2025年10月に登場した『あんさんぶるスターズ!!』(以下、『あんスタ』)の新ユニットMELLOW DEAR US。その楽曲「Dear World」のMV制作に、中山直哉監督とオレンジが挑んだ。第4回では、中山監督のプリビズを起点にBlender×Cyclesでフォトリアルな3DBGを組み上げ、空気感や光の説得力を積み上げていった背景制作の判断とワークフローに迫る。

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    ※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.330(2026年2月号)掲載の『あんさんぶるスターズ!!』マスターピースMVシリーズ MELLOW DEAR US「Dear World」を再編集したものです。

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    MELLOW DEAR US「Dear World」

    ▲『あんさんぶるスターズ!!』は、個性あふれるアイドルをプロデュースできるスマホ向けゲームで、Happy Elementsが開発・運営している。マスターピースMVシリーズは、スマホ向けゲーム用に最適化したMVとは異なり、プリレンダリングの映像作品としての魅せ方に特化して制作されている。本作はシリーズ12作目にあたり、オレンジがアニメーション制作を担った

    3Dプリビズを起点とした、Cyclesによる画づくり

    本作のBG制作は、中山監督自らがBlenderで全カットのプリビズを組むという、オレンジでも前例のない体制から始まった。美術監督の中島 理氏は、そのデータを3ds Max向けに変換するしくみを整えつつ、最終的な画づくりを担う3DBG監督の雪見月氏との分業体制を構築。フォトリアル寄りの3DBGが世界観を支える本作では、Cyclesでのレンダリングを軸にした運用が不可欠だった。

    ▲左から、美術監督・中島 理氏(オレンジ)、3DBG監督・雪見月氏

    Cyclesを採用した理由のひとつは、大量のガラスと空気感を含む美術設定だ。空港の広い窓面、ガラス壁面のエレベーター、飛行機の機体への太陽光の反射、そして時間帯が移ろう空。特に空港のタイムラプスシーンでは、True-Skyで生成した空の変化が光と影の説得力を底上げした。Eeveeでは多重透過の処理が難しく、Cycles一択だったと中島氏は語る。

    一方で難しかったのが、プリビズの"画の意図"を読み解き、再現する試みだった。現実に基づく光学計算より、画としての見映えを優先するカットも多く、"画面外の窓ガラスを消して、光の入り方を変える"といった調整がプリビズに施されている場合は、3DBGでもその画づくりを再現する必要があった。雪見月氏は「物理的な正しさと、監督の目指す画づくりのバランスを探る作業だった」と振り返る。

    飛行機ステージのシーンでは、フォトリアルな質感を保ちながらも、アイドルが主役として際立つ画づくりを目指した。そのため雪見月氏は、巨大な発光板などの"見えない光源"をカット単位で配置し、太陽光だけでは沈みがちな機体に適度なリムライトを与え、4人の存在感が埋もれないようにバランスを調整していった。

    こうした画づくりを支えたのが、効率を追求したデータ変換と、レンダリング環境の整備だった。Blender→3ds Max変換は自動化スクリプトで整備し、Cyclesによるレンダリングは専用マシンで最適化。サンプル数を徹底的に調整し、1フレーム45秒で回る設定を確立したことで、膨大なカット群を短期間で処理できた。

    大量の"初の試み"が重なった本作だが、中島氏は「学びが多かった」と語り、雪見月氏は「光に重きを置く案件は、自分と相性が良かった」と微笑む。プリビズ起点の新しいワークフローと、それを支える技術判断の積み重ねこそ、本作の豊かな光と空気感を生み出した原動力となった。

    Blenderアドオン「True-Sky」による、タイムラプスシーン用HDRIの生成

    ▲True-Skyのパラメータを調整中の、Blenderの作業画面

    True-Skyのパラメータで太陽の角度や雲の密度を調整し、時間帯ごとの空気感をつくり分けた。太陽情報はライトではなく内部数値として保持されるため、単純変換では3ds Max側で再現できなかった。そこで太陽の角度・高さを座標値へ変換し、CSV経由でライトに置き換える工程を挟んだ。キャラクターの落ち影や光量をBGと完全に一致させるためには、この処理が欠かせなかった。

    ▲完成映像

    プリビズの意図を再現する、カット単位のライティング調整

    ▲中山監督によるプリビズ
    ▲プリブズでは画面外の窓ガラスを消して光を通す処理が施されており、窓ガラスを残したままでは同様の光を再現できなかった
    ▲そのため本カットでは、BGを本番用に差し替えた後も窓ガラスを消す処理を行うことで、影の出方を一致させた。画面右側の青看板の直下の強い影も、監督が"画として必要"と判断した要素だったため、あえて活かす方針で画づくりが進められた
    ▲完成映像

    "擬似反射"によって成立させた、エレベーターのガラス壁面

    ▲壁面反射の調整前
    ▲壁面反射の調整後

    エレベーターのシーンでは、ガラス壁面への反射をどこまで表現するかが課題となった。アイドルまで反射させるとアニメーターの負荷が大幅に増えるため、床やリング状の壁面照明のみを反射対象とし、物理計算ではなく"擬似シェーダ"で反射感を演出。監督の求める画づくりと、作業負荷の両立を図っている。

    ▲完成映像

    "見えない光源"を重ねて成立させた、明け方の飛行機ステージのライティング

    ▲飛行機ステージのシーンを表示した、Blenderの作業画面

    明け方の飛行機ステージのシーンでは、太陽光に加え、機体のリムライトを強調する縦長の発光板や、機体の輪郭を浮かび上がらせる青色の発光板など、複数の"見えない光源"を組み合わせて画面を整えている。同じシーン内でも雪見月氏がカットごとに光源を微調整し、機体とステージ、そしてその上に立つアイドルが最も魅力的に見えるバランスが導き出された。こうしたライティング設計の結果、初回チェックの段階から画の方向性が固まり、ほぼそのまま採用されるほど高い完成度に仕上がっていた。

    ▲完成映像

    メガスフィアのステージへの、スポットライトやレーザーの追

    ▲終盤の舞台となるメガスフィアのステージは、Happy Elementsから提供されたゲーム用モデルをオレンジのBG仕様に沿って調製した上で使用
    ▲雪見月氏が白のスポットライトや緑のレーザーなどを追加し、BOOK分けして出力したところ、多くがそのまま採用された。モーショングラフィックスはSIGNIFが制作しており、UV設定済みのステージに2D連番として貼り付けた後、Cyclesでレンダリングしている
    ▲完成映像
    © 2014-2019 Happy Elements K.K

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.330(2026年2月号)

    特集:映像制作ニュースタンダード
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2026年1月9日

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    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota