Houdiniを活用したアルゴリズミックデザインの

第一線で活躍する堀川淳一郎氏が

AMD CPUを選択する理由とは?

by堀川 淳一郎(Orange Jellies)

Houdiniによる高度なシミュレーションや綿密なアルゴリズム設計をもとに

作品制作を続ける建築系プログラマー・堀川 淳一郎氏。

自宅とオフィスで合計5台のマシンを使い分ける同氏が選ぶWindowsマシンには、

必ずAMD CPUが採用されている。

Interviewee Profile

堀川 淳一郎氏(Orange Jellies)

 

https://jhorikawa.com/

建築とプログラム、仕組みからつくるアルゴリズミックデザインなど
多岐にわたる分野でHoudiniを活用

ーまずは自己紹介と、これまでのご経歴をお願いします。

堀川 淳一郎(以下、堀川):堀川と申します。建築系プログラマーという肩書で活動しております。建築会社のソフトウェア開発やデザインに関するシステムをつくる業務や、ゲームで用いるプロシージャルなアセットの制作、デザイナーと協業をしてアート作品を制作するなど、多岐にわたる活動を行なっています。最近は大学の研究をプログラム面からお手伝いする仕事なども行なっています。

ー建築系をはじめ、数多くの事業を手掛けていますが、もともとは建築業界出身なのでしょうか。

堀川:以前はnoiz architectsという建築設計事務所に4年ほど勤めておりました。そこでは設計士として図面を引くような仕事をしながら、プログラミングを利用して形態生成などのデザインを行う試みなどを業務として行なっていました。その後は独立をしてフリーランスになり、最初はIT系の企業でアルバイトなどをしながら、建築界隈でエンジニアリング的なお仕事をしていました。最近ではもとからやっていたアルゴリズミックデザインも外部で行うようになりました。

ーアルゴリズミックデザインという分野は、建築業界ではメジャーなのでしょうか。

堀川:分野自体があまり知られていないかもしれません。建築のような大規模な現場で使われるようになってきたのは近年のことです。私はもともとCAD系のツールでパラメトリックデザインが可能な「Grasshopper」を使っており、2018年には石津優子さんと共同で「Parametric Design with Grasshopper―建築/プロダクトのための、Grasshopperクックブック」も執筆しました。そこから少しずつ技法が認知されてきている感覚はあります。

ーアルゴリズミックデザイン自体の認知向上にも努めてきたということですね。どういったものかのイメージを掴むために、事例をご紹介いただけますか。

堀川:2~3年前に「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」という、全都道府県から代表で選ばれたデザイナーが作品を発表するというプロジェクトがあり、私も富山県代表の尾崎 迅さんと一緒に作品をつくりました。自然物をそのまま器に転写するという内容で、自然の形状をHoudiniでシミュレーションして、ベースとなる三次元的な器を3Dプリントで制作したあと、これをもとに精密鋳造という方法で金属を鋳造して器をつくりました。


「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」鋳造作家・研磨職人 尾崎 迅氏の作品



プロジェクト内で使用された堀川氏によるデザイン例

ーこちらは、どのようなプロセスで共同制作を進めていたのでしょうか?

堀川:「同じルールに則ったバリエーションをつくりたい」という要望があり、姿かたちは違うけれども同一のアルゴリズムに則った形状をつくることを目的にしていました。そのためにどういった自然物が良いのかを選んでいただいて、例えば霜や鱗粉、苔などの題材のリファレンスを集め、その特徴を観察・解析するところから始めました。自然のルールを数値的なシステムに落とし込んでいく過程が面白かったですね。これはHoudiniでなければできないアプローチでした。

ー自然物の観察からアルゴリズムを実装するというのは非常に面白いですね。ちなみに、Houdiniをお使いになるきっかけはなんだったのでしょうか。

堀川:Grasshopperは7~8年使っていましたが、徐々に制作できる限界を感じるようになりました。そこで注目したのがHoudiniでした。CAD系の場合はNURBSサーフェスですが、Houdiniはプロシージャルにメッシュをつくっていくツールなので、「データ構造自体が違うということは、なにか新しいものがつくれるのではないか」と思って触り始めました。履歴管理型というか、プロセスを可視化して途中で作り方を変えられるようなツールは少なかったので、是非使ってみたいなというかたちです。

ーこのほかにもHoudiniを使った事例があれば教えてください。

堀川:例えば、名和晃平さんが手掛けた「GINZA SIX Metamorphosis Garden_AR」という作品では、展示物にオーバーレイするようなかたちでAR表示を行う演出がありました。この演出部分やアニメーションは、Houdiniで制作されています。

 研究用途においては、私は週に1度、東京大学の舘研究室に手伝いに行っているのですが、その中でデザイナーの野老 朝雄さんとの共同展示「CONNECTING ARTIFACTS つながるかたち展 01」があり、そこでHoudiniを用いて紙を折るシミュレーションを行いました。工学的な考えのもとに「折り」をシミュレーションするので、なかなか面白い事例だったと思います。

「CONNECTING ARTIFACTS つながるかたち展 01」

データ書き出しは最大36時間!
コア数に優れたThreadripper 3970Xで処理時間を短縮

ー非常に多岐に渡る業務を行う中で、現在はどのような環境で制作を行っているのでしょうか。

堀川:所有する中で最もスペックが高いのは、2年前に購入したBTOマシンです。AMD製CPUのRyzen™ Threadripper™ 3970X、メモリ128GB、GeForce ® RTX3080を搭載しており、外部からリモートデスクトップで接続して使用することも多いです。私はHoudiniで制作したモデルのバリエーション出力にPDG(PROCEDURAL DEPENDENCY GRAPH)というパイプライン用のシステムを使用しています。これは一定のルールに則って、特定のパラメータだけを変更して大量にデータを書き出すことができるシステムを簡単に構築できるのですが、当然かなりの負荷が掛かります。Ryzen Threadripper 3970Xはコア数が非常に多いので、同時並行でデータを書き出す用途に最も適していました。

ー制作自体もこのマシンで行っているのでしょうか。

堀川:ベースのシステムづくり自体はCPU負荷も大きくないので、別のノートPCでつくることが多いです。普段は自宅とは別のワークスペースで作業をしているので、自宅にあるメインマシンにリモートデスクトップ接続してデータを送るという、レンダーファーム的な使い方をしていますね。



自宅に置いているRyzen Threadripper 3970X搭載メインPC(堀川氏撮影)

ー作業内容だけを聞くと、メニーコアの影響を直接的に受けそうだと感じました。従来までと比較して、どの程度レンダリング速度が向上したのでしょうか。

堀川:メインマシンでも36時間程度は掛かってしまう作業ですが、他のマシンだと恐らく3倍以上時間が掛かってしまい、現実的ではなくなります。例えば2000個のバリエーションを書き出すとして、単体では数分のものでも、積み重なるとかなりの時間になりますよね。Ryzen Threadripper 3970Xのようにコア数の多いCPUでは処理時間を分散できるので、結果的に時間の短縮に繋がっています。ちなみに、以前に使っていたデスクトップマシンは4コアだったと思いますが、比較すると体感で10倍以上の差はあります。何日も掛けてレンダリングしても、エラーが途中で起きるとまたやり直しになるので、そういったストレスも大幅に軽減されました。

ーそのほか、Ryzen Threadripper 3970XがHoudini使用時にもたらすメリットを教えてください。

堀川:計算処理から書き出しまでの一連において、HoudiniはCPUを使う場合が多いです。また、自分でシミュレーションを書くときは高速なOpenCLを使うことも多いですが、これもCPUを並列で使っています。OpenCLベースは、特にスレッド数が多ければ多いだけ恩恵を受けることができますね。HoudiniのSolverにもOpenCLベースのものはいくつかあるので、直接的にスレッド数が効いていると思います。

ーありがとうございます。お手持ちのノートPCもAMD製CPU搭載ということですが、こちらはいつ頃、どのような用途で導入されましたか。

堀川:購入したのはつい最近です。リモートデスクトップでメインマシンを動かしているとはいえ、単体である程度スペックが高いノートPCがあれば便利だろうと思って導入しました。既にRyzen Threadripperに信頼を置いていましたので、同じAMD製であれば問題ないだろうと判断しました。自宅とオフィスを行き来する生活なので、持ち運べるハイスペックマシンは必須に感じています。ここ最近はコロナ禍もあって減りましたが、出向などの場合も必ず持っていきます。

ーちなみに、ほかにもマシンは所有されていますか。

堀川:全部で5台ですね。自宅には先ほどのRyzen Threadripper搭載BTOマシンと、自宅サーバーとして運用中のMac Miniがあります。ノートPCもWindowsとMacで使い分けています。グラフィックス性能を優先する案件はWindowsマシンで、WebやiPhoneアプリ制作であればMacを使います。もう1台はオフィスのサーバー用にミニPCがありまして、こちらもRyzen 9を搭載しています。

ーということは、Windowsマシンは全てAMD CPU搭載ということですね。PCを選ぶ際のこだわりや重視するポイントがあれば教えてください。

堀川:やはり、最近はコア数を気にすることが増えましたので、AMD CPUは最初に候補に挙がります。次はメモリで、積めるだけ積まないと、大量にアプリケーションを開いて作業する時の快適性が下がったり、ディープラーニングなどを行う際もボトルネックになりがちです。これに加えて、グラフィックスの作業を行うのであれば、当然より良いGPUを選ぶべきだろう、という感覚ですね。

ーありがとうございます。最後に、AMD製品はどういったクリエイターに向いていると思いますか。

堀川:Houdiniをはじめとした並列作業をする方には、特にオススメだと思います。周りのHoudiniアーティストもAMDのCPUを使われている方は多いですね。特にRyzen Threadripper導入後は待ち時間が大幅に減り、その分の時間をクオリティ向上に使うことができるようになりました。コア数から見ると価格も安めだと思いますし、自分は大きな恩恵を受けています。今後は単一のCPUに頼った作業は少なくなって、並列的に処理をするシーンが増えていくだろうと考えていますので、1つ1つのコアの性能を追求するより、メニーコアの方が個人的には良いだろうと判断しています。

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