コロッサス 澤田友明

ハードウェア×レンダラー TIPS vol.3 GPU編

強力なRadeon GPUのレンダリングの実力は?

ハードウェアの知見を得ることで、3DCG制作はもっと快適になる!

デジタルアーティストも知っておくべきハードウェア×レンダラーの知見を

レンダリングマスターとして知られるコロッサス 澤田友明氏がわかりやすく解説。

今回第3弾では、AMDのGPU「Radeonシリーズ」の実力について対応レンダラーの検証結果を紹介しよう。

Profile

株式会社コロッサス 澤田 友明 氏

 

株式会社コロッサス シニアデザイナー。広告業界やB2B関係のCG制作で長年R&Dを担当。グローバルイルミネーションレンダラについても初期段階から様々な検証を行なってきた。現在は同社でCGディレクションやR&Dを担当している。趣味はカメラでペンタックス党。自宅ではAMD製CPUを搭載した自作PCを愛用している。

cls-studio.co.jp

Radeon GPUの実力をBlender・Radeon Pro Renderで検証!

 GPUを活用したレンダリングは至るところで目にするようになった。GPUカードが登場した頃は主にゲーム用グラフィックの描画専用機器としての域を出なかったが、昨今では様々な画像処理や、深層学習によるAI支援、仮想通貨を採掘するためのマイニングというような活用も盛んになってきている。GPUレンダリングもその一例であり、CPUでは何時間も掛かってしまうような処理が重いレイトレーシング計算を、並列処理が得意なGPUによって加速するという活用の仕方は、GPUカードの最も効果的な使い方だと言って間違いはない。
 一般的にパソコン内蔵タイプでよく使われているGPUカードはNVIDIA製とAMD製が存在する。ゲーム用途であれば、描画するピクセル数にもよるが、最近発売されているGPUカードのローエンドモデルでも十分な性能を有している場合が多い。そして自分が求める性能と価格のバランスを見ながらNVIDIA・AMD両社の製品から選ぶことができる。しかし、GPUレンダリングとなると話は別となり、Arnold、RenderMan、RedshiftなどはAMD製Radeon GPUへの対応はまだ開発段階であり常用できるようなレベルではない。

Radeon GPU

 Radeon シリーズにおける特筆すべきこととして、最新のRX 6800シリーズはAMD RDNA2アーキテクチャーを搭載しており、128MBのAMD Infinity Cache、最大16GBの専用GDDR6メモリー、リアルタイムレイトレーシングエンジンなどを備え、同時期に発売されているNVIDIA製GPUと比べても肩を並べる性能となっている。それだけに、このRadeon GPUをレンダリングに使えないということはとても惜しい話だといえる。

 しかし、そのような状況でも一早くRadeonシリーズに対応して実用化されているGPUレンダラーが存在している。
 今回はそのような中からRadeon Pro RenderとBlenderを用いてGPUレンダリングの検証を行ってみた。
 比較に使用したのは、最新の「Sapphire NITRO+ AMD Radeon ™ RX 6800」と1世代前の製品である「MSI Radeon RX 5700 XT EVOKE OC」だ。両社は7nmプロセスルールで製造されるNAVIアーキテクチャではあるが1世代差があり、ストリームプロセッサ数で1.5倍の差、搭載しているメモリーの容量にも倍の差がある。

 それらの差が検証結果にどのような違いをもたらすのか、また同じレンダラーでもCPU(Ryzen 9 5950X)と比較するとどうなのかということも検証してみた。

Radeon Pro Render

https://www.amd.com/ja/technologies/radeon-prorender
 Radeon Pro Render(以下RPR)もバージョン3となり、かなりの項目でアップデートが行われている。今回使用したバージョンはv3.3で、主に以下のような機能が新しくなっている。

フォグ、ボリュームレンダリングのサポートがRPRフルモードに追加され、シミュレートされたボリュームがCPUとGPUでレンダリングされるようになった。
合成用にDeepEXRファイルをエクスポートするオプションが追加された。
ボロノイテクスチャノードのサポートが追加された。
サブサーフェススキャタリングシェーダーとボリュームシェーダーがRPR2.0で機能するようになった。
デノイズとアップスケーリングにより、ビューポートレンダリングのインタラクティブ性が向上。Radeon Image Filter Libraryを使用すると、Radeon Pro Renderを半分の解像度で高速にレンダリングしてから、ビューポートのフルサイズにアップスケールできる。
新しいRPRトゥーンシェーダーが追加された。これによりノンフォトリアルなアニメスタイルのシェーディングが可能になる。

テスト1  USD KITCHEN

 Maya2022においてPIXERのUSD KITCHINデータをArnoldからコンバートしてレンダリング。

Arnoldでレンダリング

サンプリング  4/2/2/2/2/2
サイズ  1920x1080

RPRのコンバータを使ってArnoldのデータを変換しRPRでレンダリング
MAXサンプリング  64
サイズ  1920x1080

Arnold (CPU)  40秒
Radeon RX 6800  21秒
Radeon RX 5700 XT  33秒

 Radeon シリーズを使った場合のレンダータイムの速さもさることながら、RPRの自動コンバートで変換されたArnoldのUSD KITCHINデータが同じようにレンダリングされている点がすごい。 RX 6800RX 5700 XTと比較して1.57倍速いという結果になった。残念ながらArnoldではRadeon シリーズを使ったGPUレンダリングが行えないため、レンダラー同士のGPU対決という検証は行うことができなかった。

テスト2  自然史博物館

 おなじみ自然史博物館のシーンをArnoldからコンバートしたうえでRPRでレンダリング。

Arnoldでレンダリング

サンプリング  4/2/2/2/2/2
サイズ  1920x1080

RPRにコンバートしてレンダリング
MAXサンプリング  256
サイズ  1920x1080

Arnold (CPU)  23分25秒
RPR Radeon RX 6800  4分20秒
RPR Radeon RX 5700 XT  7分44秒

 こちらは複雑なシェーダーネットワークを使用しているためか、自動コンバートを使っても全く同じような見え方にはなりにくかったが、ライトの数やジオメトリも複雑になっているためレンダータイムはCPUとGPUでかなりの差が付いた。さらにRX 6800RX 5700 XTに対して1.78倍もの速度差を出している。

Blender Cycles

https://www.blender.org/
 Radeon Pro Renderと同じようにRadeon GPUを活用できるレンダラーがBlenderのCyclesだ。Blenderはオープンソース開発のためか最新のトレンドをいち早く取り入れる傾向がある。Radeonを使ったGPUレンダリングもその一つだろう。
Blenderは最新版の2.93を使用した。

テスト3  BMW

 おなじみBlenderのテストシーンBMWをCPUとRadeonシリーズを使って検証。

サイズ  1920x1080 100%

CPU  6分27秒
Radeon RX 6800  2分53秒
Radeon RX 5700 XT  4分58秒

 BMWシーンはデータも軽いためかUSD KITCHENと同じような傾向になっている。CyclesにおけるRX 6800RX 5700 XTと比較して1.7倍速くCPUと比べても2.2倍速い。

テスト4  BarberShop Interior

 理髪店のデモファイルを使用した分岐パストレーシングによる検証。GPUレンダリングではレンダータイルサイズによるレンダリング速度の差も検証してみた。

サイズ  1920x1080 100%

CPU タイル16  13分17秒
Radeon RX 6800 タイル64  4分18秒
Radeon RX 6800 タイル256  3分48秒
Radeon RX 5700XT タイル64  7分17秒
Radeon RX 5700XT タイル256  7分12秒

 こちらはBMWよりも複雑なシーンのためかCPUとGPUでかなりの差が付いた。RX 6800はCPUと比べて3.5倍も速くRX 5700 XTと比べ ても1.9倍速い。GPUでレンダリングを行う場合はレンダータイルサイズにも注意が必要だ。CPUと比べて計算が速いため小さすぎるタイルサイズはレンダータイムが少し長くなってしまう。RX 6800ではタイルサイズの違いでレンダータイムに明確な差が付いたが、RX 5700 XTではそれほど差が付かなかった。

検証結果

 最新のレンダラーはGPU対応がマストとなっている。CPUかGPUのどちらかではなくどちらも使用できることが当たり前の時代となった。その中でもRADEON GPUを使いこなせるレンダラーはまだ数が少なく、GPUの主戦場であるゲームグラフィックから後れを取ってしまっている。最新のRadeon シリーズは最先端の製造プロセスやストリームプロセッサの数だけでなく、グラフィックメモリーの搭載容量やInfinity Cacheの採用など、NVIDIA製の同価格帯GPUをコストパフォーマンスで上回るものも少なくない。またリアルタイムレイトレーシングエンジンなどの採用もあり、1世代前のRX 5700 XTから2倍近いパフォーマンスを叩き出すことができるようだ。Radeon シリーズを活用したGPUレンダラーの拡充が期待される。

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