2025年10月に登場した『あんさんぶるスターズ!!』(以下、『あんスタ』)の新ユニットMELLOW DEAR US。その楽曲「Dear World」のMV制作に、中山直哉監督とオレンジが挑んだ。第2回では、シネスコ枠を越える演出や、飛行機ステージといった“意外性”をどう成立させ、ファンの熱量を一気に引き上げる画へと結晶させたのか、そのねらいと調整の舞台裏を紐解く。

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    ※本記事は月刊 『CGWORLD + digital video』vol.330(2026年2月号)掲載の『あんさんぶるスターズ!!』マスターピースMVシリーズ MELLOW DEAR US「Dear World」を再編集したものです。

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    MELLOW DEAR US「Dear World」

    ▲『あんさんぶるスターズ!!』は、個性あふれるアイドルをプロデュースできるスマホ向けゲームで、Happy Elementsが開発・運営している。マスターピースMVシリーズは、スマホ向けゲーム用に最適化したMVとは異なり、プリレンダリングの映像作品としての魅せ方に特化して制作されている。本作はシリーズ12作目にあたり、オレンジがアニメーション制作を担った

    シネスコ枠と飛行機ステージが生んだ"説得力のある非現実"

    CGWORLD(以下、CGW):画面のシネスコ枠から4人の手が飛び出すアイデアは、どこから生まれたのでしょうか。


    中山直哉監督(以下、中山):レイアウトチェックの段階で思いつき、ジュイスだけ、「枠外に手を出してほしい」と依頼しました。その上がりがあまりにも良かったので、「4人全員でやったら、みんな恋に落ちるぞ」と確信して(笑)。無理を言って、全員のアニメーションで実現していただきました。


    石田竣平氏(以下、石田):枠に手首がぶつかると切断されたように見えるので、手の軌道を細かく調整して、枠を乗り越えているように見える動きにしました。YouTubeやXでは「次元の壁を越えている!」、「こっちに来てくれた!」といった反響をいただき、やって良かったと思いました(笑)


    CGW:飛行機の機体上に設置されたステージで踊る演出もインパクトがありました。


    中山:発想の源は、オレンジさんによるValkyrieのMVでした。Valkyrieの2人が空中を歩くシーンがあって、「この演出が許されるなら、『あんスタ』の懐は思った以上に深いぞ」と感じたんです。


    CGW:本人たちは大真面目でしたが、あの演出もかなり斬新でした。


    中山:ああいった、ちょっと面白くて意外性のある要素が入ると、ファンの熱量が一気に上がる。『あんスタ』の懐なら、飛行機くらいは受け止めてもらえるだろうと判断しました。MELLOW DEAR USは世界各国を旅しながらワールドツアーをしているユニットなので、舞台として空港を出したいと当初から思っていたんです。そのながれで「空港→飛行機」という文脈も自然につながりました。


    石田:「飛行機の上で踊ります」と最初に聞かされたときには、思わず笑ってしまいました(笑)。でも最強のアイドルなら、その程度のことは問題にならないでしょうし、コンセプトとの親和性はすごく良いと感じました。


    中山:現実ベースで考えると、あんな所で立っていられるはずもないのですが(笑)、「本当に好きになってくれる人は、そういう矛盾も含めて愛してくれる」と思っていたので、ギリギリセーフのラインを探りました。ただ、独り善がりになってはいけないので、世間の流行も視野に入れ、バランスは常に意識していましたね。


    池内隆一氏(以下、池内):前作に続き、本作でも斉藤 寛さんに撮影監督を依頼しており、ほとんどの撮影処理をNukeで行なっています。特に飛行機のシーンは、澄み切った上空の空気感の表現が絶妙で、インパクトのある画に仕上がりました。斉藤さんは実写案件も数多く手がけているので、カメラ越しに「どう見えるか」という実写的な感覚をふまえた処理ができるんですよね。


    中山:撮影の上がりを見たときは、「さすがにリアルすぎるかな......?」と思ったんですが、見れば見るほどクオリティが高くて、「これが最適な着地点だな」と納得しました。撮影処理のおかげで画に絶妙なリアリティが加わって、"説得力のある非現実"になったと思います。

    飛行機ステージのモデルと、プリビズ制作

    ▲中山監督が既存モデルと平面ポリゴンを組み合わせて制作した、飛行機ステージのラフモデル
    ▲平沢下戸氏による、飛行機ステージのモデル

    飛行機ステージのデザインとモデリングは、Blender熟練者である平沢下戸氏に発注された。中山監督のラフモデルを受け取った平沢氏は、ジオメトリノードなどを駆使して、約2週間という短期間で本格的なステージモデルを構築。ステージのせり上がりやスポットライト、ドローン照明などを制御するコントローラも設定されており、50ページ超の仕様書と共に納品された。

    「すごく多機能なモデルで、私は全部を使いきれませんでした(苦笑)。様々なソフトを横断しながら、カメラワーク・ライティング・カット割りといった演出の仕事に必要な機能だけをかいつまんで使うのが私のやり方です。精密なモデリングや複雑なジオメトリノードの制御などには対応できないので、都度、オレンジさんに相談していました」(中山監督)。

    ▲飛行機シーンのプリビズ
    ▲完成映像

    どこで止めても美しい。フェイシャル表現に込めた"最強の一瞬"

    石田:本作は"動き回る4人"を初お披露目する場でもあったので、キャラ性の統一にも注力しました。代表例が望見です。オレンジのフェイシャル班は「口を開くときに、目も少し見開く」表情をつけることが多く、それがハマるアイドルもいたのですが、望見の場合は目を開きすぎると一気に"別人感"が出てしまう。なので、「どれくらい目を開くか」のさじ加減を特に慎重に見極めていました。


    中山:アイドル作品では、「美しい顔」がとても重要です。もちろん動き全体の気持ち良さも大切ですが、私自身は"止めたときに美しい"画づくりを最重視していました。MVはくり返し見られるので、どの瞬間を切り取られても破綻なく、美しい表情であることが作品の魅力を底上げする。だからフェイシャルは絶対に粗くできない工程でした。


    池内:専門知識がなくてもファンは"なんかちがう"を敏感に察知します。だからこそ、細部のこだわりを貫きました。内部でどれだけ技術的に高度なことをしていても、最後の"ひと筆"を疎かにすると凡庸になってしまう。本作の魅力はその"ひと筆"の積み重ねで成立していると思います。


    中山:「細部を詰めるほど推しが美しくなる」という姿勢が現場全体に共有されていたので、自然と"最強の一瞬"が積み上がっていったんです。最終的には、どこで止めても「好きになってもらえる」仕上がりにできたと思います。

    冒頭のクローズアップショットに対する、中山監督と石田氏のフェイシャル修正

    ▲望見のカットに対する、監督の修正指示。「短い尺ですがフルパワーでうるわしく」などの指示が書かれている
    ▲完成映像

    冒頭の4人のクローズアップショットは初期に担当したこともあって、石田氏が特に"魂を込めて"制作したという。「リムライトの入り方やハイライトの動きを細かく調整した結果、中山監督から"全カットこのクオリティで!"と言われてしまい、後に引けなくなりました(笑)」(石田氏)。

    ▲舞珠のカットの修正前
    ▲監督の修正指示
    ▲完成映像

    監督の修正指示をふまえつつ、「あと一歩こうしたい」という部分に対して、石田氏の方でも積極的に手を入れている。特に斜め顔は印象が崩れやすいため、曲線美がありつつ、下顎骨の固さも感じられるラインが追求された。

    © 2014-2019 Happy Elements K.K
    「No.3:顔・影・髪、造形刷新が生んだ「理想のアイドル像」」は12日(木)に公開します。

    INFORMATION

    月刊『CGWORLD +digitalvideo』vol.330(2026年2月号)

    特集:映像制作ニュースタンダード
    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2026年1月9日

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    TEXT&EDIT_尾形美幸/Miyuki Ogata(CGWORLD)
    文字起こし_大上陽一郎/Yoichiro Oue
    PHOTO_弘田 充/Mitsuru Hirota