>   >  クリエイティブ・ロードテストATI FirePro V8800/5800(前編)
クリエイティブ・ロードテスト<br />ATI FirePro V8800/5800(前編)

クリエイティブ・ロードテスト
ATI FirePro V8800/5800(前編)

マルチディスプレイがもたらす効能

当社のデザイナー陣に「4画面環境になったら、どのような作業スタイルに変えるか?」と質問したところ、その答えには一様の方向性があった。
「常にタイムライン全表示にする」「Premiereのようなノンリニア編集ソフトならディスプレイを横並びで、After Effectsによるコンポジットなら縦並びで使ってみたい」等の意見からは、映像編集/合成ではタイムライン上の調整が主な作業になるため、できるだけ大きく表示させたいというニーズが窺えた。加えて、近年ではノードベースの処理を行うツール(=スケマティックビュー上で各種調整を行う)を用いる現場も増えているため、ことさらデュアルディスプレイでは不十分のようだ。そこで、V8800にナナオのFlexScan SX2262Wを4台という構成で4画面環境を構築。実際に当社のデザイナーたちにCG・映像制作を試してもらった。
途中段階では様々なレイアウト案が出てきたが、最終的には3台をピボット(縦回転)で並べ、その右隣に通常の横長表示で1台を置くというレイアウトが一番使いやすいという結論に達した。具体的にはピボットさせた3画面(W3,600×H1,920ドット!)をCG・映像作業用途、右脇の通常表示(W1,920×H1,200ドット)画面をネット検索やメール連絡など、通信用途に用いるという具合である。ちなみにマルチディスプレイに対して「ベゼルが気になる」、「表示画面に重複がある」といった抵抗感を抱いている方に伝えたいのだが、FireProシリーズは「ATI Eyefinity」のBezel Compensation機能によって、簡単なウィザードによってベゼル枠分だけピクセルを非表示にしたり、複数のモニタを1グループとして認識させることが可能だ。

RGB 8bitの表示イメージ

4画面の構成例。After Effectsではアクティブカメラのウィンドウ下にトップビューを配置した。奥行きのモーションパスをトップからダイレクトに操作でき、作業の効率が上がる。またプロジェクト素材やタイムラインを縦モニタに開いたままにしておけるので、ダイレクトにアクセスできるのは実に快適。無意味なクリックが減るためモチベーションアップにも繋がる
 

モニタ配列は様々なパターンが考えられるが、精神が安定し長時間の作業に耐えられるかとなると、自ずと限られてくる。精神が安定するとは、人間の視認性や肉体の構造的制約下でもストレを感じず、制作意欲に対して高いモチベーションを保てることを意味する。視認性について筆者が調べた限りでは、人間の視野角は一般的に水平200°、垂直170°とされている。しかし、実際に安定して見える「安定注視野」だと、水平60~90°、垂直45~70°程度のようだ。これを縦横比に置き換えた場合、およそ5:4となり、この平面内に必要な情報が収まるモニタ配置が好ましいと言えそうだ。
肉体の構造的制約とは、酔いの問題である。酔いには個人差があるが、上述した5:4の平面に収まっていない場合、首の向きをその都度変えながら画面を追うことになる。特に上下の首振りは酔いが発生しやすい。筆者自身、これまで酔いに強いと自負していたが、モニタを縦に重ねた状態で長時間作業を続けていたら溜息と休憩の数が多くなった。 そうした試行錯誤の中から編み出されたのが、縦表示3画面+横表示1画面という構成なのだと感じてもらえれば幸いである。

RGB 10bitの表示イメージ

Premiere ProやFinal Cut Proなどのノンリニア編集ソフト場合、タイムラインの横スクロールを少なくさせることで寄り・引きの回数が格段に減った。またテキストによるテロップ作成の際にテキスト専用のモニタ(最右)を設けることでPremiereのウィンドウを小さくしたり、大きく戻したりしなくなる。テキスト専用のモニタが1台増えるだけでコピー・ペーストが容易に行えるようになり、手数が減ることで格段に作業効率が上がった
 

今回コンポジット作業には、Adobe After Effects CS5を使用。AEの宿命のひとつに"タイムラインが縦に伸びていく"というものがあるが、SX2262Wをピボットさせることで、タイムラインのスクロール回数も抑えられ、縦長のパラメータウィンドウを展開しておくことで、キーフレームが打ちやすくなった。また、カメラビューと同時にトップビューを並べて表示することで、モーションの軌跡を視覚的に確認しつつ修正できるのは、モーショングラフィックを作り込む上で実に快適であった。一方、ノンリニア編集ではAdobe Premiere Pro CS5を試用。ウィンドウでは横長のタイムラインウィンドウ、縦長のプロジェクトウィンドウ を展開しておくことで生産性とは無縁な「クリックして展開/格納するアクション」の回数が劇的に減り、従来よりもカット編集に集中できた。
マルチディスプレイ環境を実際に使ってみて感じたのは、画面が広くなると穏やかな気持ちになることだ。猫の額ほどの自宅がアメリカの大邸宅に変わったようなスケールの差と書くと、大げさかもしれないが、とにかく表示領域=作業スペースを広く使えることで、心理的にも余裕が持てるのは間違いない。 もちろん良いことばかりではなく、モニタ台数が増えれば相応に消費電力や排熱も増える。今回は、SX2262Wを縦置きにしたことで各モニタの側面から排熱されるようになってしまい、この熱が作業者の顔がはっきりと熱を感じた。多画面環境を導入する際には、熱対策として小さな卓上扇風機は必須アイテムかもしれない。

RGB 10bitの表示イメージ

ATI FirePro V5800の場合、最大3画面での構成となる(AE作業時のレイアウト例)。V8800の約1/4で購入できるという高いコストパフォーマンスに加え、ディスプレイ購入費のことを考えるとV5800による3画面構成が落とし所かもしれない。これまで映像制作を縦長の画面で行うことなど考えたこともなかったのだが、実際に試した結果、大きなメリットを感じた。AEのタイムラインだけでなく、各種スクリプトの作成やアニメーションカーブの編集などは縦長表示の方が何かと効率的だろう

特集