水冷よりも静かでよく冷えるといえるだろう。
AMD Ryzen Master
これらの装備の元、Ryzen 9 5950Xプロセッサーを直接制御(オーバークロック)してパフォーマンスにどのような影響が出るのかを検証してみた。
オーバークロックには様々な手法が存在するが、ハードウェアに悪影響を及ぼさない範囲で行うことを前提としたいのでソフトウェア上からのコントロールに留めたい。オーバークロックソフトはマザーボードメーカーのASRockが「A-Tuning」をリリースしているが、今回はより詳細なCPUの情報を得るためにAMDが提供している「Ryzen Master」を使ってみた。
Ryzen Masterを立ち上げるとこのような必要最低限のステータス(温度、クロックスピード、電圧)が表示されるBasic Viewとなる。
右上にあるコントロールモードでデフォルト、オートオーバークロック、マニュアルの3つが選択できる。
モードを切り換えた後は下にあるApply&Testを選んで再起動させることになる。再起動後は自動的にテストモードに入り、問題が無ければ選んだモードでコントロールされる。
さらにAdvance Viewを選ぶとこのような詳細なステータスを閲覧できるモードに変わる。
Advance Viewでは最上部に7つのメーターがあり、左から
- 温度(摂氏)
- CPU ピーク速度(MHz 単位)
- PPT – ソケット電力合計 CPU (最大制限に対する割合%)
- CPU パワー – VDDCR CPU パワー
- SOC パワー – VDDCR SOC パワー
- TDC (CPU) – 持続電流制限 CPU (最大制限に対する割合%)
- EDC (CPU) – ピーク電流制限 CPU(最大制限に対する割合%)
となっている。
その下には、各コアの温度や動作周波数、駆動電圧などのステータスが表示されている。
今回は細かい設定の必要のない、モードの切り替えのみでレンダリングの比較を行ってみた。その結果は以下の通り。
デフォルト |
12分19秒 |
温度61度 |
動作周波数3.9GHz |
消費電力99.5W |
オートオーバークロック |
11分1秒 |
温度72度 |
動作周波数4.15GHz |
消費電力138W |
エコ |
16分25秒 |
温度50度 |
動作周波数は2.9GHz |
消費電力57W |
検証結果から、オートオーバークロックモードでは約1.1倍ほどレンダリングスピードを上げることができたが、CPU電圧はTDPの105Wをはるかに超えて140Wに届く勢いとなった。それでも16コアCPUとしてはIntel製のハイエンドクラスよりもかなり低いTDPだと言える。ASRock X570 TaichiとNoctua NH-U12Aの組み合わせではこの状態でもサーマルスロットリングに陥ることなく安定して動作していたので、いざというときにはパワーアップできる余力があるということだろう。エコモードではパフォーマンスが下がるが電圧を下げることによって16コアCPUでありながらもかなり低い温度で稼働していることが分かる。
検証結果
AMD Ryzen 9 5950XプロセッサーはCG制作用CPUとしてはまれにみる優等生だと結論付けられる。16コアフルに使用したマルチスレッドでも、1コアだけを使用したシングルスレッドでも、今までのCPUよりも高いパフォーマンスを得られるだけでなく、TDPや発熱を低く抑えられていて連続稼働時における安心感もかなり高い。今回はCPUクーラーにNoctuaを使ったとはいえ室温26.5度の中で1週間レンダリングさせても全く問題がなかった。またエコモードを使用すれば電圧を下げることによって低い温度で常用できるので、マザーボードやCPUクーラーのコストを抑えたとしても、調整次第では少しパフォーマンスを落としながら安心して連続稼働させる設定を狙うこともできる。制作用パソコンとしてもレンダリングサーバー用途としても現在最も注目に値するCPUだと言えるだろう。