
ゲーム作品のリグ、レイアウト、背景制作を中心に、チャレンジングな映像作品まで手がけるCGプロダクション、インテグラル・ヴィジョン・グラフィックス(以下、IVG)。創業当初はゼネラリスト集団として映像制作やVFX、プロジェクションマッピングを手がけていたが、コロナ禍以降、ゲーム案件が急増。現在では売上の約6~7割をゲーム案件が占めるまでに成長した。
同社は現在、IVGの特長である「リグチーム」をさらに拡張するべく、リガーの採用を予定している。また、創業時から力を入れてきた映像制作分野においても、「映像チーム」のさらなる強化を目指し、即戦力となるプロデューサーの採用を検討している。
今回は、IVGのリグチームのメンバーやベテランスタッフに、数年でゲーム案件の急増を実現できた背景と、今後描く展望について話を聞いた。
プロフィール

『FINAL FANTASY XVI』や『FORSPOKEN』などのコンソールゲームやスマホゲーム、ドローンとプロジェクションマッピングを融合させたイベント映像『頼朝の窟~The Cave of Yoritomo 2017~』などを手がけてきたCGプロダクション。馬場隆之氏が2012年5月に設立した当初はゼネラリスト集団として映像制作やVFX、プロジェクションマッピングを手がけていたが、コロナ禍以降、ゲーム案件が急増し、現在では売上の約6~7割を占めるまでに。スタッフの多くは20代後半で、チームワークを重視した朗らかな雰囲気が特徴。リモートワークや育休など、柔軟で働きやすい環境も魅力
スタッフの約半数がリガー。「良質なリグ」制作で途絶えない案件、蓄積されていくナレッジ
今回の採用を含むIVGの成長計画を前に進めるのが、シニア・マネージャーの藤川 鑑氏。

IVGには現在21名のスタッフが在籍する。そのうちデザイナーは18名で、内訳としてはディレクター1名、リガー9名、モデラー3名、アニメーター2名、ゼネラリスト3名。
「組織としての特長はやはり、リガーが9名在籍し、独立した『リグチーム』として機能している点です。そして今、新しくチームとして動かしたいと考えているのが『映像チーム』。ゼネラリストを中心に、アニメーターやモデラーの力も借りて、チーム化するべく動いています」(藤川氏)。
20人規模のCGプロダクションにリガーが9名も在籍してるというのは珍しい。リグチームができた理由について藤川氏はこう語る。「純粋な需要増が大きいですが、会社としても、経営面での安定や人事上のメリットがあると考えています。というのも、リグは比較的体系化しやすい仕事で、リグの制作案件を多く担当してきた分、蓄積されたナレッジによる若手の育成がしやすいのです」。
リグチームの仕事のスタンスは「コミュニケーションをベースにした丁寧な仕事」。特別な技術を用いた「スペシャルなリグ」を1つ構築することよりも、コミュニケーションを取りながら提案を重ねて、プロジェクトにとって「良質なリグ」を丁寧に多くつくることを得意としている。クライアントが望む、誰が触っても再現可能な状態のリグを納品していることから、先方の満足度が高く、リピートの発注に繋がっているという。
リグチームが携わった作品


IVGでは現在、リガー5人程度をひとつの単位とする案件の受注が増えているという。現在チームは9名からなるため、おおよそふたつの案件を同時に受注しても、外注のアーティストをメンバーに加えれば十分に回すことができる。しかしすでに3件が並走するような打診も増えており、泣く泣く断らざるを得ない場面もあるという。「今回の求人でリガーを採用して、3案件を同時に受注できるようにしていきたいと考えています」と藤川氏。
採用について、直近では3月頃を目途にまず経験者の入社を想定している。その後は、中途と新卒の両面から検討し、長期的には15名まではリグチームを拡大したいとのこと。
「気を遣って質問ができないをなくす」。助け合いのカルチャーが醸成されているリグチーム
ここからは、リグチームの中堅スタッフに話を伺う。リグチームはリーダー(古屋 匠氏)、チームプロデューサー兼リードデザイナー(樋岡 淳氏)、サブリーダー(1名)、リードデザイナー(鳥取幸矢氏を含む3名)、デザイナー(3名)で構成されている。キャリアとしては4~5年のメンバーが6名で、3年が1名、2年が1名、1年が1名。チームの中心となる6名は技術レベルが同等でバランスが良い。案件ごとのチーム編成は柔軟に、過去に担当した案件や稼働時期を勘案して決めていくという。
リグチームのリーダー古屋氏は入社9年目。リガーとしてのキャリアは現在5年目となる。現在携わっているのはコンシューマゲームのキャラクターセットアップ。
実務と並行して9名のリグチーム全体をマネジメントし、チーム会の主催や後述するリグコラムの執筆リードなども行っている。

チームプロデューサーとリードデザイナーを兼任する樋岡氏は入社6年目。樋岡氏は現在、スマホゲーム案件のリーダーを務め、中心業務はクライアントとのワークフローのやり取り、アセットのデータチェックとクオリティコントロール、作業環境構築のための検証作業などだ。また、プロデューサー業の本格化に備えて交流会などに参加する機会が増え始めたほか、会社の経営ミーティングに参加しての状況把握などにも力を入れているという。

リグチームのリードデザイナー鳥取氏は入社3年目。現在は樋岡氏がリードを担当するスマホゲーム案件にて、リグの実作業を担当しつつ、若手のチェックも担っている。

今回お話を伺った3名は全員リモートワークで仕事を進めているが、チームメンバー間のコミュニケーションは充実しており、それが業務上の大きな助けになっているという。
「リグチームのお互い助け合う関係性のおかげで、自分は入社からこれまで業務で大きくつまずいたことはありません。先輩方もコミュニケーションを積極的にとってくださるので安心してやってこれた実感があります」(鳥取氏)。
そんな経験を経た鳥取氏、現在はデザイナーが行き詰まっている部分をケアするリードデザイナーの立場として自ら進捗確認会を開き、コミュニケーションをとりやすい雰囲気づくりを心がけているという。「気を遣ってしまってわからないことをすぐに聞けないタイプの人もいますから、僕のほうから社内の中間チェックということで毎日場をセッティングするようにしているんです」(鳥取氏)。
また、IVGでは2週間に1度、社内全体のTips共有会を開催している。毎回スタッフの持ち回りで発表をするが、技術的な内容に限定せず、「こういう本を読んで仕事に役立った」などでも良いそうだ。そのほか、リグチームとしても毎週定例会を設けている。「定例会の後半はだいたいいつも雑談になるんですが(笑)、そこでTipsがぬるっと自然発生したりすることもあります」(樋岡氏)。
今回IVGではリグチームに新たな仲間を迎え入れる予定だが、リガーに向いているのはどんな人材だろうか。
古屋氏は「探求心があって、問題を地道に解決できる人。新しい技術を積極的に使いたいと思える人。キャラクターに限らず、しくみづくりが好きな人」、樋岡氏は「リグはアニメーションされて映像になるものなので、最終的に表現したい画が見えている人」、鳥取氏は「『どうすればこう動かせるか』という部分を自分で調べたり研究して、思い通りの動きを表現できたときに喜びを感じる人」と答えてくれた。
これまでに多数のゲーム案件のリギングを経験し、ゲームでネックとなるしくみやウェイトの設定方法などのノウハウを蓄積してきたリグチーム。その証左として、クライアント各社からの信頼とリピートを勝ち得たチームの仕事は、現在IVGの大きな柱となっている。
しかしチームメンバーは現状に満足せず、さらに上を目指している。「もっともっと技術レベルを高めて、難しそうな案件でも『完全にうちに任せてください』と言えるところまで到達したいです。そして、せっかくのチームなので、IVGのクオリティでオリジナリティを出していけたら良いなと思っています」(古屋氏)。
なお、オートデスクが運営するサイト「AREA JAPAN」ではリグチームが執筆する連載コラム「人体構造を意識したキャラクターセットアップ方法 ~ゼロから始めるMayaリギングの基本~」が2023年から続いている。リグチームの実力を窺い知ることができる良記事、ぜひご一読いただきたい。

プロデューサーも募集中! 社内外から信頼を集めるCGディレクターが企画実現をサポート
「映像チーム」はゼネラリストを中心として、映像をゼロから完パケまでつくり切るユニット。映像チームに関しては、プロデューサーの採用を予定している。
今回募集するプロデューサーは、拡充した映像チームに案件をもたらすことが業務内容となる。「プロデューサーには会社がやりたいと考えている仕事を率先して新規開拓していくことをお願いしたいです。今回は即戦力になっていただける方が欲しいので、CG業界ですでにプロデューサー経験のある方、もしくは別業種で新規開拓営業の経験がある方を募集します」と藤川氏。
藤川氏は映像チームの再始動の展望をこう語る。「直近の1~2年は育成を優先するフェーズと考えてますが、2年後には収益がリグチームに近い形になるよう成長させたいですね。そのためにどう動くべきか。そこをプロデューサーと我々が一緒に考えて、実行していきたいです」。
IVG創業メンバーのひとりで、社内外からその技術力の高さ・広さを認められているCGディレクター・髙橋純平氏を中心に、「映像チーム」の再始動について話を伺う。

髙橋氏は大学卒業後にデジタルハリウッドで馬場氏のクラスの生徒になったことがきっかけで、IVGの起ち上げメンバーとなった人物。創業時から現在まで、ゼネラリストとして映像もゲームも手がけている。「一時期はリグやアニメーションのリードやディレクターとしてスペシャリストのような動きをしていた時期もありますが、特に専門性を限定せず、何でもやるようにしています」(髙橋氏)。
コロナ禍で一時は途絶えてしまった映像案件だが、2024年5月頃から徐々に「映像チーム」として案件を受ける体制になってきた。物体映像、CM、PVを中心に、アニメーションやリグのセットアップで参加している作品もあれば、映像制作全体を請け負う作品もある。
直近で映像チームとしての仕事を受けているのは高橋氏ともうひとりのゼネラリスト。この2名体制をこれから5名体制へ拡充したいという。「映像チームの育成計画として、まずNukeを使ったCMや映画の案件を上手く回せるようにしたいと考えています」(藤川氏)。
髙橋氏は映像チームの拡充に際して、自身のディレクター観をこう話す。「ディレクターには、やりたいことをゼロから考えたい作家・監督タイプと、持ち込まれた企画やコンセプトをどうやって良い感じに実現するかにこだわりたいタイプがいると思います。僕はどちらかというと後者です。僕個人としては案件に対する好き嫌いはありません。なので、今回の募集で入社されるプロデューサーの方にはあまり縛られずに色んな企画を生み出してもらえればと思います。」
「『頼朝の窟~The Cave of Yoritomo 2017~』の企画・演出・制作・運営協力をしたときがまさにそうでした。当時は屋外で観客を呼んでプロジェクションマッピングをするイベントはまだ目新しく、開催後に『IVGはこういうこともやってるんだ』と認知してもらえました。スタッフのモチベーションも上がり、お金以外のプラスが生まれたのです」(藤川氏)。
スペシャリストチームと映像チームの両輪を拡充し更なる飛躍を目指す
IVGは今回の募集を皮切りに、今後ふたつのビジョンの実現を目指す。まずひとつは「映像チーム」を確立させ、コロナ禍以降手薄になった映像案件を再び活性化させることだ。映像プロジェクトではスピードが求められるため、審美眼を備え、領域横断的な仕事ができて、完成形をあらかじめ想像し判断できるゼネラリストが必要となる。
もうひとつは「スペシャリストチーム」の拡張だ。リグチームの人員補充はもちろんのこと、背景のモデラーやアニメーターも人数を拡充し、それぞれ新たなスペシャリストチームとして稼働させたいと考えている。
両方が実現することにより、映像チームとスペシャリストチームの相互交流やチームの組み替えが可能となり、多様な案件に対して、より柔軟に対応できるようになる。
藤川氏は求める人材についてこう語る。「IVGでは入社後、早い段階から『こういうものをつくりたいけどどうしようか』を考える部分を任せていくので、提案してフィードバックを受けて、修正して再提案という流れを楽しめる人材が向いていると思います。それと、映像系のノウハウがある人材ならさらに嬉しいですね」。
IVGが採用を経て今後、どのようなチャレンジをしていくのか。今後、目が離せない。
TEXT_kagaya(ハリんち)
PHOTO_弘田 充
INTERVIEW_阿部勝孝 (CGWORLD)
EDIT_中川裕介(CGWORLD)