1. 「型取り」にむけての工夫
まずは最初に、とても重要なtipsを紹介します。「型取り」を意識した調整です。
実際にフィギュア原型の型取りをする際に起こりがちなのが「うまく型が取れない」、「隙間に入り込んだシリコンがちぎれてしまう」。原型モデルの細部に深い穴があったり薄い部分があったりすると、こういった問題が起こりやすいので、あらかじめ「型取り」を意識して調整しておくと良いでしょう。ここでの一手間が完成の品質を分けます。出力した原型の形を長く保持できますし、複製に問題ない程度の厚みを付けられる、という利点も生まれます。
フィギュアは「レジン」や「PVC(ポリ塩化ビニール:ソフビ)」で作成しますが、レジンの型となる「シリコン」は柔らかいですし、PVCの金型は固くPVCの素材はとても柔らかいので、原型モデルは型を外す方向に対して完全に垂直でなくてもよいです。
2. 全体の作り込み(1回目)
隙間が埋まれば、全体の作り込みに移ります。髪の毛のボリュームやバランスを見ながら毛先のディテール(蝶部分)を作りこんでいきます。
『永遠乃ハル』は髪を武器にして戦う設定があるので、髪の毛は「薄い刃物」の折り重なりを意識します。今回のモデルは「髪を蝶形の刃物にする攻撃シーン」を想定しており、より華やかに、可愛いものは可愛く、幸福度が感じられるように、髪の曲線には特に慎重に、「空気」を感じるようにふわっとさせることを意識しています。
例えば、ジブリのキャラが感情を出すときに、髪の毛や衣服が上に逆立つアレ。自由に造形できる場合は、多少おおげさで良いのです。
ディテールを作り込むときには「喜怒哀楽」についても考えています。手の形だけでも感情表現は可能なので、文字や音のない造形で、それを出すことが目標(出したいなあ)。このように悩みながらの作業になりますが、後々の変更を容易にするために1回目の作り込みは仮設置でとどめておきます。
また、オリジナルブラシを使うと効率化できますし、連続の模様などは綺麗にできます。特に既成の形のない鎖などを作るときには役に立つツールです。この後、ver.4では『分割』について解説する予定ですが、実際に分割する際には「はめ込みの向きが明確になるよう、台形などにしてくれ』といった要望もきますので、複数個の多角形を作っておくのも便利です。
3. バランス調整
自分で見ただけではクセが残りがちです。そこで、全体を軽く作り込んだ後はレンダリングした画像をもとに、自己添削として、ポーズのねらい、修正点、気になるところをざっと洗い出し、イラストソフトに書き込んでいきます。ほかにも第三者の視点で造形を見るための工夫として、イラストソフトで画像反転処理をしてバランス調整もしています。(右利きだと左向きの顔が描きやすいので、右向きの顔を描く際には反転して描いてるイラストレーターや漫画家もよくやっている手法です)
イラストソフトで画像反転処理をすると「ぎょっ」とすることが多いので、反転画像に修正→戻す→書き込む。
一回添削して解決しない場合、根本的に企画の欠陥がある場合が多いですが、企画がきちんとしているものなら正面と斜め横の2枚ほどに赤ペンを入れれば十分です。
4. 違和感からの立ち戻り→ボツ→作り直し
作り込みを進めると「こうじゃない」、「なんか変」、「これでいいのかわからない」と、何が良いのかわからなくなり延々と同じ作業を繰り返してしまうことがあります。
時間が長引くのは迷いながら・考えながらつくっているため。自分の想像している終着点からズレてきたときに、作り込み前のモデルをみると「こっちの方がいいじゃん」となることも多くあります。そんなときは、細かく作り込む前のデータを引っ張ってきましょう。私の場合は、せっかく作るのだから納得出来るものをつくろう、と決めて、ズバッと作り直すことにしています。後半作業は気持ちも作業も固くなりがちなので、前半の伸び伸びしている造形部分を大切に残しておくと良いでしょう。
5. 全体の作り込み(2回目)
納得できる方向が確立されたなら、一気に作り込んでいきます。
1回目の作り込みまでは感性だけで思い切って作れるのですが、後半になると整合性が必要になってくるので、その補正に時間がかかります。再び形を見直し、曲線の流れと空間を埋めていき、『このパーツが心地よい、欲しい』など部分部分を大切につくっていくと良いでしょう。おおまかな勘合処理もこの辺で行なっておくと最後の分割がやりやすいです。また素体のバランスも再度ここで確認します。今作では前髪と身体の大幅な修正を行いました。
6. 完成!
最期に立ちやすさを考慮し、無理のない範囲で足と髪の長さ調節・曲げを行い、仮台座に付くようにしました。以上で一次原型の作り込み完成となります。
私の愛用機
AMD x ZBrush x raytrek x CREA MODE 真辺菜月氏 コラボPCモデル
■デジタル作業環境
新環境になりました! メインモニタで、レンダリングソフト・書類・メール・WEB検索などいろいろ使っています。上2個のモニターに制作資料や画像イラストを表示しながら、液タブでモデリング作業。iPhoneからはスピーカーに音楽を飛ばし、iPadは主にスケジュール管理や動画を見るときに使っています。サブ機として旧型のモバイルスタジオProも健在で、SDカードでデータを移動しながら使っています(ただ動作が重いので、軽い作業用)。
■アナログ作業環境
A3のトレース台。使用時にはとにかく紙をたくさん広げるので、常に机は広くして天板に物は置かない。ハイユニBは愛用品。デザイン画、ラフ絵、企画絵など、描いたものを折り畳みスキャナでPCに取り込んでいます。
まとめ
一次原型を作り込む際には、『やれば見えてくる!』と『必ず一度、見直してみる』を頭の隅っこに置いておくと良いでしょう。今回の造形は高度な機能は必要なく、求められるのは根気(いつものことでは?)です。100%納得できるものにはならないので、自分で妥協点を決めておくことも重要です。
次回は『生産における、分割作業』
おそらく、フィギュア作りで、最も難しく、単調で大変な作業だと思います。しかし、完成に向かってパーツが美しくなっていくのは、造形における特別な面白さですし、パーツ1つひとつの形そのものに快楽を覚えます。フリルとか前髪とかを触ってると、とても楽しいんですよ。皆さんにもその喜びを感じてもらいたいです。
まとめ
一次原型を作り込む際には、『やれば見えてくる!』と『必ず一度、見直してみる』を頭の隅っこに置いておくと良いでしょう。今回の造形は高度な機能は必要なく、求められるのは根気(いつものことでは?)です。100%納得できるものにはならないので、自分で妥協点を決めておくことも重要です。
次回は『生産における、分割作業』
おそらく、フィギュア作りで、最も難しく、単調で大変な作業だと思います。しかし、完成に向かってパーツが美しくなっていくのは、造形における特別な面白さですし、パーツ1つひとつの形そのものに快楽を覚えます。フリルとか前髪とかを触ってると、とても楽しいんですよ。皆さんにもその喜びを感じてもらいたいです。