2025年10月に登場した『あんさんぶるスターズ!!』(以下、『あんスタ』)の新ユニットMELLOW DEAR US。その楽曲「Dear World」のMV制作に、中山直哉監督とオレンジが挑んだ。第1回では、自らBlenderで3Dプリビズを組み上げ、「最強」アイドルをどう魅せるかを可視化していった、中山監督の演出術に迫る。
MELLOW DEAR US「Dear World」
「最強」とは何か。中山監督が定めた、本作のリアリティライン
CGWORLD(以下、CGW):まずは、監督就任の経緯から伺えますか?
中山直哉監督(以下、中山):ある日、突然XのDMでオレンジさんから連絡が来たんです(笑)。私は女性アイドル作品のOPやMVを手がけることが多かったので少し意外でしたが、仕事の幅を広げる良い機会だと思いました。
CGW:楽曲「Dear World」を聴いたときの印象はいかがでしたか。
中山:すごく完成度が高かったのに加え、爽やかさと少し郷愁のあるトーンが、自分の好みにドンピシャで。「これは絶対にやりたい」と思いましたね。依頼が来たのが2025年1月頃で、2月にモーションキャプチャ、3〜4月は別案件でほとんど動けず、5月のGWに一気にプリビズを仕上げて、公開直前の10月後半まで、ずっと走り続けた感じでした。
CGW:『あんスタ』の中でも、MELLOW DEAR USは"最強"という位置づけだそうですね。
池内隆一氏(以下、池内):Happy Elementsさんからも「とにかく最強のMVにしたい」という依頼がありました。4人とも突出した実力をもつアイドルなので、MVもそれにふさわしい力強さを求められていた印象です。
中山:「最強ってなんだろう?」は最初の課題でしたね。『あんスタ』のこれまでの映像作品の延長線上にありつつ、斬新さも必要だと考えていました。オレンジさんが手がけたValkyrieのMVはフォトリアル寄りの方向性だったので、それをふまえつつ"オレンジならではの新たな到達点"を探っていきました。
CGW:その到達点とは?
中山:『あんスタ』世界と現実の中間地点、というリアリティラインですね。少し身近に感じられて、なおかつノイズにならない写実表現。そのバランスを常に探っていました。『あんスタ』は10年以上続いている作品で、過度な変化は受け入れられない可能性がありますから。
池内:中山監督から提示されたプリビズのBGがフォトリアル寄りのルックだったので、「この方向性なんだ」という認識をオレンジ内でも早期に共有できた点は良かったですね。
石田竣平氏(以下、石田):私自身は「クオリティを上げることが最強だろう」と解釈して、カッコ良く見える画づくりに集中していました。
中山:(笑)。確かに、カッコ良いと思ってもらえないと、好きになってもらえませんからね。そもそも、本作の楽曲・ダンス・キャラクターデザインのクオリティは非常に高かったので、そこに不要なノイズを乗せず、さらにカッコ良く仕上げることが私たちの役割でした。最終的に目標にしたのは、"最強の推しになってもらうこと"です。ダンスだけでも十分カッコ良い映像になりますが、4人の人間性がちらっと見える瞬間が加わると、"好き"が乗って最強になる。そこを目指していました。
3Dと作画指示を併用したプリビズ
プリビズ用のキャラクターは、頭部はラフモデル、体は衣装シルエットが近い別ユニットのモデルを流用した。中山監督はMV演出をふまえた振付の調整と、追加モーションの撮影を事前に振付師に相談しており、イメージ共有のための動画も用意した。例えばジュイスの空港カットでは、椅子に座った状態で歌うヒップホップ的な演出を採り入れるため、通しのダンスとは別に、座ったバージョンの振付を追加撮影している。
ジュイスが目を強く閉じて大きく口を開く印象的なカットは、中山監督による「ふりきった表情」の作画指示があったからこそ成立したものだ。他のシーンでは整った表情が多い中で、本カットの感情の昂ぶりが強いコントラストを生んでいる。この指示は、他カットの制作でも重要な指標となった。
監督の演出意図を明示する、3Dプリビズという高精度の設計図
CGW:そもそも、中山監督が自ら3Dでプリビズをつくるようになった背景を教えてください。
中山:私は3Dの制作会社に約1年半在籍していたことがあり、ひと通りの3D作業を経験しました。その後、作画アニメーターへ転身し、今の演出業にいたっています。最初に3Dに触れていたおかげで、抵抗なくハイブリッドなワークフローを組めるようになりました。作画と3Dを併用し始めたのは2020年の『ラブライブ!』のダンスシーンからで、本作と同じくモーションキャプチャデータを軸に構成していく手法でした。あれから約5年かけて、自分の中で手法が徐々に洗練されていきました。
CGW:カメラの動きやカット割りまで、プリビズ段階でかなりつくり込んでいますね。
中山:カメラの回り込みの速度や、フォーカス位置の調整って、完全に"感覚"の領域なんですよ。人に任せるとフィードバックの往復が増える。特にタイトなTVアニメのスケジュールでは、その往復すら負担になってしまう。なので「自分でやった方が早い」という判断にいたりました。最近は作画作品・3D作品を問わず、Blenderでプリビズをつくることが多いですね。実際にカットをつないで、前後のつながりやスピード感、引き具合をシビアに確認できるのが大きい。MVのように楽曲とのシンクロが重要な映像では、数フレームの違和感でも気になるので、そこは自分でコントロールしたいんです。さらに、「ここまでやるなら、最終ルックに近い状態までもっていった方が早い」と思うようになり、最近はおおまかなライティングまで施したプリビズをつくることが増えました。
ライティングや演出方針まで伝えるプリビズ
空港カットでは、窓ガラスをながれるアニメ的な反射光をプリビズ段階から表現。この光は撮影工程で再現され、プリビズでは静止していた光に動きも加えられた。
ステージカットのプリビズには中山監督の作画指示に加え、「ジュイス=カッコ良く」、「久遠 舞珠=可愛く」、「望見=うるわしく」、「甘楽 チトセ=さわやかスマイル」といった、4人それぞれの"汗"の方向性を示すト書きも添えられた。石田氏は託された指標をどう表現するか、試行錯誤しながらかたちにしていったとふり返った。
CGW:具体的な制作手順も教えてください。
中山:3D作業は全てBlenderで行います。キャラクターや背景のモデルを配置して、カメラとライトを設定してレンダリング。3Dでは表現しきれない表情のニュアンスは、CLIP STUDIO PAINTでペイントオーバーして伝えます。一方で、カット割りや色変更、ト書きの挿入はStoryboard Proを使うことが多いです。音をはめてカットを区切り、「ここで何をやりたいか」をメモしていきます。最終的なプリビズ映像はAfter Effects(以下、AE)で制作します。Storyboard ProやBlenderから出力した素材を順次取り込み、尺を調整しながら全体の気持ち良さを確認していくながれです。
池内:ここまで精度の高いプリビズを社外の監督から受け取ったのは初めての経験で、現場としては大いに助かりました。中山監督の意図が明確に可視化されていたので、「この方向に進めばいいんだ」という安心感がありました。
中山:逆に自由度が少なくて、「つまらない」とカット担当者が感じないか心配でもありました。上手いバランスでプリビズから映像を膨らませていただけて、スタッフの皆さんにはただただ感謝です。
石田:やる内容が複雑になるほど、土台が固まっていることの重要性が増すんです。今回はカメラワークもほぼそのまま使える状態で、非常につくりやすかったです。あの土台があったからこそ、"最強のクオリティ"の追求に集中できたと感じています。
プリビズの演出意図を汲んだ、カメラワークの調整
オレンジのメインツールは3ds Maxなので、プリビズのカメラデータは、微細な手ブレ表現も含めてBlenderから3ds Maxに変換された。さらにオレンジでは、演出意図を汲みながら、画のクオリティを高める調整も加えていった。
例えばジュイスの空港カットのプリビズでは、頭部にフォーカスが固定されていたが、井野元 英二氏(CGスーパーバイザー)の指摘を受け、フォーカスを固定せず、カメラを自然に引きながら手ブレを加えるカメラワークに変更。完成映像を見た中山監督は「こちらの方が断然良い」と評価した。
INFORMATION
月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.330(2026年2月号)
特集:映像制作ニュースタンダード
定価:1,540円(税込)
判型:A4ワイド
総ページ数:112
発売日:2026年1月9日
TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota


