RGB 10bit表示の有効性
テレビCMや番組など、編集から納品フォーマットの作成まで一連の仕上げ工程をポスプロベースで行うのであれば、マッハバンドに遭遇することはまずない。しかし、CG制作などポスプロ前の工程やVPのような比較的小規模なPCベースで仕上げるようなプロジェクトでは、今日でも遭遇する恐れがある。マッハバンドとはなだらかな輝度の階調に発生する帯状領域のこと。例えば、フレアのような光源やモノトーンのグラデーションに対して地図の等高線みたいな帯が発生したことはないだろうか。カラーマネジメントシステムに対応したAdobe CS3以降のバージョンを使っていればそうしたミスは皆無のはずだが、例えば知識不足のデザイナーが、画像ファイルが内包するカラースペースはsRGBなのに、プリセットがAdobe RGBのAE6.5で作業を行なった場合にはマッハバンドを起こすリスクがあるだろう。また、上述したように動画コンテンツの高解像度化によって、RGB 8bit環境ではコンポジット作業の精度に限界も出始めている。ここではその発生する原理と対処方法をおさらいしながら、半歩先の将来を見据えた制作環境としてRGB 10bitの有効性を考えたい。
まずは下の画像を見比べてもらいたい

8bitでレンダリングをかけた例。白から黒へのグラデーションで、特に中間のグレーと黒との間で、マッハバンドが青へ転ぶ現象を顕著に確認できた。画作りとしてはコントラストが強めとなっており、中間階調を狭くすることでマッハバンドを抑えているのだろう。また、背広の黒部分には黒いブロックノイズが発生しており、広範囲にわたって快調がつぶれていることを確認した

10bitでレンダリングをかけた例。なめらかな白から黒への移行が行われていた。グレーの部分でも色の転びが起きていることはなく、無理なく自然なグラデーションを再現していた。8bitの画像と比較すると、男性の顔の表情をおぼろげながら認識出来ることから、10bitでは自然なイコライジング処理を行っていることが推測される。コントラストも低いことから8bitの画像よりも全体的に明るい画像として認識できる
モノトーンに近い絵柄の動画で検証したので、10ビットと8ビットの差がより顕著に出ているが、色情報を正確に表現できる環境を構築することがいかに重要であるかお分かり頂けたと思う。
そもそもSDが主流だった5年以上前は、PCベースの環境ではハードウェアの性能やコストの制約上、マッハバンドは生じてもやむなしという状況だった。PCのモニタに帯が出ているのだから当然テレビにも出る、グラフィックスボードとモニタが8ビット仕様なのだから間違ってはいないではないかと意見も致し方ないところであった。しかし、HDの時代が到来。来年にアナログ放送終了を控え、巷には大画面、高精細、高輝度の映像が溢れ始めた。それに呼応する形で映像制作用のハードウェアもRGB 10bit対応製品が、まだ高価でありながらも増えてきた。綺麗な映像が標準という時代になったからこそ、マッハバンドなどはレンダリングのミスや不具合として扱われるようになってきている。制作プロダクションはもとより、製作サイドとしてもそうした人的ミスを一番恐れている。
デザイナー職の人間はどうしてもハードウェアやビデオ規格に疎くなりがち。教えることで解決できればよいのだが、得意ではない事柄を押し付けることで、本来デザイナーが発揮すべきクリエイティビティを後退させたのでは本末転倒だ。それであれば、"マッハバンドが出ない環境"を構築するというアプローチもあると思う。別の言い方をすれば、マッハバンドのような不具合が出たら何か設定がおかしいとクリエイターが気付く環境をセットアップ、提供すればよいわけだ。
今回はV8800/5800とFlexScan SX2262Wという組み合わせでRGB 10bit環境を構築したが、コストパフォーマンスの面からも比較的手軽に導入できる選択肢と言えよう。どちらもネイティブでRGB 10bitをサポート(このネイティブというのが実に大きい)。「RGB 10bit対応」という売り文句を掲げていても実は入出力時だけ10bitで内部は8bit処理というグラフィックボードも存在する。個人制作ならともかくプロであれば、しっかりと性能保証された製品を選びたいものだ。
最後に、AEとPremiere上での10bit表示の設定と出力フォーマットの設定方法を解説した動画リンクを下に貼っておく。参考にしてもらえれば幸いだ。後編では、V8800とV5800の描画性能を中心に検証していきたい。
Adobe After Effects CS5における10bit表示の設定方法
Adobe After Effects CS5における10bit出力フォーマットの設定方法
Adobe Premiere Pro CS5における10bit表示と出力フォーマットの設定方法
TEXT_田中啓生(VISIBLEX)
PHOTO_弘田 充・大沼洋平
SPECIAL THANKS_株式会社ナナオ、日本ヒューレット・パッカード株式会社

ATI FirePro 3D Graphicsシリーズ
問い合わせ先:株式会社エーキューブ
TEL:03-3221-5950
FAX:03-3221-5953
エーキューブ公式サイト

『TGC '10 A/W × 洋服の青山』
今回のレビューでは、昨秋にVISIBLEXが制作した、ファッションイベント『TOKYO GIRLS COLLECTION 2010 A/W』(第11回 東京ガールズコレクション)の「洋服の青山」ステージ映像を使用させて頂いた。改めてご協力に感謝したい。
『TokyoGirlsCollection2010AW / 洋服の青山』ステージ映像
制作:有限会社ヴィジブレックス
© AOYAMA TRADING Co.,Ltd. All Rights Reserved.
© F1 MEDIA,Inc. All Rights Reserved.